「加賀見山旧錦絵」 三人三様の魅力 2008.9.20 W228 | ||||||||||||||
12日、新橋演舞場で新秋九月大歌舞伎夜の部をみてきました。
「加賀見山旧錦絵」(かがみやまこきょうのにしきえ)のあらすじはこちらです。 尾上の時蔵、お初の亀治郎が素晴らしく、それに予想もしなかったのですが岩藤の海老蔵までがはまり役といっても良いほどでした。 「竹刀打ちの場」で岩藤の海老蔵は出てきたところから、目が大蛇の目のように不気味で、しかも視線の動きが岩藤の心理を物語っていてとても効果的で、海老蔵自身の持つ爆発的な力をぐ~っと抑え込んだ緩慢な台詞廻しや仕草が、底知れない恐ろしさを感じさせました。期待をはるかに上回る岩藤で、感心しました。 時蔵の尾上はお初が岩藤を徹底的にやっつけるのを止めようとオロオロするところに、お初の気持ちに感謝しつつお初をしからなくてはならない尾上の心情が出てとても良いと思いました。死を決意しつつ母の手紙を読む場面も内面的になりすぎず、バランスの良さを感じました。 お初の亀治郎は見るからに利発で主人思いの少女で、主人からたしなめられ衝立の蔭に入り、だれもいなくなった後でひょいと顔をのぞかせるその様子が、これぞお初!簑助さんの遣うお初をふと思い出しました。岩藤の兄・剣沢弾正の團蔵は花道の引っ込みが大きく立派でした。 「烏鳴きの場」は、3人で持つ文箱の紐が何倍にも長くなるところなどいかにも歌舞伎的で面白いのですが、お初が暗闇の中にもかかわらず預かったものが書き置だとわかる件には少しひっかかりを感じました。今回は二度目の長局の場が、死にかかっている尾上から岩藤が旭の弥陀の尊像を奪おうとするところから始まったので、その後の展開に無理がなく自然です。 三人三様の個性がうまくかみあって面白くて見ごたえのある「加賀見山旧錦絵」でした。 最後が亀治郎と海老蔵で「かさね」。海老蔵は不気味な敵役の女形からすっきりとした水もしたたる二枚目に変身して、目を楽しませてくれました。このコンビでの「かさね」は以前金丸座で観ましたが、回を重ねることでますますよくなってきています。 亀治郎のかさねはしっとりと美しく、おどろおどろしさよりも哀しみを感じました。立役を演じるのも良いすが、亀治郎の女形には他の人にはない魅力があり、ぜひ女形として大成してほしいものです。 与右衛門がかさねを殺して花道を一度引っ込み連理引きで舞台に引き戻されるところも、前よりずっと洗練されて見事で、金丸座では笑いがおこっていましたが、今回はだれも笑いません。演舞場の公演は昼夜ともに十二分に楽しませてくれました。 |
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この日の大向こう | ||||||||||||||
今月は都内四か所で歌舞伎があるためお忙しいのか、大向こうの会の方は一人も見えていませんでした。一般の男の方もちらほらとおかけになる程度でした。 そのせいか、この夜はびっくり仰天の声にかきまわされっぱなしでした。一階の前の方でかなりご年配の女性の方が團蔵さんの花道の引っ込みに「いよっ、まってました」と掛けられたのが、悪夢の始まり。^^; その後、だれでも二人揃って見得をすれば「いよっ、御両人」、岩藤の前で尾上が死のうという時も「いよっ、御両人」、岩藤とお初の立ち廻りでは「芸が細かくていい」「うまいうまい」という具合。 落語の影響なのでしょうか、一般的にどうも誤解されているようですが、「いよっ」というフレーズは歌舞伎では決して使わないですので、もしかしたらこの方は普段はたとえば大衆演劇などの別な種類の演劇をごらんになっているのかもしれません。 「まってました」「ご両人」だけでなく同じ声を何回もかけるというのも絶対避けたいことですが、一番困ったのは死を決意した尾上の引っ込みへ早々と声を掛けられ、はりつめた緊張と静寂が無残にも破られてしまったことです。 「かさね」でも与右衛門がかさねを殺そうとするところで「息があってる」とか、もう創作掛け声のオンパレードでした。 この方の唯一良いところは、まちがいなくお芝居を楽しんでいらした様子だったこと。^^;けれでもこの方には、まず一階でバンバン声を掛けるのはマナー違反だということ、いくら楽しくてもお芝居はあなただけのものではなくお芝居の内容を考え、歌舞伎の掛け声というものをある程度ご理解なさってからでないと、結果的にお芝居を壊すことになりますよと申し上げたいです。 「かさね」の最後にチョンパッ!で間良く男性の鮮やかな声が「成田屋」とかかり、胸がすく思いがしました。もっと前から掛けてくださればよかったのにと思いましたが・・・良い舞台だっただけに残念でした。 |
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9月演舞場夜の部演目メモ | ||||||||||||||
●「加賀見山旧錦絵」―時蔵、海老蔵、亀治郎、團蔵、梅枝、松也 ●「かさね」―海老蔵、亀治郎 |
壁紙:「まさん房」 ライン:「和風素材&歌舞伎It's just so so」