夢の仲蔵千本桜 江戸時代の芝居風景 2003.5.25

23日、新橋演舞場出上演されている「夢の仲蔵千本桜」に行ってきました。

主な配役
仲蔵 幸四郎
此蔵(このぞう) 染五郎
帳元 芦燕
森田勘弥 友右衛門
大吉 高麗蔵
里好 秀太郎

「夢の仲蔵千本桜」のあらすじ
第一部
時は安永11年、ここは江戸の芝居小屋、森田座。11月の顔見世は中村仲蔵を座頭に「義経千本桜」で、予定より3日遅れて今日が初日なのだが、出資してくれる金主がまだ集まらず、役者衆に給金が払えないので皆がさわいでいる。

仲蔵は大部屋役者から座頭に上り詰めたのだが、役者仲間の中には妬みや反感を持つ者が多い。

そこへ座元の森田勘弥が金の工面がついたと戻ってきて、皆一安心。ところが大道具方が「舞台の材木に切れ目が入れられていた」とやってくる。何者かが芝居を妨害しようと画策しているのだ。

そんな折、「四の切」の忠信を演じた四郎十郎が仲蔵に今日の出来をこっぴどくしかられた後、奈落で首をつっているのが発見され、皆疑心暗鬼にかれらる。「四の切」の忠信は大吉が替わる事になったが、次の日今度は大吉が何者かに階段から突き落とされる。

腰を痛めて舞台を勤める事ができなくなった大吉の替わりにと、仲蔵の可愛がっている弟子の此蔵(このぞう)が 自らその役を志願する。此蔵がもししくじれば仲蔵は責任をとってやめなくてはならなくなるのだが、此蔵の力量を認めている仲蔵はそれを許す。

此蔵は見事期待にこたえて立派に代役を務める。

第二部
此蔵の忠信の評判が高まり、森田座は連日大入り満員。ところが「大吉を突き落としたのは此蔵ではないか」と噂されているのを知った此蔵は、二つの事件についてあれこれ聞きまわって調べた結果、帳元の半兵衛に目をつける。しかし仲蔵は「芝居に集中するように」と意見する。

そこへ階段から突き落とされた大吉と師匠の團蔵が「明日から又大吉を『四の切』に出す」と挨拶にくる。仲蔵はその場で大吉と此蔵の二人に「網打ち」を踊らせて見ると、力の差は歴然。團蔵は大吉を引き下がらせる。

此蔵が「道行」の出でスッポンの下に待機していると、そこへ大吉が現れる。此蔵が「階段から突き落とされたと言うのは狂言だろう」と問い詰めると、大吉はそれを認め「帳元の半兵衛がこの件の黒幕だ」と話す。役者たちの多くが半兵衛から大金を借りていて操られていたのだ。

今度は此蔵に金を貸せと迫る大吉。しまいには剃刀を出して向かってきたので、取り押さえると「仲蔵はお前の親の敵だろう」と言い出す。その事を心の奥に秘めてきた此蔵は逆上して大吉を殺してしまう。ちょうどその時舞台では「すし屋」で権太に扮した仲蔵が、父親に刺されて切穴から奈落へ降りてくる。

しばらく後、奈落では帳元の半兵衛が手下の五郎と悪事の相談。ふとそこにある道具が気になった半兵衛が調べてみるとそこには大吉の死体が押し込まれていた。

第三部
大吉が殺された件で役人が小屋の中を調べまわっている。「仲蔵は少々気が触れている」と楽屋で言ふらしている此蔵を仲蔵は自分の部屋に呼ぶ。「なぜ大吉を殺した」と問う仲蔵。切り穴から奈落に降りた時、仲蔵は現場を目撃してしまったのだ。

実は 此蔵の父親は仲蔵と同じ大部屋役者で、ある時定九郎をやる事になって、仲蔵の扮装を使わせてくれるよう頼んだが、断られた。仕方なく前の山賊姿で舞台に立ったが、お客に笑われ、物をぶっつけられて江戸を追われた。そして失意のうちに死んだのだと此蔵は話す。

そこへ役人が此蔵を大吉殺しの下手人として捕らえにくる。此蔵は「一言親方と話をさせてくれ」と二人だけにしてもらうが、仲蔵がちょっと目を離した隙に、此蔵は自分の腹を刺す。苦しい息の下から真実を語る此蔵。

仲蔵は此蔵にとって親の敵。しかしその芸にほれ込んでしまった此蔵には、どうしても仲蔵を憎む事は出来なかったのだ。

そこへ「大物浦」の出番を付き人が知らせにくる。断末魔の此蔵を後に残して、仲蔵は知盛の最期、大碇を担いで入水する場面を演じるために舞台に立つのだった。

松本幸四郎の率いる梨園座、「夢の仲蔵」の第三作目、齊藤雅文作「夢の仲蔵千本桜」。

「今は民族伝統芸能になっている歌舞伎も、出来た時は現代演劇だったのだから、まず『現代演劇としての歌舞伎』をめざし、いずれは本当の大歌舞伎になって欲しい」と幸四郎又の名を作者九代琴松(くだいきんしょう)は書いています。

前二作は残念ながら見ていないのですが今回の舞台、珍しい江戸時代の芝居小屋の楽屋風景、当時の座元や座頭の苦労、役者同士のいきさつや当時の風俗などが生き生きと描かれていて、面白いお芝居でした。

それに比べて劇中劇の「義経千本桜」は多分今とほとんど同じだと思うと、受け継がれてきた長い伝統というものを感じます。しかし「すし屋」で父親に刺された権太が一時切穴から奈落に降りると言うことは今はしませんが、昔は実際にやったのでしょうか。

「義経千本桜」の名場面が次々と登場するので、それが楽しいです。劇中劇と現実の芝居のつながりがとても上手いなと思ったのは、此蔵が大吉を殺した直後、舞台上手に造られたスッポンから狐忠信として花道に上がっていく様子を奈落から見せ、そのまま劇中劇の場面で本物のスッポンから登場するところです。実際「すし屋」の次は「道行初音旅」なので、実に鮮やかだなと感心しました。

染五郎演じる「四の切」の狐忠信は、猿之助がやる宙乗りとはだいぶ違って、まず舞台の下手から上手へと低い宙乗りをして、ところどころ着地しながら最後に上手へと消えます。と思った瞬間、いつもの花道の上を飛ぶ宙乗りで登場。

途中で気がつかないうちに吹き替えの役者に替わっていたわけで、ここは大うけでした。昔の「四の切」にはこういうスタイルの宙乗りがあったのかも知れません。

「道行初音旅」の染五郎、演じたのはほんの一部ですが、本当の舞台をみてみたいなと思わせるような凛とした忠信でした。「四の切」の狐忠信は、短い時間でワイヤーをつけなくてはならないせいか、背中に大きなフックが二つ見えていたのはちょっと興ざめでしたが、最期のカーテンコールの時も、大物浦の本来知盛が飛び込む海からピョンと半宙乗りで飛び出してきたのは、ファンへのサービス。

幸四郎は劇中劇では知盛を演じています。(権太は吹き替えでした)知盛が大碇を持ち上げる最期の姿が大きく立派でした。

今回は若い染五郎に花を持たせたという感じの演出でした。染五郎は近年「女殺油地獄」の与兵衛など、役にはまるととても生き生きと輝く役者なので、これからが楽しみです。幸四郎のこの新しいスタイルのお芝居への挑戦は充分に意義があると感じました。

それから新派の英太郎が女方の門四郎の役で出ていましたが、なかなか味のある役者だと思いました。里好の秀太郎も欠かせない存在です。

この日の大向う

2〜3人の方が声を掛けていらっしゃいました。
劇中劇の部分では中村仲蔵として「栄屋」、楽屋の部分には松本幸四郎として「高麗屋」と掛け分ける習慣があると聞いていたので注意していたのですが、この日は「栄屋」という屋号は聞かれませんでした。

楽屋の部分にも実在の人物、森田勘弥とか市川團蔵も出てきたり、此蔵というなにやら正体不明の人物も出てくるので混乱してしまうからかもしれません。しかし「栄屋」と言う掛け声、ちょっと聞いてみたかったなぁと残念に思いました。

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