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滑 川(なめがわ) 温 泉

 2012.OCT.15〜18

  脚の痛みと夏の疲れを癒そうと紅葉をめでることも兼ねて,吾妻連峰北麓の秘湯「滑川温泉」へ3泊4日の湯治に出かけた。
残念ながら,紅葉には1週間ほど早かったようだが,温泉はさすが江戸時代からの名湯,たっぷりと堪能できた。めったに行けない山奥の一軒宿と宿から30分ほど登山道を登った尾根の上から眺められる「滑川大滝」を旅行日記として記録にとどめることとする。

★アクセス

 上野から東北新幹線で福島へ,2両編成の奥羽線に乗り換え5つ目,板谷トンネルを抜けてすぐの「峠」駅下車。
 8人乗りの送迎車が待っていて,およそ20分で滑川温泉着。家を出てから3時間半程しか経っていない。
 奥羽線の電車では,近ごろめったにお目にかかったことがない車内検札に遇い,車掌が「峠駅は無人駅なので乗車券は回収させてもらいます」と言う。なるほど駅で車掌がホームに降りて切符をチェックする手間が省ける。

 滑川温泉は,吾妻連峰の北麓標高850mの山中にある秘湯である。

★ 峠駅

巨大なスノーシェッドに覆われた”峠”駅  列車は朝・夕2本ずつと昼間1本,最終20時台の上リ下りとも6本のみの運行。  山形新幹線”やまびこ”が猛スピードで通過していく。
 峠駅は,第二板谷トンネル(L=1629m,明治32年(1899)開通)を抜けてすぐ,標高624mの山中にある。駅前には峠の茶屋が一軒あるのみで人家は全くない。冬季の積雪はかなりのものと思われ,駅ホームは巨大なスノーシェッドで覆われている。かつて峠駅を含めて前後四つの駅(福島方から赤岩(福島県)・板谷・峠・大沢(山形県))は連続してのスイッチバック駅であり,信越線碓氷峠・山陽線瀬野八(瀬野〜八本松駅間の通称)と並ぶ難所であったが,現在は山形新幹線の開通に伴い,標準軌(1435mm)に改軌,スイッチバックも廃止(1990)されている。山形新幹線とレールを供用する福島〜新庄間の奥羽線は,愛称”山形線”と呼ばれている。
 旧駅があった場所は,屋根付きの駐車場として利用されているが,2007年経済通産省の近代化産業遺産に指定されているが,これらの遺構については,「板谷峠のスイッチバック」に詳しい。

 
 列車が駅に着くと,いつの間にか売り子がホームに現れて「名物峠の力餅」を売る。鉄道開通以来110余年の駅立売りが続いていると言う。
 包み箱表紙に曰く「古老が語る峠の力餅は我々が幼い頃から口にした郷土の味です。遠く明治32年福島米沢間に始めて鉄道が開通し板谷峠の難所吾妻越の山腹に峠駅が設けられ人も車もほっとひといき入れたものでした。その時駅頭の力餅の一切れは我々の元気を呼び戻してくれました。」
 
 駅の南側に「峠の茶屋 江川」が営業している。吾妻連峰への登山客によく利用されているそうだ。「峠の力餅」もここで作られ販売されている。峠の茶屋のHPはこちら

 峠駅から滑川温泉へ向かう米沢市市道が,今年5月の大雨で崩壊し,車両通行が出来ずこの間200mほどは歩いて通過し向こう側に駐車してある車両に乗り換えて温泉へ向かう。

 現在,工事は何も行われていないので,今年はこのままで越冬するという。春になったら雪解けで再度の崩壊発生は懸念され,来年も同じ状態が続くだろう。板谷駅から五色温泉経由での別のルートがあり,こちらも崩壊しているが,復旧工事はこちらを優先して来春からは板谷駅からのアクセスになるらしい。

 ★ 滑川温泉の宿

  宿は,標高850m,吾妻連峰東大嶺(1927m)に源を発する前川上流の深山にある一軒宿である。湯治棟と一般棟があり,私は宿泊費が安い食事付き湯治棟そしてタオルや歯磨き,寝巻き・ゆかた無しのエコ割引で予約した。TVもないラジオもない,新聞は朝刊が昼頃になって読めるという環境,夜には谷川の瀬音が微かに聞こえてくる以外は時折湯を浴びに行くの客の廊下を歩く足音がするだけ。
 一日目:湯浴び三昧。
 二日目:午前中 滑川大滝へ。午後湯浴びと読書三昧
 三日目:午後から冷たい雨が降り出し次第に雨脚強くなる。
 四日目:依然として雨降り。昨日からの雨で紅葉が少し進んだように感じる。12時30分の送迎車で下山。

 220年の歴史がある一軒宿の「福島屋」。
寛保2年(1742),大沢の郷士が川を渡ろうとして足を滑らせ倒れた際に温かい石に触れ温泉を発見したことから滑川の名がついたと伝えられる。そして宝暦13年(1763)上杉藩主の許可を得て開湯され,湯治場として賑わった古い宿である。
 宿の電気は,12,3年前に設置したという国内でも珍しい自家水力発電所ですべてまかなっている。(発電容量17kw 一般家庭7軒分に相当する電力だという)
 湯治棟の建物(自炊部と言うそうだ)は,がっしりとした造りの木造2階建て,部屋と廊下は障子戸で仕切られ,隣室とは襖一枚という部屋もあり,トイレは男女共用しかも便座は和風(1階には男女別洋風トイレもある,私は小用を除いてもっぱらこちらを利用した)。フロントで尋ねたところ,一般客棟でもトイレ付きの部屋はないそうだ)。
 当然ながら炊事場もあるが,宿泊中,誰も使用してはいなかった。
 
 湯治棟の部屋内部,いわゆる京間サイズの六畳間でかなり広い。奥の隣部屋とは襖一枚で仕切られていた。
 今の時期,夜間部屋の温度は10℃近くまで下がる。暖房は,小さな石油ストーブがあるが,夕方になると”湯たんぽ”を持ってきてくれこれを布団にいれて暖かに眠りにつくことが出来た。
 
 夕食の献立,二日目の例(岩魚の塩焼き,サーモンの刺身,ブロッコリーのお浸し,葉わさびの粕漬け,麩・アイコ・鰊の煮物,ふきのとう・しめじ・豆腐の味噌汁,たくあん酢漬け *銚子一本は別注文)。山里の素朴な料理,これで十分である,ご飯が美味しくて普段は一膳しか食べないのに2杯もおかわりしてしまった。
 朝昼晩すべて部屋食という贅沢なサービスで供してくれる。
大浴場
窓の向こうは登山道で人が通って行くのが窓越しに見える。
露天岩風呂 露天檜風呂
 湯は多量な湯の花のためかやや白濁し硫黄臭がする。加水・加温を一切していない正真正銘の源泉掛け流し。泉質は含硫黄ーナトリウム・カルシウムー炭酸水素塩・硫酸塩泉,泉温54度。浴槽は大浴場,露天岩風呂,露天檜風呂と女性専用内風呂がある。前三者は一日2回の定められた女性専用時間以外はすべて混浴。

 ★ 滑川大滝

 
二日目,天気はまずまず,宿の横の吊橋を渡って吾妻山方面への登山道をおよそ30分ほど行くと,滑川大滝が望める展望台(尾根に出て少し広い場所があるだけで,「滑川大滝 米沢市」と書かれた木製標識が根元から朽ち果て転がっていた)に達する。近ごろあちこちの山や市街地まで熊が出没しているので,熊避けベルをリンリン鳴らしながら行く。(宿の人に聞いたらここら辺りでは熊に遭遇したという情報はないと言う,餌のある人里の方に出張っては行くが,餌のないここらの山では出会うことがないとのこと,熊も利口である)。宿のある場所は標高850m,展望台は標高1000mおよそ150mの登りである。案内では20分とあったが,わたしはゆっくり歩いて30分弱,少し汗ばみ始めた頃に到着。
 ここから大滝沢まで100m余下り,沢を渡渉して滝直下まで40分程で行けるそうだが,単独沢歩きは危険が伴う。少しだけ沢方向に下り展望台よりも眺望の良い地点を見つけ,ここまでとした。例年ならば紅葉が真っ盛りの筈,大滝と紅葉を撮ろうという目論見でやって来たのだが,紅葉前線は滝の上50mほどのところまで降りてきているが,ほんの少しばかり早かったようで残念至極!! 仕方がない,手前に一本だけ紅葉した広葉樹を見つけ,それを絡めて数十枚をカメラに収める。

 滑川大滝
は,落差80m(米沢市の案内板では100m),落ち口2m,滝壺付近の幅40〜50m東北地方では五指に入る大瀑布である。垂直に落下する瀑布とは趣を異とにするやや赤み掛かった岩(約1500万年前〜700万年前 中〜後期中新世の火砕流堆積物,流紋岩)を滑り落ちるように流れ下る様は,天女が羽を広げたやさしい姿に見える。日本の滝100選の中でもその優雅さでは白眉の存在だ。



 紅葉が進めばこんな情景となるんだろうなあ〜
(宿の廊下ギャラリーから拝借)
 一番左の写真と比べてみると私と同じ場所から撮っていることが分る)
滑川大滝全景 滑川大滝ズームアップ  紅葉の滑川大滝

 福島屋は11月5日で今年の営業を終えることになる,来年4月末の再開まで長いなが〜い閉館である。こんなに素晴らしい泉質の温泉を流し放しにするのはなんとも勿体無いなあ〜!