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やんぐ・ぱーそんず・がいど・つう・ぽっぷす・まにあ 番外編



ラムはスマイルだ

古原 麻衣子 作



 ポップス・マニアを自負する者は制作者の意図を見抜けるはずです。
しかし、私は長い間気が付きませんでした。
まさか、私の愛するポール・マッカートニーの最も愛するアルバム「ラム」が「スマイル」だったなんて!
何を馬鹿なと思う人もいるでしょうが、聞けば聞くほど、共通点が多いのです。
その事について説明します。

 「スマイル」とは、ビーチボーイズのブライアン・ウィルソンが1967年に発表を予定していたアルバムです。
前作の「ペット・サウンズ」の完成度の高さにより過剰なまでの期待をされたが、ブライアンが精神的に病んでしまったので、録音はされたが完成しませんでした。
最近はブートレッグCDによりその全容を聞くことができます。
はっきり言って最高です。
曲は未完成ながら美しいメロヂィー、幻想的な雰囲気、進歩的なアイディア、魅力たっぷりです。

 「ラム」とは、ポール・マッカートニーが1971年に発表した。
2枚目のソロ・アルバムです。
ビートルズを解散させた直後であり、これといったヒット曲も含まれず、荒削りな音作りなため、一般的な評価は低いです。
しかし、ポールの全アルバムを聞き込んでいるような人ならこのアルバムを一番と考えるでしょう。
とても不思議なオーラを放っているからです。
そして最近気が付いたのです。
そのオーラこそ「スマイル」だったのです。
 では曲ごとに解説します。


A1 TOO MANY PEOPLE

 GOOD VIBRATION のイントロのキーボードはギターに置き換え、突然ボーカルが入り、ドラムがフィルインから入るパターンが共通しています。
動と静の構成も同じ。


A2 3 LEGS

 この曲はアルバムを「ラム」とするという構想後に作ったように思えるので共通性は薄いです。
いかにもプレスリー好きでしたというような曲。


A3 RAM ON

 「スマイル」はコーラスのパターンが独特です。
いわゆるビーチボーイズ風以外にインディアンの儀式風、何かの呪文の繰り返し風があります。
A3ではついにそれが表れます。
また、「スマイル」にはアメリカの歴史表現する構想があったようですが、ポールはそれをウクレレ一本で表現しています。
 曲の前にレコーディング風景を入れる所はとてもデモテープ感覚です。


A4 DEAR BOY

 スマイル・コーラス全開の曲です。これでもか、これでもか、とやりすぎです。


A5 UNCLE ALBERT/ADMIRAL HALSEY

 せつない前半、ふっきれた明るさの後半。
スマイルのばらけ具合をポールがまとめるとこうなるのでしょう。
途中の電話会話部分は、GEORGE FELL INTO HIS FRENCH HORN です。
波音を雨音に変換もしたのでしょうか。


A6 SMILE AWAY

 タイトルがそのものずばりです。
廃人同然のブライアンに早く元気になれと言っているようです。
バラードばかりでなく、元気の良い曲をいれるのはバランス感覚によるもの。
ホンゲララドゥラと聞こえるコーラスはスマイル呪文パターン。


B1 HEART OF THE COUNTRY

 関連は薄いです。一聴するとフォーク風ですが、良く聴くと50年代の香りがします。


B2 MONKBERRY MOON DELIGHT

 スマイルのデモテープを聴いて最初に作った曲でしょう。
ブライアンがドラッグで駄目になったことに対する怒りに満ちあふれています。
ピアノの弾き方がやけくそです。


B3 EAT AT HOME

 デブになり、部屋に閉じ込もってばかりいたブライアンに対してのメッセージ・ソング。


B4 LONG HAIRED LADY

 髪の長い女性をテーマにするのは、ブライアンの得意とするところ。
この曲はひとつにつながったメロディーはなく、細かい断片の寄せ集めである。
どんなにバラけたものでも組曲にすれば、なんとかなるの見本。


B5 RAM ON

 どんなにバラけた楽曲の集まったアルバムでもリプリーズをすれば、トータル性がでるという見本。
HEROES AND VILLAINS をこれに当てはめよと言っているのでしょう。


B6 THE BACK SEAT OF MY CAR

 この曲は、SURF`S UP の完成見本。
ポールはビートルズ時代に断片的な美しいテーマ部のメロディーを作っていましたが、まとまった曲にはなりませんでした。
それはまさに、SURF'S UP と同じ状態でした。
「スマイル」の中でも究極的な美しさを持つこの曲は未完のままであり、ポールは完成型を聴きたいと願ったのでしょう。
それを自分の楽曲で挑戦したのです。
本質的にピアノの弾き語りである点、中間部分にファルセットでブライアンを再現している点、組曲である点、ブラスで盛
り上がりを作る点など共通点は多いです。


 アルバム・ジャケットにも共通点は見つけ出せます。
表面の羊とたわむれている姿は、「ペット・サウンズ」そのものです。
また、手描きのイラストはジャッケットだけが先に完成していた「スマイル」のコンセプトと同じです。
さらにそのイラストの中に、微笑む唇が描かれています。
 「ラム」は「スマイル」なのです。


 ポールはブライアンを尊敬し、交友関係にありました。
「スマイル」の録音現場の見学もしています。
当然、良い刺激を受け、ビートルズは直後に「サージェント・ペパーズ」を作りました。
ビートルズの成功は、ブライアンを、もうやめた、という気分にさせてしまいました。
しかしポールは、「スマイル」を早く聞きたい、と想い続けたのです。
何年たっても完成しないアルバムのデモテープは、1970年についにポールの耳に届いたのだと思われます。
その内容の素晴らしさに感激し、且つ、廃人同然となったブライアンを憂いて、俺だったら「スマイル」をこのように
完成させるぞ、という意気込みで「ラム」を作ったのでしょう。
「ラム」にはアーチストがアーチストを愛する心があふれています。


 このような勝手な思い込みは、ポップス・マニアの道をさらに広げていきます。




「やんぐ・ぱーそんず・がいど・つう・ぽっぷす・まにあ」という漫画シリーズの番外篇です。
この論文は、スマイルのブートレッグが出回り始めたときに書いたものです。
当時、同人誌に載せました。
現在、スマイル音源の多くは公式に発表されていますが、まだ全体ではありません。
未発表でも、良いモノは良いです。

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