そろばん塾の頃

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詞 Y&K
曲・編・歌 つよし

壁一面に蔦が這う二階建ての
草色の建物は時の流れから
切り離された世界を生きて 呼吸してきたのか

午後四時になると二階の教室に
風のように集まってくる子供たち
本気も遊びも何でもありの ここはそろばん塾

初めてすわった席の前から そこはかとなく漂ってくる香り
それに負けない真っ白な笑顔が 「こんにちは」と礼儀正しく振り向いた

淡い色の風が吹く すべてを塗り変えて
その形わかるほどに きりきり痛む胸
恥ずかしい僕の青春時代は
パチパチの音とともに幕を開けた


強烈な西日が差し込む窓の外
再開発を間近にしたこの町は
ひなびた風情がたぶん最後の 夏祭りの準備

思いを形にしたい僕の行動は
勇気を出し祭りに君を誘うこと
いびつな紙切れ稚拙な文字に 頷いてくれたね

一時間が経ち君は来なくて すきっ腹にしみる焼きそばの匂い
諦めかけてぶらつきはじめたら 一つ先の角で君が待っていた

火照る夢はあんず色 眩しい白熱灯
ハッピ姿に紛れて 一途な夜が更ける
もどかしい自分史に閉じ込めた
パチパチの音は初恋のメロディー


あのあと父に転勤の辞令がおり
秋風とともに我が家は引っ越して
新しい暮らしに慣れるにつれ 君が薄れていった

エアコンの調子が悪い今年 記録的な熱帯夜が続く夏
惰性で飲むビールは水がわり それでも次第にからだは熱を帯び

うちわの風に連れられて あの日の君と僕
どこまでも歩いて行け あの日のあんず色
あやしげな僕の記憶の森では
パチパチの音がかすかに響いてる



 

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