新薄雪物語 三人笑い 2008.6.10 W218

5日、歌舞伎座昼の部をみてきました。

主な配役
薄雪姫 芝雀
園部左衛門 錦之助
腰元・籬 福助
奴・妻平 染五郎
刀鍛冶・団九郎 段四郎
秋月大膳
葛城民部
富十郎
幸崎伊賀守 吉右衛門
松ヶ枝 魁春
園部兵衛 幸四郎
梅の方 芝翫

「新薄雪物語」のあらすじはこちらです。

今月は六年ぶりに「新薄雪物語」のとおしが上演されました。この演目は役者がそろわないとできないとよく言われますが、なかなか見ごたえのある充実した舞台でした。

序幕で一番印象に残ったのは、団九郎の段四郎と秋月大膳の富十郎の二人。まだセリフは不十分でしたが段四郎は道明寺の宿禰太郎を思い出させる重厚感のある悪役ぶりで、富十郎の底の知れない大膳との駆け引きが面白くこれが歌舞伎味というものだろうと思いました。「新薄雪物語」は序幕のはなやかな立ち廻りが有名ですが、これがどういうものかあまりぱっとしなかったのはまだ二日目だったからなのでしょう。

最近役の幅を広げている芝雀の薄雪姫はとても可憐で品のあるお姫様。このお姫様が若くいちずなゆえに悪者につけこまれるような次第になったのだということがよくわかりました。奴・妻平を演じた染五郎は花道を出てきた時は、だれだろうと思うくらい線の太い良い顔をしていて声はあいかわらずかすれていましたが溌剌とした魅力が感じられました。

薄雪姫の恋人・左衛門の錦之助も固く止められていたにもかかわらず、落ち延びる前についふらふらと実家へ立ち寄ってしまうところで、門の外でたたずむ姿に少年といっていいほど若くてたよりないという風情が秀逸でした。

陰腹を切り、首桶を手によろよろとした足取りで揚幕を出てくる伊賀守の吉右衛門、どっしりと大きく存在感が際立ち、約束を破って忍んできた左衛門をしかりつける声には劇場を圧するような素晴らしい迫力がありました。

前回はあまり面白いとも思わなかった「三人笑い」、今回はまず泣きたいのに夫に言われて仕方なく笑う梅の方の芝翫の顔に万感の思いが感じられとても見事でした。園部兵衛の幸四郎は自分一人で泣いているようで、こちらの気持ちがついて行きにくいと感じました。芝翫は首を打たれたとばかり思っていた息子が生きていると知って立ち上がるところも情があって、おもわず涙が出ました。

吉右衛門の笑いは義太夫の時代物の笑いを思わせる最後の力をおなかから絞り出した笑いで、まさに豪快そのもの。最後に竹本の詞章で目をみかわすというところで、伊賀守は兵衛のほうを見ていたのに兵衛は目をとじて見ようとしなかったのはどうしたことでしょうか、竹本をちゃんと聞くべきではないかと思いました。けれども吉右衛門の深い声に対して幸四郎の高めの声の対比は二人の武士の性格の違いを見るようで面白く良かったと思います。

昼の部最後は染五郎と福助の「俄獅子」。鳶の頭と芸者の粋であでやかな姿が二人によく似合っていてはなやかに締めくくりました。

この日の大向こう

最初のうちはあまり声をかける方がおられず、フワ~ッとした頼りない声がさかんに掛かっていました。陰腹を切った伊賀守の吉右衛門がよろよろと花道を出てくる時、揚幕は音がしないように開けられたにもかかわらず、「はりまや~」とこの声がかかったのにはがっくり。熊谷の出のようにしばらくは掛けないほうが良いのにと思いました。そのうち会の方も増え、最終的には3人いらしていました。

この日ベテランの大向こうさんから少しお話をうかがうことができました。今の会のメンバーには若い方もたくさんいらして、ご年配の方は週日に、若い方は休日にとバランスを考えられているとのこと。大向こうも伝統芸能と同じで伝承していかなくてはならないし、なによりも若い役者さんには若い大向こうが似合うと思うからとおっしゃったのが、とても印象に残りました。

歌舞伎座6月昼の部演目メモ
「新薄雪物語」 吉右衛門、幸四郎、芝翫、魁春、芝雀、錦之助、段四郎、富十郎、染五郎、福助
「俄獅子」 染五郎、福助

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