世は戦国の終末。
群雄割拠を極めた騒乱も、慶長五年の関ヶ原合戦 東軍勝利を以って一応の落着を見せている。 舞台は小さな領国。
戦国の倣いとして珍しい事ではないとは言え、西軍に対する裏切りで何とか東軍での地位を保った地方豪族の屋敷。 ただし、徳川の御世に於いて、その存続は不透明で危うい。 戦場に生きる影。
闇を渡り戦場に立ち、戦いを生業とする者。 旗印も無く、鎧らしい鎧も着けず、明らかに周りの武者達とは異質ながらも単騎敵陣に駆けていく姿。 戦乱の世にのみ存在を許された戦鬼。 個としての名を知る者は少なく、その名を口にする者は居ない。 ……唯一人、彼の主君を除いて―― |