道楽鉄路楽


不定期刊の綴り方  輪行旅での出来事、感じたことなどを問わず語り

外メシ 第11話
ただ今炊飯中。 米は指定銘柄。
また機材がいいね。 トランギアのメスティン。
西洋飯盒。 いかにもツウ好み。

今季最強の寒波とかで、陽は射し空も高く澄んでいるのに、
気温は一桁前半。 そして風が強い。 体感気温は零度くらいだろう。
デリバリーバンの荷室を簡易改造した移動テント(とはオーナー氏)。
これなら吹きさらしに凍えることもなく調理ができる。

タイミングよく、沸騰が始まっていた。
吹き上がる水蒸気が勢いを増し、フツフツと煮える音も軽やか。
やがて香ばしい焦げ臭が漂ってくる。
ヂリヂリと焼け付く音が落ち着いたところで火を落とす。
五分ばかり蒸らせば炊きあがりだ。

そろそろ頃合、蓋に手をかける。 期待と不安が入り混じる・・・。
パコッと蓋を開けると湯気がモワモワ。 そしてご飯に合焦。
おほ、っと思わず声が出た。

飯盒の中はシーフードピラフだったのだ。
オーナー氏はこちらを見てニヤリ。 したり顔である。
やられた。 こういうサプライズにはめっぽう弱い。
大ぶりのスプーンで天地返しを入れてやる。
隠れていたエビやらイカやらゴロゴロ出てくるではないか。
まったく、嬉しい。

あつあつを口に運ぶ。 塩味が効いたバター風味が絶妙だ。
二合は炊けるメスティンをガツガツと平らげ、ああ満足。

隠し味は、ここが幹線駅の駐車場というロケーションだ。


管理人より:車内で火気を利用する際は充分な換気をおこなってくださいね。
photo:saipless
ソースカツ丼 第10話
ソース派かしょうゆ派かと問われれば、即座にしょうゆ派と答えられる。

目玉焼きでも唐揚げでもトンカツでも天ぷらでも、
とにかく何でもしょうゆをかけて食べる。
そんな私が惚れてしまったソースカツ丼。

究極とか至高とか(ちょっと古いか)そんなことはどうでも良くて、
とにかくうまかった。

信州 大町のとある店で食べたソースカツ丼。
また食べたいね。
ジュース 第9話
汽車に乗って、ちょっと遠くにお出かけ。
そんな時の楽しみは、甘いジュース。
買ってもらった冷たいジュースは、汽車が動き出すまで飲まないんだ。

ジリジリと大げさなベルがなって、ガッタンガッタンと列車が動き出す。
その揺れを大げさに真似してふざけたりする。
窓をいっぱいに開けて、ちょっとだけ顔を出して風を受けたりする。
そのまま目をつぶって風と汽車の音に夢中になる。
こんどは手を出して、手のひらに風を受けてみる。
傾きを変えて、浮いたり沈んだりするのを楽しんだりする。

ひとしきりの一人遊びに飽きてきた頃、ようやくジュースを出してもらう。
いつの間にかタオルにくるまれている。
王冠が曲がらないように、自分で栓を開けるんだから。
はじっこを引っ掛けて少しずつ開ければ大丈夫。

ほらね。 でもちょっとぬるくなりすぎたみたい。

王冠は持って帰って宝物にするんだ。
彼女 第8話
とある場所に保存されていた蒸気機関車。 D51型、通称デゴイチ。
この型は、主に貨物列車を牽引するパワフルなタイプである。

C57型が貴婦人と呼ばれるように、その力強さにもかかわらず、蒸気機関車は女性扱いなのである。
見た目も優雅な客船や帆船を女性扱いするのとは随分違う。

調べてみると車や自転車も女性扱い。
要するに見境もなく夢中になる対象だからということなのか。

まあとにかく、彼女を綺麗に、機嫌よく保つには金がかかるのだ。
想い 第7話
山奥の村にある一棟建の木造校舎。
築70年以上。 閉校になって、10年以上が経つ。

ギッギッと重くきしむ階段を上って教室を覗いてみる。
小さな木の椅子の背に掛けられた赤いランドセル。
廊下には昔の子供達の様子を生き生きと捉えたモノクロ写真。

オカッパ頭の女の子がブロック塀の上を平均台にして遊んでいる。
白いブラウス、素足につっかけたサンダル。 笑顔がまぶしい。
ああ、なんて懐かしいんだろう。
昔は良かった、などという平坦な気持ちでは無い。
激しく心が乱れるのがわかる。

耳の奥で女の子の笑いはじける声が聞こえる。
今にもこっちに向かって駆けてきそうな錯覚にとらわれる。
そうしたら、同じ年になって、憎まれ口をたたきながらも
一緒になって遊びたいんだ。

でも、それはかなわぬ想い。
言い出せずに届かない想いとおんなじなんだ。

あふれそうになる涙をこらえるのに精一杯だった。

注意一秒 第6話
人里にある程度近い山道を走ると、こんな看板に出会うことがある。
熊だったり鹿だったりすることもある。 あるいはスズメバチだったり。

幸いにも、そのような外敵に襲われたことはないが、危険はもっと近くにある。 路肩に吹き溜まった砂、雨の日のマンホールや道路に引かれた白線、湧き水に濡れた落ち葉・・・。

どれも一度ならずヒヤッとしたことがあるものばかり。
ヒヤリ体験を放っておくと重大事故に繋がるというのは、有名なハインリッヒの法則だが、事故に遭わないためには注意して危険予知するしかない。

昔、バイクツーリング中に転倒した仲間を避けようとして、こちらも転倒したことがある。 足首をひどく捻挫し、今も正座ができないでいる。

怪我一生の典型だ。

男性自身 第5話
とある場所で撮った写真。 小さなお堂の裏手だった。
枝垂れる桜と祠の組み合わせがよくて、遠めからズームで狙ったのだが、祀られているものがモノだったとわかったのは、撮ったあとで祠に近づいてから。 お地蔵さんだとばかり思い込んでいたので思わず苦笑い。

陰陽物信仰は、まだまだ各地に残っていて、まあ、ひっそりと息衝いていると言っていいのだろうが、なかには宇和島の多賀神社にある凸凹神堂のようにメジャーなものもある。

旅の途中で見かけても、しげしげと眺めるのもなんだし、それを写真に撮るのもはばかられる。 あまりに大らかに、お天道様の下で堂々としているのを見ると、こっちのほうが気恥ずかしくなる。

写真を整理していて見つけた一枚。
そういえばあの時、と記憶がよみがえってきた。
祠のなかの小さな祠には陰物が祀られていたのだった。

323M 第4話
列車番号323M。 東京発5時20分の静岡行一番列車である。
ワイドビュー東海の特急型車両で運行される普通列車で、
ちょっと得した気分になれる。

駅ごとの変化も楽しい、休日早朝の輪行旅。

横浜を出て、戸塚で車内はほぼ満席になる。
大船でさらに乗客が増え、通路まで埋まってしまう。
藤沢から大磯までは、釣り客の乗降が目立つが、あらためて
見てみれば単独行が多い。  今日の釣り物はアジか真鯛か。
アタリとアワセに集中するには、一人のほうがいいのだろう。
大磯から富士山の頭が見えれば、この先の車窓は楽しくなる。

国府津では、中高年登山客がにぎやかに降りていく。
こちらはグループ行動が圧倒的に多い。
御殿場線で丹沢方面へ向かうのだろうが、
乗り換え時間はわずかしかないのだ。
のんびりおしゃべりをしながら歩いている場合ではない。

早川から真鶴へかけて、きらきらと広がる相模湾の景色がいい。
水平線に浮かぶ大島のとなりに見えるのは、新島と三宅島だろうか。
熱海ではゴルフ客が下車、ここでも登山客が目立つ。
玄岳(くろだけ)からの富士、石仏の道を抜けて岩戸山経由で
十国峠へ向かうコースは軽装でも楽しめる。

三島で、カラフルなチームウェアに包まれた高校生達が乗って来る。
騒々しくなるが、沼津で降りるので少しの我慢だ。
聞くとはなしに会話を耳にすれば、丹那トンネルを抜けて
言語圏が変わったことを実感できる。

東田子の浦あたりから、それまで愛鷹山、越前岳に隠れていた
富士山がようやく裾野まで見えるようになる。
富士川鉄橋の下り線は、トラスが邪魔をして景観を損ねるが、
渡り終えたほんの一瞬、建物にも邪魔されず、大らかにそびえる
全貌を目にすることができる。
反対の上り線にはトラスがないので、帰りはうまくすれば
眼前に広がる雄大な姿を堪能できるはずだ。
東海道線からの富士の眺めはこれが一番よい。

富士川で列車番号2、つまり上り列車のファーストナンバーを
冠する特急富士と行き会えば、お互いに定刻運転の証拠。
蒲原、由比、興津と旧東海道の宿場町を列車は進む。
このあたりの旧街道はゆっくり歩いてみる価値充分だ。

平成の大合併によって静岡市となった清水。
草薙、東静岡と乗客がまた増えてくるが、次は終点の静岡。 
そろそろ降りる用意をしなければ。

右に左に大きく揺れながら、静岡着8時26分。

さて、乗り継ぎだが先頭車両に乗ったのは失敗だった。
反対側ホーム100メートルほど後ろに
4両編成の浜松行、5741Mが待っている。
静岡発8時28分である。

第3話
『失礼いたします』と若い車掌が近づき、慌しく窓を開けた。
続いてバサバサッと羽音がして、鳩が飛んで来る。
車内に紛れ込んだ鳩を追い出そうとしているのだ。
とは言え、時速100キロは出ているであろう車窓である。

『そんなことしたら風に巻かれて死んでしまうよ!』
『捕まえて駅で放してやればいい』
まわりの乗客から声が上がる。
数人の客が加勢し、包囲網が徐々に狭まっていく。
あきらめたのか鳩は捕まり、車掌とともに車掌室へと入っていく。
『このまま車掌室の窓から放り出すんじゃないだろうな』
そんな猜疑の視線が彼に集まっている。

駅間距離が長い場所で、気をもむ時間まで妙に長い。
駅が近づき、列車のスピードが落ちてくる。
停車した瞬間に鳩は放たれたようだ。
『よしよし』
そんな声が聞こえてきそうだ。

新しい客が乗ってくる。
列車はまた、無関心で素っ気無い、いつもを乗せて動き出す。

峠道 第2話
大ベテランとは自負しがたいが、いろいろな道を走ってきた。
昔ながらの街道を行くのは気持ちいい。
1980年代、いわゆるバブル期以降に敷設された道はつまらない。
無機質に直線で機械的に描かれた曲線。 単調な上り坂。

街道を行く峠道には必ず一息つける場所がある。
階段でいえば踊り場のようなものだ。
そろそろ一息いれたいな、と思えるところで平坦な場所が現れる。
ほんの一瞬、ふっと力を抜ける場所が必ずある。

現代の峠道は行けども行けども坂ばかり。
休むことなど許さない、といってシゴキを受けているようにも思える。
こんな道には腹立たしさすら感じてしまう。

静かな山道でほっと一息。
そんな時間を楽しみたくて出かけるのである。

競輪 第1話
峠越えを終えての帰り、不意に肩を掴まれて揺り起こされた。
缶ビールをあけていい気分でうとうとしていたのに、である。

『おにいちゃん(と呼ばれるほど若くはない)それ自転車だよね。』
『競輪選手かい?稼いでるんだろ?高いんだろ?軽いのかい?』
陽はまだ出ているがかなり酔っている。  白髪の目立つオジサンだ。

つり革にだらしなくぶら下がったまま、オジサンはあれこれと質問を浴びせ掛けてくる。  むっとしながらも適当にあいづちを打って目をつぶろうとするが、しつこく揺り起こしてくる。

オジサンは自問自答をし始め、話はだんだん怪しく大げさになっていく。  年収ウン千万の競輪選手で、今日は次のレースへの移動中ということらしい。   それをわざわざ他の乗客に紹介しなくていいだろう。  まったくいい迷惑だ。

2つか3つ目の駅で、オジサンは『じゃ、がんばりなよ』などと手を振りながらフラフラと降りて行った。  酒の香が残る車内に静けさが戻る。
ずいぶん離れたところから、後を追いかけるようにオバサンが降りた。
オジサンをたしなめる声が聞こえてくる。  奥さんなのか。 
他人の振りをしていたのだ。
なんてこった。

こっちは酔いも眠けもすっかり覚めてしまった。
まだ時間はある。 もう一缶、飲み直しだ。

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