バス車両史の研究書
バス車両史と言ってもピンからキリまであり、バスに関して書かれた書籍には少なからずそういう側面はあると思います。その中でも、総括的な解説書、メーカー別の解説書、事業者別の解説書など様々なアプローチによる本が出るようになりました。ここでは、そういった書籍の中でも特にお勧めのものをご紹介します。
自動車工業振興会「自動車ガイドブック」
バス専門の本が出る1980年代までは、バスの最新モデルとその型式を一般人が知ることのできる唯一の本でした。東京モーターショーに合わせて、1954年から毎年1回発行されています。初期の頃は乗用車の車種が少なく、相対的にバスの占める比率は高かったようです。
メーカーの公式カタログにある写真(初期にはイラスト)と諸元表が掲載されていますが、代表車種であり全車種網羅ではありません。それでも、素人がメーカーカタログを入手するのが難しいバスについて研究するには、これが唯一の書籍だったはずです。
九段書房「日本のバス年鑑」
モータービークル増刊の「日本のバス」は1980年代から不定期で発刊されており、メインとなる新車カタログは、その時期にどんなバスが作られていたのかが分かる貴重な資料となっています。1986年代から隔年発行がほぼ定着したようですが、1990年代に入ると読み物部分が減り、カタログ的な要素に特化されてきているようです。写真の1991〜92年版では、バスと関係ないワンボックス車のカタログでページを埋めています。
ポルト出版「年鑑バスラマ」
1994年から、バスラマが毎年年鑑本を発行するようになりました。基本的にはモータービークル増刊の精神を引き継いでおり、その年の新車をすべて網羅した新車カタログから、カラーグラフ、歴史編、資料編など充実した内容です。スタートから20年近くなり、この年鑑を見ただけでもここしばらくのバスの進化が判るようになって来ました。鈴木文彦(1999)「日本のバス年代記」
日本にバスが上陸してから現在に至るまでの車両の変遷を、その時代背景とともに記録した300ページを超える書籍。著者自身のほか、バスメーカーや事業者からの貴重な写真も数多く掲載されています。ある程度全体の流れを把握していれば、バスの進化の詳細を知るための辞典のように活用することが出来る書籍です。
なお、表紙の写真の中に、岩手県南バスのボンネットバス、岩手東部乗合自動車のキャブオーバーバス、岩手県北バスのボンネットバスの写真が混ざっています。
ポルト出版(2001)ヤナセのバスボデー
かつてバスボディを製造していたヤナセボデーの歴史と車両写真をまとめた冊子。ボディメーカーからのバス車両史のアプローチは、バスラマ別冊としてその後もいくつか出版されますが、その初期のもの。輸入車ディーラーとしてのヤナセの名は知っていましたが、私はヤナセがバスボディを製造していた事実をこの本を見るまで知りませんでした。流線型ともいえる流麗なスタイルのヤナセのバスボディをこの目で見てみたい気がします。
ポルト出版(2002)金沢ボデーのアルバム
1975年に日野車体工業に合併されて姿を消した金産自工の歴史を、その車両車体とともに辿った書籍。巻末には1946〜1975年の間、金産で製造したバスの詳細な一覧表があります。鉄道車両ならいざ知らず、バス車両でこのような一覧表が市場に出るのは画期的なことです。
ポルト出版(2003)富士重工業のバス達
2003年3月末で富士重工業がバス車体製造から撤退したのを記念して出版された239ページに及ぶ記録集。終戦直後から2003年まで富士重工が製造した貴重な車両写真が並んでいます。これほど馴染み深いバスをたくさん製造してきたメーカーがバス製造をやめてしまったことに対して、改めて失ったものの大きさを感じさせる書籍です。
なお,一般的に資料が少ない各シャーシメーカーの初期リアエンジンバスを理解する手がかりとしても活用させていただいています。
BJエディターズ(2006)山梨交通60年史
社史を販売するという新しいコンセプトで、「BJハンドブックス」をもう1歩進化させた感じの本。1事業者の過去と現在をまとめるという手法は、鉄道趣味で言えば「鉄道ピクトリアル」の増刊号に相当するといったところでしょうか。しかし残念ながら、「川中島バス80年史」とこの「山梨交通60年史」に続くものは、今のところまだないようです。
ポルト出版(2010)西工の軌跡
日本のバスメーカーの激しい再編の間で、急展開の事業停止を迎えた西日本車体工業の社史ともいえる書籍。2010年8月末の事業停止に合わせるかのように出版されました。西工といえば、事業者直営のボディメーカーとして、エンドユーザーの志向をよく捉えかつ個性的な製品作りで定評がありました。かつては東日本ではほとんど馴染みのないボディでしたが、この本を見ると、大手メーカーに負けないチャレンジをしてきたことが分かります。