大迫営業所の終焉
稗貫郡大迫町(現花巻市大迫町)の中心地にある岩手県交通の大迫営業所。古くからの宿場町によくあるバスの車庫の風情をよく残している、ある意味、“昭和な”営業所です。
この営業所が、2018年12月をもって営業を終了し、その建物も取り壊されるのだということで、その年の10月、最後の姿を見るため、わんこ様の御案内で現地を訪ねました。
大迫バスターミナル全景
撮影:大迫バスターミナル(2018.10.2)
岩手県交通大迫営業所の最後の姿。
「大迫バスターミナル」と言う名前がつきましたが、建物や上屋の姿は昔とほとんど変わりません。
モルタル造りの2階建ての建物は、1階にバス待合所や事務室などがあり、2階には乗務員などの宿泊施設などがあります。上屋の下はバスの発着所で、奥の方には工場棟が見えます。
バス発着を伴う営業所には、会社を問わず、このような造りが多く見られたものです。
“その頃”の大迫営業所
撮影:大迫営業所(1986.5.2)
こちらは1986年に撮影した大迫営業所です。
上屋の上に、花巻バス時代の大きな路線図を掲げていました。花巻バスカラーのバスが停車中で、それ以外は21世紀の姿とほとんど変わっていないように見えます。
建物の端に「立喰そば」の看板が出ており、その隣にあるのはUCCコーヒーの自動販売機です。
最後まで残った路線図
屋根上の看板はなくなっていましたが、屋根の下に何やら古そうな路線図看板がありました。
いくつか修正のシールが貼ってありますが、まだ東北新幹線はなく、もちろん新花巻駅もありません。
その代わり、「花巻バスセンター」「河南(営)」「二枚橋駅前」「東和(営)」などの懐かしい停留所名が残っています。「北上(営)」も北上駅前にあります。
少なくとも1980年より前のものでしょう。
大迫営業所の表情
撮影:大迫バスターミナル(2018.10.2)
建物の脇がホームになっており、バスはここでドアを開けて発車を待ちます。
今、大迫1系統の「県立中央病院行」が待機中。新幹線新花巻駅を経由して花巻市中心部に向かう路線です。
飲み物の自販機やベンダー提供のベンチ、宅配便の幟が並ぶ陰に、公衆電話を示す釣り看板が遠慮がちに顔を見せています。
バス発車
撮影:大迫バスターミナル(2018.10.2)
発車時刻になるとバスが一斉に発車してゆきます。
鉄道の駅と違い、列車の接続があるわけではありませんが、学校や病院の時間に合わせて、大体同じような時刻設定になるようです。
青いバスと緑のバスが仲良く走る光景が、既に20年近く続いています。
待合室の中
撮影:大迫バスターミナル(2018.10.2)
営業所建物の道路側の端には待合室があります。
営業所の事務室との境には、出札窓口があります。その上にはバスの時刻表が貼ってあり、右側には立ち食いそばの暖簾がかかります。
多分、だいぶ昔から変わらない様式だと思われる縦書きの時刻にも味があります。
今日は残念ながら、おそば屋さんはお休みでした。
工場
撮影:大迫バスターミナル(2018.10.2)
営業所の奥に位置する工場棟です。
鉄骨造りでトタン屋根の建物は、これも古いバス営業所ではよく見かける造りです。
接触対策でしょうか、支柱の台座部分にタイヤが付けられています。現場の知恵です。
工場の中にも、昔からの遺物がたくさんあります。
壁に掛かっていた黒板には、「花巻バス」の文字がありました。
工場裏の仲間たち今昔
1981年
撮影:板橋不二男様(大迫営業所 1981)
“その頃”1986年
撮影:大迫営業所(1986.9.23)
大迫営業所の工場裏には、車両の待機スペースがあります。
1981年の写真は、営業所側から見て左側のスペースにたたずむ車両。花巻バスカラーが主体で、ツーマン車も健在。系統幕には花巻バス時代の「@」の系統番号が見えます。県交通カラーの車両は前ドアの新車で、「花巻バスセンター行」です。
1986年の写真は、その向かい側にたたずむ車両。中型車が多数導入されたほか、花巻バス出身の車両も県交通カラーに塗り替えられ、カラーデザインはようやく統一されました。方向幕に「迫4」「迫9」など1985年に導入された系統番号が書かれています。
1981年
撮影:板橋不二男様(大迫営業所 1981)
2018年
撮影:大迫バスターミナル(2018.10.2)
今度は、営業所側から見て右側の車両を、隣接する敷地から見上げたアングルです。
1981年の写真は、花巻電鉄カラーや岩手中央バスカラーなども混じって、カラフルな時代であることが分かります。大迫はもともとは花巻バスの営業所でしたが、隣接する営業所から、出自を異にする車両が寄り集まっていたようです。
そして、2018年の写真では、同じ場所を、工場の建物から見上げてみました。県交通カラーと国際興業カラーの後ろ姿です。カラーデザインの統一は、なかなか図れません。
大迫の町並み
1981年
撮影:板橋不二男様(大迫町 1981)
2018年
撮影:花巻市大迫(2018.10.2)
大迫営業所前の遠野街道の今昔です。
1981年時点では、まだ国道396号線でしたので、それなりに交通量も多かったのでしょう。また街の賑いもあり、買い物客が止めた車をよけながら、「大迫営業所行」の花巻バスカラーのバスがやってきました。
同じ場所の2018年は、大迫バイパスに車の流れは移り、旧道沿線は店の数も減りました。それでも左側の「スーパーやまと」は健在で、大きなテントを張り替えて営業中。やはり店の前には車が止まっています。右側の酒屋さんはなくなりましたが、その少し先の別の酒屋さんが「エーデルワイン」の看板を出しています。県交通カラーの竪沢線が戻ってきました。
大迫営業所の終焉
撮影:ケイ様(大迫バスターミナル 2018.12.29)
大迫営業所は、終戦後に花巻バスが分離独立して間もない1950年に開設された営業所だそうです。
ただし、この建物がその時のものかと言うと、そうではないようです。
当初は、現在の建物があるスペースに、建物とバス通路があったようです。そして、1964年に現在の建物が建てられ、隣接の敷地にバス通路と上屋を新設したそうです。
約55年間、バスの発着を見守った最後の日。手作りのヘッドマークを付けたバスが、最後の運行に向かいます。
手作りイベント「大迫バスターミナル感謝祭」が開かれました
御案内いただいたわんこ様が中心となって、2018年12月23日に「岩手県交通&大迫バスターミナル感謝祭」が開催されました。私は遠方のため参加できませんでしたが、記録画像を頂きましたので、ご紹介します。
(イベント画像の撮影:わんこ様、YKT様、吉永久保様)
花巻バスの復刻カラー
よく見ると分かるように、花巻バスに化けたのは前面だけですが、何よりもあの古ぼけた感じのカラーが上手に再現されていることに、驚かされます。窓下には、花巻バスで主力だった日野のウィングマークも取り付けられました。方向幕の両脇には、クリーム色の“ヒゲ”もついています。
ラッピングバスに使われるマーキングフィルムを使ったのかと思いきや、画用紙に色付けをしてラミネートしたものを貼り付け、カラーガムテで微修正したものだそうです。車体色が透けないように、裏面は黒く着色してあるという「見えない知恵」も。
そして、このイベントの功労者が作品の花巻バスの前でご満悦の写真も載せておきます。車掌さんの扮装をしたわんこ様です。
車両をよく見てみると、並びの写真の所にはなかったフロントガラスのセンターピラーや、ガラスの内側のワンマン表示板も追加されています。芸が細かいです。
ツーマンバスを想起させる小物たち
本物っぽい地紋ですが、文字が「てつどう」ではなく「てつだう」になっていて、名刺用紙に印刷したのだとか。文字の配置もマルス券を模しています。参加者の皆さんも、見事騙されてしまったようです。
そしてこちらは参加者に配られた今日の行程表です。
使っているのは岩手県交通の「運転時間表」の実物。運行区間も時空を超えています。
13:40からはもぐもぐタイムだそうです。
もぐもぐタイム
大迫営業所の想い出話、岩手県交通のバスの話、久しぶりに会った同志の懐かし話、それぞれに盛り上がるひとときです。
この芋の子汁は、わんこ様が調理したもの。大迫営業所に併設されたそば屋さんの厨房を使って最後のご奉仕。食後のデザートも、わんこ様の自家製だそうです。
この後、営業所の待合室を使って、運転手さんやかつての従業員の方とのトーク、シンガーソングライターの吉永さんによる想い出の歌の披露などが行われ、趣向を凝らしたイベントは大成功に終わりました。
懐かしい花巻バスカラーを見たご近所の皆さんも、記念写真を撮りに来てくれたそうです。
楽しいイベントを作っていただいたみなさん、参加者の皆さん、ありがとうございます。大迫営業所は、こうして幕を閉じたのです。
その後の大迫バスターミナル
仲町市有地駐車場
撮影:都南村民様(2020.3.27)
撮影:都南村民様(2020.3.27)
大迫バスターミナルは、閉鎖後まもなく建物が取り壊され、営業所跡地は舗装されて市有地の無料駐車場になりました。
営業所建物があった辺りには、小ぢんまりした待合小屋が作られています。
お隣にある後藤商店は、そのままの姿で健在。こうしてみると、旧街道に面していて駐車場のない大迫地区の商店にとって、無料の駐車場は有難い存在になるのかも知れません。