「愛陀姫」 野田歌舞伎第三弾 2008.8.15 | ||||||||||||||||||
10日、歌舞伎座の納涼大歌舞伎第三部を見てきました。
「愛陀姫(あいだひめ)」のあらすじ そこへ駕籠が到着し道三の娘濃姫がおりたつ。濃姫は祈祷師たちに「総大将に木村駄目助左衛門の名を告げてほしい」と頼む。濃姫は恋する駄目助左衛門に手柄をたてさせ、父道三に認めさせたい一心なのだ。「お前たちの運命はわしの手の中にある」という濃姫に気圧されながら二人は稲葉の城へと向かう。 一方木村駄目助左衛門は、尾張国で捕らえられ今は濃姫の侍女となっている娘・愛陀に恋していて、なんとか総大将に選ばれて、勝って帰り、その褒美として愛陀と一緒になれないものかと思案している。 濃姫は駄目助左衛門が愛しているのは自分なのか、それとも他の女かと疑ぐっていて、駄目助左衛門は濃姫に自分が愛陀を愛していることを悟られてしまうのではと恐れている。そこへ愛陀がやってくると駄目助左衛門が急に落ち着きを失うのを見て、濃姫は愛陀に嫉妬の炎を燃やす。 そんなところへ小田信秀が尾張軍を率いて攻め入ってくるという知らせが届く。道三が急いで祈祷師たちに総大将の名前を占わせると細毛は「らだめす」と口走る。多々木斬蔵の解釈で、木村駄目助左衛門が総大将と決まり、濃姫は喜び、愛陀はうち沈む。実は愛陀こそ小田信秀の娘で、どちらが勝っても愛陀は苦しむことになるのだ。 戦いは美濃軍が勝ち、駄目助左衛門は意気揚揚と凱旋する。手柄をたてた駄目助左衛門にむかって道三は「望むままの褒美をやろう」という。 道三の前に引き出された尾張軍の捕虜の中に、父信秀の姿を見つけて驚愕する愛陀。信秀はそれを目顔で制し、素知らぬ顔で道三の前に進み出て信秀は死んだと語り、命乞いをする。 道三は捕虜の処分を祈祷師たちの占いで決めようとし、濃姫は捕虜を死罪にせよと言うようにと祈祷師たちに陰で圧力をかける。愛陀は捕虜を助けてほしいと道三に訴え、それを見た駄目助左衛門も愛する愛陀のために捕虜の解放を願い出る。濃姫に睨みつけられた祈祷師たちは「捕虜を生かしておくと後で必ず復讐するだろう」という御託宣を下す。 だが道三は武士の約束は破れないと捕虜の解放を命じ、その証拠にと濃姫を駄目助左衛門の妻にやろうと言う。願がかなって喜ぶ濃姫に対して、駄目助左衛門と愛陀は絶望の淵へ追いやられる。 だか婚礼の前夜、駄目助左衛門の本心を知りたいと思う濃姫は偽の手紙で二人をおびき出す。物陰に隠れている濃姫の前に愛陀がやってくると、思いがけずそこへ父の信秀が現れる。信秀は美濃へ復讐するために美濃軍が尾張に攻め込む道でまちぶせしようと考え、駄目助左衛門からその道を聞き出せと愛陀に迫る。 そこへやってきた駄目助左衛門に、愛陀は自分を連れて逃げてほしいと懇願する。祖国への忠節と愛陀への愛情に苦しむ駄目助左衛門はとうとう愛陀に攻め入る道を教えてしまう。ここへ信秀が出てくるので、駄目助左衛門は国を裏切る行為を犯してしまったことに愕然とする。愛陀は駄目助左衛門に一緒にくるように頼むが、濃姫が出てくると信秀は愛陀を連れて逃げ、駄目助左衛門はとらえられる。 尾張との戦いは再び美濃軍の勝利に終わり、駄目助左衛門は裏切り者として裁かれることになる。濃姫は囚われている駄目助左衛門の牢屋をひそかに訪ね、釈明するように懇願するが、駄目助左衛門は一切言い訳をしようとしない。 そして濃姫から「信秀は死んだが愛陀は生きている」と聞かされ、ただ愛陀の無事を祈り自らの死を望む駄目助左衛門を見て、濃姫は自分の嫉妬心が駄目助左衛門を死に追いやったと嘆く。 裁きの場で、道三は祈祷師たちに駄目助左衛門の処分を決めさせようとする。濃姫はこの祈祷師たちがインチキで全部自分の差し金でやったことだと暴露するが、「捕虜を解放すれば復讐にくる」と自分は言ったと細毛は反論する。そして神のお告げとして「濃姫を小田に嫁がせるように」と道三に言う。 濃姫が「これからは死んだように生きていく」と嫁いでいくのと同じころ、城の地下に生き埋めにされた駄目助左衛門の前に愛陀が姿を現す。愛陀は駄目助左衛門が生き埋めにされることを知って、自分も一緒に死のうと身をひそめていたのだ。愛しあう二人はようやく安息の場をみつけ、二人の魂はよりそって天に昇っていくのだった。
「愛陀姫」は野田秀樹が「鼠小僧」以来5年ぶりに勘三郎のために、ヴェルディのオペラ「アイーダ」を歌舞伎に書き直したお芝居です。いつも斬新なアイデアを歌舞伎に持ち込んでくる野田歌舞伎の人気は非常に高く、夜の部のチケットは入手困難。 今回のお芝居はあまり長くなく、良くまとまった作品という感じをうけました。中でも勘三郎の演じた濃姫には存在感があり、好きな男を自分のものにしようとすればするほど彼を破滅に追いやってしまう女を見事に演じていました。時代物などでは時々気になる勘三郎の独特の癖もなく、女方としての真剣な演技は素敵でした。 濃姫は実在の人物なのでどうやって物語のつじつまを合わせるのかと思いましたら、インチキ祈祷師の正体を暴こうとして反撃にあい、隣国の小田信長の元へ嫁に行けという御託宣を下されることになるのは綯交ぜとして見事な結末だと思いました。 アイーダが愛陀姫なのはわかりますが、ラダメスがなんで木村駄目助左衛門なんていうふざけた名前になったのかと思いましたら、「きむらだめすけざえもん」なのだとか。 インチキ祈祷師が「らだめす」と口走ったのをこじつけて総大将に選ばれる件は滑稽でスピード感があり野田歌舞伎らしさが感じられます。インチキ祈祷師・細毛の福助は、こういう役を演じると水を得た魚のようにオチャッピーで生き生きとしていてはまり役。この祈祷師がだんだん人の心を読んでその意に沿うような御託宣をするしたたかさを身につけ権力をにぎっていくというところは不気味です。 今回の舞台は大小のセリを頻繁に使用し、屋体は押し出され引きこまれるという具合。背景は細い板をたててつないで上を波のようににカットした丈の高い衝立が場に応じて生き物のようにまるまったり、ひろがったりして、うまく使われていました。 ことに愛陀姫が父親に「祖国のために駄目助左衛門から秘密の情報を聞きだせ」と迫られる場面では、愛陀姫の心の動揺を現すようにこの衝立全体が強い風に揺さぶられるように動いていていたのが効果的でした。愛陀の父、小田信秀を演じた三津五郎は冷厳な風格と重みがこの役にぴったりでした。お互いに役につきあうことの重要性を三津五郎が書いていますが、お芝居がぐっと厚みをまして豊かになるのは事実だと思います。 愛陀姫の七之助は声が美しく、濃姫や父親に翻弄されながも最後には恋人とのやすらかな死を選ぶ一途な女を演じていました。駄目助左衛門の橋之助は初めのうちははしゃぎすぎというか、若すぎる感じがしましたが、一言も弁解せずに生き埋めの刑に甘んじようとする姿は美しく爽やかで、澄んだ魂が感じられました。 生き埋めにされた二人が折り重なるように倒れて死ぬと、風船が二つ空へと昇っていくのは砥辰のラストで真赤な紅葉が一枚、ひらひらと砥辰の身体の上に落ちてきたのを思い出させましたが、紅葉にくらべると若干平凡でした。 蝮と呼ばれた斎藤道三の彌十郎は堂々としていて、大蛇を描いた長いマントをうまく着こなしていましたが役の性格はインチキ祈祷師のいうなりになる暗愚な領主。 変った演出としては戦闘シーンでその映像を幕いっぱいに映すという方法をとっていました。連鎖劇というほどの関連性はなかったですが以前「歌舞伎座の怪人」で演じられた連鎖劇はとても面白かったので、ぜひまた試してみてほしいなと思います。 劇中に使われていた音楽は「アイーダ」の中の、ラダメスのアリア「清きアイーダ」と「凱旋行進曲」がヴァイオリンやトランペットの洋楽器と篠笛や琴、琵琶など和の楽器の両方で演奏されていました。最後の二人の死の場面では、なぜかマーラーの交響曲第5番4楽章「アダージェット」が流れていました。 「清きアイーダ」が演奏された時には、ちょっと安易すぎるような気もしましたが、この歌はなんといっても旋律の美しい曲なので、見終わったあとも深く心に残り、結局のところ成功だったのではないかと思います。凱旋の場面ではオペラでは実物の象が出てくることもあるそうですが、今回は巨大な風船の象が登場。キラキラとした色彩感は野田歌舞伎の魅力の一つです。 第三部の最初の演目は「紅葉狩」で、勘太郎の更科姫はただ座っているところが難しいと本人も筋書きに書いていましすが、少し硬さが感じられました。その後変化の本性を見せるときはきれが良く、鬼女となってからは豪快、山神を巳之助が侍女・野菊を鶴松が踊り、若い二人の初々しさが印象的でした。 |
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この日の大向う | ||||||||||||||||||
会の方は4人いらしていて、一般の方も掛けられていたようです。「紅葉狩」ではちょっと間がずれた声が何度かかかって、あれっと思いました。 「愛陀姫」では最初のうちは濃姫、駄目助左衛門、愛陀姫、祈祷師細毛と荏原が登場したときに声がかかり、あとは最後のクライマックスでそれぞれの大事な台詞の後にかかったくらい。コミカルなところはあっても内容は悲劇なので、ちょうど程よくかかっていたという印象でした。 「愛陀姫」が終わると盛大な拍手がなりやまず、野田歌舞伎では恒例となりつつあるカーテンコールが一度だけありましたが、このお芝居にはカーテンコールはないほうが良いかもしれないと感じました。 |
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8月歌舞伎座第三部演目メモ | ||||||||||||||||||
●「紅葉狩」 勘太郎、橋之助、高麗蔵、亀蔵、市蔵、家橘、鶴松、巳之助 ●「野田版 愛陀姫」 勘三郎、七之助、橋之助、彌十郎、福助、扇雀、三津五郎、 |
壁紙:「まさん房」 ライン:「和風素材&歌舞伎It's just so so」