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ノック3回という偽マナー

いつの頃からか、「ノック3回がビジネスマナー。2回はトイレノック」というマナーが広がってしまい、リクルーターから白髪の混じった会社役員まで、ドアをノックするときはゆっくり3回が当たり前になった。
しかし、これは本物のビジネスマナーなのだろうか?
結論から言うと、そんなマナーの存在はなく、マナー講師たちによる誤伝であることが分かってきた。

先行研究はこちら

私が色々書くよりも、下記の先行研究を読めばすべてが理解できる。

ノック3回を布教する企業たち

しかし、それだけだとこの話はリンク先を読むだけで終わってしまうので、もっと簡単にして、説明してみよう。
まずは、「ノック3回」について、よく名の知られた就活サイトでの記述を見てみよう。

ジョブシル(2018年)
リブセント

画像:ジョブシル「転職に役立つノウハウメディア」(2018.5.30)

転職サイトの「ジョブシル」に書かれた「プロトコールマナー」の抜粋。
「国際的にビジネスの場で正しい」のは4回だが、「日本のビジネスの場では3回が正式」なのだそうだ。
全文を読みたい方は、画像をクリックすると、元サイトが開く。(2024年5月11日閲覧)

マイナビ(2021年)
マイナビ

画像:マイナビ「就活スタイル」(2021.3.12)

就活サイトの「マイナビ」に書かれた「世界標準公式マナー」の抜粋。
「国際儀礼」とは大きく出たものだ。欧米の外資系企業では4回が主流だが、日本では3回が正しいマナーとして浸透しているということだ。
全文を読みたい方は、画像をクリックすると、元サイトが開く。(2024年5月11日閲覧)

インディード(2024年)
indeed

画像:indeed「キャリアガイド」(2024.1.4)

就活サイトのindeed「キャリアガイド」に書かれたノック回数の抜粋。
ここでは「決められたルールは存在しませんが」と若干トーンダウン。また「日本では」となっており、国際標準も影を潜めた。ただし、外資系の企業では4回という記述は健在。
全文を読みたい方は、画像をクリックすると、元サイトが開く。(2024年5月11日閲覧)

ハローワークたかさき
indeed

画像:ハローワークたかさき「面接対策〜実技編〜」

ハローワークと言えば厚生労働省。つまり、国の機関が「ノック3回」を公式に認めてしまった。
全文を読みたい方は、画像をクリックすると、元サイトが開く。(2024年5月11日閲覧)

国際マナーの根拠

上記「ノック3回を布教する企業たち」では、名の知れた就活サイトしかご紹介できなかったが、同じような論法で「国際標準のマナー」を持ち出しているWebサイトは数多い。
それでは、国際標準のマナーは誰がどこで決めたものなのだろうか。
そこで持ち出される「プロトコール・マナー」とか「国際プロトコール」とは何かを見てみよう。

プロトコール・マナー協会とは?

「国際標準のマナーである」と述べるWebサイトで、その根拠として紹介されることがあるのが、「プロトコル・マナー協会」。
この協会は、2006年に設立された一般社団法人で、「プロトコールやマナーに関する普及・啓発」などを行っているようだ。ただし、私が調べた範囲では、協会のWebサイトの中には、ノックに関するマナーについての記述はなかった。

さらに、勘違いサイトで見られる「プロトコールマナー」という言葉は間違っていて、「プロトコール」と「マナー」は異なるということが、同協会のコラムに書かれている。
それによると、「プロトコール」というのは「国際儀礼」や「世界に通用する公式マナー」と訳されるので、これに「マナー」を加えると重複表現になってしまうという。

国際プロトコールとは?

そもそも、一般社団法人が設立される前からあったはずの国際ルールがどこかにあるはずではないか。
探してみたところ、外務省のWebサイトに「国際儀礼(プロトコール)」を見つけた。
それによると、

プロトコールとは
国家間の儀礼上のルールであり,外交を推進するための潤滑油。
 また,国際的・公式な場で主催者側が示すルールを指すこともある。
と書かれている。
そして、その内容は、席順、国旗の掲揚順、服装などである。ここも探してみたところ、ノックについては書かれていない。

ちなみに昼の正礼装は、男性の場合モーニング・コート、女性の場合アフタヌーン・ドレスだそうだ。面接のマナーに国際儀礼を持ち込むなら、モーニングを着て面接に臨むことが必要になってしまう。

勘違いマナーが浸透した経過

ここから先は、ibenzo様が書いたことをなぞるしか私にはできません。

19世紀のイギリスがネタ元か
19世紀のイギリスのマナーについて記した文献を調査すると、下記のような内容が多い。
  • ノック1回:身分の低いもの
  • ノック2回:郵便・仕事関係
  • ノック3回:その家の者・関係者
  • ノック4回:貴族階級かそれに類する上流階級
  • ノック4回×2:王族や大富豪などハイエストなクラスの人
ただし、これはフランスの視点で書かれたもので、イギリスのマナーを奇異な視点で書いていることが多い。

ibenzo(2017)を要約


イギリスの古いマナーを1980年代に日本に伝達
酒井美意子(1988)「皇室に学ぶマナー―日常の立居振舞から国際社会の社交知識まで」という文献のP.174に、「日本人はノック二回が一般的だが、欧米人は四回である」と書かれている。

ibenzo(2017)を要約


ノック2回を「トイレノック」と1990年代に自主翻訳
小栗かよ子、堀田明美(1994)「国際線パーサーがそっと教える美しく生きるマナー術」という文献のP.150に、「手前開きのドアでお客様を案内する場合、小さい3回ノックを心がける(2回はトイレノック)」と書かれている。

ibenzo(2017)を要約


結論

上記のような流れを見る限り、「ノック3回がビジネスマナー」というのは誤りだと断言できる。
ノックの回数が多いほど上流階級であったというイギリスの話が、いかにも国際標準であるかのように広がり、「プロトコール」と紐づけられて、あたかも公式の根拠があるかのように説明されるようになったのだ。
だから、今後は面接のときにも、営業訪問の時にも、上司の個室に入るときにも、ノックの回数にはこだわることはない。「ノックは3回だ!」と知ったかぶりする間抜けな薄らハゲには、「あれ? ここトイレかと思った。ま、トイレと同じ程度の知識しかない人の部屋だから間違えちゃた!」とか嘲笑で返してあげればいい。

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