葛の葉 狐の子別れ  2004.11.19 

10日、歌舞伎座昼の部を見てきました。

主な配役
葛の葉
葛の葉姫
鴈治郎
安部保名 翫雀
信田庄司 左團次
柵(しがらみ) 東蔵

「芦屋道満大内鑑」―「葛の葉」のあらすじ
これまで
安部保名は、信田庄司の娘・榊の前と許婚の間であった。しかし悪人の計略によって榊の前は自害。その悲しみのために保名は正気を失ってさまよい歩くが、榊の前にそっくりの葛の葉姫にであい、正気に戻る。葛の葉姫は実は榊の前の妹だった。保名は葛の葉姫を妻にしようとするが、そこへ姫に横恋慕している、石川悪右衛門が白狐を追って現れる。

葛の葉姫を逃がした後で保名は白狐を救ってやるが、悪右衛門にさんざんにぶちのめされてしまう。死のうと思った保名の前に再び葛の葉姫が現れて、二人は夫婦となって安部野へ隠れ住む。そして二人の間に阿部童子が生まれる。

安部野機屋の場
安部野奥座敷の場
信田の森道行の場
あれから6年の月日がたち、安部野の保名の家では葛の葉が機を織っている。そこへ訪ねてきたのは、信田庄司夫婦と娘の葛の葉姫。夫婦は葛の葉姫を保名の妻にするためにやってきたのだ。ところが庄司は家の窓から葛の葉姫に瓜二つの女が顔をだすのでびっくりする。

そこへ保名が帰ってきて、庄司に対して勝手に葛の葉姫と夫婦になり、子供をもってしまったことを謝る。庄司はまず娘を保名に会わせてから、家の中をのぞくように言う。家の中では葛の葉が機を織っているのを見て、保名は驚く。

庄司親子を物置に隠した保名は葛の葉に、庄司夫妻が夕方ここを訪ねてくることを話す。

それを聞いた葛の葉は子供の寝顔をみながら物思いにふける。実は葛の葉は、保名に助けられた白狐だったのだ。その恩がえしに葛の葉姫の姿となって、死のうと思いつめた保名を介抱したのだった。

しかし庄司夫婦がやってくることを聞いて、これ以上ここにはいられないと思った葛の葉は、子供をあやしながら、「恋しくば尋ねきてみよいづみなる信田の森のうらみ葛の葉」と歌を書き残して、別れを惜しみながら信田の森へ帰ってゆく。

たとえ狐が妻でも少しもかまわないと思う保名は、子供を背負い信田の森へ葛の葉を追っていく。

元の狐の姿になった葛の葉は犬の声におびえながら、わが子を懐かしんで泣き泣き古巣へ帰っていく。

「葛の葉」は1734年竹田出雲作の浄瑠璃「芦屋道満大内鑑」(あしやどうまんおおうちかがみ)全五段の内四段目。安部保名と白狐・葛の葉の間に生まれた安部童子は、後に陰陽師・安部清明となったという伝説「信太づま」に基づく話ということです。

二役早替わりした鴈治郎は、葛の葉から姫へ、又葛の葉に替わるところまでは普通でしたが、もう一度姫になるところが非常に早くて、ちょっと前に見たのは吹き替えだったのかしらと思うほどでした。曲書きでは下から書いたり、左手で逆様に書いたり、最後は口に筆を咥えて書いたりするところを見せました。

道行ですっぽんから登場した葛の葉は人間の姿ですが、顔だけ狐の口のお面をつけています。以前福助が演じた時、あっという間にそのお面がどこかへ消えてしまったのが手品のようでとても不思議でした。

それで今度はお面の行方をたしかめようと眼をこらしていましたら、なんとゴムでとめてあったお面は二つに割れて黒塗りの笠の内部にはりついていました。そのためこの笠は普通よりも深めらしく、脱いだ時に後見が普通サイズのと取り替えていました。いつだれが考えついたものか、面白い仕掛けだなと思います。

道行への舞台転換は今回居所替わりで、歌を書いた障子のある家がまず後ろに引かれてから、前へゆっくりと倒れると、ススキの野原になり、瑠璃燈と呼ばれる蝋燭の形の明かりが上から二段にずらっと降りてくる景色には、独特の面白さがあります。

鴈治郎の葛の葉には狐であるために幸せな家庭を捨てなくてはならない深い悲しみが感じられましたが、いつもながら息を吸う音があれほど聞こえなければ、もっとお芝居に集中できるのにと、思ってしまいます。

岡本綺堂作の新歌舞伎「箙の梅」は初めて見る演目でしたが、梅玉の梶原源太景季がすっきりとしていて若者らしく、思いのほか引きこまれるお芝居でした。走り抜ける源太の箙からはらはらと紅梅の花びらが舞い落ちるのが、とても風流でした。

眠くなるだろうと思っていた「関の扉」は話の運びがとてもわかりやすく、見ごたえがありました。吉右衛門の関兵衛がおおらかで吉右衛門の芸風とよく合っていて、魁春も小野小町姫にぴったりでした。福助の墨染も凄みのある美しさで、富十郎の宗貞もこの役がくっきりと浮かび上がる存在感がありました。

小町姫が花道から登場する時金色の蓑を着け、透けたグリーンの市女笠を持っていましたが、雪景色に合わないなぁと思いました。これは前の幕の「葛の葉」の道行きで黒塗りの笠を使うので、同じものを避けるためではないかと思います。

最後に墨染が二段に上がって幕切れになるのも「葛の葉」の幕切れと似ていて、この二つを続けて出すのはあまり芸がないように思いました。

「お祭り」では片岡仁左衛門の孫、千之助が初舞台を踏みました。千之助は花道をカラミを伴って登場し、七三できっちりと見得をきめ、その後も短いながらいくつかの出番があり、愛之助を相手に立廻りをしたり、獅子舞のお腹の中に入って登場したりととても4歳とは思えないほどの大活躍でした。

口上の台詞も良く通る澄んだ声でしっかりと言え、度胸も満点。にこっと笑うと目じりの下がる愛嬌のある笑顔が可愛らしくて、将来が楽しみな千之助でした。花道を引っ込む時、七三で仁左衛門におんぶされて引っ込んでいきました。

千之助にオーパと呼ばれている仁左衛門もかえって若がえったような感じでしたし、孝太郎の芸者も艶っぽくて二人のコンビも良かったです。


この日の大向こう

「お祭り」は、今回千之助君の初舞台のための特別な演出でした。

いつもだと笠を背中にかついだ鳶頭がぐるっとまわってくるところで「まってました!」と声が掛かり、それに応えて「待っていたとはありがてえ!」と応えますが、ここで花道から孝太郎さんの芸者が登場するのでちょっと勝手が違いました。

ほとんどの方がそれをご存知のようで、ここでは声が掛からなかったのです。お一人「まってやした!」と掛けられた方がいらしたけれど、何事も起こらなかったのは少々お気の毒でした。

引っ込みには「豆松嶋」と沢山の声が掛かって千之助君の門出を祝っていました。大向こうの会の方は3人いらしていたそうです。

トップページ 目次 掲示板

壁紙&ライうン:「和風素材&歌舞伎It's just so so」