レンゲトン

「許せない。」

彼女はそう言っていると思った。しかし何が許せないのかとんとわからない。わからないことが許せないのかもしれなかったし、何かとてつもなく許せないものがあるのかもしれない。それは彼女にしかわからない。いや、彼女自身がわからないのかもしれなかった。

 

そんなこんなで始まるわけなのだけれども、その前にちょいと自己紹介をしておこうじゃないか。僕の名前はナマイキサトル。生意気で生息が温かい青年。青年というか少年なのだけど。心は老人だ。海と川と風呂と微かに匂う蓮華の花に恋している、そんな男の子。

 そして彼女、彼女には名前がない。なぜなら彼女は一般世間で呼ばれる女性ってやつだからなのだけれども、その中でもとびきり素敵な名前をしていてちょっとここで書くにはもったいなさすぎる。いずれ明らかになるだろうからそれまで待っておいて。うん、だいたいのことはわかったかな? わからなくていいんだよ。今わかったとか言われたらこれから書く意味も貴方が読む意味も何もない。

そんなのじゃこれはただの紙切れになっちゃうから少しだけつきあってくれるかな?  

  

   ◎

 ストレートに伝えることにしようかな。僕が君に好きだと言えなかった理由をひとつずつ言っていこうと思う。この章分けは僕の心をそれぞれの断面で切り取って出てきた言葉だと思ってくれればいい。

恥ずかしがり屋でごめん。好きって言おうとして、もし声がうわずったり聞き返されたりしたらもう僕はその場で顔が真っ赤になってもう何もしゃべれなくなるだろう。そしたら好きだって僕が言ったってこと、それ自体なかったことになる。それだけの言葉を言うのに全神経を集中させたりするんだ。たった二文字だよ? たった二文字もあるって僕は言いたいけど。一文字だったら気持ちを込めて息を大きく吸って吐き出すように言えばいいのに。二文字だからどちらかを優先して話さないと行けない。そのときってやっぱ「す」に強いのがきて、「き」が弱くなっちゃうのが日本語ってもんじゃない? 「愛している」なんて到底言えない。息が持たないもの。たとえ僕がマラソンを完走できるくらいの肺活量の持ち主でもちょっとムリだな。「嫌い」ってならいくらでも言えるのにね。嫌い嫌いキライキライキラキラキラキラ・・・。

 最初に断っておくなら君がとても嘘つきだったってことだね。それはとても美しいことなのかもしれないね。心がとても潔癖で君は嘘をつくことで僕を傷つけることを拒んだ。

そして僕はそれを受け入れた。でも受け止めることが出来ないほど重たくて僕も嘘をついて君を傷つけた。僕の嘘は君みたいにきれいなものじゃなくて、とても醜くてひどいものだったのだと思う。それは嘘をついていたのではなくて、嘘にしたかった本当のことだったからなのだろう。ときに本当のことは、現実は言葉にすると酷く傷つけるものになる。それは僕が現実に対して酷く傷つけられてきて、君に出会えたことで癒されたもののまだ完全ではなかったから。君はきれいな心で僕に現実を伝えてくれた。でも僕は酷く薄汚れた世界に住んでいたから。さようなら過去の「人」よ。

グッバイ

        ララ・グッバイ

でも少し言わせてくれ。君は、君が、ブサイクで本当によかったと思う。笑っちゃうところだけれども 本気で言っているんだよ。でなければ本当の美しさに出会うこともなかったし、もしかしたら美しいすべてのものを憎むことになってしまったかもしれない。そんな世界は絶対に嫌だ。死んだ方がましなくらいだって大声で言ってやりたい。ここでまた言わせてもらうなら僕の心は醜く歪んでいるのだろうと思うことだ。だって酷い言葉なんていくらでも出てくる。しかもすんなりと、言える。

なんて情けない話だろう。未だ君のことを醜くも憶い続けているなんて。酷い話だろう。もう聞き飽きてきた? それでも最後まで聞いて欲しい。君の持っているすべてが僕と呼応してくれるって信じているから。

僕はひどい浮気性なの。ついつい他の子やら見てはときめいてしまう。でもね、言い訳させてもらうとそんなの当たり前のことじゃない? 君にはない美しさを・・・例えばあの子は持っているとしたらその部分を好きになるのはいいことだと思わない? 君にすべてを求めて傷つけてばかりいるよりは、プレイボーイって呼ばれたって、いいかげんだって言われたって、僕は君が好きなのだから。順番とかじゃなくて君が好きで一緒にいたい人なのだから。もちろん今でも君や君の友達や君の知らない人が好きで毎日が大変で。でもそばにいて欲しいのは君だけなんだってこっそり耳打ちしてあげたいよ。そばにいたい。未来も今もできることなら過去もすべてずっと一緒にいようよ。

 ああ、かわいい人。

  君とずっと大切にいたい。

残念なことにこれで最後だよ。僕は君に何を伝えることが出来ただろう。君が何を感じ、おもってくれたことだろう。本当に愛しているって気持ちをずっと持ち続けることが出来なくてもそれを君に渡すことが出来たらよかったなと思う。

 君はそれをまた誰かに渡すんだ。出来る限り自分もそんな気持ちを持ち続けたまま。

 愛の灯は灯り、

   そして繋がってゆく。

恋という想いをのせて

   僕は孤独な聖火ランナー

 いつ終わるともしれず

始まりがいつなのかもわからない

           バトンリレー

   そうさ、君を。

 君を。

   愛している。

この世には天国も地獄もない。あるのは空と果てしなく続く宇宙。しかし、それも感じられる範囲までしかない。感じる心がひとつ、ひとつと重なって僕らはハートを描く。それは少しいびつな愛の形。悩める姿はヒトの形。

僕らに残された時間はこの永遠のバトンリレーに託された想いを手渡すためのものでしかなくても一瞬でも灯りが灯るのならそれは素敵なことではないかしら。

                完

愛してる。