いつかこういう時が来るのはわかっていた。
日本は狭い。縦横十文字に探せば国産シーラカンスなんてのが見つかるかもしれない。
ましてやここは東京、対象は人間である。今まで起こらなかったのがおかしい。
太郎が少しボーっとして、だんだん渋谷から原宿の方へうろうろしていた時、向こうに彼の知り合いが見えたのだ。
泥沼藻屑。いや、冗談じゃなくて、ホントにそういう名前なの。
とにかく、そいつが20mほど前方に見えたのだ。やつであるのは明白だ。ネギの花のようなアフロ頭、意味もなく周りを睨み回している目。しかしそれもしまりのない口で台無しである。おまけに奴の靴は左右で高さが微妙に違う。おかげでいつもギクシャクした歩き方をする。
彼は太郎と同じクラスだった。あだ名は「ナンバー1」。いっつもあらゆる成績で1とるから。算数、国語、科学、家庭科、生活態度、給食の後片付け・・・それらの功績により、最近「無差別絨毯爆撃」と呼ぶ奴も出てきた。
・・・はっきり言って一番会いたくない奴である。夜中に某有名ファーストフードチェーンでドナルドと会うのより怖い。太郎は頭をフル回転させ、とるべき行動を考えた。
*パターンその1*
さっさとUターンし、そ知らぬふりで消える。
可能性として、奴がこっちに気づき、追っかけてくるか、もっとまずければ学校で言いふらすに違いない。
大体奴の足の速さは普通ではない。補導の先生がいつも苦労している。
・・・却下。
*パターンその2*
記憶喪失のふりをする。
藻屑「あ?太郎じゃん!こんなとこで何してんの?ってかなんだよその格好。頭大丈夫か?」
太郎「・・・は?えっと・・・どなたでしたっけ?」
藻屑「どなたでしたっけって・・・おまえ、頭がアフガニスタンあたりに飛んでないか?」
太郎「(何でそんな微妙なとこに・・・)あ・・・いや・・・」
藻屑「・・・いや・・・やっぱいいわ・・・じゃ・・・」
・・・次の日「太郎のブレインアフガニスタン旅行中疑惑」が流れる。
・・・却下。
*パターンその3*
十六文キックで張り倒し、その隙に逃げさる。もしくは奮発してマ○オトルネードでぶっ飛ばす。
・・・次の日、顔写真が東京中に出回る。
・・・却下。
そんなこんなのうちに、結局藻屑は太郎に気がついた。
藻屑「あ?太郎じゃん!やな奴にあったなぁ〜」
太郎「・・・(俺の方がいやだよ、この”お〜い、お茶”の俳句募集野郎が。しかも思いっきり普通な対応しやがって・・・)」
藻屑「こんなとこで何やってんだよ?」
太郎「ああ・・・えと・・・散歩!」
藻屑「ああ〜、散歩か・・・。」
太郎「(・・・納得した?)そ、そういや、俺のこと学校で話題になってねぇ?」
藻屑「は?お前が?誰がお前なんか・・・あ、そういやお前最近学校来てねぇ?」
太郎「(気づいてなかったのかよ!?)」
藻屑「いや〜・・・別に。最近小林先生の頬がぴくぴくしてるけど、そのせいかもな。」
太郎「・・・・・・」
藻屑「あ、俺用があるから。じゃ。」
太郎は呆然として藻屑を見送った。向こうでは一人の女の子に話しかけた藻屑が見事な肘鉄を食らっている。
・・・とりあえず・・・安心・・・かな・・・
そう思いながら、太郎は一人涙を拭いた。
・・・続くと・・・
