
南からの微風が心地よい。
丁度、橋の下を艀が通り掛かり、そのトントントントン・・という単調な響きが風に漂って来る。
妻は幼馴染のおきぬさんが連れる孫をあやす事に余念が無い。
あれから一年がたったのかと思うと、時の無情さに淋しさがこみあげくる。人の一生なんてそれまで考えた事もなかったのに、あれ以来よく考えるようになった。長過ぎるのも考えものだが、短か過ぎるというのは・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
気が付くと艀は既に通り過ぎていて、辺りは時の穴の様な静かさに包まれていた。
2004年2月24日(火)

第一話
第二話
2004年7月18日(日)
岬までの道にはところどころ菜の花の群生があって、時々小さな蜂が飛び交っている。
「この落書きは、さくらと僕の契約書だからね・・・」
丁度1年前、そこに落書きをした後で、貴雄は「それが1年経っても消えなかったら一緒になろう・・・」と、冗談みたいに言ったのだった。
幼馴染の二人だから、何かきっかけが要ることは分かるけど、消えてしまったらどうするつもりなの? 口に出しては言わなかったけど、私は気になってそれ以来何度かここに足を運んだ。
でも、来るたびに落書きは消えていなかった。
それは消えるどころか、誰かがなぞったように濃くなっているのだった。
その場所がだんだん近付いてくる。
春風に吹かれてカーディガンが舞う。
〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜
その場所に立った時、貴雄が私の肩を引き寄せて、言った。
「ずーと、いっしょだよ」
落書きが昨日書いたように鮮やかに見えた。

第三話
2006年1月8日(日)
人通りの無い夏の午後だった。蝉がうるさい程鳴いている。
店の前で打ち水をしていた美子は頻りに由紀子の様子を気にしていた。
二人で店の前を掃除していた時、由紀子の携帯電話が鳴った。
「また田村さんからかしら・・・」美子はそう思うと落ち着かない。
田村は由紀子が店を手伝うようになってから、よく店に顔を出すようになった客だ。
その田村が近々転勤で東京を離れるという。
その話を聞いた時の由紀子の落胆といったら・・・。
その後、二人の間に何があったのか知らないが、電話をする由紀子の様子は弾んでいる。
「由紀ちゃん、やっぱりついて行くんだろうか・・・?」
そんな思いに囚われると、美子は居た堪らない気持ちになるのだった。
そして、そんな気持ちを打ち消すように打ち水を続けるのだった。
不図、目の前の暗がりを見ると、そこには由紀子のパンプスが・・・。
「・・・・・・・!?」
蝉の声が一斉に、止んだ。
第四話

冬枯れの林の中に陽が差し込んできた。
こうしてベンチに座って本を読んでいる姿を彼女が見たら、「あら、何を読んでるのかしら?」なんて声を掛けて来るかも知れない。
男はさっきからそんな事を考えていた。
この間、この公園で見た女性、特にどうという事は無いのだが、持っていたカメラが気になっていた。
「あれはライカではなかったか?、それもバルナック型の」
ああいうクラシックなカメラを使うのはどういう女性なのか?
今度会えたら、写真やカメラの話を聞いてみよう。
もしかするとその筋では有名な写真家かもしれないし・・・。
そんな思いに耽っていた男は、その時自分が、そのカメラで撮られていた事に、全く気が付かなかった。
或る昼下がりの事だった・・・。
2006年1月8日(日)
(作者注 : この写真はライカで撮られたものではありません。これはコンタックスです)