さった峠〜清水港


2003年3月9日(日)

今日のタイトルは『旧東海道(其の五)由比から金谷まで』に決まりだな
と思って出かけたのですが...。

朝一番の静岡行き列車を利用することにする。 これで乗り換えなしに由比まで行けるのだ。
3月に入り、日の出前の寒さもかなり和らいできた。
おまけにホームの時刻案内には『2ツドア』と出ていて得した気分になる。
列車接近のアナウンスに続いて、列車が近づいてくるのだが、ヘッドライトが先頭車両の四隅に光っている。 
特急『東海』用の373系新型車両だとすぐわかる。 『踊り子』タイプのちょっと旧式の車両だと思っていたので、なおさら得した気分。  
今日は一日ラッキーかもしれない...。

朝陽をうけて長い影が伸びる列車の右手に富士山が見えてくる。 雲ひとつない青空に白が映える。
今日の目的は旧東海道旅を先にすすめることより、さった峠から雪化粧の富士山をみることのほうが大きい。
このさきどんどん暖かくなっていけば春霞で見通しも悪くなっていくだろう。
なかばあせりのような気持ちもあっての輪行旅である。

とはいえ特急用車両はさすがに乗り心地がいい。 広めのリクライニングシートにゆったり座っているうち
朝早かったこともあってついうとうとしてしまう。 
途中駅でふと我に返り、構内のはずれにとまっている列車に目がいく。 まぎれもない、こまちだ。 
秋田新幹線のこまちである。 ここは沼津。 

ピッカピカの秋田美人は、どうやら製造会社から車両基地への回送途中らしい。  
鉄道写真マニアなら泣いて喜びそうな光景である。 
私など鉄道マニア度でいえば新幹線の0系と100系の違いがわかる程度だが、ここはしっかり写真に収めておく。

 沼津にこまち?

神奈川からの富士もきれいだったが、富士川付近からの富士もまたきれい。 
窓ごしだが何枚も写真に収める。 がしかし、タイミングが合わず、架線や建物などが邪魔をしてほとんどNGだ。
デジカメの擬似シャッター音が静かな車内に響きわたっているようで少々恥ずかしい。

 車窓からの富士山

定刻どおり由比に到着。 ホームに降りるとかなり風が強い。 相棒を入れた輪行袋があおられる。
風が強いと雲もかかりやすい。 それでは困るので、改札を出るとそそくさと相棒を組み上げ、走り始める。
組み上げにかかった時間は最短だったかもしれない。

東海道線と並行する旧街道を南西に向かい、少々の登りをいくと、左手に朝陽輝く海がひろがってきた。
後ろを振り返ると富士山は頭の部分だけのぞかせている。 雲はかかっていない。 先を急ごう。



旧街道沿いに雰囲気たっぷりの家並みがつづくが、気もそぞろ。
望嶽亭を横目に、峠への急坂を登っていく。 
再び振り返ってようやくこの景色である。 

 一眼レフで写真撮ればよかった

他に観光客もおらず、絶景を独り占め。 これがあるから自転車旅はいい。

愛用のニコンを持ってこなかったことが悔やまれるが
場所を変え、アングルを変え、写真に収める。
そしてしばらく、ただぼーっと富士を眺める。

 風が強く、海にはところどころ白波も...

『景色というものは五分も眺めていれば飽きるのであって』と宮脇俊三さんも
著書の中に記してあるが、今日はいつもより長い間眺めていたと思う。

さて、思いを遂げ、そろそろ行こうかと支度をしていたのだが、
このホームページが縁で知り合った清水のSK氏にコンタクトしてみたくなった。

思い出したようにメールでやりとりをする程度だし、今月は忙しいはずなので
少々気が引けたが、近くに来ていることだけ伝えたかった。
『今さった峠にいます』と告げると『富士山きれいですよね』との返事。
同じ景色をみているような言葉に、ひょっとしたら近くに潜んでいるのではないかと思ったほどである。 
連絡だけのつもりだったが、SK氏は近くの駅前で合流しましょう、と言う。 

待ち合わせの駅までは少々の距離と時間があるが、こんなときに限って道を間違え、遠回りしているようである。
せっかく来たので途中の史跡も写真に収めていたが、だんだんと時間がなくなり、とうとう遅れ気味になってきた。

 清見寺 山門の向こうは東海道線、その向こうに鐘楼と仏殿がある。

SK氏から『もう着きました』などと連絡もあり、写真撮影は中止。 ギアをトップに駅へと急ぐ。 
国道1号からぐっと左折して駅前広場にアプローチ。 ケルビムのランドナーと、朝食用のパンを片手のSK氏にご対面である。

感激の初対面という場面なのだろうが、旧知の友人との再会のようで、『おう、相変わらずだなあ』という感覚である。
家は近くなのでコーヒーでも、というお誘いに乗り、すこしばかり旧東海道をトレースしながら向かう。
青空とポカポカ陽気の下、若草色のケルビムについて走る。

ポタリング気分で10分ほどか。 SK氏宅に到着。 玄関ではキャノンデールのタンデムが
存在感たっぷりに出迎えてくれるので、つい観察。  奥様への挨拶が後回しになってしまう。
SK氏と奥様に案内されて家の中へ。 さらに7台はあるという。 ロードにパスハン、奥様用のミキストランドナーなど。 
仕事部屋だけでは収まらず、ダイニングも占領している。
外の物置には数台吊るしてあった。 本職とはいえ、自転車屋敷そのものである。 
自転車が自転車を生む。 そんな感じで増えていったのだとか。

街道筋で仕入れた名物の追分羊かんと、奥様の入れてくれたお茶で自転車とカメラと鉄道の話がはずむ。
と言ってもしゃべりはもっぱらSK氏である。 私は誰と会ってもそうなのだが聞いているほうが多い。
こういうとき、話術に長けた人をうらやましいと思うのである。
奥様も突然の来客には慣れているのか、自然な感じで応対してくれるのでありがたい。

お茶だけ頂いておいとまするつもりが、お昼までご一緒することになってしまった。
清水駅近くの魚河岸市場まで買い出しに行こうと、玄関から出ると目の前にでっかく富士山が見える。
峠で交わした言葉の理由がわかった。 こんな景色が日常生活にあるのだからうらやましい。

 SK氏宅から望む富士山

SK氏、奥様、私の3人は自転車ではなく車で向かう。
昼どきに近く陽気もいいためか、近くの駐車場は満車、市場の中も満員御礼である。
珍しいイルカの肉がおいてあり、味噌煮にするといい、と店のおにいさんが教えてくれた。
マグロの目玉とか、そういったものばかりに目がいっていまう。
以前、三崎で食べたマグロの目玉焼きを思い出してしまった。
SK氏宅に戻りお食事タイム。 遠慮もなくおなかいっぱい食べてしまった。
このままゴロリと横になったら夕方まで熟睡できそうだ。

とっておきのコース情報、仕事の裏話など食後も楽しく話がつづくが、そろそろ本当においとましなければ。
今日は一緒に走れないのが申し訳ない、と言うほど忙しい日曜日であったはずなのに、こちらこそ申し訳ない。 
最後にわがままを言って奥様用のミキストランドナーの写真を撮らせてもらった。

 赤いフレームとバスケットがいいですね。

そしてSK氏と記念のツーショット。 本音を言えば奥様との写真も撮りたかったが、変に思われそうで口にはしなかった。
もう2時をまわっている。 本当に長居をしてしまった。
SK氏、奥様とも見えなくなるまで見送ってくれた。


さて、金谷行きなどとっくに諦めているが、このまま帰ってもつまらないので、
お二人の勧めもあり清水港あたりをまわって帰ることにする。

三保へ向かうサイクリングロードは清水港線の廃線跡を利用したものである。
中央線で区切られ、片側は歩道、片側が自転車道ときちんと分けられている。
舗装もしっかりしていて綺麗。 サイクリングを楽しんでいる親子を何組も見かけた。

 サイクリングロード脇に保存車両が展示されている。

SK氏宅を出るとき、あれほど快晴だった空に一点黒雲がでていたのが気になっていたが、
サイクリングロードの終点、旧三保駅に着き、空を見上げると、黒雲の範囲がずいぶん広がっている。
遠くに見える山にはその雲がかかり、どうやら雨が降っているようだ。

 旧三保駅にも保存車両が展示されている

このまま半島を一周するのはまずそうな雲行である。
塚間の渡し船で対岸に渡ることにする。 運行表を見るとタイミングよく5分待ちくらいで次の便がある。
船着場に出てみると、渡し舟がこちらに向かって近づいて来るのが見えた。 なんとなくそのまま見物していると、
いよいよ近づいた小さな船だが、たいして船脚も落とさず、豪快に突っ込んでくる。
浮桟橋まであとわずかというところでエンジンがうなりをあげる。 後進をかけたのだ。
甲板に出ている乗船客はぐっと前のめりになり、勢いあまって浮桟橋にぐぐっと接岸すれば今度はよろけている。
これはいわゆる商船流儀の操船ではない。 漁船流儀の操船だ。 この船長はきっと漁師だったのだろうと思う。

 塚間の渡し 塚間の船着場 空には黒雲 

渡ってきた10人ほどの客が下り、相棒と共に船へ乗り込む。
こちらから乗るのは、幼児用の補助椅子をつけたお買い物自転車2台とその家族。
ピースの空き箱を海に投げ捨てた、けしからぬおやじ。 そして私。 のどかなものだ。
船長兼甲板員兼事務長に船賃を支払う。

時間が来て出航だ。 途中、貝島の船着場、清水の船着場でも相変わらずの大雑把な操船である。
俺のほうがきっと上手いぞ、と思うのである。 
旅情に浸る間もなく、5分ほどで渡し船の旅は終わる。 

 自転車よりものんびりと...

船を下り、清水駅へ向かって走っているといよいよ雨が降ってきた。 だんだんと強くなってくる。
駅はすぐそこなのでさしてあせりもしないが、この突然の雨は、今日は要らないだろうと初めて置いてきた
雨具の仕返しにも思える。 駅では旅行会社の軒先がちょうどよく雨がかからず空いていた。
少々濡れた相棒を分解し帰り支度。 切符はみどりの窓口で買う。 
もう自動販売機では買えない距離まで来ているのだ。
旧東海道旅の日帰り輪行もそろそろ限界が近い。 

三島行きの列車に乗ったが、沼津始発の品川行列車との接続がアナウンスされたので、乗り換える。
始発列車は反対ホームに止まっていた。 待っている乗客は少ない。
閉まっていたドアが開き、いつものように座席横に相棒を固定する。
今日撮った写真を小さな液晶画面でチェックしながら出発を待つ。
発車時刻にはまだ間があるはずなので、車中の相棒を写真に撮っておこう。

 このあと事件が...

ホームに降り、カメラを構えていると、あろうことか汽笛に続いてファインダー越しに見えるドアが閉まる。

まさかそんな....そのままの姿勢で固まってしまう。  時間を見誤ったか...

ほどなくドアは再び開き、相棒に置き去りにされるという最悪の事態は回避されたが
まぎらわしくドアの開閉テストなどしないでほしいものである。
どきどきを鎮めるため、近くの売店で缶ビールを買い、ぐっと飲み干す。
一本では足らなくて、もう一本買い足してから相棒のもとに戻り帰路に着いた。


最後のどきどきは余計だったが、今日は一日楽しかった。
SKさん、奥様、ありがとうございました。

本日の走行距離:26キロ
とってもお世話になったサイクリスト:2人


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