小説
アフターコロナ
Episode 06 牛の見解
そうなんですか?
人間ってすごかったですよ。
だって、私たちの全身のあらゆる場所を食べちゃうんですから。
この肩のあたりが「肩ロース」っていうんですよ。霜降り肉とかいっておいしいらしいですよ。すき焼きとかにしてごらんなさい。絶品ですよ。すき焼きはわりしたもちゃんとこだわったほうがいいですよ。
その少し後ろの、ここ、そう、ここが「サーロイン」っていうんですね。これを鉄板で焼いて、ステーキにするとおいしいらしいですよ。焼き過ぎないのがおいしく食べるコツですね。その内側が「ヒレ」ですね。
「モモ」は生肉のままユッケで食べることも出来るんです。ただし、生肉の加工や販売は、許可を得たお店でしかできませんので、注意してくださいね。
脇腹のあたりの「バラ肉」といわれる部分は、安くておいしい牛丼の材料としても重宝されるんです。吉野家ではアメリカ産を使っています。
食べられるのは、肉だけじゃないんですよ。心臓は「ハツ」、肝臓は「レバー」、胃の中で一番大きいのが「ミノ」っていうんです。スタミナが付くらしいですね。
舌だって「牛タン」といって、食べちゃうんですよ。塩とかレモンとの相性がいいです。
あと、乳を搾って「牛乳」にして飲んでるんですよ。知ってます? 健康にいいんですって。
その乳を使って、バターとか、チーズとか、ケーキとか、ソフトクリームとかも作っちゃうんですって。
それに、皮もカバンにしたり、財布にしたりするんですよ。もう私たちすべてが人間のためになっているんですよ。
え? そんなに色んなこと教えちゃって、いいんですかって? いいんです。もう人間はいないんですから。これ以上、私たちを食べたり、切り刻んだり、乳を搾ったりする人は、もういないんですから。