弁天娘女男白浪 菊之助の弁天小僧 2006.11.8

4日、新橋演舞場で花形歌舞伎昼の部を見てきました。

主な配役
弁天小僧 菊之助
南郷力丸 松緑
日本駄右衛門 左團次
忠信利平 男女蔵
赤星十三郎 松也
浜松屋幸兵衛 家橘
倅・宗之助 梅枝
鳶頭 團蔵
番頭 橘太郎

「弁天娘女男白浪」通称「白浪五人男」のあらすじはこちらです。
「弁天娘女男白浪」(べんてんむすめめおのしらなみ)は「青砥稿花紅彩画」(あおとぞうしはなのにしきえ)の一部で「浜松屋見世先より稲瀬川勢揃いまで」を演じます。

平成12年1月同じ新橋演舞場で見て以来、ひさしぶりの菊之助の弁天小僧。なんといっても女にばけて出てくるところが素晴らしく綺麗なうえ、高めの声が役にぴったりですし、男と見破られた後の不良少年ぽい魅力は当代一です。黙阿弥調の台詞も充分にうたって聞かせてくれましたが、台詞廻しにもう少しゆとりがあればさらにいいなと思いました。

菊之助はゆすりの種の緋鹿の子を店の品物に混ぜる時、まず店の緋鹿の子を一枚胸のあたりに持って行きすばやく懐から持ってきた緋鹿の子を重ねるように取り出していましたが、注目していなければいつ仕込んだか判らないほど巧妙でした。見顕された時に簪を落とす方法は勘三郎と同じく前に体を倒した時に房に手をかけておき、身を起こすのと同時に自然に抜くやり方でした。

幕開きに駄右衛門の小分・狼の悪次郎で出てきた新蔵のいかにも小悪党らしいところが目をひき、浜松屋の倅・宗之助を演じた若い梅枝が柔らかい味をよく出しているのに感心しました。團蔵の鳶頭も舞台をひきしめています。

松緑の南郷はきりっとしていて男らしく、菊之助の弁天とは良い組み合わせです。以前と比べ松緑は台詞の出だしにほとんど頭を動かさなくなりました。前回南郷を演じた左團次は今回駄右衛門を演じましたが、若手だけの今回の公演で、その存在感には重みがありました。

しかし稲瀬川勢揃いの場では、いつも気になってしまうのですが、本舞台へ行った後変わる傘の位置(上手から「志ら浪志ら」)を、ほかの四人はちゃんと変えていたのに駄左衛門だけ元のままだったのは残念でした。赤星を演じた松也は「しのぶ姿も人の目に月影がやつ神輿ガ嶽今日ぞ〜」の「きょう〜ぞ〜」が今一高く張れていませんでしたが、姿や声は元中小姓の赤星に似合っています。

「勧進帳」は海老蔵の弁慶、菊之助初役の富樫、芝雀の義経と、若手のみで上演されました。海老蔵の弁慶は第一声「いかに弁慶」と義経に呼びかけられて「ハァ」と応える呂の声の深さが、珍しいことに充分とはいえませんでした。

海老蔵の弁慶は例えば富樫に義経が見咎められ、絶対絶命のピンチに義経を金剛杖で殴ろうとする時、一瞬躊躇する様子を目をいそがしく左右に動かして表現するなど、いろいろな場面で表情を激しく変え、かなり自分流の考えを前面に押し出して演じていました。

富樫に酒をふるまわれる場面など、いつもはホッとするところですが、不自然な笑い方などに異物感が残りました。しかし幕外の引っ込みでは、期待にたがわず豪快そのものの飛び六方を堪能させてくれました。

菊之助の富樫は懸命に勤めていたとは思うものの、声のせいかなんとなく女性的な富樫でした。芝雀の義経は、花道の出では大将としての落ち着きがないように見えましたが、「判官御手を・・・」のところなどは義経の慈愛がにじみ出ていて良かったです。四天王の市蔵、男女蔵、段治郎、猿弥はきっちりと品格を保った好演でした。

今回の「勧進帳」は全体の印象として、勢いはあるけれど表現が生々しく、松羽目物としての格調が不足していたように私には思えました。海老蔵の弁慶も一昨年大阪で、仁左衛門の富樫で演じた時の方が相乗効果もあったでしょうが優れていました。

今月は歌舞伎座がほとんどシニア世代だけ、すぐそばの演舞場はジュニア世代だけの公演ですが、混じっていたほうが双方にとって良かったのではないかと思います。

昼の部の最初は松緑初役の青山播磨、芝雀のお菊で岡本綺堂作「番町皿屋敷」。松緑は前半ちょっと頼りない若い旗本という感じで播磨のイメージと違う気がしましたが、綺堂の美しい名台詞を思いっきり大きくうたおうと努めていました。

芝雀のお菊は、上品でひかえめで優しい持ち味が「家宝の皿を割って恋人の心を試す」という破天荒な行動をとりそうな人物と重ならず、家宝の皿を次々と割っていく播磨の姿に真実の愛を悟って恍惚となり、満足して死んでいくというふうにも見えませんでした。松也のお仙はおきゃんな感じを強調していました。

この日の大向こう

客席はほとんど満席という状態の中、一般の方3〜4人が声を掛けていらっしゃいましたが、会の方はいらしてませんでした。勧進帳も浜松屋や勢揃いも、声の掛けやすいお芝居だと思いますが、どちらかというと黙阿弥の方に気合の入った声が多かったようです。勧進帳には、なぜかのんびりした声が掛かっていました。

中村屋と違って音羽屋の「しらざぁ言って 聞かせやしょう」の間はたっぷりあります。私が聞いた時には「聞かせやしょう」の後に「音羽屋」「まってました」と声が掛かっていましたが、「しらざぁ言って」の後にきりっと短く「音羽屋」、「聞かせやしょう」の後に「まってました」でも大丈夫だと思いました。

「勧進帳」の長唄に「巳吉」「崇光」と声が掛かっていました。

演舞場11月昼の部の演目メモ
●「番町皿屋敷」 松緑、芝雀、松也、亀蔵、猿弥
●「勧進帳」 海老蔵、菊之助、芝雀、市蔵、男女蔵、段治郎、猿弥
●「白浪五人男」 菊之助、松緑、左團次、男女蔵、松也、團蔵、

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