十二夜 菊之助の三役 2005.8.1 | ||||||||||||||||||
7月16日、歌舞伎座夜の部へ行ってきました。
「十二夜」のあらすじ ちょうどそのころ紀州沖では琵琶姫と主膳之助という双子の兄弟が乗った船が嵐で沈み、琵琶姫は船長と二人、岸に打ち上げられる。兄・主膳之助の身を案じながらも、琵琶姫は流れ着いたところが大篠左大臣の領地と知って、男に化けて左大臣に仕えようと決心する。 獅子丸として大篠左大臣に仕え始めた琵琶姫はすぐに左大臣に気に入られ、織笛姫のもとへ恋の使いにやられる。ところが織笛姫は機知にとんだ獅子丸を好きになり「左大臣とは会いたくないが、また訪ねてくるように」と獅子丸に言う。 織笛姫の家来の丸尾坊太夫は、見栄っぱりでいばりくさっているのでみんなの嫌われ者。この屋敷の居候で織笛姫の叔父・洞院鐘道は、友人で織笛姫にぞっこんの安藤英竹や織笛姫の賢い侍女・麻阿たちと一計を案じ、偽手紙で坊太夫に「織笛姫に愛されている」と思わせるようにしむける。 そうと思い込んだ坊太夫は、手紙に書かれているとおり、鬱金色の衣装で服喪中の姫の前にしゃしゃり出るので、すっかり気が変になったと思われ、長局へ閉じ込められる。 そうこするうところ、行方不明になっていた主膳之助が、助けてくれた海賊・鳰兵衛(におべえ)と共にこの街へとやってくる。もし見つかったら鳰兵衛は捕まってしまうのだが、主膳之助の身を心配してついてきたのだが、宿でおちあうことにして二人は別れる。 ところで安藤英竹に決闘を申し込まれ窮地にたたされていた獅子丸は、海賊・鳰兵衛に助けられる。しかし獅子丸は感謝しつつも鳰兵衛のことを知らない人だというので、これを主膳之助と思い込んでいる鳰兵衛はその変節に落胆しながら、役人に捕らえられる。 一方宿へ姿を見せない鳰兵衛を探しにきた主膳之助は、織笛姫と遭遇する。姫は主膳之助を獅子丸と思い込んで屋敷に連れて帰り、口説き落として祝言をあげてしまう。 ここへ大篠左大臣一行がやってくる。左大臣が織笛姫に思いのたけを述べるが姫は相手にしない。あきらめて立ち去ろうとする大篠左大臣についていこうとする獅子丸に、姫は「我が夫(つま)さま」と呼びかける。しかし身に覚えのない獅子丸には訳がわからない。 大篠左大臣は主従の縁を切ると怒るし、織笛姫は約束を破るのかと詰め寄るところへ、頭に傷をおった英竹がたった今獅子丸にやられたとやってくるが、獅子丸がそこにいるのを見て仰天。 左大臣は様子をみてくるようにと獅子丸をつかわすが、逃げてきた洞院を追ってきた青年は、獅子丸にそっくりだが、どこか違う。そこへ本物の獅子丸が姿をあらわすので、一同は驚く。 主膳之助と獅子丸実は琵琶姫兄妹は、互いの無事を喜び合って、固く抱き合う。大篠左大臣も可愛がっていた小姓が実は女性だったと知って、おおいに心を動かされる。 捕まった鳰兵衛を助けるために、丸尾坊太夫も長局から救い出される。こうしてめでたく二組の恋人たちは幸せな結末を迎えたのだ。 最近女形の充実ぶりに加え、立役の格好良さが印象的な菊之助自身の発案で、蜷川幸雄にシェークスピアの「十二夜」の演出を依頼して実現したという、今月の歌舞伎座公演。 幕が開くと舞台全体がハーフミラーで覆われていて客席が一階から三階までそっくり写りこんでいて、それが徐々に透き通ってくると向こう側には満開の桜の花びらが舞い散るなか、南蛮人風の衣装をきた子供たちがチェンバロに合わせて歌をうたっているところが現れるという演出には引きつけられました。 しかし全体としては大道具はあまり変化がなく、どちらかというと簡素なものだったと思います。 なによりもこの芝居では、菊之助のみずみずしい美しさ、男女両方を全く違和感なく柔軟に演じたことが一番印象に残りました。 双子の兄妹、主膳之助と琵琶姫はもちろんのこと、琵琶姫が男に扮した獅子丸という、男性が女性の役をしてそれがまた男性に化けるという複雑な役を、新鮮な色気を感じさせながらみせてくれました。そういう面ではこの作品を選んだのは大成功だったと思います。 最後に兄妹が対面するところなどでは、獅子丸に吹き替えが出ていましたが、それが先年話題となった玉三郎の「お染の七役」でも使われた、鬘に挟み込むようになっているように思われる仮面をかぶって出てきたのには驚きました。 正面から見るとちょっと判らないのですが、横を向くと吹き替えは菊之助よりも顔の長さが短い人らしくて、あきらかに仮面とあごとの間が離れていたのはみっともなく、かなり気になりました。しかし玉三郎の吹き替えの時に感じたような得体の知れない不気味さを今回は感じることはありませんでした。 このごろ吹き替えは面をかぶることになってしまっているようですが、歌舞伎では本来は何もつけず顔をみせないようにするものではと思います。おいそれとは玉三郎、菊之助のように美しい役者さんの吹き替えはみつからないのだと思いますが、面をつけるというのもあまり美しいものではありません。 菊五郎が演じたのは道化の捨助、織笛姫の家臣丸尾坊太夫の二役。日本にはない道化という役でシェークスピア劇独特の韻を踏んだ駄洒落のような台詞を次から次へとまくし立てるのは、難しくもあり、また歌舞伎としては少々違和感がありました。 余談ながら原作の初演の時は琵琶姫・ヴァイオラを演じたのは少年でこの子が唄を歌っていたのですが、大人になってしまっため次に演じた少年はそれほど歌が上手くなく、やむをえず歌い手を変更したのだとか。 そののち道化を演じた人が芸達者な役者だったので、全ての歌(十曲)をこの道化の捨助・フェステが歌うことに書き換えられたのだそうです。しかしそれではあまりに大変なので、比叡庵五郎・フェビアンという團蔵が演じた役が加えられ半分受け持つことになったのだとか。 捨助が織笛姫の家臣にもかかわらず、大篠左大臣家にしょっちゅう出入りしたりするのが、不自然に思えるのはそういう理由によるものだそうです。(小津次郎訳 十二夜より) 偽の手紙をひろって天にも昇る心地の丸尾坊太夫を見ながら、後ろで皆が渡り台詞のようにあれこれ口を挟むところは、アンサンブルがとても良くしゃれっ気があり、私はここが一番面白いと感じました。 亀治郎の演じた麻阿は原作ではマライアといいますが、これはほとんど全場面に登場する儲け役というところ。ちょっとばかりやりすぎてあばずれっぽく見えるところもありましたが、まずは役にうまくはまっていました。 大篠左大臣を演じた信二郎は気品があり、ぴったりだと思いました。安藤英竹の松緑のどこのものやらわからない様なキンキラキンの衣装に赤い靴、思い切った阿呆ぶりが、芝居の中に無理なく溶け込んでいました。 |
||||||||||||||||||
この日の大向こう | ||||||||||||||||||
シェークスピアの芝居にどんな風に声が掛かるのかと思っていましたが、出と引っ込み、極まる時というふうに基本的なところに過不足なく掛かっていたと思います。会の方は二名いらしていたそうです。 |
壁紙&ライうン:「和風素材&歌舞伎It's just so so」