東海道四谷怪談 勘太郎初役のお岩 2010.8.8 W275 | ||||||||||||
8日に新橋演舞場8月大歌舞伎第三部を見てきました。
「東海道四谷怪談」のあらすじはこちらです。 今月は海老蔵、勘太郎ら若手を主体とした3部制による公演。第三部の「四谷怪談」は勘太郎のお岩、海老蔵の伊右衛門共に初役で、新鮮な舞台でした。 勘太郎のお岩は勘三郎の良いところを受け継ぎ、その上お岩の哀れさを最後まで失わない優れた出来。伊藤家からもらった薬を毒とは知らずに感謝して飲む場面は残りの命がしずくとなってしたたるようで秀逸。ただ亡霊となった後はドロドロした怨念のかたまりという毒があまり感じられず、スピード感があって痛快な感じさえいだかせるお岩さんでした。^^;しかしながらどの場面でもお客に笑われるような芝居をしなかったのは立派でとても好感が持てました。 また戸板にうちつけられたお岩と小平の亡霊から暗闘の与茂七への穏亡堀の早替わり、大詰めのお岩から与茂七へ早替わりして花道から走りでてくる場面など、ほーっとため息がでるほど素早く見事で小気味よかったです。 海老蔵の伊右衛門は出てきたところ水もしたたる良い男という存在感充分で、色悪にはぴったりでしたが、幕開きで舅の四谷左門へ取り入ろうとするところは、「猫なで声」のつもりなのでしょうが、妙に浮ついた声が一挙に昔にフラッシュバックしたようでした。最近台詞廻しがおちついてきたと思っていましたが、自分で工夫しすぎる悪い癖が出てしまったようです。 悪を露呈するところでは、低くどすのきいた声を使おうとするあまり、低すぎて何を言っているのかはっきりしないという情況。隣家の悪だくみのせいで、顔が醜く変形してしまったお岩に対して、お岩の着ている物をはぎとったり、赤ん坊のための蚊帳を奪ったり、非道の限りを尽くす場面では、この男の異常な性格を表現しようとするあまりか、声も変質者の様に不気味にうわずっていましたが、暴力的な場面の気迫はすさまじいばかりでした。 蛇山庵室のお岩のたたりに錯乱する伊右衛門は良く、そして忠臣蔵の討入りを連想させる雪の積もる中で敵討ちにきた与茂七と死闘を演じる伊右衛門、これはスピード感がありました。最後に一太刀切られたところで、海老蔵、勘太郎二人の切口上となっていました。 猿弥の舞台番が蛇山庵室の前の幕間に登場し、世間話をしながら場面転換の騒音から観客の注意をそらしつつ、その間にカットされた大切な場、「深川三角屋敷の場」のあらすじを要領良くまた楽しく説明しました。このお芝居では昭和54年以来出ていない三角屋敷を、ぜひやって欲しいと願っています。 直助権兵衛の獅童は、最初の「藤八五文、奇妙」がまだ間がぎこちなく声もくもって聞こえましたが、左門を殺した伊右衛門と共謀してお岩お袖の姉妹を丸めこみ、お袖の仮の夫となった場面の指での手締めは格好になっていました。(この幕切れで伊右衛門が赤い舌を出したのには驚きました。)穏亡堀などではもっと暗く屈折した性根を見せて欲しかったと思います。 地獄宿主人・宅悦の市蔵は、人のよさそうな小悪党。怖がりようが真に迫っていました。宅悦女房の小山三がとても元気で幕開きの与茂七の勘太郎とのいきの合ったやりとりで楽しませてくれました。 |
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この日の大向こう | ||||||||||||
「伊右衛門浪宅」まではやはり皆さん、控えめに掛けておられましたが、勘太郎さんは「恨みはらさでおくものか」などの台詞廻しをかなり強調していたので、きまりどころで掛かる声も似合っていました。この場では小さな声でこまめにお掛けになる方もいらっしゃいましたが、掛けない方が現実感が出なくて、おどろおどろしい南北の世界にどっぷりと浸りきることができるのではないかと私は感じました。 蛇山庵室になるとたくさん声が掛かかっていました。しかしながら歌舞伎座と違って演舞場の三階席は狭いこともあり、声を掛ける方も皆さん心なしか遠慮がちにどの位が適当な声量なのか、探っていらっしゃるようにも感じました。会の大向こうさんは4人見えていたようです。柝の頭などで数回、一階花道そばの席からも声が掛かっていました。 |
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8月演舞場演目メモ | ||||||||||||
第一部 |
壁紙:まさん房 ライン:「和風素材&歌舞伎It's just so so」