「 フラン? 聞いてくれ。 ・・・もしもの場合は 僕自身をオ−バ−ヒ−トさせるから。
 すこしはきみも暖まると思うんだ。 そうしてドルフィン号を待てばいい。 いいね? 」
「 ・・・・・ いやよ! 」
「 フランソワ−ズ! わがまま言わないでくれ。 」
「 わがままなんかじゃ・・・ないわ、ジョ−。 ・・・あなた・・・ひどい・・・ 」
「 ひどい? 」
「 ・・・そうよ・・・ひどい・・・人ね。 また・・・わたしを置いて・・・ゆくつもり?
 わたしが 欲しいのは・・・ わたし達の、ふたりの思い出 ・・・・ 」
「 ・・・ フラン ・・・・ 」
「 ・・・言ったでしょう ・・・? わたし よくばり ・・・なの・・・」

ジョ−の腕のなかで泥まみれの顔が 花のようにほころんだ。


ああ、きみって人は。
僕は 一生かかっても きみに勝つことなんかできっこないよ。
 

「 じょー ・・・・ 一緒に・・・二人で、また思い出を・・・作ってゆきましょう・・・
 これからも・・・・ ずっ・・・・と・・・・ 」
「 ・・・・ フランソワ−ズ ・・・・ そうだね、 そう・・・ 」


いま、腕のなかの温もりがなによりも 愛しい。
 − 僕は。 僕たちは 生きる、生きてゆく。 何があっても、一緒に・・・・。

帰ろう・・・・ あの 海辺の家へ。 生きるんだ、生きてあの場所へ・・・ 帰る!


引き寄せた身体を 片腕でもう一度しっかりと抱きしめる。
離さない、絶対に。
生きるんだ、一緒に。

必死で保っている意識の隅で ジョ−は水の音が次第に強くなって来るのをとらえていた。


冷却水か・・・・?  ・・・いや、ちがう ・・・! あれは。 あれは・・・・




ほとんど感覚の無くなったジョ−の耳に  聞き覚えのあるドルフィン号のエンジン音が
とおい海鳴りのように 届きはじめた。



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                    ( 了 )   Last updated: 03,19,2004.