12日、江戸東京博物館ホールで歌舞伎フォーラム公演を見てきました。
主な配役 |
道具屋甚三 |
松之助 |
幽霊お仙 |
京妙 |
若旦那松五郎 |
瀧之 |
「応挙の幽霊」のあらすじ
道具屋の甚三は、市で安く仕入れた二枚の幽霊画を手に、ほくほく顔で帰ってくる。偽物と思ってはいるものの、呉服屋の若旦那に売りつけようとしているものには「幽柳図掛軸 丹波にて」と箱書きし、まず二番手の方を見せ、こちらはライバルの堀江屋の予約済みということで、値段をつりあげる心づもりなのだ。
そこへ話を聞きつけた松五郎がやってきて、二番手を見せられるがいま一つ気にいらない。甚三がわざと目につくように隠しておいた本命の掛け軸に気がついた松五郎は、これを見せろと迫る。こちらは堀江屋が予約したと聞いて悔しがる松五郎だが、これこそ応挙の本物に間違いないと懸命に甚三に頼み込み、結局50両で買うことにする。そして明日、届けてもらう約束をして帰っていく。
思惑どおり高値で掛け軸を売りつけることに成功した甚三は、死んだ女房に似た美人の幽霊画を拝んでお酒を供え、気分よく晩酌を始める。すると掛け軸から幽霊が抜け出してきて、応挙の幽霊でお仙と名乗る。
酒が大好物なうえに酒癖が悪いこの幽霊、酔うほどに唄い、踊り、はては甚三を脅したりで大暴れ。そこへ戻ってきた松五郎はこの有様を見てびっくり仰天するのだった。
「応挙の幽霊」は江戸期の画家・丸山応挙の「幽霊図」を題材にした落語が原案で、作者は鶯亭金升(おうていきんしょう)。当初は滑稽幽霊噺として高座に上っていたのもが新内節としてしたてられ、歌舞伎として大劇場で上演されたのは平成四年の「第四回宗十郎の会」でのことでした。
このときは若旦那のかわりに、幽霊の絵が大好きな伊勢屋の女房を田之助、甚三を松助、幽霊お仙を宗十郎が演じたとか。それ以前には新内の会で「新内らくご」という形で、柳屋小さんの旦那、入船亭流橋の道具屋、それに宗十郎の幽霊という珍しい顔あわせで演じられたことがあるそうです。(筋書きより)
道具屋甚三の松之助が上方言葉で演じましたが、いつも怒っているような松之助と全く雰囲気が違ってみえ、滑稽で洒脱な芝居に似あっていて新鮮に感じました。
急に真っ暗になった後、掛け軸の形にあいたくぼみに悄然と現れる美人の幽霊・京妙は、だんだん酔っ払って手がつけられなくなっていく有様を仇っぽく演じていました。何をするにもだらりとたらした幽霊手をくずさないのが可笑しく、すっかり酔っ払った幽霊の仕業で、棚や暖簾が落ちたり、 お経が天井へ蛇腹のように延びていったり、屏風が宙を飛んだりハチャメチャの大騒ぎになるのも愉快で、楽しめるお芝居でした。短いながら気の利いたお芝居で、再演されると良いなと思います。
最初は「歌舞伎の美」、「江戸の美、上方の美」と題して、江戸芝居の代表「助六」と上方芝居の代表「紙屋治兵衛」をそれぞれ若い女性とご年配の男性に衣装を着付け、それぞれ違う歩き方を指導。ちょっと台詞もつけていましたが、特に治兵衛に扮した方がいかにも楽しげに台詞を言ってらしたのが印象的でした。解説は松三郎。後半は京妙の芸者、瀧之の鳶頭で「お祭り」。
次が松之助の火の番、松三郎の息子、瀧之の補吏で小山内薫作「息子」。
―師走の江戸、夜更けの火の番小屋で火の番の老人が火にあたっている。補吏が顔を見せるが老人がとりあわないので、帰っていく。そこへ金次郎という男が火に当たらせて欲しいと飛び込んでくる。
どうやら追われている様子のこの男に聞くと「大阪でいかさま博打をして稼いでいた」というので、老人は「自分の息子も上方で働いているが、ありがたいことにおまえのような奴じゃない、真面目な律儀者だ」と語る。
老人の息子の名前を尋ねると「金次郎だ」というので、男はこの火の番こそ九年ぶりに会う自分の実の父親だと悟るが、息子はかたぎだと信じている父親にとても名乗って出ることができない。
そこへ先ほどの補吏がお尋ね者の金次郎を捕らえようとやってくる。格闘の末捉えられた金次郎だが、補利が父親にこれはお前の息子だと見せようとした途端、縄を切って逃げ出す。
やがてひそかに戻ってきた金次郎は柱の陰から父親に手をあわせ「ちゃん」と呼びかけ、去っていく。老人は無事を願って、その後を見送るのだった。
松之助の火の番が淡々とした演技で好感がもてました。もともとこの話しは9年しかたっていないのに、親子だということがなかなかわからないという点にどうしても無理を感じてしまうのですが、今回はわりにさらっと演じられたので、あまりその不自然さを感じないですみました。「火の番」を「しのばん」、「縁起」を「いんぎ」と発音していたのに江戸っ子らしさがうかがえました。
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