夏。 はじめての日本の夏。
はじめて・・・・キスしたのは・・・花火見物にいった夜。

凄い人出で、あっという間に離ればなれになっちゃって。
全然しらない場所だったし、日本語、まだよく聞き取れなかったからこわくて・・・

僕も必死だったよ、いくら呼んでもきみ、返事してくれないしさ。
どんどん、悪い方へ悪い方へ考えが落ち込んでいって・・・ きみの髪が目に入った時は
ほんとうに、もう・・・。
きみだって 泣きそうな顔してたよね。

「 ・・・・あのね、本当にこわかったのは、あなたよ、ジョ−。 」
「 僕 ? 」
「 そうよ。 凄い形相で なんにも言わずにぎゅっと腕をにぎって・・・ 」

やっと見つけて 飛んできて険しい表情で 腕をきつく握って。
ジョ−はものも言わずにほっとして涙ぐんでいるフランソワ−ズを 抱きしめた。
そして。

いきなり・・・・ ふふふふ。
それに・・・あんな 乱暴なキスってないわ、って思った♪
花火? うふふ・・・ 全然憶えてないの・・・。 そのくせ、あの晩のジョ−のシャツの模様とか
髪の毛の跳ねてるところとか・・・はっきり目に浮かぶの。

・・・・僕は。 そ、そうだったっけ? ( ほんとはね、僕もきみの白い額と吸い込まれそうな蒼い瞳。
そして・・・・ 柔らかくてとびきり甘かった・きみの唇の感触・・・ それしか覚えてないんだ・・・)

そうだっけって、ジョ−・・・。 もう・・・!

ご、ごめん! ・・・・嘘だよ・・・。 ちゃんと、今でもはっきり思い出せる・・・

「 今年は ちゃんと花火、見ようね。 」
「 はぐれないように、 手をにぎってね・・・・ 」
「 ・・・・ こんな風に? 」

 − きゅ・・・・。

返事の代わりに 二つの冷えた手がしっかりと握り合わされた。


「 かくれんぼみたいね、 わたし達。 」
「 ・・・え? 」
「 かくれんぼ。 子供のころ、やったでしょう? どきどきしながらクロゼットの隅に
 しゃがんでたりしたわ。 見つかったらイヤだけど、見つけてもらえないのももっとイヤだった・・・ 」
「 うん。 見つけてほしくて、わざと判るように隠れたりしたよ、僕。 」
「 ジョ−は 捜すのが上手そうね? 」
「 そうかな・・・・? どうして。 」

覚えてない?と持ち上げたジョ−の手からは 相変わらず生暖かい液体が伝わり落ちてくる。
その総量を推測し、フランソワ−ズは何もできない自分にそっと歯噛みをした。

「 ほら、イワンも一緒に。 お天気のいい日よ、<秋晴れ>っていうんだって教えてくれたでしょう?
 ススキが沢山、風になびいて金色の海みたいだったわ。 」
「 うん・・・、きみが宝探しみたいって言ってたっけね。 」
「 アケビやきのこ。 落ちている団栗や爆ぜた栗。 ジョ−は見つけるの、上手よね。
 いまはね、ふたりでこうしてかくれんぼよ。 見つけてもらうのを待っているの。 」
「 ・・・・ ひとりで隠れてるのはキライだったけど。 こうして二人なら・・・
 かんくれんぼも 楽しい・・・・ 」


ときどき す・・・っとジョ−の言葉が途切れる。
やはり、相当のダメ−ジなのだ、とフランソワ−ズはこころも冷える思いだった。
あの時、わたしを庇ったばかりに、彼の動作は一瞬遅れそれが致命的になった。
なんとしても、彼を助けなければ、頑張らなければならない。

すうっとフランソワ−ズは 大きく息を吸った。
さあ。 
しっかりするのよ! フランソワ−ズ。
これからが あなたの本番なの。 意識を集中して・・・!
絶対に 絶対に 失敗するわけには行かないわ。

閉ざされた視覚のかわりに 彼女は全身の神経をジョ−に向ける。

ふふ・・・・。 身体が効かない分、集中できるみたい。 
妙に冴え冴えとしてきた自分が ちょっと可笑しかった。

さあ、いつもと同じ気持ちで。
そうよ、リビングのソファでお喋りしてるつもりで・・・・



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