カタログカラーとメーカーデザイン
バスデザインの起源の一つとして、メーカーのカタログに掲載されたデザインをそのまま(あるいは一部アレンジして)採用するケースがあります。普通の自動車であれば、メーカーが用意したカタログデザインの中から選ぶのは当たり前ですが、オーダーメイドの側面が強いバスは、ユーザー(バス事業者)の指定でカラーデザインが決まります。しかし、新車をアピールするデザイン性に着目し、メーカーの用意したデザインをそのまま使うこともあるのです。また、バス事業者が自社のカラーデザインを決める際、バスメーカーに依頼することがあります。メーカーには専門のデザイナーがおり、新型車のデザインをする傍ら、ユーザーにカラーデザインの提案も行うことができます。もっとも、カタログに載っている車両のデザインと、ユーザーに提案するデザインは、同じデザイナーが作るので、カタログカラーの流用なのか、デザイン提案を受け入れたのかは、区別が難しいようです。
バス事業者は全国に散在していますが、バスメーカーは基本的に集約型ですので、同じメーカーの作ったカラーデザインが全国に存在することは不思議なことではないのです。
2-01 日野ブルーリボン(1952年)
カタログカラー
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画像:日野自動車公式カタログ(1958)
日野自動車のセンターアンダーフロアエンジン車「ブルーリボン」には、ピンストライプカラーが用いられました。帯色が青の場合、正面窓上と側面ドア脇に、赤い飾り帯がつくのが特徴。また、側面中央部にはリボンをデザインした「ブルーリボン」のマークがついています。
このカタログは1958年発行のものですが、1952年の発売開始の富士重工ボディから、このカタログカラーは使われていたようです。
富山地方鉄道
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撮影:電鉄黒部駅(2016.4.23)
北見バス
旅男K様(湧別町 2012.6.4)
岩手中央バス
板橋不二男様(花巻 1973.11.3)
十勝バス
左党89号様(帯広営 1999.8.1)
このカラーをそのまま、または色を変えて導入した事業者は全国に多く見られます。
北海道ではこのカラーをそのまま導入した事業者が東急グループの北見バス、斜里バス、網走交通、宗谷バスなどに見られます。地元で「ブルーリボングループ」などと呼ばれていたそうです(文献3)。
ほかにも岩手中央バス(岩手県)、茨城観光自動車(茨城県)、富山地方鉄道(富山県)、大分バス(大分県)などがほとんど同じカラーで使用しています。
十勝バス(北海道)は地色を黄色に変えています。
国際興業(グループ転用後)
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撮影:花巻温泉(2018.10.2)
国際興業(東京都)の貸切カラーは、1959年に同社が買収した神戸タクシー(兵庫県)が採用していたカラーだそうです
青色が濃く、ピンストライプも若干太いなど、元々のブルーリボンカラーとは若干違いがあります。また、側面のピンストライプの上にローマ字で社名を書くのも、神戸タクシー譲りのようです。
このカラーは、国際興業グループ各社の貸切・高速バスのカラーにもなっています。
越後交通
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撮影:板橋不二男様(新潟県 1976頃)
佐賀市交通局(復刻カラー)
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撮影:He526様(佐賀駅前 2018.7.1)
色違いのアレンジ例です。
越後交通(新潟県)は地色がクリーム色で上部が赤色になっています。長野電鉄(長野県)、佐賀市交通局(佐賀県)は逆で、上部は青のまま、窓下以下のラインが赤色になっています。
他にも、赤系、緑系など色合いを変えたデザインは各地に存在しますが、そのすべてがブルーリボンカラーを起源にするものかどうかは分かりません。
(→基本形→ピンストライプ形)
2-02 日野ブルーリボン(1955年)
カタログカラー
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画像:日野自動車公式カタログ(1955)
1955年の日野ブルーリボンのカタログの表紙に使われているカラーデザイン。正面が紺色1色で多少重苦しいイメージですが、後ろに行くに従って白い地色がカーブを描いて現われたり、後輪の後ろに翼状の紺色ラインがあるなど、スピード感を表そうとした形跡があります。
全但バス(復刻カラー)
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撮影:播磨観光タクシー様(出石車庫 2016.8.24)
広島電鉄
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撮影:広島駅(2016.5.29)
全但バス(兵庫県)では濃いめの色使いや後ろの翼状のモチーフなど、カタログカラーと共通性の高いデザインを採用していました。
広島電鉄(広島県)では、1954年から白地にオリーブのストライプが入るこのカラーが採用されています(文献4のP.129)。時系列で言うと、上のカタログより早くに採用されたということになります。広島電鉄では日野ブルーリボンを数多く導入しており、色使いと正面のストライプの有無に違いはあるものの、メーカーデザインと何らかの関係はあるものと思われます。
小豆島バス
撮影:板橋不二男様(香川県 1986頃)
小豆島バス(香川県)は当初は近鉄に似た流雲型の塗り分けでしたが、日野ブルーリボン導入と同じころ、後ろの方に翼のようなデザインが加わり、合わせて流雲の部分の塗り分けも変化しています。
2-03 いすゞBC(1959年)
カタログカラー
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画像:いすゞ自動車公式絵葉書(1959)
いすゞ自動車が1959年に発表したBC型の新ボディスタイルで、エアサスの導入などの新機軸の車両です。
側面の鳥を模式化したようなデザインはスピードを表すものと思われます。正面のV字形もそれと対をなすものと思われます。
弘南バス
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撮影:板橋不二男様(十和田湖子ノ口)
くしろバス
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撮影:ポンコツ屋赤木様(釧路駅 1990)
弘南バス(青森県)のデザインは、このカタログカラーとほとんど同じです。屋根肩部にローマ字で社名が入るあたりまでそっくりです。ただし、正面の塗り分けはちょっと異なります。色使いは異なるものの、これと同じモチーフが使われている一例に加越能鉄道(富山県)の貸切バスもありました。
そして東邦交通(→くしろバス)(北海道)は、側面の鳥のようなモチーフがない以外は、弘南バスとそっくりです。
旭川電気軌道(復刻カラー)
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撮影:旭川駅(2016.6.11)
国際興業(グループ転用後)
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撮影:一関営業所(2018.10.28)
側面の鳥のようなモチーフと正面のV字形の組み合わせは、ほかにも見られます。
旭川電気軌道(北海道)は、デザインが簡略化され、かつ単色になっていますが、よく見ると似ています。
国際興業(東京都)も、側面の翼モチーフは簡略化されていますが、正面のV字デザインはいすゞカタログと同じです。導入年が1959年であるという点も気になります。
2-04 日野ブルーリボン(1960年)
カタログカラー
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画像:日野自動車公式カタログ(1960)
1960年にマイナーチェンジしたブルーリボン号のカタログで、主力車としてのセンターアンダーフロアエンジン車は、これが最終モデルとなります。帝国自工のボディスタイルが正面連続窓に変わっています。
カタログの表紙のカラーは、写真に色付けしたもののようで、これそのもののカラーのデモ車があったのかどうかは分かりません。
岩手中央バス
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撮影:滝沢村(1987.6.6)
岩手中央バス(岩手県)では1965年頃に路線バスのカラーをクリーム色に青帯に変更しています。
色の組み合わせ、青帯の正面のカーブなどが、カタログの車両とよく似ています。この時期の岩手中央バスは日野車を多く入れており、上記のカタログをベースにした可能性はあります。
2-05 日野スケルトン(1980年)
カタログカラー
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画像:日野自動車公式カタログ(1981)
1980年の日野スケルトンのマイナーチェンジの際に使われていた赤とゴールドのラインが入るカタログカラーです。
島原鉄道
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撮影:口之津営業所(2006.9.30)
島原鉄道(長崎県)では、貸切バスのカラーにこのカタログカラーを採用しています。
カタログカラーでメーカー名が入っていた位置に、「Shimatetsu」と社名を入れています。
2-06 三菱エアロバス(1982年)
カタログカラー
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画像:三菱ふそう公式パンフレット(1982年発行)
三菱エアロバスの初期カタログカラーです。
緑の濃淡と黄色のグラデーションが車体中央部で鋭角に切り上がるデザインは、エアロバスの流麗なスタイルをよりスマートに見せる効果があります。側面後部の「AERO BUS」のロゴの書体も特徴的です。
このカラーデザインは、エアロバスの導入に合わせて各地に広がりました。
瀬戸内運輸
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撮影:松山駅(2018.7.12)
北都交通
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撮影:左党89号様(函館駅 2012.5.5)
富士モーターサービス
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撮影:左党89号様(小岩井農場 2005.3)
このカタログデザインは、ほとんどそのままで北都交通(北海道)、富士モーターサービス(岩手県)、瀬戸内運輸(愛媛県)などで採用されています。北都交通では、側窓下のグリーンラインや裾のブラウンの部分の赤線がありません。これらの各社とも初期のエアロバスを導入しており、同時にこのデザインを導入したものと思われます。日野車やいすゞ車などへの展開例もあります。
長崎県交通局
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撮影:長崎空港(2018.10.16)
長崎県交通局(長崎県)は、色使いを青系に変えたデザインとなっています。正面のラインにもアレンジが加えられています。
その一方で、車体裾のライン、窓上のラインなどには、カタログカラーの面影を強く残します。
2-07 日野ブルーリボン(1982年)
カタログカラー
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画像:日野自動車公式カタログ(1985)
日野の路線バス「ブルーリボン」のカタログでは、角張ったボディを強調する直線的なデザインが展開されています。ドア部分にも色を付けて縦ラインを強調しているのも、この時期の特徴です。
色には、赤、青、緑などのバリエーションがあり、画像は一般低床の前後ドア車に使われていた青色です。
なお、写真のカタログは1985年のマイナーチェンジの際のものですが、1982年の登場時からこのデザインが使われていたようです。
日ノ丸自動車
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撮影:米子駅(2016.5.28)
日ノ丸自動車(鳥取県)では、1982年に日野のスケルトンタイプの路線車を導入の際、カタログとほぼ同じカラーを採用しました。
屋根部分の塗り分けは異なりますが、正面の2本の縦線や、横ラインと縦ラインの交差部分が細い地色線で区分されている点などは、カタログデザインに忠実です。
なお、静岡鉄道(静岡県)が1980年に導入したカラーデザインも、このカタログカラーと正面やドア部分の塗り分けが共通しています(→基本形>ドア強調形)。
2-08 日野ブルーリボン(1982年)
カタログカラー
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画像:日野自動車公式カタログ(1982)
日野の観光バスがモデルチェンジを行い、「ブルーリボン」の愛称を復活させた時のカタログに使われていたカラーリングは、山吹色と青色の中間色を使い、縦ラインと横ラインを小さなRでつなげたソフトなイメージのデザインです。
角張ったスケルトンバスをマイルドに見せる効果があります。
佐賀市交通局
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撮影:He526様(佐賀駅前 2018.7.1)
佐賀市交通局(佐賀県)では、ブルーリボンのカタログカラーと全く同じデザインを採用しています。ちょうどカタログが発行されたのと同じ時期に導入した車両からの採用です。
その後、1990年代の終わりには、この2色を生かしつつ、水平線基調のデザインに変化しています。
2-09 日野ブルーリボン(1984年)
カタログカラー
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画像:日野自動車公式カタログ(1984)
日野の観光バス「ブルーリボン」の1984年のマイナーチェンジの際のカタログに掲載されていたフルデッカーのカタログカラー。ブルーの濃淡とシルバーを組み合わせ、車体後部で斜めに上げる流行の塗り分けパターンとなっています。同じカタログ内には、青を赤の濃淡に変えたパターンも存在します。
川中島バス
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撮影:更埴市(1990)
松電観光バス
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撮影:本社営業所(1987.11.23)
川中島バス(長野県)では、松電グループ入りした1985年に、イメージカラーである緑色の濃淡を用いた新デザインを導入しました。塗り分けは、このカタログカラーとほぼ同じです。側面にはローマ字で「Kawa Bus」と入ります。
一方、親会社に当たる松本電鉄(長野県)では、グループの松電観光バス、諏訪バスなどとともに、遅れて1987年に同じパターンのカラーデザインを採用しました。これまでのイメージカラーである赤と青をベースとしています。
松電グループでは、1990年にGI(グループ・アイデンティティ)による新デザインを採用したため、このカラーデザインは全車には普及せずに終わりました。
2-10 日野ブルーリボン(1984年)
カタログカラー
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画像:日野自動車公式カタログ(1984)
上のカタログと同じ時のミドルデッカーに塗られたカラーデザインは、後ろの方の斜めラインが水平ラインから独立しています。
仙台市交通局(空港バスカラー)
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撮影:左党89号様(仙台駅前 2007.3.11)
仙台市交通局の仙台空港リムジンバスのカラーデザインです。
カタログカラーと比べると、青の濃淡とシルバーの順番が異なりますが、側面の斜めラインは同じです。
新車としての導入車は日野ブルーリボンですので、カタログをベースにしたものと思われます。
2-11 いすゞキュービック(1984年)
カタログカラー
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画像:いすゞ自動車公式カタログ(1984)
1984年にフルモデルチェンジしたいすゞの大型路線バス「キュービック」は、その大胆なスタイルを生かすため、前後を1色にデザインしたカタログカラーが設定されていました。カラーバリエーションには、赤、黄、青などがありました。側面は明るいグレーで、前後、屋根のカラーとの境には濃いグレーのラインが入ります。
当時、「キュービック」を導入する際、旧来のカラーデザインではスタイリングとマッチしないからか、このカタログデザインを導入する例が複数のバス会社で見られました。
山陽バス
垂水駅(2016.3.5)
南部バス
八戸営業所(1986.5.3)
一畑バス
出雲市駅(2016.5.28)
山陽電気鉄道(兵庫県)は黄色のカタログカラーを採用しました。それまでの深緑系のカラーリングからは大胆なイメージチェンジでした。ノンステップバスの導入時に、細部のアレンジを変えたものの、現在に至るまで基本デザインを踏襲しています。
南部バス(青森県)は、自社のイメージカラーを意識してか、赤色のカタログカラーを採用しました。写真は導入当初の例ですが、後に正面にグレーのラインが入りました。
一畑電気鉄道(島根県)は、それまでのブルー系のカラーリングから赤色に変わりました。側面中央に赤と黒のラインを入れるなど、必ずしもカタログカラーそのままではありません。
他に、三重交通(三重県)がこれを緑色にアレンジしたデザインを採り入れていました。
2-12 日野ブルーリボン(1985年)
カタログカラー
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画像:日野自動車公式カタログ(1985)
1985年にモデルチェンジされた日野の観光バス「ブルーリボン」の中で、フルデッカータイプのカタログカラーとして使われていたデザインです。シルバーの地色に、オレンジ色の濃淡のラインが窓下に入れられています。
南九州高速バス
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撮影:鹿児島県(1987.3.11)
名士バス
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撮影:本社営業所(2016.6.11)
このデザインは、名士バス、八雲ハイヤー(北海道)、南九州高速バス(宮崎県)などに見られます。
いずれもこのブルーリボンを新車で導入した会社で、特に八雲ハイヤーは、カタログで型式名が表現されていたオレンジラインの最前部で社名を表現しており、カタログカラーに最も忠実です。
名士バスは、その後の路線バスにも同カラーを採用しています。
2-13 日野ブルーリボン(1986年)
カタログカラー
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画像:日野自動車公式カタログ(1986)
日野自動車の9m観光バス「ブルーリボン」の登場時のカタログに掲載されている写真です。赤系のグラデーションを使い、前から後ろの方に上がっているデザインになっています。
関東自動車
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撮影:栃木営業所(2016.5.21)
箱根登山バス
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撮影:ポンコツ屋赤木様(御殿場駅 2015.5.3)
関東自動車(栃木県)の貸切車は、1986年にそれまでの赤3本ラインのイメージを継承しつつ、新たなデザインに変わりました(注1)。ちょうど上の写真のカタログと同じ時期です。
一方、箱根登山鉄道(神奈川県)のカラーは1980年に導入されたとのこと(注2)で、時期的にはこのカタログよりも前になります。
両社とも日野車を多く導入していたという実績はあり、カラーデザインにメーカーが関わっていた可能性はありそうです。
2-14 日野ブルーリボン(1987年)
カタログカラー
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画像:日野自動車公式カタログ(1987)
日野「ブルーリボン」のスーパーハイデッカーに様々なバリエーションが加わった「グラン・シリーズ」と呼ばれるバリエーションのカタログが1987年に発表されており、その中の「グランデッカ(中扉仕様)」に使われているのがこのデザインです。ホワイトの地色で、窓下に虹色のラインを入れています。
那覇バス
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撮影:那覇空港(2016.12.31)
那覇交通(沖縄県)では1980年代中頃に、それまで「銀バス」と呼ばれていたカラーリングのイメージチェンジのため、白地にレインボーカラーの入ったこのカラーデザインを、貸切バス、郊外線路線バスに導入し、2004年に第一交通産業に事業譲渡されて那覇バスとなった後にも引き継がれています。
また、琉球バス(沖縄県)も2006年に同じく第一交通産業傘下となるに伴い琉球バス交通に変わり、貸切バスと路線バスを那覇バスに合わせたカラーに変更を進めています。
そのほかには、十勝バス(北海道)の貸切車にも、このカラーの車両が存在しました。
琉球バス交通
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撮影:那覇空港(2016.12.31)
2-15 三菱エアロクィーンM(1988年)
カタログカラー
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画像:三菱自動車公式カタログ(1988)
1988年に三菱エアロバスのマイナーチェンジで誕生した「エアロクィーンM」は、ヘッドライトとバンパーを一体化した新しいデザインが特徴でしたが、カタログカラーもそれを生かした白地のデザインになりました。パステルカラーの曲線をちりばめています。
瀬戸内運輸
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撮影:今治桟橋(2016.5.29)
北恵那交通
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画像:北恵那交通公式カタログ(1990頃)
仙台西観光バス
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撮影:左党89号様(盛岡駅 2006.4)
「エアロクィーンM」は当時ブームとなっていた高速バスの人気車種となりましたが、同時にこのカラーリングも広く普及しています。立川バス(東京都)、北恵那交通(岐阜県)、姫路市交通局(兵庫県)、小松島市運輸部(徳島県)、瀬戸内運輸(愛媛県)などがほぼそのままのデザインで採用したほか、このモチーフを生かしたデザインは各地で見られました。側面のロゴもカタログデザインを踏襲しているものが多いようです。
小規模観光バスでも、宮本バス(北海道)、仙台西観光バス(宮城県)、有本観光バス(岡山県)などの例があります。
サンクレールバス
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撮影:本社営業所(2016.5.21)
サンクレールバス(栃木県)では、地色がクリーム色で、モチーフのデザインもアレンジされています。
これら小規模観光バスの場合、エアロクィーンの導入時にこのカラーを採用したのか、このカラーのバスを中古車として譲受した際にこのカラーになったのかは興味のあるところです。
2-16 日産ディーゼル スペースランナー(1988年)
カタログカラー
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画像:日産ディーゼル公式カタログ(1988)
ドリーム観光バス
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撮影:札幌駅(2018.11.10)
ドリーム観光バス(北海道)では、日産ディーゼルが1988年に発表した中型観光バス「スペースランナー」のカタログカラーを採用しています。
ドリーム観光バスは、北海道バス協会のWebサイトによると1991年に貸切の許可を得ており、時期的にはスペースランナーが発売された頃と一致します。
通産省のグッドデザイン賞に選ばれた商品のカラーデザインでもあり、大型バスに展開すると、その存在感は時代を経ても健在です。
2-17 日野セレガ(1990年)
カタログカラー
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画像:日野自動車工業公式パンフレット(1992年発行)
日野セレガの登場時のカタログカラーです。バスには珍しく黒系の地色を使ったインパクトの強いデザインです。
この時期、ライバルの三菱エアロクィーンが白色地のカラーデザインを採用し、市場に大きな影響を及ぼしていたため、そのアンチテーゼではないかと思います。
もっとも、営業用に使うにはこのカラーは冒険だったようです。
東北アクセス
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撮影:左党89号様(仙台駅 2016.1.31)
長良観光バス
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撮影:zabieru48bus様(三重県 2013.2.11)
このセレガカラーを実際に使用している事例です。東北アクセス(福島県)は、カラーのグラデーションラインがモノトーンに変わっているほか、「相馬野馬追」という筆文字が大きく入っています。デコレーショントラックのような印象です。
長良観光バス(岐阜県)は、地色が白、ラインが青系のグラデーションに変わっているため印象は大きく異なりますが、ベースデザインは同じです。
なお、三重交通(三重県)でも最初期のセレガを導入した際に、特別カラーとしてこのカタログカラーを採用しています。
2-18 三菱エアロクィーン(1992年)
カタログカラー
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画像:三菱ふそう公式パンフレット(1993年発行)
三菱ニューエアロバスの初期カタログカラーです。
この時代になると、それまでの原色やパステルカラーを使った派手な色使いではなく、モノトーンを生かしながら、コンピューターを使った複雑な曲線で構成されるデザインが増加します。
もっとも、これをそのまま自社デザインに採用するには、若干ハードルは高かったようです。
沖縄バス
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撮影:那覇空港(2016.12.31)
朝田観光バス
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撮影:S'ELEGA-LA様(2015)
ニューエアロバスのカタログカラーをアレンジした一例です。
沖縄バス(沖縄県)は那覇空港〜名護間の高速バスにこのカラーを展開します。使用色は沖縄バスの貸切カラーに準じた青色系の濃淡に変えられています。窓周りの黒色や赤色の曲線などはカタログカラーそのままです。
朝田観光バス(大阪府)は、赤を主体とした色に全面的に変わっており、イメージは全く異なりますが、細かいラインの特徴は一致しています。過去にエアロバス導入実績もあり、三菱との関係からの導入かも知れません。
東濃鉄道(北恵那交通カラー)
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撮影:恵那営業所(2017.3.25)
旭川電気軌道
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撮影:左党89号様(旭川駅 1999.8.2)
こちらの2例は、曲線の一部の袋状になった部分が省略されている応用例です。
北恵那交通(岐阜県)は、同社のイメージカラーである青を使用しているため、カタログよりも明るいイメージになっています。なお、2013年に貸切事業を同じ名鉄グループの東濃鉄道(岐阜県)に集約したため、カラーそのまま移籍しています。
旭川電気軌道(北海道)では、日野自動車製の空港連絡バスにこのカラーを使用していました。使用色はカタログカラーと同じのようです。路線タイプの日野車にこのカラーを用いた経緯はよく分かりません。
2-19 三菱エアロスター・ノーステップ(1997年)
カタログカラー
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画像:三菱自動車公式カタログ(1998)
三菱自動車が1997年に発売した国産初の市販ノンステップバスが「エアロスター・ノーステップ」で、1997年通産省グッドデザイン賞に選ばれた車両です。
カタログのカラーデザインは、裾が黄色く塗り分けられたシンプルなものです。
広島電鉄
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撮影:シンコー様(江波車庫 2012.2)
広島バス
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撮影:シンコー様(アルパーク 2015.7)
広島電鉄、広島バス(広島県)の2社は、1997年の発売とともに、このノンステップバスを導入しましたが、両社ともカタログカラーのデザインを採用しました。ともに自社カラーにアレンジしており、広島電鉄は緑、広島バスは赤になっています。
ノンステップバスなど低床バスの導入に合わせてカラーデザインを変える事業者は多く見られますが、両社ともこのデザインは初期導入車にとどまっています。
広島バス
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撮影:広島駅(2016.5.29)
広島バスでは、その後に導入するワンステップ、ノンステップには、そのカラーをアレンジした新デザインを採用しています。
裾の赤色が後部にかけて上に上がるモチーフは継承しつつ、ゴールドのラインを太くするなど、細部は変更されています。
メーカー提案
2-21 頸城自動車
頸城自動車
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撮影:新潟駅(2024.1.18)
頸城自動車(新潟県)では、1996年に貸切バスのカラーを一新しました。
社名の頭文字「K」をモチーフにし、新たなる羽ばたき、飛躍という意味を込めたとのこと。三菱自動車工業名古屋バス製作所デザイングループがデザインしたとのことです。(頸城自動車(2003)「頸城の足として90年」P.35)
このように、メーカーデザインであることを明確にするという事業者は多くはありません。
2-32 日野自動車販売(1985年頃)
カタログと異なり、メーカー提案は形が残らないので判断が難しいのですが、日野自動車販売が1985年頃に作成したカラーリングマニュアルがありましたので、その一部をお見せします。
茨城交通
カラーリング提案
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画像:日野自動車販売カラーリングマニュアル(1985頃)
茨城交通
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撮影:水戸駅(2014.11.8)
ここに掲載されているカラーリング案の一つが、1985年に茨城交通が採用したデザインとそっくりです。
時期的にも一致するので、日野自動車が提案したデザインの一つを茨城交通が採用した可能性が高いと思われます。
清水市自主運行バス
カラーリング提案
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画像:日野自動車販売カラーリングマニュアル(1985頃)
清水市自主運行バス
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撮影:但沼車庫(2017.3.19)
これも同じカラーリングマニュアルからです。
しずてつジャストライン(静岡県)の両河内線専用車が、上のカラーリングとよく似ています。
元々は1985年に前身の静岡鉄道が県立美術館線用に特別塗装として採用したのが最初で、それは緑色系でした。翌年に清水市自主運行バス(両河内線)も同デザインの青系カラーになりました。時期的に、上記カラーリングマニュアルと一致します。
柿木観光バス
カラーリング提案
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画像:日野自動車販売カラーリングマニュアル(1985頃)
柿木観光バス
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撮影:本社営業所(2017.3.11)
これも同じカラーリングマニュアルからです。2階建てバス「グランビュー」にデザインされた大きな渦巻の入ったカラーです。
そして、柿木観光バス(長野県)は、色使いは異なりますが、大きな渦巻や前ドア後ろでコの字に曲がったデザインはほぼそのままです。
写真の車両は三菱ですが、柿木観光バスでは日野車を多く採用しており、日野からのカラー提案を受けた可能性はあります。
バス事業者カラーのカタログ掲載
実際のバス事業者が使用しているカラーデザインの車両をカタログに掲載している例もいくつかあります。1950〜70年代に多く見られますが、その理由は分かりません。バス事業者から発注を受けた納入予定の車両を掲載したのか、カタログに掲載するためだけのモデル車両を製造する余裕がなかったのか、優れたデザインなのでメーカーがカタログに流用したのか、いくつかの可能性は想像できます。
秩父鉄道カラー
いすゞBA30
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画像:いすゞ自動車公式カタログ(1970)
いすゞ自動車のBA系列のカタログに掲載されている秩父鉄道(埼玉県)の車両。同社の社紋が前と横についているほか、側面に書かれた社名を画像処理で消した跡があります。つまり、明らかに秩父鉄道に納入する予定の車両をカタログに掲載したということです。
なお、写真の右下にこのカタログの表紙を添えましたが、表紙の車両は川崎市交通局です。
東武鉄道カラー
いすゞBU05D
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画像:いすゞ自動車公式カタログ(1970)
いすゞ自動車のBU系列のカタログに掲載されているのは、東武鉄道(東京都)と同じカラーリング。正面窓が2枚ガラスになっているなど、実際に東武に納入された車両と同じ特徴を有するので、納入前の車両をカタログに掲載したものと思われます。
同じカタログの別ページには、三重交通(三重県)カラーの車両も掲載されています。
阪急バスカラー
いすゞCCM410
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画像:いすゞ自動車公式カタログ(1977)
いすゞ自動車のCCM登場時のカタログに掲載されている阪急バス(大阪府)。自家用、観光タイプはカタログカラーの車両ですが、路線タイプは阪急バス納入予定車両を載せたようです。既に車番も書かれており、実際に阪急バスに納入された車両と仕様も含めて全く同じです。
奈良交通カラー
日野スケルトンバス
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画像:日野自動車工業公式カタログ(1978)
日野自動車が初代スケルトンバスをマイナーチェンジした際にカタログに掲載していた車両ですが、奈良交通(奈良県)が採用したデザインと同じです。
奈良交通は日野スケルトンバス導入と同時にこのカラーリングを採用しており、日野がデザインしたものを奈良交通が採用したということのようです。(注3)
東都観光バスカラー
いすゞハイデッカーⅢ型
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画像:いすゞ自動車公式カタログ(1980)
いすゞ自動車と川崎車体工業が1980年に発表したハイデッカー・シリーズのカタログには、直線的で窓の大きなボディスタイルに似合うカラーデザインが展開されています。
この中で、「ハイデッカーⅢ型」は、黒、赤、グレーというメリハリの利いたデザインになっています。このカラーデザインは、東都観光バス(東京都)がこのモデルの導入と同時に採用したカラーデザインです。
なお、画像右下に添えたこのカタログの表紙に掲載されたカラーデザインは、色使いを変えた上で、川中島自動車(長野県)に一時採用されています。
西東京バスカラー
日産デKL-JP252NAN

画像:日産ディーゼル工業公式カタログ(1999)
時代は進んで、1999年発行のカタログです。日産ディーゼルの中型バスをベースにした大型ノンステップバスJPですが、明らかに西東京バスのカラー。西東京バスを含む京王グループに多く納入されていますので、そのうちの1両を使用したものと想像できます。
主な参考文献
- 日本バス友の会(1994)「日本のバスカラー名鑑」
- 和田由貴夫(1998)「シティバスのカラーリングを考える」(「年鑑バスラマ1998-1999」P.97〜103)
- 三好好三(2006)「バスの色いろいろ」(「昭和40年代バス浪漫時代」P.124〜125)
- 満田新一郎(2005)「昭和30年代バス黄金時代」
- 満田新一郎(2006)「続昭和30年代バス黄金時代」
- 満田新一郎(2006)「昭和40年代バス浪漫時代」