塩の道(其の一 掛川から水窪まで)


2004年11月20日(土)

今日から三泊四日のロングツーリング。
初めての経験である。

話を持ちかけられたのは、ひと月ほど前。
果たして完走できるのか、不安はあったが、毎週の走りこみで
足慣らしだけはしておいた。

このツーリングに備えて、相棒も上り仕様に改造。
ロー側ギア比1:1まで確保できるようにしたのだ。
なにせ1000mオーバーの峠を2つも通るのである。

静岡方面のイベントでは、毎度お世話になっているこだま441号。
これに乗るには、この時期なら日の出前の出立となる。
小田原で、東海道線から乗り換え。
いつもの場所、最後部座席のうしろに相棒を置こうと乗り込むと、
そこはすでに占領されていた。 
これはどう見ても輪行袋だが、持ち主はいずこか。
通路反対側の座席のうしろもゴルフバックに占領されている。
車内はいつもより混んでいて、お気に入りの窓際の席も空いていない。

相棒をデッキの手すりにくくりつけ、席につく。
乗り換えの気ぜわしさから一息ついて、車窓にはすっきり晴れた景色がひろがる。
その目を何気なく隣に向けてみると、手にしているのは『ロードオブザソルト』
つまり今回のツアーの案内メールだった。
なんと、こんな近くに輪行袋の持ち主がいた。
このツアーで同行する東京のIさんと、偶然の初対面である。

お互いに自己紹介などをしつつ、定刻に掛川駅到着。 
駅前で相棒を組み立て、ツアーの出発式がおこなわれる、掛川城三の丸広場へと向かう。

すでに他の参加者11人は揃っていて、我々2人が最後のよう。
8時半の集合とは、遠距離輪行参加者には少々きつい。

今回のロングツーリングは、ここ掛川から長野県の塩尻まで、
267キロを走る、かつての塩の道をたどるイベントなのだ。
実際に太平洋岸の相良町で、昔ながらの製法でつくられた塩と
掛川のお茶を運び、途中の水窪、飯田、高遠、そして最終目的地の
塩尻へと届けるのである。

 掛川城 三の丸広場

出発式や記念撮影を終えて、9時走行開始。
三泊四日の行程のわりに身軽なのは、走りに不要な荷物を
サポートカーに運んでもらっているからである。 
これは楽ちん。 支援体制も万全のようだ。

塩の道と言っても、東海道や中山道のように『塩街道』なるものがあるわけではない。
沿岸で作られた塩を、内陸部へ運ぶための道は自然と、こう呼ばれるようになった。

そういう意味で『塩の道』は全国各地にあるのだが、今回の走行ルートである
掛川から塩尻、また日本海側の糸魚川から塩尻を結ぶルートは、
日本一長い塩の道として有名なのである。

掛川市内では、昔の塩の道を、できるだけ忠実にトレースしようという趣向。
ほとんど路地のような細い道もあるが、そこここに塩の道の碑がある。

 塩の道の碑を見つけて立ち止まる

 朽ちそうな祠がなんとも

 掛川市内にはいくつも塩の道の史跡が残っている。

ポタリング気分の掛川市内を抜けて森町に入る。 遠州森の石松の森だ。
前にも来たことがあるが、城下町の宿場風情がたっぷり。
サイクリングにおすすめの場所のひとつである。

 秋葉街道 森宿

宿場のはずれにある茶店で一休みする。
ここまでおよそ2時間弱、スローペースで走っているので疲れも無く、調子もいい。
そして、さすが茶どころ。 一服のお茶がとてもおいしい。

 森町 茶店で少々休憩する

茶店から先は、いよいよフリー走行開始。 
快速ロード隊は、あっという間に走り去っていく。 
私も含めたランドナー隊は、あくまでのんびりペース。 
これからの長旅に備えて、脚力と体力を温存しておかなければ。

途中何度か集団をまとめるために小休止をとる。
ランドナー隊は最後に到着し、休みもそこそこに、また走り出すことになる。

 森町 三倉付近

三倉からは、川沿いにジワジワと上るコース。

 舟場沢に沿って進む

三倉トンネル、周智トンネルと、2つのトンネルを抜けて青洞の丘に出る。
すでに12時近い。 陽が高く、遠くの山々まで綺麗に見える。
秋は深まっているが、常緑樹の多い山々は緑が濃い。

 青洞の丘からの展望

ここからは下り。 
ウィンドブレーカーを着込んで寒さに備えるが、下りはそれほど長くなかった。
陽も高いし、不動川に行き会うあたりで脱いでしまった。

 秋葉神社下社

不動川が気田川と合流するあたりが犬居の集落。
秋場神社下社には12時20分頃到着。
ここまでの走行距離は約40キロだ。

昼食をとってから秋葉神社へ安全祈願のお参り。 走り出しは13時である。
今日の目的地、水窪までは、あと50キロほどある。
途中、峠を一つ越えるので、到着は日没後になりそうだ。

 気田川沿いに走る

気田川に沿って県道を走り、天竜川に出会う。
緑がかった水の色が独特だ。 しばらく走ると秋葉ダム。 
天竜川には、上流から、泰阜ダム、平岡ダム、佐久間ダム、秋葉ダム、
船明ダムの5つのダムがある。
秋葉ダムは、佐久間ダムに次いで、2番目の大きさである。
意外と小ぶりにも見えるが、ダムの両サイドに取水口があり、
3つの発電所を従えているのだ。

 秋葉ダム

秋葉ダムで小休止の後、天竜グリーンの水面を横目に快走する。
車もほとんど通らず、快適だ。
川岸には桜の木がズラリと並んでいて、これは秋葉千本桜としても有名らしい。

 秋葉湖(ダム湖)

 吊り橋が多い

秋葉ダムから約10キロ、西渡(にしど)から、今日最大の難所、八丁坂にかかる。

説明板によれば、この地は昔、天竜川を遡った船が集まる港町。
荷揚げされた塩や味噌などの生活物資は、ここから浜背負い(はましょい)
と呼ばれる人足に担がれ、八丁坂を上り、明光寺峠を越えて陸路塩の道を運ばれたらしい。

 佐久間町 西渡(にしど) ここから始まる八丁坂

 八丁坂(旧道 山サイ好きの方は是非こちらを)

この八丁坂、よく胸突き八丁などと言われるように、距離はさほどでもないのだが
グイグイと上っていく。 急斜面をジグザグと縫うように、道は山の上へと伸びている。
ここでようやく1:1ギアの登場である。  すでに15時をまわって陽も少し傾き、
峠への山道は心なしか寂しく、一人ペダルをこぐわが身がむなしい。
あえぎつつ上りつめれば、切り通しの明光寺峠、地図でみれば標高は350mくらいか。
峠の標識もなにもない。
すでに先着のロード隊がいて、残るメンバーをここで待つ。

 八丁坂を登りつめると明光寺峠

陽のあたらない峠は寒い。 またウィンドブレーカーを出して着込む。
全員集合して走り始めたとき、すでに16時になっていた。

ところでこのあたり。 標高はさほどでもないのだが、景観がまた独特。
急峻な山肌にへばりつくように民家がある。
まさに陸の孤島だ。 
都会の生活に慣れた身にはこの地での生活は想像もつかない。

 山肌にへばりつく民家

明光寺峠から1時間ほどで、今日の宿泊地、水窪にようやく到着。
ところが、行く手に伸びる塩の道は、なんと階段を上る細い道ではないか。
85キロあまりを走ってきた脚に、カツギはこたえる。
わずかな距離なのだろうが、参加者全員から嘆きの声があがる。

 塩の道を担ぎで登る

上ってみれば、水窪の街を見渡せる高台のうえ。
すでに陽は落ち、気温もぐっと下がっている。
平地なら冬と言っていい寒さに、吐く息も白い。

 暮れなずむ水窪の街 寒い

今日一日だけ参加の3名を、皆で水窪駅まで見送ってから宿へと向かった。

本日の走行距離:89km

記録トップページに戻る


トップページに戻る