春の夜の


 宮に召されし浮名はづかし 曽良
手枕に細き肱(かいな)を差し入れて 芭蕉



眼が覚めた途端に馴染みのある加齢臭が曽良の鼻をついた。
何か棒のような物を枕にして寝ていたようだ。頸が少し痛む。
(・・・いつの間に寝たんだ?)
眠る前の記憶を呼び起こしながら眼を開けると、目の前に痩せて貧相なオッサンの胸があった。
少しはだけた襟元から覗く肌には鬱血の痕。
部屋は大分明るくなってはいたが、起床すべき時間にはまだ早いようだ。
(ああ・・・昨夜あのまま寝てしまったのか)

昨日はとんだ災難続きだった。
山道で芭蕉が脚をくじいたのがケチの付き初め。軽い捻挫だったが動かすと悪化するため、手拭で固定して
休めそうな場所を探した。しかし空模様が怪しくなってきたため、暢気に休憩もしていられなくなった。
仕方なく曽良は芭蕉を背負い、雨が降りだす前に、雨風がしのげそうなところを急いで探すことにした。
しかし途中には人家どころか作業小屋すらなく、とうとう宿泊予定の町まで辿りついてしまったのだった。
芭蕉をおぶったまま、半里近くの山道をかなりの速さで歩いた。体力には自信のある曽良も疲労困憊だった。
旅籠に着くまで雨が降らなかったのが唯一の救いだった。

曽良の頑張りの甲斐あって、芭蕉の足首の腫れも殆ど引いた。翌日には普通に歩けそうだ。
曽良は重い身体を引きずって風呂に入り、殆ど味も分からない夕餉を無理矢理胃に詰め込んだ。
食べないと明日の旅程に差し障る。芭蕉は曽良を気遣ってしきりに話しかけていたが、
返事をするのも面倒なので一切口を開かなかった。
早めに休もうと布団を敷いたのだが、何故か急に下半身が暴走しだした。手近にあった穴、もとい師匠を
無理矢理組み敷いて胸元に吸い付いたところで力尽き、そのまま寝てしまったのだった。

そこまで思い出したところで、頭の下にある棒が芭蕉の痩せた腕だということに曽良はやっと気がついた。
(何で芭蕉さんが腕枕してるんだ?)
いくら非力な芭蕉とはいえ、曽良の頭をどけるくらいの力はある。何かあればすぐに眼を覚ます曽良だったが、
昨夜の疲れ方なら、腕を外して頭を枕に乗せてもきっと気づかなかったろう。
(・・・万が一起こして続きでも始められたら面倒だと思ったんだろう)
一瞬頭をよぎった甘やかな考えを否定するように曽良はそう結論付けた。

身体を起こして芭蕉の腕を見ると、曽良の頭を乗せていた部分が赤くなっていた。
(堪え性の無い人が、さぞ重かったろうに。・・・馬鹿が)
赤くなった腕にそっと触れると、芭蕉は眠ったまま少し顔をしかめた。

「さて」
芭蕉を起こすにはかなり手間がかかる。
(まあ、そのうち眼を覚ますだろう)
「続きをしますよ、芭蕉さん」
曽良は芭蕉の寝巻きの帯を解くと、眠る芭蕉の首筋に齧り付いた。

 * * *

「いいいっ!!」
違和感というには痛すぎる刺激を尻に感じた芭蕉が驚いて眼を覚ますと、曽良が自分の上に覆いかぶさり、
あろうことか指を芭蕉の体内に捻じ込ませていた。
「おはようございます、芭蕉さん。やっと起きましたか。全くいぎたないですね」
芭蕉の耳朶を食んでいた曽良が聞こえよがしに舌打ちをして身体を起こす。
「そ、曽良くん!?人の寝込みを襲っておいて何言って・・あうっ!」
曽良が中で指を蠢かすと、痛みよりも強い快感が身体を走る。自分の身体が後戻りできないところまで
反応していることに芭蕉はやっと気がついた。

ちりちりとした痛みを覚え、頭を少しもたげて自分の身体を見ると、胸や腹に無数の歯型が付いている。
「ひっ!何この痕・・・」
「反応が小さくて詰まらないので、早く起きてもらおうとちょっと歯を立てました。無駄な努力でしたが」
気付いてしまうと腹や胸、特に乳首に焼けるような痛みを感じる。
(何でここまでされて起きないんだ私・・・)
流石の芭蕉も軽く自己嫌悪に陥った。

「昨夜は途中で寝てしまってすみません。とっとと済ませますんで大人しくしててください」
「はあっ・・・曽良くんさあ、もうちょっと他に言いようが・・・んっ」
「文句言う元気があるなら、もう少しいい声で鳴いたらどうです」

辟易したような口調とは裏腹に、曽良の愛撫はいつもより少し優しかった。





卯の花くたしの宇津木さんからいただきました曽芭ssです。
甘曽芭! 甘曽芭ですよ! 大好物です!
あああもう幸せです。宇津木さんありがとうございましたー!
調子に乗って落書き描いちゃいました。こちら
(07/03/20)



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