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晴れの日、それはやって来る

−Aqua−


by

Maiko Kohara


六月、朝、雨が降っている。
14才、中学2年生、制服姿、涼子は靴の紐を結び、傘を広げ、家を出る。
舗道では、すれ違う人もなく、歩いて行く。
雨音、自分が水たまりを踏む音以外聞こえない。
車も走っていない。
交差点の信号も消えている。
通り過ぎる家々の玄関は開いたままになっている。
人はいないようだ。
舗道には、白い灰の固まりが点々としている。
雨が灰を下水口に流し込む。

学校に到着、人影がない。
コンクリートの校舎の壁には水滴が付いている。
涼子はひとりで階段を上がっていく。
手すりに触る。
手すりは木製で湿気をおびている。
涼子は手すりに頬をあて、音を聞く。
「何しているの?」
同級生の聡が声をかける。
「人間って水で出来てるんだね。」
「何言ってるの?」
「湿った手すりと自分の手が同じもののような気がするの。」
「おまえ、やっぱり変わってる奴だな。」

図書室には涼子、聡、他に男子3人がいる。
「どうする? 俺たち。」
「いつまでもこのままか?」
「じつは、俺、昨日夜中、ラジオで聴いたんだ。生き残る方法を・・・」
「何言ってんだよ! ラジオなんて雑音しか聞こえないじゃないか!」
「それでも俺、つけっぱなしにしておいたんだ。そうしたらかすかに呼びかけがあったんだ。」
「詳しく教えろよ!」
男子3人が話している。
涼子は離れたところで本を読んでいる。
聡は話しに耳を傾けている。
男子のいうことには、雨の降った日の夜に駅に集合し、電車で町を脱出するとのこと。
「それっていつだよ?」
「雨が降る日なんか、いつだかわからねえよ。」
「今日かもしれないぜ・・・」



一ヶ月前の出来事、五月。
晴れの日、それは突然やってきた。
空一面を真っ赤に染め、異様な金属音を発する飛行物体。
物体は光線を発すると、人間たちを次々と焼き尽くす。
辺りは焦げた臭いで充満する。
人々は逃げ惑う間もない。
運よく建物に隠れた者は命拾いしたが、建物から出た瞬間に光線にあたり、灰となる。
一日目、建物の中でおびえ、隠れていた者たちは生きながらえた。
テレビ、ラジオは、この惨劇の一報を伝えたが、すぐに雑音を発するだけとなった。

二日目、晴れの日、建物からおそるおそる出てくる人間。
空すぐに赤く染まり、光線が人々を襲う。
涼子は家に閉じこもっていたため、生きていた。
「ねえ! 誰かいる? いたら返事して!」
隣の家からおばさんの声が聞こえる。
姿は見えない。
「おばさん、生きていたの? 私、ここにいるよ!」
涼子が答える。
おばさんは、病気の子供の面倒をみていて、外出しなかったとのこと。
隣の家にはおばさんと子供の二人が生存していた。
「助けが来るまで待ちましょう。」
おばさんが励ます。

三日目、晴れの日、同じことの繰り返し。
すでに人間の99%は消えてしまった。

四日目、雨の日、なぜか空は赤く染まることはなかった。

五日目、雨の日、涼子はおそるおそる家を出た。
そして、隣の家へ行く。
おばさんは疲れ切っていた。
涼子は子供と遊ぶ。
子供は外で遊びたがった。
「助けが来ないわね。そろそろ、食べ物も無くなってきたし、限界よ。」
おばさんが嘆く。
電気、水道、ガス、電話は使えるが、だんだんと弱くなっている。
涼子は自宅に戻る。

六日目、晴れの日、隣のおばさんの声が聞こえなくなった。

七日目、雨の日、それはやって来ない。
涼子は隣の家に行く。
玄関は開いたまま、外には灰の固まりがふたつある。
ひとつは大きく、ひとつは小さく。
小さい灰の近くには、子供のお気に入りのオモチャが落ちていた。
涼子は呆然と立ちつくす。
自宅に戻ると、涙が流れていた。



何日たったのだろうか。
涼子は気がついた。
雨の日なら、赤い物体はやって来ない。
そして外に出ても安全だということを。
晴れの日なら、建物の中にいれば生きていられるということを。
涼子は、意を決して学校に行く。
町からは人の姿は消えていた。
しかし、学校に着くと4人の男子が生きていた。
ひとりは足にギプスをはめていた。
彼らも、赤い物体の法則性に気がついていた。

奇妙な学校生活が始まる。
雨の日のみの登校。
涼子は図書室で好きな本を読む。
男子は生き残る方法を話し合っている。
夕方には帰宅する。
帰りには食料の調達のためコンビニに立ち寄る。
店に店員はいない。
持てるだけの缶詰、飲み物を持ち帰る。

奇妙な学校生活は続く。
男子のうち3人は学校で共同生活をはじめる。
教室に運び込まれた生活用品。
中にはベットまで持ち込んだ男子もいる。
毎回、涼子は自宅に帰る。
男子のひとり、聡も毎回、自宅に帰る。
下校のとき、涼子と聡は少しの距離をいっしょに歩く。
涼子は、話すのが苦手だが、聡は脳天気な性格なようで、次々と話しかけてくる。
時々、涼子を怒らせるような発言をする。
頭に来た涼子は走って帰宅する。


「ただいま!」
玄関を開けるが、返事はない。
誰もいないことはわかっている。
窓辺のオジギソウに触れると、オジギソウは小さな葉を閉じていく。

涼子の家は、郊外の一軒家、家族4人で暮らしていた。
父、母、弟、涼子は何不自由なく暮らしていた。
あの日の前日、涼子は家族といっしょに車で親戚の家に泊まりに行くはずだった。
しかし、外出、親戚付き合いの苦手な涼子は、留守番をすると言って出かけなかった。
父、母、弟は、外出直前まで涼子を誘った。
「お姉ちゃん行こうよ。」
弟の言葉がまだ耳に残っている。
あの日以来、まったく連絡がないのだ。
自分の家族はまだ生きているのだろうか?

薄暗い部屋の中で、電話を見つめながら、缶詰を食べる。



雨の日、登校する涼子、学校にいるはずの男子3人がいない。
3人は電車での脱出のために出て行ったと、聡が説明する。
学校には、涼子と聡のふたりきりになる。
「どうして、いっしょに行かなかったの?」
「野生の感だよ。成功するとは思えない。リョウコはどうして?」
初めて名前で呼ばれて、内心驚く涼子。
なぜか心臓の鼓動が強くなる。
「父さん、母さん、弟を待っているの。サトルはこれからどうするの?」
涼子も聡を名前で呼んでみる。
「ここで暮らすよ。何とかなるさ。」
違和感なく会話が続く。
次に会うときには、少し離れた街に出かけようと、聡が提案する。
涼子は了解する。

その夜、自宅、涼子はひとりぼっちであったが、笑顔になった。
聡を初めて見たのは、いつだったのだろうか?
記憶をたどっていく。
4月新学期が始まりすぐの朝礼、同じクラスの列に並んでいたとき、目が合ったはず。
こんなに雨の日が待ち遠しいのは初めてだ。
電話番号を教えておけばよかったと後悔する。

夜中、遠くで電車の走る音、警笛の音が聞こえる。
脱出は成功したのだろうか?
列車はどこへ向かうのだろう?



雨の日、涼子と聡は学校で待ち合わせ、街に出かける。
近道のため、私服のふたりは高速道路を歩いていく。
所々に乗り捨てられた車がある。
聡は、車に乗りエンジンをかけてみる。
エンジンはかかったが、あまりにも大きな音がするため、怖くなりすぐに降りる。
急いで車から離れる。
「今度、動かしてみるよ。大丈夫そうだったら、乗せてやるよ。」
聡は強気に言う。
坂道で、雨水は足下を勢いよく流れていく。

灯りがなく、人のいないデパートの中を歩いていく。
新品の服が並んでいる。
「これさあ・・・貰ってもいいのかな?」
「これ・・・・・貰ってもいいのかな?」
ふたりが同時にしゃべる。
「何、同じこと考えてるんだよ!」
「何、同じこと考えてるのよ!」
また、同時にしやべる。
ふたりは笑い出す。
「取り放題と言っても、あんまり嬉しくないね。」
「いつでも貰えるしな。」

道の真ん中を歩くふたり。
街は半分廃墟になっていた。
路上で時々灰を見かける。
その度、ふたりは無口になる。

映画館に入っていく。
誰もいない場内で、ふたりは食事をすることにした。
「おまえら、そこで何やってんだ!」
突然、男の声がした。
ふたりは驚いた。
振り返ると、みすぼらしい格好をした中年の男が立っていた。
ふたりは驚きのあまり声が出なかった。
「まだ、生き残りがいたのか・・・この街じゃ、俺が最後だと思っていたのによ。」
落ち着いた涼子と聡は、自分たちのことを話した。
中年の男も自分のことを話した。
男は、この映画館の映写技師で、住み込んで働いていたとのこと。
「にいちゃん、ねえちゃん、映画観たくないか? いい映画持ってるぜ。」
涼子は、帰りが遅くなることが気がかりだったが、聡がどうしても観ていこうと誘う。
ちょっとした言い争いになったところで、映画の上映が始まった。
涼子はちょっと、ふてくされている。
映画は、1950年代のハリウッド映画、主人公は雨の中で傘を持ち、踊り、歌っていた。

♪・・・ドゥビドゥッ・ドゥ・ドゥビ・ドゥビドゥッ・ドゥ・ドゥビ・・・♪

せつないけれど、心が温まる映画だった。
上映が終わった。
「どうだい、良かったろ。また来たら見せてやるよ。俺のお気に入りなんだよ。」
涼子は、雨が止んでしまうから、早く帰ろうと言う。
男が自慢げに語る。
「おまえら、気がついてないのか? やつらは、水の下が見えないんだよ。」
男の説によると、濡れた毛布をかぶっていれば、晴れた日も外に出られるとのこと。
「おまえらも試してみろよ!」
「わっ・・わかりました。」
聡が答える。
涼子と聡は、映画館を出る。

帰り道、ふたりは嬉しくて、はしゃいでいた。
生き残った人に会えたこと、映画を観たこと、今、ふたりで生きていること。
涼子はわざと傘をささずに歩いてみる。
♪・・・ドゥビドゥッ・ドゥ・ドゥビ・ドゥビドゥッ・ドゥ・ドゥビ・・・♪
自然と口ずさんでいた。
まるで気分は映画の主人公のようだった。

観賞魚の店の前を通ると魚たちが狭い水槽の中で生きていた。
涼子は可哀想だと言い、学校のプールに放すことを提案する。
ふたりはリヤカーを発見し、魚たちをバケツに入れ、運んだ。
学校のプールに魚を放つと暗い水の中に消えていった。
辺りはすっかり暗くなっていた。
ふたりとも雨でずぶ濡れになっていた。
「風邪ひくなよ。」
「私は、大丈夫!」

聡は、涼子を家まで送っていく。
涼子は電話番号を教える。
また、ふたりで街へ行こうと約束する。



晴れの日。
やはり赤く光る物体は、やってきた。
涼子は、赤い光が入り込まない部屋の角で過ごしていた。
聡から電話がかかってくる。
電話は一日に一分しか使えなかったので要点しか話せない。


雨の日、涼子と聡は、また街に出かける。
歩くには遠いので、自転車に二人乗りしていく。
聡が前に乗り、涼子は後ろに乗り傘をさしている。
傘はあまり役に立たず、聡はずぶ濡れになった。
「涼子、疲れてるね・・・」
「そんなことないよ。聡は毎日、何していたの?」
「俺はさあ・・・」
聡は、サバイバルの知識を話した。
「すごいね・・・水で濡らした毛布は試した?」
「いや、試してない。あのおじさんは運が良かっただけだと思うよ。」
ふたりは映画館へ向かう。

映画館に到着するが、中年の男はいない。
大声で呼ぶが誰も答えない。
ふたりは諦めて、映画館を出る。
ほんの少し歩いたところで、ふたりは見つける。
雨が降る歩道に、毛布が広がり、そこから白い灰が流れている。
あたりには食料が散らばっている。
映画館の中年の男だとすぐにわかった。
ふたりは呆然と立ちつくす。
「おじさん、無茶しちゃだめだよ・・・」
聡が小さな声でつぶやく。

ふたりは必要な食料だけを手に入れて、帰ることにした。
高速道路を降りていつもと違う道を自転車で走っていくふたり。
涼子が何かを見つる。
自転車から降りてかけ出す。
一台の車だ。
涼子は息を切らせて呼びかける。
「ユウ! おとうさん! おかあさん!」
車のドアを開けるが、誰もいない。
「涼子! どうした?」
「これ! おとうさんの車なの!」
涼子は、車内のものを見つけるたびに、自分の家の車だということを確認する。
「近くにいるかも!」
涼子は大声で家族の名前を叫ぶ。
周囲からは何の反応もない。
涼子は泣きじゃくる。
「こんなに近くにいたんだ・・・」
家族の顔が目に浮かぶ。
聡は、涼子をなぐさめる。

聡は、涼子を家に送る。
「涼子・・・おまえひとりで大丈夫か?・・・」
涼子は小さくうなずく。
「じゃあなっ!」
聡は自転車に乗り、自分の家へ向かう。

涼子は気力を失っていた。
部屋のすみでうずくまり、家族のことを思い出しては、涙を流した。



晴れの日が続く。
涼子は食欲を失っていたが、体力をつけるために食事はしていた。
味は感じない。

晴れの日が続く。
家の中に食料が無くなった。
水道の水もついに出なくなっていた。
食料を手に入れるためには、外出しなければならないが、もし外に出れば赤い光がやって来て、人間を焼き尽くす。
一日に一回は聡から心配の電話がかかってきたが、いつも強気の返事をしていた。
しかし、今となっては、食料も尽き、体力も尽きていた。
聡から電話がかかってきた。
「涼子、大丈夫か?」
「聡、もうだめだよ・・・食べ物・・・無くなった・・・水もない・・・」
「何だって? なんでもっと早く言わないんだよ!」
「だって聡を心配させたくないから・・・」
「おまえ、何が好きなんだよ?」
「・・・花・・・」
「違うよ! 食べ物だよ!」
「・・・桃・・・」
「よし! わかった! 今から行くから!」
涼子は驚く。
「ダメだよ! 来ちゃダメだよ! まだ晴れてるから!」
「大丈夫さ! 安心しろよ! おまえの家にいくから!」
電話が途切れた。
涼子は聡の家に電話をかけるが繋がらない。

涼子は動揺し、苦しんだ。
自分が弱音を言ったために、聡がこちらに向かっている。
外は薄曇りの状態になっていたが、雨は降っていない。
聡は、赤い物体に焼かれてしまう。
自分のせいで聡を殺してしまう。
「・・・来ないで・・・来ないで・・・来ないで・・・来ないで・・・来ないで・・・」
涼子は唱え続けた。
涼子は苦しんでいた。
イスに座ったまま震えていた。

何十分たったことだろうか。
遠くから自転車の音と涼子の名前を呼ぶ声が聞こえる。
だんだん家に近づいてくる。
同時に、空が赤く染まっていく。
金属音が響き渡る。
「・・・リョウコ!・・・来たぞ!・・・」
聡の声が聞こえる。
「サトル! 来ちゃダメだよ! あれが来てるよ! 早く逃げて!」
「涼子!」
窓から見える空は完全に真っ赤に染まり、涼子の家の中にも赤い光が差し込んできた。
窓辺のオジギソウは光を浴びて灰になってしまった。
赤い光は、涼子の足下に近づく。
涼子は後ずさりして、部屋の奥へと追いやられる。
玄関を激しく叩く音が聞こえる。
「涼子! 開けて! 早く! 涼子!」
「聡!」
涼子は聡の名を叫ぶが何も出来ない。
赤い光はさらに涼子の足下に近づき、壁に押しやる。
「涼子!」
聡の苦痛に満ちた叫び声が聞こえる。
涼子の足の指に赤い光があたる。
激痛が走る。
「聡!」
涼子は叫び、赤い光の中に倒れ込む。



翌日、雨の日、涼子は目を覚ます。
気絶していたようだ。
うつろな目で部屋を見渡す。
腕が痛い、何かにぶつけたようだ。
涼子は思い出す。
赤い光は?
自分は生きている。
燃やされたと思っていた足の指先は無事だった。
窓辺のオジギソウはいつものように生きている。
昨日のことは夢?
聡は?
聡はどうしたの?

玄関の扉を開けると、そこには白い灰の固まりがあった。
聡だ。
涼子は泣き崩れた。
白い灰は雨に流されている。
涼子は泣きながら手でその灰をかき集める。
「・・・サトル・・・」
近くには濡れた毛布が落ちていた。
「・・・・・・・・・」
毛布の下には、食料、桃の缶詰、安っぽい造花があった。
「・・・私のために・・・なんで・・・」
涼子は家の庭に小さなシャベルで穴を掘り、灰を埋めた。

家の中で涼子は苦しんだ。
床にうずくまり、涙が枯れ果てるまで泣いた。

時間の感覚が無くなってきた。
気がつくと苦しいまでの空腹になっていた。
涼子は桃の缶詰を開ける。
一口食べるとまた涙が出てきた。
それでも桃を食べ続ける。
涼子はもうしばらく生き続けることができる。

涼子は自問自答し始める。
「わたし、何のために生きているだろう・・・」
「わたし、何でドアを開けなかったんだろう・・・」
「ドア開けていたら、聡は死なずにすんだのに・・・」
「聡を殺したのは、わたし・・・」
「何でいっしょに旅行に行かなかったんだろう・・・」
「あの赤い光って何なの・・・」
「どうしてみんな死んじゃったの・・・」
「ユウ、おとうさん、おかあさん・・・会いたいよ・・・」
「・・・聡・・・会いたいよ・・・」

幻聴が聞こえる。
「他人のために自分の命を捧げられるか?」
「・・・はい・・・」
「会うためのすべを知っているか?」
「・・・はい・・・」
涼子は答える。

涼子は水が半分も入っていない風呂につかり身を清める。

制服に着替えると、家を出る。
「・・・会いたい・・・会いたい・・・」
涼子は念じ続ける。
外は薄曇り、金属音が聞こえる。
それは近づいてくる。
涼子の向かう先は学校、空はだんだん雲が消えていき、赤く染まっていく。

学校に到着する。
涼子は、校庭の真ん中に立ち、空を見上げる。
この場所は、聡を初めて意識した場所だ。
周囲は、完全にあの飛行物体の発する光で赤く染まった。
涼子は、両手を天に差し出す。
天からは白い光が差し込み、涼子を包む。
涼子の体はゆっくり天に吸い込まれていく。
「・・・会いたい・・・会いたい・・・」
涼子は念じ続ける。
上空に上がっていく。
白い光がさらに輝く。
今度は涼子の体は落下し始める。
そして体は、指先、足から、燃えていき灰になる。
胴体、腕も灰になっていく。
灰はキラキラと輝き、涼子から散っていく。
「・・・会いたい・・・会いたい・・・」
涼子は念じ続ける。
頭も灰になっていく。
それでも涼子の瞳は、まばたきをせず、天を見つめる。
涼子の最後の姿が地面に落ちる瞬間、涼子は聡の姿を見た。
涼子の瞳から涙が流れた。
「・・・また、会えたね・・・」
涼子の顔面も灰になり、地面に白い跡を残した。



七月、朝、日差しの強い日。
学校では、退屈な朝礼が行われていた。
生徒達は、暑さの中でうんざりしている。
男子の列に聡がいる。
女子の列の途中には、石灰の粉が大量にまかれた部分があり、生徒ひとりぶん開けていた。
聡が自分の前にいる男子に話しかける。
「あの白い粉なんだよ?」
「俺が知るか!」
さらに話しかける。
「あそこって前に誰かいなかったっけ?」
「おまえ憶えてるの?」
「名前忘れたけど、顔憶えてるよ。どうしていないんだ?」
「知らねえよ。登校拒否か何かだろ。」
「ふ〜ん。」
退屈な朝礼がやっと終わる。
生徒達は、昇降口に向かう。

水の音がする。
プールに行った男子が騒いでいる。
「おーい、見に来てみろよ! すげえぜ!」
全校生徒がプールサイドに駆けつける。
聡もプールサイドに見に行く。
するとそこには、たくさんの魚が泳いでいた。
色とりどりの鯉が悠然と泳いでいる。
生徒達は驚き、感心し、笑いはじめた。
聡も笑おうとしたが、なぜか笑うことが出来なかった。

雨の季節は去り、空には夏空が広がっていた。




     完







この物語は映画の原案として1990年頃に創作したものです。
よって私の頭の中には、映像と音楽が存在します。
カメラワークを指示した絵コンテも存在します。
音楽については、OPとして THE ISLEY BROTHERS の 《 THE HIGHWAYS OF MY LIFE 》、EDには ABBA の 《 I HAVE A DREAM 》を使用します。
途中の挿入歌は、《 SINGIN' IN THE RAIN 》です。
自分の頭の中に勝手に存在する映画ですが、この文章を読んでくださった方に少しでも理解して頂けたら、さいわいです。

2006年8月29日 11時21分  古原麻衣子

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