朝日連峰
針生平〜末沢川〜袖朝日岳〜西朝日岳〜竜門山〜日暮沢小屋
〜美渓と遙かなる藪尾根〜
平成18年9月2日〜9月5日

 当初8月下旬に予定されていた今回の沢旅。しかし、悪天が予想されたため先送りとなっていた。(直前になって天気は回復傾向に・・・切符の変更もしたので既に遅し)代替プランで先月足尾日光山塊の沢へ向ったが、自分としては不完全燃焼。山行中も片思いをする男子学生のように「朝日は天気良いんだって、朝日に行っていればな〜〜〜朝日はいいよな〜」と携帯の天気予報をモコモコさんに見せつけながら溜息ばかりしていた。

しつこく、呪文のように朝日を口ずさむ私にモコモコさんが「そんなこと言ったってもう遅いんだから!しょうがないの」と怒っていたのだった。それでも気持ちは晴れなかった。
 そのような経緯もあり今回は期待を胸に膨らませた沢旅となった。

地形図;朝日岳、相模山、羽前葉山、徳網

アプローチ
東京駅19:16〜米沢駅21:32(前夜泊)/米沢駅6:03〜小国駅7:32/タクシー(8620円)針生平8:10


コースタイム

1日目 9月2日
針生平8:40〜二俣中間尾根8:50〜尾根9:50〜下降地点尾根10:20〜柴倉沢出合11:05〜オソゴエ沢11:50〜オオタテボリ沢12:40〜彦七沢13:12〜ウデコエ沢14:28〜コワキ沢15:28〜川前沢上17:00(幕営) コースタイム
2日目 9月3日
テン場5:50〜枝沢20m7:28〜大滝30m9:22/滝上10:15〜テン場14:30
3日目 9月4日
テン場6:35〜稜線8:00〜袖朝日岳9:45/10:05〜秘密の地とう12:15〜西朝日岳15:30〜竜門小屋16:50
4日目 9月5日
竜門小屋7:20〜清太岩山9:00〜日暮沢小屋11:30/タクシー銘水館12:20頃/バス14:20〜山形駅15:38




1日目 9月2日

コースタイム
針生平8:40〜二俣中間尾根8:50〜尾根9:50〜下降地点尾根10:20〜柴倉沢出合11:05〜オソゴエ沢11:50〜オオタテボリ沢12:40〜彦七沢13:12〜ウデコエ沢14:28〜コワキ沢15:28〜川前沢上17:00(幕営)



 始発の米坂線に乗るために、前夜のうちに米沢入りしていた。朝起きると、吾妻連峰が良く見える。天気は良い。米沢駅の端のほうにあるホームの米坂線は懐かしいような車体でディーゼルの音を響かせていて待っていた。車内に人はまばらで、我々の席の後ろに大きな荷物を座席に置いた行商のお婆さんが乗っていた。赤と青と白のラインの車体。ローカルの雰囲気満点だ。小国に近づくにつれ霧がかかったような天候になってきた。

小国駅では予約したタクシーが待機していた。早速乗り込み、いざ針生平へ向う。車内で「米沢の方は青空が見えてたのに」と話すと運転手さんは「小国は山沿いだから朝はいつもこんな感じなんだ」ということを話していた。運転手さんの言うとおり天気は良くなってきた。我々が、沢登り目的ということを伝えると「釣りの人はこの辺から行くな」と言って車を止めてくれた。アブの襲撃に遭うかと警戒していたが、奴等の季節は終りを告げたらしい。9月に入り涼しい空気が漂う。

早速準備に取り掛かる。モコモコさんの音頭で体操をする。地形図と手持ちの資料で確認する。どうやらここが入渓ポイントであることは間違いないようだ。一度尾根を越えて末沢川に入渓するのでここで道を間違えるとえらいロスタイムに繋がる。両側に藪が覆っている薄っすらとした林道を進むとハンナリ沢に出た。そこから少し進み左から入ってくる枝沢に入る。しばらく進むと二俣になっており、そこの中間に踏み跡があった。

急な登りで初日の重荷には堪える。途中のあちらこちらのブナの木に「忍 ○○才」と自分の名前と年齢を刻んだ木が目に付く。最新の傷は「忍 71才」と刻まれていた。忍さんっていったい何者?と今回の沢旅には全く無関係なのに頭の中でグルグル???マークが並んだ。古いものでは51才なんかもあったような気がする。1時間ほどで尾根に出た。そこから小さな上り下りをいくつか越えると柴倉沢の出合に続く下降ポイントの尾根に出た。踏み跡を忠実に下ると50分程で末沢川に着いた。

末沢川は清らかな流れに満ち溢れていた。川幅は広いが想像していたよりもよりも流れは強くない。モコモコさんは既に大量の汗をかいている。モコモコさんは暑さに弱いので、今回特別装備としてポカリスエットの粉を装備に加えていた。早速溶かして、水分補給させることにした。少し長めの休みを取って出発した。

大きな釜というか淵を持った滝が多い。へつったり浸かったりしながらどれも簡単に突破できるのがうれしい。始めは広い川幅だったが、一時間も進むと沢らしくなる。雰囲気は奥利根の水長沢と似ている。
コワキ沢出合いが小広い川原になっていてモコモコさんは泊りたそうだったが、先に進む。
やがて、川前沢が右岸から7m斜め滝を落とす。その先にかかる2段6mを越えて少し進んだ左岸をテン場候補とした。念のため薪を集めに上流に偵察に出かけたが、ゴルジュ状になっており先ほどのところに落ち着いた。
少しの増水でも水没確実の小さな川原であるが、雨の心配がない今日は、薪も集まり焚火を囲んでの楽しい夜になった。星空が非常にきれいな夜だった。



末沢川に降り立つ 右岸を楽々突破
右をへつりながら直登 オオタテボリ沢出合
泳いで突破 ホールド、スタンス豊富で左壁を登る
魚止めの滝2条5m 左から川前沢が入る。正面2段6m上で幕営




2日目 9月3日
コースタイム
テン場5:50〜枝沢20m7:28〜大滝30m9:22/滝上10:15〜テン場14:30



2日目の予定は一気に袖朝日岳まで詰上げ、シミズ沢を下降してそこから岩井又沢畑沢出合まで進むという強行プランのため朝4:00に起床。
夜中は蚊が多く山人、モコモコさんと顔をいくつか刺された。モコモコさんに至っては上唇を刺されてしまい『いかりや長助』の人形のようになった。5:50の出発となった。出発してすぐに右に傾斜した大岩を持つ斜め5m滝が沢を塞ぐ。傾斜した大岩を登ってなんなくクリア。すぐ上に3段6mの釜を持った滝が現れた。1段目は釜の左の縁を回り込むように落ち口へ進む。落ち口へ登るところは岩は乾いているが傾斜があるナメ状で、フリクション頼りの際どい登り。滑れば釜へ直行コースを辿る運命は避けられない。山人は気合でなんとか突破。

 さて次はモコモコさん。縁を回り込む辺りからウンウン唸っている。これは厳しい予感。核心部の登りに入る。あと、あと1mで落ち口に立つというところで「キャ!!」という悲鳴ともにうつ伏せ状態で釜へ直行。「ドボン!!!」という激しい着水音。モコモコさんがなんとか泳いで、釜の縁に這い上がった。水を飲んだらしくゲホゲホしている。気を取り直して再チャレンジ。今度は見事に成功。朝からいきなりビショビショだ。
 
2段目は落差1メートル足らずだが、ツルツルのナメ状でどうしても後一歩の勇気が出ない。ビショヌレ覚悟で何とか突破。モコモコさんからザックを受け取り、モコモコさんには空身で登ってもらうことにした。

3段目もこの調子で突破できると踏んでいたが、右からも左からも取り付けそうもない。せっかく時間を掛けてここまで登ってきたのに残念だ。モコモコさんから「始めから巻いていればこんなにならなくて済んだのに!(朝っぱら泳がなくて済んだのに)」と怒りの声。辺りを見渡しどうやら2段目の右の壁を登って行けば3段目は巻けそうな感じなので登ってみる。潅木を伝い何とか抜けることができた。

降り立つと長細い淵を持った2mほどの滝が現れた。左に曲がっており先は見えない。へつって滝を回り込もうとしたが難しく高巻くことにした。しばらく進むと右岸から20mほどの滝をもつりっぱな枝沢がはいる。このあとは一部高巻く滝も出てくるが、いずれも低く巻けるので助かる。10m未満の登れる滝が多く楽しい。

5m斜めスダレ状滝を流れに沿って四つん這いになりながら突破すると、30m大滝がドーンと姿を現す。45mザイルの出番だ。ここまで一度も使用することがなくお荷物状態だった。左壁は塗れていて傾斜も強く登れそうにない。右脇の壁を潅木帯まで巻き気味に登り、そこから滝に向ってトラバースすると丁度良い岩棚がありここでピッチを切る。そこから更に落ち口に向ってトラバースし落ち口手前の2mほどの段差を登ると終了だ。

大滝の上で右俣と左俣に分かれる。左俣は更に立派な2段20mの滝を掛けている。この後は、特に問題となる滝は出てこない。しかし、大滝を越えた頃から急速にペースが落ちてきた。この分だと稜線に上がって畑沢へ下降するのは不可能と判断。参考にしていた記録の山岳会の足並みとスピードにはびっくりさせられる。そうと決まったら、山人モコモコペースになり、適当な幕営ポイントが見つかり次第本日の行動は終了ということになった。コケの生えている滝をいくつか越すと、右岸に先人がつい最近切り開いたと見られる幕営ポイントを発見!標高約1290m付近の場所だ。うれしいことに薪も揃っている。14:30分と時間は早いがここに泊ることにする。今夜も焚火を囲みながら楽しい時間が過ぎた。風が吹いてきて寒くなったので早めの就寝となった。

右に傾斜した大岩を持つ斜め5m滝 3段6m滝。モコモコさん左壁から滑りダイブ
右岸からの20m滝 5m2条滝
CS5m滝 登りやすい滝が続く
モコモコさんが快適に登る 5m斜めスダレ状滝。四つん這いで進む
30m大滝登場 左俣のスレンダーな滝
コケの生えた滝が多くなる 先人が開拓した素晴らしいテン場


3日目 9月4日
コースタイム

テン場6:35〜稜線8:00〜袖朝日岳9:45/10:05〜秘密の地とう12:15〜西朝日岳15:30〜竜門小屋16:50


標高が上がり気温が低いためか、夜中に虫にたかられることも無く快適に寝ることができた。4:30起床。
今日は稜線から袖朝日岳へ向い遙か西朝日岳までの藪コギ。それから竜門小屋にて宿泊の予定。6:35にのんびりと出発。
流れが細くなっても、5m前後の滑り台状の小滝が連続して出てくる。何度かお助け紐を出しながら源頭を目指す。水枯れポイントでモコモコさん約2.5リットル。山人2リットル担ぐ。これだけあれば、最悪藪の中のビバークでも何とかなるだろう。大した藪コギもなく稜線に到着。

袖朝日岳が大きく聳え立つ。先人の藪コギのあとがかすかに見られるようなところがある。なんだか励みになる。地を這うように伸びた潅木が多く体に絡みつき、なかなか先に進めない。思ったよりも苦戦しそうだ。息も絶え絶え何とか袖朝日岳へ登り詰めた。ここまで約1時間45時間掛かってしまった。先が思いやられる。袖朝日岳の山頂はやや藪っぽいが草原状で落ち着ける。三角点もちゃんとある。モコモコさんとドデーンと横になりながら長めの休憩をとる。山頂からは、荒川、岩井又沢が良く見える。もちろん稜線もぐるっと見渡せる。

藪が薄いところもたまに出てくるがほとんどが背丈ほどの藪の中だ。途中、小さな地とうがあり心を和ませてくれる。トンボが産卵の為に地とうを訪れていた。今回もそうだが、よく水のない稜線などでカエルを見かけたりするがこういった場所が山には無数にあり彼らは生まれてくるのだなーと感動した。カモシカの姿も途中で見ることができた。途中の藪で先人が落としてしまったと思われるビニールに入った地形図のコピーを発見!ここを通った人がいると思うとなんだかうれしくなった。西朝日岳手前のピークに立つと西朝日岳で休んでいる登山者が見えた。ここから踏み跡があり15分で西朝日岳へ到着した。ここまで、モコモコさんが担いだ水2.5リットルは二人で飲んでしまった。天気は曇り気味で藪コギ条件としては良かった。我々はだらだら休憩を多く長めにとりながらの藪コギだったので予想以上に時間がかかってしまった。

登山道のありがたみを一歩一歩噛み締めながら、のんびりと竜門小屋へ向った。小屋に水が出ていないのではと心配したがちゃんと出ていたので一安心。小屋の前の石のベンチで装備を解いていると、男女二人の登山者がちょうど小屋に到着した。2人に一足遅れて小屋に入る。1階は男性3人が夕食の準備をしている。おいしそうな臭いが漂ってくる。2階に上がってみると男性2人が宴会の真最中だ。先ほどの男女2人の方も2階に陣取った。我々も2階のほうが広いということもあり2階に決めた。御夫婦にしては奥様が非常にお若いので不思議に思っていたが、お父さんと娘さんという関係だった。新庄から来られたとのことだ。

我々も食事の準備に取り掛かる。お約束の赤いきつねにお湯を注いで出来上がるのを待っていると、お父さんからビールロング缶を頂いてしまった。しかも、キンキンに冷えている。氷に包んで担ぎ上げてきたとのこと。涙が出るほどうれしかった。今回の沢旅では軽量化の為、ビールは持ってこなかった。モコモコさんと二人で、感謝しながら乾杯した。人生史上最も記憶に残るビールとなった。その後も、きゅうりナスの漬物や焼肉などを頂いたので、豪華な夕食になってしまった。この場をお借りしてお礼させていただきます。本当にありがとうございました。仙台からの男性2人もまじえて楽しい夜になった。

源頭部 稜線に出た。袖朝日岳までの藪こぎが一番辛かった
袖朝日岳山頂より西朝日岳方面 相模山方面。中俣沢と畑沢を分ける尾根
平岩山方面。 荒々しい一面
秘密の地とう。 袖朝日岳を振り返る。この辺は藪が薄くてうれしい
大朝日岳方面 荒川側は険しい



4日目 9月5日
コースタイム
竜門小屋7:20〜清太岩山9:00〜日暮沢小屋11:30/タクシー銘水館12:20頃/バス14:20〜山形駅15:38


最終日は、5:30に起床。小屋の日記を読んだりしながらゆっくりと出発。新庄からのお二人と前後しながら日暮沢に下りた。途中、木に張り付いている巨大ナメクジ(警告!興味のない方は決して見ないでください)を発見!高校時代から朝日連峰には巨大ナメクジが生息していると聞かされてず〜と気になっていた。モコモコさんに「気持ち悪いから、写真撮らないでよ!」と注意されたが、少年心を刺激されてつい激写してしまった。

畑沢には行けなかったが朝日の沢と藪を堪能できて晴れ晴れする気持ちだ。銘水館の水沢温泉で汗を流しで帰京した。


清太岩山へ向う 竜門小屋を望む



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