ジャングル(刑事ドラマ)の引き出し
「ジャングル」は1987年に日本テレビで放送された刑事ドラマ。実際にあった事件を下敷きに、刑事ドラマの前例にとらわれないリアルな構成、描写をぶちかましてきたのだが、当時の視聴者がまだそれについて行けず、2か月ほどで視聴者に迎合した普通の刑事ドラマに後退してしまった。
「大型刑事ドラマ'87ニューモデル」という仰々しい宣伝文句で始まったこのドラマは、「太陽にほえろ!」(Part2)の後番組という大きなプレッシャーを背負っていた。15年間続いた「太陽にほえろ!」は1970〜80年代の刑事ドラマの標準フォーマットを作り上げたが、その反面、警察組織や捜査手法、登場人物の描き方には非現実的な面も多かった。そこで「ジャングル」の制作陣は「太陽にほえろ!」を全否定するかのようなアンチテーゼの姿勢を貫いた。
主な点を上げれば、
- 事件は1話で終わらない。
- 事件の途中でほかの事件が起きれば、刑事は(ドラマは)そちらの事件も丁寧に扱う。
- 警察官の階級(警視とか警部とか警部補とか)が正しく書かれている。
- 刑事がみんな正義の味方の熱血漢ではないし、お互いに仲がいいわけでもない
- 大きな事件には捜査本部が置かれ、警視庁から幹部がやってきて、捜査会議が開かれる。
- 警視庁からやってきた幹部が、エリート根性の嫌な奴とは限らない。
- 走ったり、ぶん殴ったり、物を壊したりするのがかっこいいのではない。
- 刑事たちにも私生活があり、それは決してスマートなものではなく、むしろ悩ましいものであったりする。
(画像は、2006年に日テレプラスで放送された時のもの)
登場人物
まずはレギュラーの登場人物から紹介する。
これだけでも、「太陽にほえろ!」のアンチテーゼが多数散りばめられていることがよく分かる。
津上係長(鹿賀丈史)
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捜査一係の係長といえば、「太陽にほえろ!」では石原裕次郎が演じていた大役。
そんな大役を鹿賀丈史はそつなくこなす。5時になれば、さっさと帰ってしまうサラリーマン刑事。妻(演:真野響子)とのプライベートな時間を大切にする姿は、前作で家族を犠牲に仕事を貫くことが美談とされた描写の明確なアンチテーゼになっている。
だからといって無責任なわけではなく、仕事には厳しく、上司にもポリシーを貫き、部下には的確な指示を与える。そんな姿に男のかっこよさを見出したのか、事務員の女性(演:加藤由美子)も一目置いているようだ。
10年後、いや20年後にはこういう公私をしっかり区別できるビジネスマンが評価されるのだが、この時まだ時代は津上係長には追い付いていなかった。リゲインのCMで時任三郎が「24時間戦えますか」と歌ったのは1988年のことだった。
小日向警部補(桑名正博)
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ロックシンガーの桑名正博が刑事を演じた。
私にとっては、モジャモジャのパーマ頭でゴリラのような顔をして「セクシャルバイオレットNo1」とかを歌っているイメージの人だった。だが、この時の桑名正博は、スリーピースに口ひげをはやしたダンディな男性で、故・沖雅也が渋さを増して戻って来たような印象だった。一目でファンになってしまった。
元丸暴(捜査四課)という経歴で、暴力団との癒着が疑われるという場面があるし、離婚した妻(演:永島暎子)との間に設けた娘は重い心臓病で入院中という設定。
姓の読み方は「こひなた」で、通称は「こびさん」。
溝口警部補(勝野洋)
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「太陽にほえろ!」で猪突猛進の新人刑事を演じてから約10年後。「テキサス刑事」は落ち着いた大人になっていた。部下にもちゃんと睨みを利かせていて、無茶する若手を叱ったりもする。「太陽にほえろ!」では、ゴリさんと一緒になって踏み込み先のお店の椅子やテーブルをぶん投げていたが、そんな場面でも「片付けろ」と怒鳴るあたりは、「太陽にほえろ!」のアンチテーゼを自ら演じている。
下の名前は「平太(へいた)」で、通称は「へいさん」。
植松警部補(火野正平)
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特にほかの仲間に迎合するでもなく、冷めた態度で、時に本音をぼそりと呟くようなキャラクター。火野正平が地で演じているだけかもしれないが。
役柄上は元高校教師という異色の経歴を持つため、何気なく若者の心を掴んでいたりもする。
下の名前は「和夫」で、通称は「かずさん」。
永井刑事(香坂みゆき)
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いわゆる紅一点。元アイドルでもあり歌手でもありモデルでもある香坂みゆきが演じる女刑事で、可愛くて刑事らしくないが、さらりと演じるところがさすが。
刑事部屋で起きることを何気なく観察していて、ポツリとつぶやくひと言にクスリと笑えるエキスが含まれている。場面転換前の落ちの台詞もそつなくこなす。
29話の冒頭で津上係長から「退職した」と報告があっただけで、何のあいさつもなくいなくなった。
下の名前は「七重(ななえ)」で、皆から「ななえ」と呼ばれる。
九条刑事(西山浩司)
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「太陽にほえろ!」からの平行移動で、キャラクターもそのまま。というより、「欽どん」の「ワルオ」からそのまま。
実際、「太陽にほえろ!」の若手刑事の悪い部分を凝縮させたような無茶な行動が目立つし、小さな体で器用に駆け回り、無駄口も多い。
磯崎刑事(山口粧太)
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新人俳優による若手刑事。「太陽にほえろ!」なら物語の中心人物として売り出される位置づけ。
実際のところ、今でいうイケメンキャラで、若い女性に人気が出そうな顔をしている。リーゼントの髪とブランド物のスーツに身を固め、世の中に対して斜に構え、キザな台詞を吐きながら、プライベートではホステス(演:高樹沙耶)と付き合っている。それを指摘されると「刑事なんていつでも辞めてやる」と公言する。
それでも、事件関係者との関わりの中で、少しずつ成長していくところは前作同様の青春ドラマ的な要素は考えられていたのかも知れない。最終回で彼女と別れた後、犯人の凶弾に殉職してしまう。
中森刑事(田中実)
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新人俳優による若手刑事の二人目。こちらは磯崎刑事とは真逆の生真面目キャラ。どちらかといえば年上の女性に人気が出そうなかわいい顔をしている。
九条刑事とのコンビが多いが、中森刑事の真面目さを見せるためには必要不可欠。
やはり、事件にかかわる人間模様に涙したりしながら、少しずつ成長してゆく。
佐久間巡査部長(山谷初男)
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叩き上げのベテラン刑事といえば、普通は人生経験豊富だったり、人徳があったり、部下の面倒見が良かったり、事件を解決する鋭い勘を備えていたりと、チームになくてはならない存在なのだが、この人は違う。愚痴は言うし、弱い立場の者には小言を言い続けるし、上役のご機嫌を取る事には抜かりないし、部下から嫌われる舅のような存在なのだ。
でも、大概の組織にいるベテランというのはそんなもんで、この人を見て「こういう人必ずいるよなぁ」と頷く人は多いに違いない。
明石警部補(安原義人)
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安原義人という人は、声優としては有名で、ミッキー・ロークやリチャード・ギアの吹き替えをしていたりする大物なのだが、俳優としての活躍はあんまり記憶にない。「ジャングル」での刑事役も、猫舌で高所恐怖症で柔道も弱いというダメキャラ。
小学4年生の息子が学校で上級生に暴力を振るい、学校に呼ばれているものの、捜査の都合でなかなか行けない。こんな父親からどうしてそんな息子が生まれたのか。「女房に似たんだ・・・」の一言で納得。
下の名前は「亀雄」で、通称は「亀さん」。
杉戸課長(江守徹)
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課長室でいつもイライラしている捜査課長。このキャラだけは、これまでの様々な刑事ドラマで見られた気がするが、そういえば前作「太陽にほえろ!」では、捜査課長は出てこなかったな。
煙草をやめたとかやめるとか言いながら、結局吸っている。この人だけでなく、小日向警部補も九条刑事も刑事部屋で平気で煙草を吸いながら仕事をしているのは、この時代には普通だった。
津上係長に愚痴をこぼすと、いつも簡単にかわされてしまい、この人は津上係長の引き立て役ではないかと思ってしまう。
武田警部(竜雷太)
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警視庁から捜査本部に派遣されてくる警部。
多くの刑事ドラマで本庁のエリートというのは嫌な奴として描かれるが、「ジャングル」はそういうステレオタイプにはこだわらない。
前作「太陽にほえろ!」のゴリさんそのもののキャラクターで、むしろ八坂署の捜査一係にはなじんだ存在。
「ジャングル」の新しいチャレンジの実際
この物語が、どのように現実社会をリアルに描いていたか、また「太陽にほえろ!」の作った虚構の設定をどのように否定していたかなど、この時代ではかなり斬新だったチャレンジの数々を、実際の物語に即して紹介してみる。飽くまでも独自のチャレンジをしていたのは初期の物語に限られてしまうが・・・。
(以下は、物語のあらすじとかではなく、見所のピンポイント説明に過ぎません)
(第1話)「バラバラ事件・その1」
サブタイトルが事件名
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第1話のサブタイトルから、1話で解決しないことがすぐ分かる。結果的に4話続く「バラバラ事件」だが、サブタイトルを事件名とするのも初期「ジャングル」の特徴。途中で色々な事件が起きるので、主題が何かをサブタイトルでしっかり示してもらえると、物語の進行が理解しやすい利点がある。
所轄警察署には管轄がある
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バラバラ事件の胴体は八坂橋のたもとで発見される。
かずさんが「惜しいな。あの橋越えりゃ城北署の管轄なのに」と呟く。
前作「太陽にほえろ!」では管轄などないかのように、新宿でも多摩川でも埋立地でも山の中でも、七曲署の刑事が駆けつけていたっけ。
10年後の1997年に「踊る大捜査線」でこの場面のデジャビューを見るとは思わなかったが。
捜査本部が置かれる
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バラバラ事件の遺体は複数の箇所で発見されるが、胴体が上がった八坂警察署に捜査本部が置かれる。
これまでの刑事ドラマで捜査本部を設置するという設定はほとんどなかった。その代わり、主役が警視庁であったり、管轄を超越した特命課とか特捜本部とかいう架空の設定だったりした。
リアルを追求して捜査本部を最初に取り入れたのも「踊る大捜査線」ではなく「ジャングル」なのだ。
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捜査会議は大きな会議室で大規模に行われる。警視庁から来た武田警部らも同席し、女性警官から資料も配られる。
これまでの刑事ドラマでは、課長や係長の机に集まって不規則に報告や伝達や推理が行われ、それをもとに刑事たちが行動していたが、それでは全員に正しい情報を徹底することは不可能。そういうことに、薄々気付いてはいたんだよなぁ。
本筋と関係ない事件も起きる
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当たり前のことだが、大きな事件が起きたからといって、他の事件が遠慮してくれるわけではない。
所轄警察署は、起きた事件についてはきちんと対応する必要がある。
これまでの刑事ドラマだと、仮に無関係な事件が起きたとしても、邪魔者扱いされたり、実はそれが本編の事件と関係しているという奇跡のような偶然が起きたりしていた。
「ジャングル」では、無関係な事件もきちんと捜査する。もちろん、その事件が本編の事件と関係していたなんて非現実的な偶然は起きない。
廊下の自販機の前で立ち話
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廊下にカップ自販機があって、そこでコーヒーを飲みながら立ち話をする。他の署員が挨拶をしながら横を通り過ぎる。会社とかでもよくある風景。
「太陽にほえろ!」では、わざわざ屋上に上がって新宿の超高層ビルを見上げながら人生について語っていたな。
事件の本流から様々な人間模様の枝葉へ
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バラバラ事件の被害者についての情報は次々に入ってくるが、そのほとんどが実際の被害者には結びつかない。そんな空振りの情報にも、一つ一つ足を運ぶ様子が描かれるところは、現実的であるとともに、「ジャングル」の人間描写のキモにもなっている。
別れた母親と会いたいという娘が、バラバラ事件の被害者が母親ではないかとの偽りの相談をして、母親の所在を突き止める。母親は娘から暴力を振るわれた過去から、会うことを拒むが、実際には感動的な再会となるというような人間模様が描かれる。
次回につづく
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捜査会議の途中で、リストにない本命の被害者の情報が入る。捜査本部の面々は、慌ただしく行動に移る。第1話はこれでおしまいで「つづく」の文字が出る。
1話で終わらないことは予め分かっていたが、新たな展開を前にして次回に続くという心憎い演出。考え尽くされた作りはさすが。
現実の事件を素材にしている
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エンディングテーマの後にこれが出てくる。
現実の事件をモチーフにするという設定は、2年前の「刑事物語'85」でも見られた。
(第2話)「バラバラ事件・その2」
バラバラ事件から派生した人間模様(その2)
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第1話の最後で、6歳の子供の母親が失踪し、浴室から血液反応が出たとの情報がもたらされたが、第2話の冒頭で母親の生存が確認され、息子とも再会が果たされる。
前回に続き、そんな人間模様を目の当たりにする中森。感動的な場面であると同時に、若手刑事が成長していく場面でもある。
地道な捜査活動を描写
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被害者が身に着けていた下着から、被害者を探す地道な捜査を続ける。1時間で解決するドラマだと、なかなかこのような細かい描写はできない。
さらに女性の下着売り場にいることを恥ずかしがる中森が「仕事だから仕方ないなあ」とわざとらしく大きな声の台詞を吐いたり、「パンティ」という用語で七重が「私のじゃないですよ」と周りに言い訳するなど、コミカルな演出も気が利いている。
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バラバラ死体が発見された場所から、死体が捨てられた場所を予測するため、水流実験を行う。
ある程度の位置関係は想定されたが、決め手に欠ける結果とはなる。
結果的に、水流実験もパンティ捜査も途中で打ち切りになる。津上係長曰く「捜査は無駄の積み重ねだ」。
地味な捜査によって事件を絞り込んでゆく経過を描く現実味は、これまでの刑事ドラマとは一線を画すものだった。
刑事が命をかける必要はない
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不用意に拳銃を発砲した磯崎を叱る津上係長に対し、武田警部が「デカってのは犯人逮捕のために自分の命かけてるんだよ」と口を挟む。
それに対し、津上係長が「そんなものかける必要ありません」と一言。
武田警部が「太陽にほえろ!」のゴリさんそのもので、冷静な津上係長とのやりとりは、「ジャングル」が「太陽にほえろ!」を否定する象徴的な場面となっている。
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怒って刑事部屋を出て行った武田警部が、玄関で磯崎を待っている。
「刑事バカにならないように気をつけろ。オレみたいになっちまう」という一言を残し、身を縮めて去って行く。
「太陽にほえろ!」の敗北を象徴するシーンを自ら演じるゴリさん。
「刑事バカになるなよ」という場面は、番組の予告でも使われた。
本筋とは関係ない事件も起こる(その2)
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第1話では、冒頭の強盗事件や女性への脅迫事件などが発生したが、第2話ではエアガン事件と拳銃強盗事件が発生する。
エアガン事件の被害者で片目を失明した女性との交流や、拳銃強盗の犯人を逸早く見抜いたことなどで、磯崎は少しずつ刑事の仕事への自信を深めて行く。
前作「太陽にほえろ!」でも描かれた若手刑事の成長が、「ジャングル」の磯崎や中森でも描かれるのだが、あまりにもたくさんのテーマに埋もれてしまい、視聴者にしっかり伝わったかどうかは分からない。
ただ走ればいいってもんじゃない
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拳銃強盗事件の容疑者の似顔絵を見た磯崎が現場に駆けつけると、そこには佐久間らが既に着いている。
「ただ走ればいいってもんじゃないんだ」と佐久間の嫌味なひと言。
「太陽にほえろ!」では若手の刑事がひたすら走っていたが、もちろん、走るよりも車で行った方が早いし、合理的。
暴力団との癒着の噂
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元丸暴(捜査四課)の小日向には、暴力団との癒着が噂される。
バラバラ事件の被害者リストにあるバーのホステスがやくざ風の男と姿を消したという情報から、かつて関係のあった小日向が大成会の幹部と密談する。ホステスが家に戻ればバラバラ事件の被害者ではないことが確認できるので、覚せい剤の密売の件は伏せておくという条件で、話をつける。
次回につづく
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第2話終わりには、東京湾で頭部が発見されたとの情報が入り、津上係長を先頭に現場に向かう場面で次回に「つづく」。
第1話と同じパターンの終わり方だが、次回への期待を盛り上げる効果的な手法再び。
(第3話)「バラバラ事件・その3」
似顔絵が完成
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頭部が発見されたことで、事件はかなり前進する。
頭蓋骨を元に複顔像が製作され、それをもとにした似顔絵が作られる。
似顔絵を交番の前の掲示板に貼る巡査。こういう当たり前の風景も、これまでの刑事ドラマでは描かれなかった気がする。
歯の治療歴
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歯の治療歴から、その治療方法が東京と大阪の歯科薬科大学の特定の期間の卒業生によるものと判明。
被害者の特定にかなり近づく。
容疑者
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被害者の似顔絵は、テレビでも放送される。それを見る不審な男(石橋蓮司)。実はこの男は1話から死体発見現場に現われている。
この物語は犯人探しの推理ドラマではなく、捜査手法などのリアルな展開を楽しむものなので、この男の存在は単なるネタバレというわけではない。
本筋とは関係ない事件も起こる(その3)
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第3話でも、バラバラ事件と無関係に事件は起きる。
磯崎と七重はガチャガチャを壊して現金を盗む少年犯罪を張り込んだり、へいさんはタレコミ屋からの情報で覚せい剤の売人を逮捕したりする。
ここで肝心なことを一つ。八坂署に置かれた捜査本部には、すべての刑事が配属されているわけではない。へいさんは捜査一係の刑事だが、捜査本部のメンバーではない。
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かずさんは自殺しようとする中学生を見つけてしまう。
食事をおごり、話をして、自殺を思いとどめる辺りが元教師の実力か。
「柔道の試合があるから」と言って帰ってしまった割には、ゲームセンターで遊んでいるところをその中学生に見つかってしまうなど、実はいい加減な性格だということも判明。
バラバラ事件の情報もたくさん集まる
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似顔絵が公開されたことで、全国から情報が集まる。
もちろんそのほとんどが別人。
写真は、似顔絵とそっくりな女性が生きていた。あの似顔絵はこれを演じた女優を元に作ったんだろうな。
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似顔絵をはがしているところを目撃された男が逮捕され、真犯人として有力視される。
しかし決め手がなく釈放したところ、中央線藤野に向かう。尾行する九条と中森が見守る中、埋められた死体を掘り出す男。
結果的に殺人犯人ではあったが、その死体には全身が揃っており、バラバラ事件とは関係なかった。
次回につづく
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歯の治療歴から、完全に一致する被害者が判明。
第3話はそこで「つづく」。今回のラストは津上係長のソロショット。
(第4話)「バラバラ事件・解決編」
被害者特定
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特定された被害者については、失踪届が出ていないどころか、整形していて似顔絵とは全く違う顔をしていたという事実も判明する。
本筋とは関係ない事件も起こる(その4)
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やはり4話でも、バラバラ事件と無関係の事件は起きる。
酔っぱらいがビルの屋上に上がって降りられなくなる事件は、テレビ中継される。
暴行事件では、裁判になった際の厳しさをかずさんが諭すように話す場面が見所。
言い間違いもリアルな表現
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ストーリー展開とは全く関係ない話だが、捜査会議が終わってどやどやと出てくる刑事たちに抗って亀さんが、
「課長。いや係長。課長が呼んでます」
リアルな言い間違いか、台本にこう書かれていたのか、安原義人のアドリブか。現実社会では、よく言い間違いがあるのだが、ドラマではほとんどみんな淀みなくしゃべることに違和感を感じていたので、この些細な言い間違いは素晴らしいと思った。
癒着疑惑解消
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小日向の大成会との癒着疑惑は、様々な裏付けが固まり、杉戸課長にも情報が入ってくる。
しかし、娘の手術代として振り込まれたお金は愛車を売却して返したという。また、最後にシャブの取引現場を押えて大成会幹部を逮捕することで、犯罪を隠匿する取引もなかったことを証明し、癒着疑惑は4話できちんと回収された。
バラバラ事件解決
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ここは「ジャングル」の果敢なチャレンジを解説する場なので、事件解決までの詳細なストーリー展開は省略。
決して、最初に見かけた男(石橋蓮司)を根拠もなく疑ったわけではなく、被害者の足取りを辿ったら犯人にたどり着いたという展開。よくある刑事ドラマでは、最初から犯人を決め打ちして後から証拠を探すような行為が見られるが、「ジャングル」はそんな安易なことはしないということを秘かに主張していたのかも知れない。
やはり津上係長のソロショットで4話に渡ったバラバラ事件は終了。
(第5話)「広域窃盗事件事件・その1」
若者たちの空回り
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マンションに侵入する窃盗事件が発生。
中森「大丈夫ですよ。任せてください」
九条「たかがコソ泥じゃないですか」
磯崎「うちの署内に来たのが運の尽きですよ」
と口々に根拠のない自信を口にすると、津上係長が
「各所轄だって遊んでたわけじゃない」と一喝。
各所轄
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犯人は「怪盗ムササビ」と呼ばれる窃盗犯で、他の所轄の管内でも犯行の過去があった。
その捜査記録を調べに回る面々。
「捕まえたけりゃ、自分で調べたらどうなんだ」
「八坂署にショバ移してもらって助かりました」
「忘れたいんだよ、あいつのことは」
など、各所轄でいろんなことを言われる。
若者たちの空回り(その2)
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八坂署管内でムササビによると思われる2度目の犯行。
九条「今度こそ逃がしません」
磯崎「絶対捕まえますよ」
中森「正体分かったんですからね」
と威勢のいい若手たちに、また津上係長が
「黙って追え。ファミコンやってんじゃないぞ」と一喝。
本筋とは関係ない事件も起こる(その5)
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ムササビの事件の途中でも、関係ない事件は起こる。
特別少年院から少年2名が逃走したとの情報。へいさんと磯崎が彼らを探すよう命じられる。
磯崎「邪魔してくれるな。こっちはムササビでそれどころじゃないってのに」
へいさん「ムササビはムササビ、これはこれだ。事件に変りはないぞ」
本筋とは関係ない事件の途中で更に関係ない事件
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少年2名を発見し、制裁処分の期限である48時間以内に少年院に送り届ける途中、新たな事件に遭遇。
猛スピードの車を追いかけると、後部座席に子供が生まれそうだという奥さんが。
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病院につく間もなく、車の中で出産。
父親が刑事や医者に頭を下げお礼を言うが、パトカーの後部座席で見ていた少年にも頭を下げる。
48時間以内に少年院に戻る事が出来なかったが、少年たちは何かを得る事ができた。そんないい話。
目の前で犯人を取り逃がす
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ムササビは自転車を使って現場に行くと知った九条と中森が、リストアップされたマンションを回りながら自転車を探す。そして自転車発見。侵入するムササビも発見。
しかし、犯人を取り逃がしてしまう。
地道な捜査が実を結ぶ
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ムササビが名古屋で2回犯行を重ねていることが判明。深夜の犯罪なので、名古屋で宿泊したと考え、名古屋市内の宿泊施設を1軒1軒当たり、宿泊者名簿を書き写す地道な作業。
いかにもしんどいという感じの亀さん。しかしこの直後、かずさんが2回の犯行日に一致する名前を見つける。
犯人が判明して次回に続く
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名古屋で判明した名前を見て、武田警部が過去の事件を思い出す。
ムササビの正体が判明したところで、次回に続く。
(第6話)「広域窃盗事件事件・解決編」
無茶をする若手は健在
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ムササビがマンションに侵入したことを確認した九条が、自らマンションの壁を登り、侵入の現場を押えようとする。小柄で機動力があるとはいえ、無茶な行為。「太陽にほえろ!」の若手顔負け。
結局、住民に見つかって騒ぎになってしまう。
始末書だけで済んだのは幸運か。
本筋とは関係ない事件も起こる(その6)
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拳銃による殺人事件が発生。
犯人が逃げ込んだ場所には、大勢の警察官や警察車両が集合する。広域窃盗事件を捜査していたほとんどの刑事がここに集まる。
犯人は、小日向が拳銃で腕を撃ち、逮捕される。
見た目のかっこよさではない
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小日向の拳銃使用に問題はないとされ、若手の面々が小日向を「かっこよかった」と絶賛する中、小日向当人がいきなり「怖かったんだ」と独白する。
それを受けて津上係長が「死ぬのが怖いデカでなけりゃ、いい捜査はできん」と一言。
さらに佐久間が「見た目のかっこよさしか分からんようじゃ、まだまだヒヨッコだよ」
これは「太陽にほえろ!」に限らず、すべての刑事ドラマに対するアンチテーゼの場面かもしれない。
捜査会議で通達を
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捜査会議で津上係長から、捜査の情報だけでなく、署員に子供が生まれたこと、明石警部補が人間ドックのため今日は休むなどの通達が語られる。
捜査会議自体がドラマに出てくることはこれまでなかったが、こういう事務連絡が描写されるのは更に異質。
若手が仲良しとは限らない
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男性の更衣室で帰る準備。
磯崎が「こだわらない方がいいんじゃないの。事件はムササビだけじゃないんだから」とか言いながら、さっさと帰ってゆく。
中森は「やな感じ」と見送る。
若手の中でも磯崎は、ほかの者とは迎合しない。
事件は解決しても捜査は終わらない
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怪盗ムササビは逮捕されたが、弁護士は警察のでっち上げだと息巻く。今回の事件は現行犯だが、それまでの事件まで同じ容疑者である証拠はないと言う。
津上係長は「真実は公判ではっきりするでしょう」と言いつつ、刑事たちには「これまでの600件の1件1件を裏付け捜査するんだ」と告げる。
ドラマは終わっても、刑事たちの捜査は終わらないという、リアルな描写。
(第7話)「傷害致死事件」
覆面パトカーの始業点検
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バラバラ事件と広域窃盗事件の次は、現実の事件を素材にしていることに変りはないが、1話完結になった。一般の視聴者への迎合の一歩目。
もっともリアルな描写は続く。
担当する覆面車の始業点検をする九条だが、面倒になって手を抜いた結果、この後に溝口刑事たちが使った際に、サイレンが鳴らないという不手際が生じる。これまでの刑事ドラマでは見られなかった細かいリアル。
ワイシャツの支給
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事件の話をしているところへ「ワイシャツの支給です」と総務の人がやってきた。刑事たちは一瞬静かになる。
こんな場面も普通の刑事ドラマには出てこない。
事件現場に髪の毛を落とす
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事件の現場に1本だけ見つかった被害者のものでない毛髪が、調べた結果中森のものだと判明。係長に頭を下げる。
こういうディテールもドラマでは初めてか。
本筋とは関係ない事件も起こる(その7)
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1話完結でも本筋とは関係ない事件が起こる。
ベビーカーごと赤ちゃんが連れ去られる事件が発生。小日向と溝口が赤ちゃんを発見し、解決。
(第8話)「少女失踪事件」
最初から二つの事件
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冒頭は捜査会議で始まる。通達が読み上げられるが、最初の通達は今回の主題の事件ではなく、ノックアウト強盗事件の似顔絵。この事件は、溝口と明石が当たるよう指示される。
次の通達が少女失踪事件。結果、今回は2つの話が並行に進むことになる。
本筋とは関係ない事件も起こる(その8)
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やはり途中で関係ない事件も起こる。今回は、刃物による傷害事件で、九条と磯崎が現場に駆けつけ、制服警官とともに犯人を追うが、逮捕の際に制服警官が刃物に刺されて殉職する。
同僚の殉職は、磯崎の心に突き刺さる。
(第9話)「悲しみの街角」
サブタイトルの変化
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現実の事件を素材にしている点は変わらないようだが、サブタイトルが事件名ではなくなった。もっとも「悲しみの街角」というのは、覚醒剤を扱ったアメリカ映画のオマージュかもしれない。
また、主題であるシャブの売買にかかる殺人事件と並行して、若者の強盗予告事件が進むところは、これまでのテイストを引き継いでいる。
本庁と所轄署との対立
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これまで前作「太陽にほえろ!」を代表するいい人キャラだった武田警部が、全体を睨む立場から、所轄がシャブ取引を追うことを中止するよう津上係長に迫る。拒否する津上に対し「命令」との言葉を口にする武田警部。
結果、津上係長は自分の方針を曲げず、取引現場を押えるが、本庁に対する見返りも用意するあたり、大人の対応を見せる。
本庁と所轄の対立は、これまでのドラマでもよく描かれたが、この結末は珍しい。
(第10話)「捜査打ち切り命令」
外交官ナンバーに啖呵
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外国人のスパイ活動に関連する事件捜査は、入国管理局と警視庁公安部によって、容疑者ともども引き渡しを命じられる。
それに素直に応じた津上係長だったが、関連事案で女性を付け狙っていた外交官ナンバーに対しては、
「あんた方がどこの誰なのか、どんな事情でこんなことをしているのか。俺は知らんし、知りたくもない。だけど、俺たちには市民を守る義務があるんだ」
と啖呵を切った。
(第11話)「何で俺撃たれたの」
捜査情報を全員が把握しているわけではない
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ここまで来るとだいぶ普通の刑事ドラマになってしまっている。
その中でリアル表現を一点だけ。
違う事件の現場に駆けつけてきた溝口に対し、九条が「清水が釈放されるんですって?」
溝口「誰だ清水って」
九条「スーパー強盗の・・・」
同じ捜査課のメンバーでも、起きている事件やその動静などを全員が理解しているわけではないという、当たり前の描写が素晴らしい。
(第12話)「警察官蒸発」
警察官の独身寮や私生活が描かれる
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やはり二つの出来事が並行して進む。一つは表題の出来事で、独身寮で磯崎と同室の刑事が捜査中に拳銃を所持したまま失踪する。この事件に関連して、磯崎はじめ若い警察官が職務に関して、これまでの世代とは異なる価値観であることが描かれる。
もう一つは盗難自転車を使ったひったくり事件。これと関連して、2回目に自転車を盗難した男の証言が、警察の意図的な尋問により変えられていたことが判明する。
それらにより、警察内部の若手に対する考え方の調査が行われ、上司を信頼できない割合が60%を超えることが分かる。画像はその調査結果。
(第13話)「逮捕のあと」
逮捕令状の請求から始まる

裁判所に出向いた植松と磯崎が、逮捕令状を請求するところから話が始まる。こういう場面を描くのは「ジャングル」のチャレンジ精神がまだ残っている証拠。
状況証拠しかない中、拘留期限が切れるまでの間に、明確な証拠を求める刑事たちの捜査活動を描くというストーリー。
(第14話)「追跡!爆破魔」
久々の連続もので「ジャングル」の原点再び
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爆破予告事件の前編。1回で事件が終わらない初期「ジャングル」を思い出す作品。
犯人の目撃者の女性の証言で似顔絵が作られ、容疑者が逮捕されるが、実は蒸発した夫を探し出すための嘘だったことが分かる。主題の事件から分かれた枝葉の部分で、人間模様の喜悲を描くあたりも、初期「ジャングル」のテイスト。

爆破予告に応じた捜索により不審物が発見され、爆発物処理班が出動する。しかし、若者が置き忘れた荷物だと分かる。さらにもう一か所で不審物が発見され、緊張感が高まるところで、次回に「つづく」。
ワクワクしながら見ていた初期「ジャングル」が戻って来たと、期待に胸を膨らませた当時の私だった。
(第15話)「逮捕!爆破魔」
事件の社会的背景の奥が深い
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前編の最後で見つかった不審物も、時限爆弾とは関係ない便乗犯のものだったと判明。
その後、捜査が進み、IT爆弾を発見。その解除に理化学研究所の教授が指名される。結果、犯人は、その教授の部下の女性と分かる。犯行の理由は、過去の男女間のもつれなのだが、もう一つ、女性であるというだけで研究所での地位が上がらない「男社会」も原因であると、津上係長が説明する場面。
1980年代の刑事ドラマで、事件の背景に「男社会」があると分析するあたり、「ジャングル」の先見性がここでも認められる。
しかし、この2話をもって、「ジャングル」の製作スタッフは力尽きてしまったようだ。リアルでチャレンジ精神に富んだ「ジャングル」は、これ以降見られなくなる。
(第16話)「警官が狙われた!」
拳銃所持には許可がいる

拳銃を持った男が八坂署に入ってきて発砲したり、警官を射殺したりするという、そこいらの刑事ドラマでよくある設定のストーリーになってしまって、かなりがっかりした回。
ただし1点、新しい試みが見られる。
拳銃所持に許可が必要で、申請書を出しながら拳銃を受け取る場面が描かれている。
拳銃を出しただけで怒られる
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拳銃所持の許可はもらったが、やくざが懐に手を入れただけで拳銃を構えてしまった九条と中森。課長室に呼ばれてこっぴどく叱られる。
これまで(「ジャングル」でさえ)結構簡単に拳銃を発砲していたが、実際は、それを取り出すことも簡単には許されないのだというリアルが描かれた。
(第17話)「泥沼の中で……」
丸暴を描く
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小日向の捜査四課時代の後輩刑事が殺される。捜査四課を描く刑事ドラマといえば「大都会−闘いの日々−」があったが、それくらい珍しいし、描くのが難しい。
殺された刑事は暴力団と癒着があったらしい。小日向の過去にも疑いがかかる。
中森が「こびさんに限ってそんなこと」と言うと、
小日向は「やってたよ」とサラリと答える。
お店を荒らしたら片づける
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雀荘での聞き込みで、態度が悪い相手に、九条や磯崎ら若手たちが雀卓をひっくり返して乱闘を始める。
そこにやって来た溝口が「やめろこら! 片付けろ!」
そして「俺たちもですか」と言う九条に対し、「張本人はお前たちだろ! バカタレが」
前作「太陽にほえろ!」では、ゴリさんたちがさんざん店の椅子とかをぶん投げていたが、久々のアンチテーゼを元テキサス刑事が見せてくれた。
ミイラ取りがミイラに・・・さよなら「ジャングル」
その後の「ジャングル」
これ以降の「ジャングル」に特筆すべきものはありません。
結局、視聴者に迎合せざるを得なかった「ジャングル」は、ごく普通の刑事ドラマに成り下がってしまいました。
複数の事件が並行したり、事件の途中で別の出来事にストーリーが引っ張られたり、主題の事件が解決かと思ったら無関係の人間ドラマが展開されたり、1時間で終わらずに次回に続いたり、そんな「ジャングル」のチャレンジは、まだ一般の視聴者には受け入れ難かったようです。
私は逆に、この「ジャングル」の手法の方が分かりやすくて、ワクワクしながら見ていたのですが、それは少数派だったようです。
そして続編である「Newジャングル」では、まるで「太陽にほえろ!」であるかのように新人俳優(江口洋介)を主役にしたヒーロー型刑事ドラマを展開します。アンチテーゼであったはずの「太陽にほえろ!」に自ら同化してしまった姿を、私は直視することができませんでした。
敢えて救いがあると言えば、強く売り出した江口洋介が、その後実力派の大物俳優として大成した事でしょうか。
「ジャングル」が支持されなかった原因
評論を書く気はありませんが、敢えて言えば、金曜8時の「太陽にほえろ!」枠は、私自身も小学生のころから見ていたように、「子供の時間」だったのでしょう。
せめて9時からであれば、さらに10時からであれば、分別のある大人の目に留まったことでしょう。
1980年代でも、比較的リアル指向であった「刑事物語'85」は9時からでしたし、「特捜最前線」は10時からでした。
そして、時間の経過とともに視聴者の目も成長します。5年後であれば、こういうリアル指向も受け入れられたのではないかと思います。
さらに、21世紀の今、「ジャングル」だけはVIDEOにもDVDにもならず、その作品を見ることができません。当時見なかった人に、或いは見たけれどその価値が分からなかった人に、そして当時まだ生まれていなかった人に、この作品を見る機会を与えていただき、改めてパイオニアとしての評価を与えていただきたいと願ってやみません。
「私の引き出し」にもどる
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