カレーな食材図鑑

第3回 クミン・シード

 そいつを使えば何でもエスニック風味になるという、もっとも便利なスパイスのひとつがクミン・シードである。
 これさえあれば、さまざまな素材をインドはもちろん、遠くトルコや中近東、モロッコやチュニジアあたりの色合いにまで見事に染め上げることができる。

 クミンというスパイスは、日本で市販されているおそらくすべてのカレー粉やルーに使われている。もちろん本場インドにおいても、各地域・各コミュニティの料理にベジ・ノンベジの区別なく幅広く活用される。ガラム・マサラにも配合されることが多い。
 
 実際の調理において、クミン・シードはどのように使われるか?
 代表的な手法をいくつか紹介しよう。

 調理の冒頭、鍋にサラダ油を引いて火をつけたら、すぐにひとつまみのクミン・シードをパラリと油の中に落とす。そのまま加熱するといい香りがしてきて、油の中でクミン・シードがチリチリと踊りはじめる。このとき、絶対にクミン・シードはこがさないようにしたい。

 この「オイルにまずクミン・シード」という手順、プロアマ問わず本場でも頻発される。いわばひとつの公式みたいなものだ。

 中にはクミン・シードを最初から油に落とさず、たとえばオクラを炒めている最中に塩といっしょにパラリと上からふりかけるというレシピもある。ややおとなしい風味になりそうだが、できあがりを食べると、オクラとともにかみしめられたクミン・シードが十二分なパワーを舌の上と鼻先で発揮する。

 一方、こがさぬように空炒りしたクミン・シードをミルなどですりつぶし、パウダーにしてからカレーに入れるのが、ロースト・クミン・パウダーというテクニック。市販されているクミンのパウダーより格段に風味がいい。チキンなどの煮込みカレーの仕上げにパラリとふれば、へたなガラム・マサラなど不要の香りのよさ。

 クミン・シードはほかのスパイスとも相性がいい。
 クミン・シードと粒のブラック・ペパーを同量ずつ空炒りしてすりつぶせば、南インド名物のスープ・カレー「ラッサム」の絶妙な味つけになる。クミン・シードとコリアンダー・シードをやはり同量で空炒りしてすりつぶしてパウダーにすれば、北インド風の野菜のスパイス炒めにもってこいだ。


クミン・シードの風味を生かしたシンプル・メニュー

チキンのクミン・シード炒め

材料(2〜4人分)
鶏モモ肉300グラム、サラダ油 大さじ2、しょうがとにんにくのすりおろし 各小さじ1/2、塩 適宜、レモン汁 少々
《ホール・スパイス》
クミン・シード 小さじ1/2

下準備
@鶏モモは皮をとり(インド亜大陸の人々はふつうチキンの皮を口にしないので、このように処理する。もちろんお好きな方は皮付きのままでかまわない)、一口大程度の火の通りやすいサイズにカットする。

調理
@中華なべかフライパンを中火にしてサラダ油を入れ、鍋肌全体になじませたらいったん火を切り、サラダ油を耐熱の器に戻す(調理の際、チキンが鍋に貼りつくのを防ぐため。いわゆる「油返し」といわれる中華の調理法だ。自信のある方は省略可能である)。
A今度は鍋を弱めの中火にして、サラダ油を入れ直す。
Bすぐにクミン・シードを加える。
C油が熱せられるにつれクミン・シードの色は濃く変化し、表面からは気泡がプツプツと出て、チリチリと揚がったような感じになってくる。いい香りもしてくるはずだ。
Dクミンのいい香りがしてきたら、弱火にしてすりおろしたしょうがとにんにくを加え、サッと鍋をひとまぜする。しょうがやにんにくがはねるかもしれないが、驚かないように。
Eしょうがとにんにくのいい香りがしてきたら、カットした鶏肉を入れ、中火に火を戻す。
F火が通る前にチキンの表面がこげないよう注意しながら、炒めよう。あまり弱火でダラダラ炒めないほうがいい。うまみが外に出てしまうし、できあがりもベタついた感じになる。
G鶏肉に火が通ったら、お好みの加減に塩をしてできあがり。盛り付け用の皿に移したら、レモン汁をサッとふりかけ、あつあつを召し上がれ。

おいしさのポイント
・シンプルながら、インドとアラブをミックスしたような一品だ。酒の肴のほか、バターライスやパンによく合う。サラダやフライドポテトを添えよう。
・できあがりに粗挽きのブラック・ペパーをかけてもいい。
・最後にレモン汁をふりかけることで、全体の風味がグッと前面に出てくる。省略せずにレモン汁(ビン入り果汁でもいい)を使っていただきたい。

 
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