三人吉三 花形歌舞伎 2009.11.18 W259

演舞場の昼の部を11日に、夜の部を13日に見てきました。

主な配役
和尚吉三 松緑
お坊吉三 愛之助
お嬢吉三 菊之助
おとせ 梅枝
十三郎 松也
土左衛門伝吉 歌六

「三人吉三巴白浪」のあらすじはこちらです。

若手役者が初役に挑む今回の花形歌舞伎の演目は、昼の部が歌舞伎座で上演中の「忠臣蔵」に関連のある忠臣蔵外伝の「盟三五大切」と「花浅草祭り」そして夜の部が「三人吉三」と「鬼揃紅葉狩」でした。

特に「三人吉三」は、前回は美しいけれども硬さが目立っていたお嬢吉三の菊之助がしっくりと役になじんで、娘として魅力的でありながら男の本性を現しても全く不自然なところがなく、上出来だったと思います。

大川端でおとせを襲う場面が、かなりカットされたのは時間短縮のためなのでしょうが、せっかくの場面があわただしくかんじましたが「月も朧に白魚の」の厄落としの台詞も、堂々と歌っていて気持ちよく聞けました。

ただし「濡れてで粟」のアワを現代のイントネーションで言ったのはちょっと気になりました。「泡」かと思うような「あわ~」という昔の言い廻しはあっさり変えてしまえばあとかたもなくなってしまうもの。ぜひとも大切にしてほしいと思いました。

初役のお坊吉三の愛之助はすっきりとした姿が良く、いかにも浪人者という雰囲気もあり、お嬢吉三と相思相愛の間柄という微妙な感じも嫌味なく出ていて、良かったです。口跡が正面を向くと声が充分に出ているのに、横を向くとこもって聞こえるというのがどうにも不思議ですが、変なもちゃつきもだいぶ少なくなってきたのは評価できます。

和尚吉三の松緑は、少し顎の線がすっきりしたかなという感じで、二人の喧嘩を止める三人の見得もとても格好良くきまっていました。前回は役に対してまだ若すぎるというか不器用という印象を持ちましたが、今回は年齢がちょうどはまり、そうか、三人の吉三たちは本当に若かったんだと納得させてくれました。しかしながら妹弟の首をお嬢とお坊の前に差し出す件で、感情が激した時限界を超えて怒鳴るのはいただけませんでした。

そして土左衛門伝吉を演じた歌六が、これまた初役ということですが、悪事の報いが思いもかけない形でやってきて、人生のほろ苦さをかみしめる独白が素晴らしく良かったです。お竹蔵でお坊吉三に金を返してほしいと頼んで断られ、元悪党の素顔をだすところもきわめて自然で、今後この人の持ち役になるだろうと思わせました。

おとせの梅枝、十三郎の松也のふたりは練れた口跡がなんとなく似ていて、双子だと納得できる気がしました。二人が実の兄に殺される場面も犬の祟りで死ぬのだということがよくわかって、秀逸でした。

三人の夜鷹たちが鸚鵡で三人吉三の真似をするところも、梅之助、徳松、段之が面白く見せてくれました。源次坊の亀寿はまっくらな中で和尚吉三に突き飛ばされて早桶にお尻がはまるところがあまり上手くいかず残念でした。

最後の火の見櫓の場ではお坊吉三が下手の小屋の屋根の上で立ち廻りをする間、お嬢と火の見櫓をセリで下げて隠したのは、お坊の活躍を見せるために本来だと舞台を廻すところをはしょったのかと思いましたが、そんな必要もないように感じます。

最後は三人が捕り手とからむひっぱりの見得で幕となりましたが、コクーン歌舞伎での大量の雪の下で三人が息絶える壮絶なラストを思い出しました。

夜の部二幕目は亀治郎の「鬼揃紅葉狩」。ここでも松緑の維茂の松緑がだれかしらと一瞬思うくらいすっきりとした公家ぶり。この振付は澤瀉屋独特のものだそうですが、普通の紅葉狩と違って維茂たちが下手の幕から出、更科の前の一行が花道から出るのが新鮮に思えました。

亀治郎の更科の前は美しくしっとりとした趣のあるお姫様で、その踊りには不安をいだかせるところが全くなく、見事な出来です。そういえば普通の紅葉狩にでてくるほっぺたの赤いおたふくの侍女は登場せず、美人揃い。その美女たちが皆鬼女となって赤い毛を振りながら維茂たちの周りを回るのは躍動的で見ものでした。

維茂に危険を知らせる山神は、神女八百媛となっていて菊之助が踊りましたが、山神のようなダイナミックな踊りではなく、しとやかであまり見せ場がなかったです。

土蜘蛛の巣のような拵え物から鬼女になって出てきた亀治郎は、足のさばきがシャープで、きびきびとした気持ちの良い踊りでたっぷりと楽しませてくれました。鬼を退治する刀は八百媛が持ってきてくれたという設定になっていました。

昼の部は南北の「盟三五大切」。亀治郎の小萬のいかにも深川芸者らしいいなせなところはぴったりで、源五兵衛をだましたことに対する後悔の思いはあまり伝わってこなかったものの、源五兵衛にわが手で子供を殺させられる場面も真にせまっていて、哀れでした。

源五兵衛の染五郎は、筋書きのインタビューで語っているような野暮ったい男には見えませんでしたが、素敵に格好がよくこれだと三五郎よりもこっちのほうになびいてしまいそうなほど。

丸窓をやぶって入ってきたときの影の綺麗なこと。初演の五代目幸四郎にあやかってこめかみに黒子をつけたのは残念ながら遠くて見えませんでした。小萬の兄で悪党の家主・弥助との二役を替るのも初演通りということで、興味深く思いました。ただ一番南北の芝居らしい、小萬の首を持って戻る花道の源五兵衛に、ぞっとするような暗い凄みというものが感じられなかったのは残念でした。

初役の三五郎の菊之助は、声が中途半端でこの役に合わないと感じました。菊之助の声は甘い二枚目には似合うものの、男っぽさが薄いのでこういう役には物足りなく思えます。幕開きの小萬との濡れ場もまるで現実感がなく、合わない役を演じているという違和感が最後まで消えることはありませんでした。

昼の部二幕目は松緑と愛之助で「四変化 弥生の花浅草祭」。浅草神社の祭礼三社祭で、山車の人形が次々に踊りだす趣向の踊りで、二番目の「三社祭」は単独で上演される人気演目です。

まず神武皇后が愛之助、武内宿禰を松緑が踊りましたが愛之助の優雅な美しさと気品が目に残りました。三社祭では松緑の悪玉が素晴らしく軽妙な踊りで愛之助をリードし、次に通人を愛之助、野暮大尽を松緑。最後に二人共に獅子の精となって勇壮に踊りました。次々と違う役に変化しながら踊るこの踊り、通してみると面白さが倍増で、とても楽しめました。

この日の大向こう

11日は会の方がお一人と、あとは一般の方2~3人が下手でどちらかというと控えめに声をかけていらっしゃいました。上手で女性の方も掛けていらしたようです。

13日は声を掛けるかたは少なかったです。お声や掛ける間からお一人は会の方がいらっしゃるのではと思ったのですが、夜の部にはどなたもいらしていないということでちょっと不思議でした。

11月演舞場演目メモ

昼の部
「盟三五大切」―菊之助、亀治郎、染五郎、愛之助、竹三郎、松也、梅枝
「弥生の花浅草祭」―松緑、愛之助

夜の部
「三人吉三巴白浪」―菊之助、愛之助、松緑、歌六、亀寿、梅枝、松弥
「鬼揃紅葉狩」―亀治郎、菊之助、吉弥、松也、梅枝、巳之助、右近、隼人、亀寿、種太郎、松緑

目次 トップページ 掲示板

壁紙:「まさん房」 ライン:「和風素材&歌舞伎It's just so so」