新・三国志V完結編 タイムリーなテーマ 2003.3.26 | ||||||||||||||||||||||
24日、新橋演舞場で上演されているスーパー歌舞伎「新・三国志V完結編」を見てきました。
「新三国志」のあら筋 魏の帝が重病であることを知った姜維はこのチャンスに呉と協力して魏をせめようと企てる。呉の帝は自分も余命いくばくも無いと知っていて、蜀と協力して魏を攻めることに同意する。 魏の帝が没するとその八歳の息子が後を継ぐが、後見役は可愛がって育てた義母の静華と決まる。静華は政務の補佐役として仲達と、次に信頼の厚い謳凌を任命しようとする。しかし皇位を狙う野望がある仲達は、静華を脅迫して謳凌を魏から遠ざけさせる。 謳凌は呉と蜀の連合軍を打ち破り、その時蜀の武将関平から蜀の守り神である関羽ゆかりの「清龍偃月刀(せいりゅうえんげつとう)」を預かる。帰国した謳凌は仲達に「死ぬまで帝に忠誠を尽くす」ことを誓わせ、和の国の卑弥呼の娘、伊代が帰国するのを送っていく役目を引き受ける。謳凌が旅立つとすぐに仲達は自分は死んだ事にして計略をめぐらす。 第二幕 そこには劉備、関羽、張飛の眠る霊廟があったが、それは実は孔明が理想とした国をつくるために姜維が作った学問所だった。昔謳凌が可愛がっていた姜維の妹、春琴もそこで書生達の面倒をみていた。 春琴が弾く琴と「長相心(とこしえに君を愛す)」という曲は謳凌の心に染み入る。その歌は春琴の母から孔明に伝えられた歌で、辛い戦場で魏の兵士たちも良く歌っていた歌だった。 その頃魏の国では仲達が息子達を使って謀反を起こし、皇太后の静華を牢に閉じ込め、新帝を退位させる。そして蜀を滅ぼすために大規模な侵攻を開始する。和の国に渡ろうと港にたどり着いた謳凌はその知らせを聞き、桃源台の学問所や春琴たちをまもるため引き返す決心をする。 第三幕 春琴と書生たちは孔明の残した書物を荷車につんで逃げたがとうとう魏の軍に囲まれててしまう。そこへ追いついた謳凌は、「全てを焼き払い皆殺しにせよ!」と命令をうけている魏の軍のかつての仲間に、書物や書生達が未来の国の宝であることや、仲達一族が始めた戦いの愚かさを説くが聞き入れられない。 その時、学問所の長から謳凌へ託された「清龍偃月刀」がその霊力を発揮し力を振るうので、魏の軍は退却する。一方姜維は炎上する成都へ死を覚悟で進軍する。 ついに魏の軍に取り囲まれた謳凌は「清龍偃月刀」を下に置き、戦いをやめようと提案する。すると一本の矢が飛んできて謳凌の胸に突き刺さる。同時に火矢が放たれ書物は全て灰になってしまう。今にも殺されそうな書生達を救おうと謳凌は心から兵士たちに呼びかける。 その命を掛けた謳凌の説得に動かされた兵士達の口をついて出てきたのは「長相心」の歌。春琴と書生達の命は危ういところで助かったのだ。 三国の時代は終わり、仲達の孫司馬炎が新しい国「晋」の帝となって天下を統一する。春琴は学問所を再建することを誓い、書生達はそれぞれ自分の得意なことを世の中に役立てるため旅立っていく。それを関羽の霊が、空から暖かく見守っているのだった。 初めて見た「スーパー歌舞伎」でしたが、はっきりとしたメッセージを持っていることと、徹底したサービス精神には驚かされました。スーパー歌舞伎には歌舞伎と同じにツケ入りの見得もあるのですが、音楽は現代の音楽を使っています。大音響で流れている音楽がパタッと止んで、バタッ!バッタリ!とツケ打ちが入って全員揃って見得をし、すぐまた音楽がスタートするというやり方。 今回は「長相心(チャンシャンスー)とこしえにそなたを愛す」という主題歌があって、いたるところにテーマ曲としてバックに流れていました。 それと一番違うなと思ったのが花道にあるスッポンの使い方です。歌舞伎ではスッポンから出入りするのは妖怪とか動物とか、人間でないものに一応限られていますが、「新・三国志V」ではスッポンと本舞台のセリが交互に上がったり下がったりして人物が登場し、スムーズに場面転換を行いながらお芝居を進めます。 私は前々から猿之助劇団が歌舞伎座で芝居をする時の衣装の色が、物によっては色が現代的過ぎて浮いているんじゃないかと思っていたのですが、スーパー歌舞伎をみて色彩が非常に綺麗なのにはびっくりしました。とくに阿片屈の場の群集の衣装の色彩が秀逸で、色とりどりなのに全体にバランスがとれているのには感心しました。 笑三郎が演じる帝の母、青華の衣装は溜息が出るほど美しかったです。猿之助の衣装もなかなか凝ったものでよく見るとオーガンジーのようなひらひらが花模様から出ていて、手芸の作品のようでした。愉快だったのは皆がいわゆるポシェットのような、洋服の色にマッチした肩掛けカバンを斜め掛けしていたことで、可愛らしい感じでした。 舞台装置は最初の内、ミラーのパネルだけで簡素なものだなぁと思っていましたが、次々とこれでもかというように現れる趣向の多様さにはこれぞスーパー歌舞伎の本領と納得。 最初の戦闘を現す場面で大きな旗を使った立ち回りがあったのですが、いわゆるトンボとちがう見事な宙返りの連続で、これも普通の歌舞伎と全然違うなと思ったものです。まるで新体操のような演技でした。 謳凌と春琴の心が通い合うシーンは背景の星空に大きな流れ星が現れるのです。それから本水の滝を使った戦闘シーンには大量の水が使われていました。舞台の前の方で誰かがお芝居をしている時に、ものすごく大量の水に打たれながら滝の中でじっと身動きもしない人が数人いたので、大変だなぁと同情しつつも笑ってしまいました。 戦闘シーンでの本火を使った火事とか、バズーカ砲のような大砲での花火の使用などは、普通歌舞伎ではまずやらないと思います。「清龍偃月刀」が超自然なパワーを発揮する場面はレーザービームが稲妻を表現、長刀のような「清龍偃月刀」がひとりでに空に舞い上がり緑色に輝きながらくるくるまわったりします。 しかしなんといっても圧巻だったのは最後の場面。書生達の旅立ちを見守っていた関羽の霊が空に帰っていくところで、想像を絶するほどの大量の桃の花びらが客席全体に天井から降りそそぎ、そのピンク色の花吹雪の中を猿之助は二本のワイヤーで三階の高さまで上がって悠々と、晴ればれとした表情で宙乗りを見せるのです。 セリフは何しろ物語が長いので説明的なものが多かったのですが、要所要所ではたっぷりと聞かせるようになっていて、魏の兵士に「戦争を止めよう」と説得する猿之助のセリフなどは、今のイラク戦争と重なり思わず涙が出てしまいました。 この作品の中の作者ならびに猿之助の「信ずれば夢はかなう」というメッセージは極めてはっきりしており、見に行く前はお説教じみたメッセージを芝居に入れるなんて邪道だと思っていたのです。しかし実際に芝居の中で聞くと「ちょっとしつこいな」とは思いましたが、十分に猿之助の熱意が伝わってきて、嫌味には感じられませんでした。 |
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この日の大向う | ||||||||||||||||||||||
初めて見たスーパー歌舞伎でしたので、どんな声が掛かるかなと期待していたのですが、残念な事に今日は一声も掛かりませんでした。 歌舞伎座で聞いた時は「右近」とか「猿弥」とか名前の掛け声が掛かっていましたが・・・次回に期待したいと思います。 |
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