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先日、我が校の第二学年の学年通信に以下のような文章が載った。
 この文章は中学生の道徳「道しるべ」(正進社・監修/荒木紀幸―兵庫教育大学教授)という教科書の中から、抜き出したものだそうで、二年生の道徳の時間に使用したという。
「純の誇り」―前島俊寛
 今日から教室やトイレの壊れたドアの修復作業が始まる。終学活が終わるやいなや純と正和は木工室へ急いだ。木工室には三枚のドアが並べられ、すでに隣のクラスの賢や生徒会長の文夫などが来ていた。また、一年生や二年生の緊張した顔もあった。集まっている生徒の中には、遊んでいてうっかりドアを傷つけて修復作業の手伝いを命じられた人もいるが、多くはボランティアである。木工室にはみんなのやる気がみなぎっていた。純は、前回初めて作業をしたときの気持ちと、今回の気持ちとの違いを感じていた。
「純、またやったのか。」
賢が声をかけてきた。
「いや、違うよ。みんなの手伝いに来たんだ。今回はボランティアだよ。」
純は誇らしげに答えた。
A中学校では年に三回、用務主事の川崎さんの指導のもとで破損したドアの修復作業を行っている。
川崎さんが作業の手順を整えてくれているので、中学生の技術でも修復されたドアはまるで職人さんが直したようにでき上がる。A中学校のドアは以前はスチール製であった。川崎さんがA中学校に赴任したとき、教室やトイレのドアの大半が壊されていて、ドアを直すのに大変な思いをした。A中学校は、そのころ「荒れた中学校」といううわさが広がっていた。ハンマーでがんがんたたいても、なかなか元通りに直らないスチールドアよりも、「ぬくもり」を感じさせるドアのほうが生徒にとっていい環境になるのでは、と考えた川崎さんは、その年の夏休みの間に教室のドアをスチールから木製に代えた。用務主事の仕事に就く前は自動車会社に勤めていた川崎さんに、ドアを作る技術や素養があったわけではなかった。川崎さんは用務主事の仕事を先輩の仕事ぷりを見聞きしながら独学で身につけてきた。したがって、ドアをひとつ作るのにも何度も何度も試行錯誤し、さまざまな努力を積み重ねた。その結果、壊れた教具の補修、樹木の剪定、床のワックス掛け、ペンキ塗り、など今ではプロ級の腕前である。「生徒にいい学習環境を提供することが自分の職務だ。」と、川崎さんは、学校の環境整備、環境管理という用務主事としての仕事に誇りを持っている。
川崎さんが用務主事の仕事に就いて一番気になったことは、生徒が用務主事の仕事を軽蔑したり、声をかけても無視されることだった。そこで、生徒と一緒に作業をすることで用務主事に対する生徒の意識も仕事への理解も変わるだろうと、さまざまな機会を見つけて生徒と一緒に作業を始めることにした。
純がドアの修復作業にかかわったのは三か月前のことである。正和や昇たちと鬼ごっこをしていて、教室に飛び込もうとした瞬間、純の体が、昇が急に閉めたドアにぶつかり、ドアに亀裂ができてしまった。
「しまった、やってしまった。」
「どうしよう。」
悩んだ末、三人は担任の海老沢先生に報告に行った。職員室にいた海老沢先生は、
「壊したのは仕方ないな。川崎さんに頼んでおくので三人で修復作業を手伝うように。川崎さんは放課後木工室にいるので、おわびをしてこれからどのようにしたらいいか相談しなさい。」
と言われた。純には川崎さんといってもだれだかよく分からなかった。今まで学校で働いている人たちに対して無関心でいたのである。
すると正和や昇が、
「廊下の掃除をしたり、校舎の整備をしている人だよ。少しおっかないんだ。」
「そういえば、昇降口で上履きのまま外に出たらどなられたことがあったな。厳しそうな人だよ。」
と教えてくれた。
その日の放課後、三人はぴくびくしながら木工室へ向かつた。木工室をそっとのぞくと、川崎さんは一人でもくもくとカンナでベニヤ板を削っていた。
「すみません。あの、僕たち、今日ドアを壊してしまったんですが。」
どきどきしながら昇が声をかけると、
「君たちは三年A組の生徒かい。海老沢先生から聞いたよ。入ってきな。」
と、ぶっきらぽうな声が返ってきた。
三人はおそるおそる川崎さんのそばに近づいた。
「まあ、そこのいすに座れよ。」
「今、ドアの修復作業の準備をしているところだ。来週始めるから、君たちで壊したドアは君たちで直すんだよ。やり方は詳しく教えるから心配するな。だいじょうぶだな。」
三人は「はい」と返事をした。すると、川崎さんは手を休めることなく次のようなことを話し始めた。
「校舎は生きているんだよ。人間と同じように呼吸をしたり、汗をかいたり、病気もするし、老化現象も起こるんだ。古くなった校舎は、壁のペンキがはがれたり、蛍光管が切れたり、床が汚れたり、人の体から垢がしみ出すように病気だらけになってしまうんだ。だからだれかが手を貸してあげなければならないんだよ。人は汗をかいたら汗をふくことができるし、病気になったら医者に行くことができるだろう。校舎は壊されてもひびが入っても声さえ出すことができないんだ。だから、校舎は日々の清掃や修繕でいくらでも長持ちするはずだ。ドアをけとばしたり、物を壊すことは校舎にとって痛みであり悲しみなんだ。みんなも優しくいたわって使ってほしいんだ。私はそういう思いで毎日の仕事に取り組んでいるんだよ。」
川崎さんの話を聞いているうちに、純は心が洗われていくような気持ちになった。
一週間後、三人の力でドアは見事に修復した。そのとき、純は川崎さんと心が通い合ったような気がした。
純は今、A中学校の一員としての『誇り』を感じている。けっして新しくはないけれど、年々きれいになってきているA中学校の校舎のいたるところに、川崎さんや先生方、そして多くの先輩たちの「自分たちの学校は自分たちの力できれいにしていこう」という思いがしみ込んでいて、それが自分に何か
を伝えているような気がしている。純は、自分の感じている『誇り』を下級生にどのように伝えていくかが、これからの自分たちの役割であると考え始めている。
この学年通信を使っての道徳の授業を受けて何人かの生徒が小作文を書いてくれました。その内容に感動して自分でも返事を書いてしまいました。


二年生の皆さんへ

 二年生の学年だより「愛と学(2003212日号)」でA中学校の用務主事・川崎さんが順君・正和君・昇君たちと教室のドアの修復作業をする話を読んで、16人の二年生から感想の作文をいただきました。
 ありがとうございました。「二中はほかの学校にくらべてもキレイだと思った」「二中はすごくキレイで清潔感があって生活しやすい」「物を大切にしなくてはとつくづく思った」「縁の下の力持ちですごい」「用務主事さんのおかげで学校の校舎・校庭がキレイでとても気持ちいいです」「用務主事さんは学校の影のヒーローだと思った」など涙が出るほど感動しました。
 実は普段、私も川崎さんと同じような気持ちで仕事をしています。
 学校が使いやすくて、きれいで、安全であることはとても大切なことだと思います。なぜなら、みんなぐらいの年齢の時にきれいな環境で育つことは、将来にわたっても身の周りをきれいにしようという気持ちになる大切なことだからだと思います。逆に汚いところにいつもいれば身の周りが汚くても平気な大人になってしまうと思います。
 学校は建てた時はきれいなものです。でも大勢の人が生活していればだんだん汚れてきます。埃などは自然にたまってきます。
 だから掃除をするのですが、掃除をした後、廊下や教室がきれいな状態であっても、鼻をかんだ人がティッシュをゴミ箱に捨てないでそのまま床のポイと捨てて、それを誰も拾わないでいれば、また次の人が捨ててしまい、すぐにゴミだらけになってしまいます。
 教室やトイレのドアや壁もおんなじです。ちょっと壊れたときにすぐに直すことが大切で、いつも建てたときと同じ状態にしておかないとドンドン汚くなったり壊れていったりするのだと思います。
 ですからみんなできれいに、大切に使うという気持ちを持つことも大切ですし、ちょっと汚くなったり壊れているときはそのまま見過ごさないで、自分できれいにするか用務員さんや先生方に頼んできれいにしてもらったり、直してもらったりすることが大切なのだと思います。
 それからみんなはよく廊下や教室で、時にはトイレの中でふざけ合いっこをしていますね。ふざけ合うことは仲がいいことで本当にいいことだと思いますが、遊びに夢中になってつい物を壊してしまうことがあります。
 それからは色々なことがあってムカついて、つい物に当たってしまうこともあるかもしれません。そんなときも物を壊してしまうことがあるかもしれません。

 こういうように物を壊してしまった時は勇気を出して、申し出てもらいたいのです。「どうせ誰がやったかわからないから」と知らん振りを決め込むのでなく、自分がやってしまったことを申し出て、謝罪するということが責任を取るという世の中に出て非常に大切なことだと思います。
 まだ皆さんは子供から大人になる成長の過程ですから色々な失敗があると思います。壊してしまったということはありえることで、そのことについてはとがめません。そのなかで大人になって大切な「責任を取る」ということをぜひ覚えてもらいたいと思います。

 これからもみんなでキレイな二中になるように心掛けましょうね。
                                 二中・用務主事・島ア孝明

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