くだらない毎日だ。 ただ、ヒトを殺すために国外に赴き、任務と称してその対象を殺める。 そして、行動をともにする仲間のすべてが毎回無傷でいられるわけもなく、 時には昨日まで隣で笑っていた相手を亡くす。 次は自分の番かもしれない。 誰もがそんな思いを抱えながら日々淡々と。 生きる。 遅かれ早かれ、戦場で死する自分を思いながら、生きる。 それが、暗殺部隊に身をおく者の、運命だ。 もちろん、自分自身も、例外ではなく。 死ぬことは、怖くはないのだ。 けれど。 「サスケ、また難しいカオしてるってばよ」 半月をかけた任務から戻った翌日。 報告書を提出して、家へと向かう途中。 ふいにそんな声が降りてきて、はた、と我に返る。 目の前に突然現れた空色の瞳。 今朝まで、抱きしめて眠った恋人。 利発さと、幼さと、鋭さを混ぜ合わせたそれに見つめられて、 サスケは一瞬言葉をなくす。 その瞳は、硝子のように透明で・・・・・・綺麗過ぎて。 そして、狂おしいほどに愛おしい。 「してねぇよ」 ふい、と視線を外してサスケは、手持ちのタバコに火をつける。 まるで、目線をずらしたのは、そのためだというように。 自然さを、故意に装った仕草で。 本当は。 すべてを見透かしてしまう彼の瞳に、これ以上晒されていたくなかったからなのだけれど。 するりと吹き抜ける風に、紫煙が天へと昇っていく。 「してたってばよ」 こぉんな、と眉間に皺を寄せてみせて、自分の前に顔をつきだすナルトに苦笑しながら。 する、とそのほおに手を滑らせ、引き寄せて口唇をふいに奪う。 やわらかいそれにしっとりと甘く重ね。 角度を変えて、何度も何度も。 ゆっくりと味わって。 「!!いっ、いきなり何すんだってばっ!しかも外だし、ココ!!!」 離れたあとで、やっと我に返ったらしいナルトが、 真っ赤に頬を染めてじたばたするのを、悠然と眺め。 「誰も見てねェよ」 大体、オマエから顔寄せてきたんじゃねェか。 「〜〜〜!!!」 に、と笑ってあっさりと返すサスケに、二の句が継げない。 こういうサスケには、何を言っても勝てないので。 それは知っているので、ナルトも、呆れたように。 「タバコくさいってばよ」 むう、と返すだけにした。 そうやって口を尖らせる恋人の、ただ可愛らしいだけの、首まで桜貝のように染めた表情に。 「んなカオしてっと、キスだけじゃ済まねェぞ」 なんとなく、いつもの冗談のつもりで口にした、言葉。 けれど。 「す、済まなくてもいいってばよ」 「!?」 ナルトがそんなことを言うなんて思いもしなかった、サスケの動きがぴたと止まる。 じ、と見つめ返すと、ふいと視線を反らすけれど。 「オマエ、何言ってっかわかってんの?」 「・・・・わかってるってばよ。」 やや放心気味の問いかけには、俯いたまま、返事を返してきて。 2人のあいだに、ふわりと降りる沈黙。 “サスケが、淋しそうにみえたから。” 心の中だけで、ぽつんと呟くナルトの想い。 口に出しては言えない。 いつも消えない、ちいさな不安。 サスケがどこかへ行ってしまいそうな・・・・・・・ あのときみたいに、ふいにいなくなってしまいそうな気が、したから。 またあのキモチを味わうくらいなら なんだってする。と、思った。 もう、置いていかないでね。って、あの日の約束。 ねえ、・・・・・・・・・覚えてるのかな。 「オマエこそ、そんなカオしてんなよ」 す、と手を伸ばして。 やわらかなたんぽぽいろに指を絡めて、くしゃくしゃとかき混ぜてやる。 優しい手。 “・・・・・・・・・オマエが笑ってくれてさえいれば、それでいいから。” “誰のせいだってばよ。バーカ。” そのぬくもりに、泣き笑い。 目を合わせて。 2人で、笑った。 移りゆく季節。 透明な風の中で ぼくたちはそっとキスをする。 そのたびに胸をしめつける、甘やかで、ほんの少し苦しい想いを 切なさというのだろう。 2人を結びつけて離さないものを、 恋というのだろう。 そして、きみの笑顔が。 触れ合ったぬくもりが。 心が。 シアワセの証となって、この胸に刻まれる。 永遠に、消えることのない愛しい傷となって。 この胸に、刻まれる。 FIN |