「小町村芝居正月」 復活芝居 2008.1.11 W207 | ||||||||||||||||||||||||||
5日、国立劇場初春大歌舞伎「小町村芝居正月」を見てきました。
「小町村芝居正月」(こまちむらしばいのしょうがつ)のあらすじ ここは先帝の墓のある近江国関明神。先帝の遺言どおり弟の惟仁親王が帝位を継ぐことを望んでいる関白・藤原良房の一行が、遺言書をとりにやってくる。だが黒主の家臣・四の宮兵藤武足(ひょうどうたけたる)が一足先に遺言書を盗み出し、関寺の大刀自婆に預ける。この婆は紀名虎の母で、親子は黒主の一味だった。婆は黒主への密書を武足へ託す。 その名虎は大内の宝蔵から即位に必要な村雲の宝剣を盗み出し、東国へと逃げる。人々が入り乱れる暗闇の中、大きな筒守りを抱えた黒主が現れて、呪文を唱え雲に乗って竜神をその筒守りに封じこめ、日照りをひき起こし世の中を混乱に陥れる。 大内紫宸殿 惟仁親王を推す藤原良房もそういわれては反論できない。気の弱い惟仁親王は出家したいと言いだす始末。そこへ黒主が惟高親王への貢物を美女たちにもたせて現れる。惟高親王は小野小町姫の父である小野良実に小町姫の歌をさしだすように命じる。小町姫は惟高親王に后にと望まれたが、その返事をしていないので父に歌を託したのだった。 しかしその歌を聴いた黒主はそれが万葉集からの盗作だと難癖をつける。はたして黒主がさしだした万葉集にはその歌が書かれていたが、実は大刀自婆が小野家に忍び込んでその歌を聞き、事前に書き込んでおいたのだった。駆けつけた小野家の家臣・五位之助が水で本を洗ってみるが、大刀自婆が秘伝の方法で書き込んだ墨はどうしても落ちない。 窮地におちいった五位之助はつかみかかってきた武足が懐から落とした怪しい手紙を拾いあげ、中をあらためるがそれは白紙だった。しかし争ううちに草紙を洗った水が白紙に掛かると大刀自から黒主への密書の文字が現れ、黒主の悪企みが明らかになる。その時村雲の剣の紛失が伝えられ、深草少将がその責任を問われる。少将の行方を詮議する名目で、黒主は良実を捕らえる。 そこへ天皇から「小野小町姫に雨乞いの歌を読ませるように」との勅命が下る。その歌の効き目で雨が降れば、天の思し召しが明らかになるだろうというのだ。 黒主は父の身を案じて参内した小町姫に、惟高親王へ入内しろと強要する。雨乞いの歌ができるまではと猶予を願う姫を黒主は責め立て、しまいには姫の出自が奥州出羽の国の百姓の生まれということを持ち出して、琴を弾きながら臼挽唄を唄えと命じる。姫は少将を想いながら泣き泣き琴を弾き唄う。 黒主は惟高親王に味方するとみせかけて、本当は自らが天下を奪おうとしているのである。偶然それを聞いた惟高親王を黒主は玉座から蹴落とす。多くの公家を味方につけ、小町姫を我が物にしようと企む黒主は悪の正体を現して高笑いする。 そこへ花売り娘のおたつが通りかかるので、三郎はこれから二人が行く江戸の庶民の生活や廓の様子をともに踊ってみせる。姫と少将も仲間に加わり、競馬(くらべうま)や相撲の様子を踊る。夜明けに二人は旅立つ。そしておたつ(実は少将に昔助けられた小女郎狐の化身)も江戸へと向かう。 柳原けだもの店 ある雪の晩、汁粉屋の正月屋庄兵衛がやってきて五郎又の留守に強引にもおつゆを連れて行こうとする。庄兵衛が言うには五郎又はもう次の女房を見つけているというのだ。おつゆは庄兵衛と奥で五郎又の帰りを待つ。 そこへ五郎又が新しい女房のおみきを連れて帰ってくる。五郎又はおつゆに離縁状を渡すが、おつゆは別れたくないという。ところが新しい女房のおみきは、おつゆが気の毒だから三人で一緒に住もうと言い出し、五郎又もそれを承知する。 おつゆは最前庄兵衛が落とした黒主から名虎宛の手紙を五郎又に見せる。夜が更けると、おみき(実は小女郎狐の精)が現れ「狐の身でありながら深草少将に恋してしまった」と悩む。そのおみきに声をかけた正月屋庄兵衛が実は紀名虎だということを知って小女郎狐は本性を現し、村雲の剣を奪って逃げる。その後、少将は江戸で兵を募り、姫はひとまず都へ戻ることにする。 柳原の土手で小女郎狐に追いついた名虎は犬神の術をしかけるが、小女郎狐はこれに打ち勝ち、少将の汚名をそそごうと剣を都へ持ち帰る。 神泉苑 雨乞いの歌を奉納しようと神泉苑へきた小町姫も捕らえられ、 黒主はあくまでも抵抗するこれらの人々を成敗するように武足に言いつける。ちょうどその時孔雀三郎が「しばらく」と声を掛けて勇ましく登場し、皆を助ける。 すると名虎の妹・初音に化けていた小女郎狐が本物の村雲の剣を差し出す。孔雀三郎が黒主の傍においてある筒守りを黒主と引っぱり合うと、真ん中から割れて竜神が飛びだし、雨が激しく降り出す。こうして惟仁親王の即位が決まり、再び世の中は安定するのだった。
初世桜田治助作「小町村芝居正月」は1789年江戸中村座の顔見世狂言として初演。今回は219年ぶりの再演です。筋書きの解説によると前半が時代物で後半が世話物、世話場は雪景色にすること、時代物の主人公が身をやつして世話場にでてきたり、動物や植物の精が登場したり、「暫」を入れることなどは全て顔見世狂言の約束事だったとか。 序幕にちょっとだけ出てくる大刀自婆の田之助と仁木のような燕手の鬘がよく似合う敵役・四の宮武足の團蔵のやりとりをみていて、これだけで芝居が締まるのはさすがだと思いました。惟高親王の亀蔵ははまり役で、公家の一人に扮した菊十郎の塩辛声にいかにも芝居らしい味がありました。 黒主の菊五郎が雲に乗って竜神を筒守りに封じ込める場面の、廻り舞台全体を見せスモークとせりをふんだんに使った雲海の情景は3階から俯瞰するとなかなか雄大で思わずお〜っと声が出ましたが、一周する時間をもてあまし気味でもうちょっと速く廻したほうが良いように思いました。 小野小町姫の時蔵が本当は田舎の生まれだということで蔑まれ、泣きながら臼挽き唄を琴を弾きながら歌うところは「妹背山」のお三輪を連想させ風情がありました。香取姫の梅枝の古風な美しさが目をひきました。この場に出てくる虎王丸の亀三郎の朗々とした声が気持ちよく響いていました。 舞踊劇となっていた「深草の里」の競馬の件がとてもリズミカルで楽しく印象に残りました。 後半は雅な宮中の世界からうってかわって江戸の獣肉の店という斬新な設定でこの風俗の珍しさ、面白さは秀逸でした。がこの場面での五郎又実は深草少将、おつゆ実は小野小町姫、それにおみき実は小女郎狐三人の恋の成り行きが肩透かしをくらったようで、おかしくはあるけれどまるで現実感がないなんだかわけのわからない話になってしまいました。 その後の小女郎狐の菊之助と白地に茶色と黒のぶち模様に小型の熊手のような赤い付け爪の犬四天というのでしょうか、高さのある三段になった雪の舞台での工夫をこらした立ち廻りは楽しく見ました。中段から下に消えた狐が上段からピョンと飛び出してきたり、菊之助の小女郎狐はとても機敏で可愛らしく、それでいながら哀れさが漂っていました。 大詰めは「暫」の縮小版で、「しばらく」と叫んで登場する孔雀三郎の素襖は、よく見ると黒地に白の孔雀の羽の模様でしたが華やかとは思えず、「しばらく、しばらく、」と呼ばわる声にももう少し重厚感があればなぁと思いました。最後には竜も登場し大団円。 主な登場人物が充分に描かれていなかったのは物足らなく思えましたが、場面場面では趣向が盛りだくさんで楽しめる「小町村芝居正月」でした。 |
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この日の大向こう | ||||||||||||||||||||||||||
お正月休み中とあって、開幕前には獅子舞も披露され、客席はほとんど満員の盛況でした。そんなわけで掛け声も結構掛かっていましたが、会の方がいらしたかどうかは残念ながら確認できませんでした。 この日は上手の方に声を掛ける方が多く、最初のころしまった声が聞こえていました。けだもの店の場の最後には五郎又とおつゆの二人に「御両人」と声が掛かっていました。 |
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1月国立劇場演目メモ | ||||||||||||||||||||||||||
●「小町村芝居正月」通し上演 菊五郎、時蔵、松緑、菊之助、彦三郎、田之助、亀三郎、亀寿、團蔵、権十郎、萬次郎 |
壁紙:「まさん房」 ライン:「和風素材&歌舞伎It's just so so」