再桜遇清水 二十年ぶりの再演 2004.4.23 W73 | ||||||||||||||
10日、四国琴平町の金丸座で公演中のこんぴら歌舞伎の第二部を見てきました。
再桜遇清水(さいかいざくらみそめのきよみず)のあらすじ ここに荏柄平太胤長(えがらのへいたたねなが)という男が登場する。この男、北条時政の娘桜姫に御執心なのだ。ところが桜姫は千葉之助清玄と深い仲。そこで胤長は千葉之助清玄を陥れて桜姫を横取りしようと、大藤内と示し合わせて奉献する刀のすり替えを画策する。 そこへ桜姫が、お供の山路や奴・磯平を伴って花見にやってくる。桜姫は、御剣の奉納のため現れた千葉之助清玄と、つかの間の逢瀬を楽しみたいと願う。 ちょうど通りかかったこの寺の僧清玄(せいげん)に、山路が「お姫様が奉献の儀式をご覧になれるよう計らってほしい」と頼みこんで、桜ヶ谷の清玄の庵室を借りることにする。桜姫は清玄(きよはる)に恋文を渡すが、清玄(きよはる)はこれをうっかり落としてしまう。それに気が付かぬまま、二人は桜ヶ谷の庵室へとしのんでいく。 その恋文を、桜姫に横恋慕している胤長が拾う。一方「薄縁の御剣」を盗んできた大藤内は、その場に置き忘れられていた千葉之助清玄の奴・浪平の刀とそれをすりかえる。 ところが浪平が忘れた自分の刀を取りにきて、「薄縁の御剣」をそれと知らぬまま持ち去る。 一方桜姫と千葉之助清玄は、密会しているところを大藤内に見つかり、引き立てられてくる。証拠の恋文を突きつけられて、もはや逃れられないと思ったそのとき、再びその場を寺僧・清玄(せいげん)が通りかかる。 山路はとっさに「その手紙の相手は千葉之助清玄(きよはる)様ではなくこの清玄様」と清玄(せいげん)を身代わりに立てる。 驚いたのは清玄だが、最前桜姫を一目見てその美しさに心を奪われていたこともあり、山路に拝み倒されて「不義の相手は自分だ」と認める。本当かどうか確かめようと、胤長は清玄が携えていた放鳥用の鳩を殺して、その血を飲むように強いる。 手ひどく痛めつけられた清玄は、とうとうその血を飲んでしまう。 清玄は破戒僧の汚名を着せられて、衣を奪われ寺を追放される。桜姫は「これでもう一生嫁にいけない」と言われたのを悲観して、新清水の舞台から傘を手にして飛び降りる。 舞台の下で気を失っている桜姫を見つけたのは、寺を追われた清玄だった。介抱しようと姫に口移しで水を飲ませた清玄は、数珠を切って自ら破戒し、姫を自分のものにしようとする。そこへ千葉之助清玄が現れ、姫を助ける。破戒僧清玄は傘で打ちかかるが、逆に磯平に打ちすえられ滝壷に落ちてしまう。 桜姫と千葉之助清玄が立ち去った後、滝壺から這い上がった清玄はひきちぎった桜姫の片袖を抱きしめ、いずこへともなく立ち去る。 二幕目 雪の下桂庵宿の場 そこへ桜姫がしのんでいる大きな葛篭をしょった磯平が訪ねてくる。桜姫と清玄(きよはる)は再会を喜びあうが、その後から大藤内がやってきたので急いで隠れる。大藤内は浪平の持つ本物の「薄縁の御剣」を手に入れる下心で、浪平を召抱えようと持ちかける。 意外なことに浪平はそれを承知し、「後刻千葉之助と桜姫を引き渡すので、鶏の声を合図に踏み込んでくれ」と言う。それを聞いた磯平が二人を逃がそうとするのを、大藤内が見つけ捕らえようとする。 これを浪平が後ろから刺し殺す。実は大藤内の家来になるふりをして、二人を逃がす時間をかせごうとしていたのだ。 ところが不思議なことに大藤内の血が浪平の刀に付くと、鶏がいっせいに鳴き出す。「薄縁の御剣に血潮を注ぐと鶏が鳴く」と言い伝えられていたので、この刀こそ紛失した御剣とわかる。千葉之助は御剣を取り戻し、桜姫は再び葛篭へと隠れる。 鶏の声を聞いて駆けつけたのは大藤内の手下たち。暗闇の中で探り合ううちに、磯平は桜姫の入っている葛篭と誤って、大藤内の死体の入った葛篭を背負い、敵方の灘平は桜姫の入った葛篭を背負って逃走する。 大詰め 六浦庵室の場 そこへ大きな葛篭を背負った惣兵衛が通りかかり、この葛篭を一時ここへ預けて磯平を呼びに行く。清玄がこの葛篭を開けてみると、なんと中には恋しい桜姫が入っている。 清玄は今度こそ思いを遂げようと桜姫に迫るが、磯平が駆けつけ、清玄を切り殺す。 桜姫と磯平がこの場を去ろうとすると、にわかに暗闇になり、磯平は不思議な力に引き戻され、池の中へと引きずり込まれる。清玄はいまや亡霊となって、桜姫を我が物にしようと襲い掛かる。 絶体絶命と言うとき、千葉之助清玄が「薄縁の御剣」を手に現れる。御剣の霊験のおかげで、桜姫は危ういところを助けられたのだ。
香川県琴平町に現存する江戸時代の芝居小屋、金丸座で1985年に吉右衛門、藤十郎らによって始められた「こんぴら歌舞伎」も今年で20年目を迎え、第二十回記念として、第一回に演じられた松貫四こと吉右衛門作、「再桜遇清水」が再演されました。それに加え今まで客席の真ん中にあって、視界の妨げになっていた4本の鉄柱を除去して、屋根裏を補強したそうです。 その工事の際見つかった昔の仕掛けの痕跡から、客席の上にも舞台の上と同じ竹を組んだ「ぶどう棚」と、花道で宙乗りするのに使う「かけすじ」が復活され、それがどのように使われるかも今回の楽しみの一つでしたが、残念ながらぶどう棚のほうは目立っては使われることなく終わりました。 「ぶどう棚を使って、客席に桜の花びらを降らせる」という話を聞いていたので、不思議に思ってお茶子さんに尋ねてみたところ、最初はその予定だったものの、中止になったと言う話。「再桜遇清水」がどちらの部も最初の出し物のため、やはり掃除の問題があったのではと思います。次回にはぜひぶどう棚が活躍するのをみてみたいものです。 この作品は「清玄桜姫物」といわれるジャンルのお芝居で、1793年に市村座で初演された「遇曽我中村」(さいかいそがなかむら)を元に、20年前松貫四こと吉右衛門が、先年焼失した中座と金丸座での上演のため新しく脚本を書いたものです。 さて、幕開きからしばらくは、全く知らない話でもあり、登場人物の背景説明が続くので辛抱がいりましたが、僧の清玄(せいげん)と桜姫の恋人の清玄(きよはる)が同じ名前だとわかってからは、俄然面白くなってきます。 吉右衛門が演ずる、最初は純粋無垢そのもののお坊さんだった清玄、桜姫にひとめぼれしたとはいえ、無理やり恋人の身代わりにされ、ひどい目にあったすえ転落の一途をたどるのがなんだかとても哀れに思えました。 魁春のおとなしげに見えて大胆で情熱的な桜姫はちょっと八重垣姫を思わせます。 大詰めの庵室の場ではおそらく金丸座にしか残っていないであろうと思われる「空井戸」が使われるのを初めて見ました。空井戸とは花道の付け際、上手客席側につくられたおよそ一メートル四方の切り穴です。 破戒坊主となった清玄は通りがかりの親切な女性を殺し、金を奪ってその死体を池にみたてたこの空井戸に投げ込みます。 清玄が奴・磯平に殺されると館内は真っ暗になります。金丸座では雨戸を人力で閉めて真っ暗な状態をつくるのですが、いかにも昔らしい雰囲気が出て良いものです。焼酎火の人魂が出てくるのも歌舞伎座で見るよりずっと面白く感じます。 殺された清玄は、顔は藍隈、頭は獅子のようなしゃぐまという恐ろしい亡霊となって桜姫につきまといます。ここで真っ暗闇の中を本花道と、常設されている仮花道の両方から亡者が出てきて、時々明かりで自分の顔を薄気味悪く下から照らすので、客席から「キャー!」と言う悲鳴があがっていました。 大蛇が出てきて木にからみついたり、その木の高いところに清玄の亡霊がぬっと顔を出したりと、オドロオドロしいというよりは楽しい趣向があった後、柝の頭で場内にパッと明りがついて終わります。 奴磯平が花道を引っ込んだ後、悪者方の奴灘平が続いて同じ演技をする「鸚鵡」で入っていった時、下座音楽が「こんぴら船ふね」を陽気に演奏していました。磯平の玉太郎がきりっとしていてなかなか格好良かったです。 ところで「再桜遇清水」には2,3箇所、ちょっと不自然に思えるところがありました。桜姫が恋文が清玄(きよはる)に手渡されるのを見ていながら、すぐその後で本人に会うところ。敵方の灘平が持ち去ったはずの桜姫が入った葛篭を、次の場では味方でしかも年寄りの惣兵衛が背負っているところ。その惣兵衛が見知らぬ庵室にその葛篭を預けるところ。歌舞伎は筋なんかどうでも良いとはいうものの、やはりひっかかります。 魁春の「羽衣」は能からとった舞踊ですが、羽衣は透き通ったピンク色で、玉虫色に光るひらひらした鱗状の飾りが全体についたものでした。それが天女姿になったとき、背中に小さな天使の羽根のようになってついていたのが、なんだかかわいらしかったです。色も白に変わっていました。梅玉の漁師は似合っていて、品と安定感がありました。 お終いに今回復活されたかけすじを使った宙乗りがありました。どういう仕掛けかと思ってみていましたら、魁春が花道七三に行くと天井からワイヤーとT字型の操り人形の操作盤のような器具が降りてきます。黒衣が出てきて魁春の両脇と長く引いた裾に二箇所、合計4箇所にワイヤーを取り付けると、ゆっくりと上がっていくのですが、たいして高くは上がらず3〜5メートルくらいだったでしょうか。 魁春は「自分は高所恐怖症だ」とインタビューで言っていますが、体をほとんど水平にしてフワフワと飛んでいく姿はなかなか優雅でした。 上がったり下がったりしながら花道上を飛んでいって、最後はいつもの揚幕に入るのですが、T字状の器具があるので完全には入りきれず、揚幕から黒い幕が両側からさっと出てきて魁春を包み込んでいました。 このかけすじは二本使うこともでき、花道上空で二人が立ち廻りすることも可能なそうで、そのうちそういうことも実現するのではと次回への期待がふくらみます。 今回のこんぴら歌舞伎、昔のお芝居を彷彿とさせるような泥臭い味わいが、なんとも楽しく感じました。 |
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この日の大向こう | ||||||||||||||
金丸座の入り口に着くと同時に、寿会の田中さんにばったりお会いしました。つい4日前、歌舞伎座の三階でお目にかかったばっかりだったので、びっくりしましたが、あの後こちらへいらして、13日までずっといる予定だとおっしゃっていました。他にも数人の方が声を掛けていらしたようでした。 席が花道側の桟敷(金丸座では東桟敷)だったのですが、柱が邪魔になって見にくいことこの上なし。舞台の音は聞こえるんですが、大向うの掛け声はくぐもってよく聞こえません。 江戸時代は桟敷が一番の上席だったという話ですが、とても信じられませんでした。 |
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