山科閑居 幸四郎の本蔵 2007.11.17 W200 | ||||||||||||||
3日と16日、歌舞伎座夜の部を見てきました。
「山科閑居」のあらすじはこちらです。 本蔵の幸四郎は、とにかくわかりやすかったのが印象に残りました。お石を罵倒する本蔵をとめようとする妻・戸無瀬を邪険に押しのけたのに対して、力弥への悪口をとめる娘の小浪の場合はじっと顔を見てうなずきながら何も心配しなくても良いという表情をみせたり、槍を構えて力弥が掛かったきた時には、一度槍の先を止めながら突いてきたのが力弥だと確かめ、覚悟を決めたように自らその槍を腹に突き立てたり、なるほどなぁと思います。 「忠義にならでは捨てぬ命、子供ゆえに捨つる親心」という本蔵の台詞の通り、小浪への深い愛情のために死を選んだのだという思いが丁寧に表現されていて、説得力がありました。 戸無瀬の芝翫は母親らしい暖かさがあり、娘を嫁にという願いを拒絶されてオロオロする姿が新鮮に感じられました。小浪の菊之助はお石に去れと言われて、綿帽子をとった瞬間から光り輝くような存在感があって大変良かったと思います。 由良之助の吉右衛門は、包容力を感じさせる大きさで、なんと言ってもはまり役。お石の魁春はあくまで毅然とした武家の妻で、意地悪く見えるようなこともなくそっと蔭でみせる戸無瀬や小浪に対するおもいやりや、おそらく二度と会えない夫への想いも充分に伝わってきました。力弥の染五郎も若衆らしい初々しさがありました。唯一の道化役・下女りん(芝喜松)はあまり滑稽にならないように品よく演じていました。 戸無瀬が小浪を討とうとするところでは、本蔵の吹く尺八に義太夫の三味線がマンドリンのようなトレモロの半音階を奏でていて、緊張した雰囲気を醸し出していたのが効果的でした。この「山科閑居」は重苦しいお芝居ではありますが、全ての役に役者が揃っていて見ごたえがありました。 夜の部の序幕は「宮島のだんまり」。平清盛(歌六)、大江広元(歌昇)、畠山重忠(錦之助)、景清(團蔵)、典侍の局(萬次郎)など源平の世界の人々が筋らしいものもなく次々に登場する、時代物のファッションショーのような一幕ですが、歌舞伎らしい雰囲気が楽しめます。 福助の傾城浮舟太夫実は盗賊袈裟太郎は車鬢の菊百の鬘がよく似あっていて、幕外の引っ込みでは煙とともにスッポンから登場し、時には花魁道中のように、最後は飛び六方で華やかに締めくくりました。 三幕目は河竹黙阿弥作、新古演劇十種の「土蜘」。富十郎の頼光がだいぶ大きくなった愛息・鷹之資を太刀持ちに従えて登場。きっぱりとした台詞まわしが頼光によく合っていました。菊之助の胡蝶も美しく踊っていました。鳥屋のくらやみから音もなく出てきた菊五郎の僧・知籌、花道七三の台詞が朗々と響きわたったのにはちょっとびっくり。この舞踊劇は後見が忙しく働くお芝居でもあり、菊五郎の土蜘の精が投げる蜘蛛の糸を後見が即座に片付けていくのについみとれてしまいました。仁左衛門の番卒・太郎がご馳走。でもこういう役にはあまり向かない人だなと思いました。 最後が若手による「三人吉三」の大川端庚申塚の場。3日に見た時はお嬢吉三の孝太郎、いつもが女形だから仕方がないのかもしれませんが、杭に片足を乗せて厄落としの台詞を言う時にすそを気にしていて動きがぎこちなかったです。けれども名台詞そのものは、心地よく聞けましたし、16日にはすそ捌きにもすっかり慣れたようで堂々と演じていました。 時間の関係かお嬢がおとせに襲い掛かって金を奪い川へ突き落とすまでが、あっという間で余韻がなかったのは残念でした。お坊吉三の染五郎は見たところはぴったりですがこじんまりしているのと、声がかすれているのがやっぱり気になります。和尚吉三の松緑はあの鬘が似合っていないうえ、台詞が速すぎて軽く和尚吉三の背負っている運命の重さが出ていないと思いましたが、だれやすい兄弟の盃をかわすところはテンポよく順調に行きました。 庚申塚の場は、華のある楽しい場には違いありませんが、時間的に苦しいところに無理して押し込んだような状態ではその魅力を充分には味わえず、もっとじっくり見てみたいものだと思いました。また今月はせっかく仮花道が設置されているのに、夜の部で全く使われなかったのはもったいないことでした。 |
||||||||||||||
この日の大向こう | ||||||||||||||
16日は会の方は3人くらいということでしたが、一般の方たちがたくさん声を掛けていらっしゃいました。特に「山科閑居」の幕切れでは「高麗屋」の掛け声が数え切れないくらいどっと掛かったのには驚きました。リードしてくださる大向こうさんがいらしたためか、最後の「三人吉三」までとても賑やかな夜でした。 「土蜘」では鷹之資くんに「若天王」とか「鷹之資」と声が掛かっていました。後ジテが出てくる前には三味線へ「巳太郎」とか長唄に「巳紗鳳」など数人の方が掛けられていました。 「三人吉三」のお嬢吉三の名セリフ「月も朧に白魚の」の前にはたくさんの「松嶋屋」にまじってお二方の「まってました」という声も聞こえていました。わりと早く掛けた方と間際に掛けた方がいらっしゃいましたが、間際に掛けた方の声が気合が入っていて、決まっていました。 |
||||||||||||||
11月歌舞伎座昼の部の演目メモ | ||||||||||||||
●「宮島のだんまり」 福助、歌六、錦之助、歌昇、芝雀、萬次郎、團蔵 ●「山科閑居」 幸四郎、芝翫、吉右衛門、魁春、染五郎、菊之助 ●「土蜘」 菊五郎、富十郎、鷹之資、左團次、仁左衛門、梅玉、芝雀、東蔵、市蔵、亀蔵、亀三郎、権十郎 ●「三人吉三」 孝太郎、松緑、染五郎 |