聖なる夜に幸いを

聖なる夜に幸いを



「Merry Christmas my partner!!」

 アジトのドアを開けて、その男が入って来た時。

 次元は飲んでいたスコッチを、本気で吹き出しそうになった。



「……な!……ルパン!?」

 なんとか口の中の液体を飲み下してから、次元は相棒を呼んだ。

「そ〜よ次元ちゃん。世界一の大泥棒、ルパン三世のお帰りよ〜」

「お前、そのカッコは何なんだ!?」

「ん〜……カッコ?」

 

 とろん、とした目で、ルパンが自分の着ているものを見下ろす。

 色こそいつもと同じだが、明らかに違うふかふかコート。

 お揃いのズボンに、三角帽子。

 ご丁寧にも白い袋とトナカイのぬいぐるみ、そして真っ白な髭のオプション付き。

 これは、控えめに見てもどう見ても……



「何って……サンタだよじげんちゃ〜ん!!」

「そんなこた見りゃぁ分かるわ!!」

 ぼんやりとした声に、即座に切り返す。

 赤ずくめの服装にトナカイを連れた髭男。

 そんなヤツ世界にはサンタしかいない。

 ……とゆーか、いらない。

 問題は、コイツがこんなカッコをしているということで。



「俺は、我が愛しの相棒に愛を届けるサンタクロースなのさ、次元ちゃ〜ん!!」

「どわ!?」

 叫びとともに、突如ルパンが飛び掛ってきた。

 スコッチのグラスを落とさないように、次元は細心の注意を払ってテーブルに置く。

 ソファの上で、ルパンにいわゆる……のしかかられる様な姿勢になって。



「どけルパン!!重い……てか、酔ってるなテメェ!?」

 鋭い次元の嗅覚は、ずっとスコッチを飲んでいた自分よりさらに強い酒の匂いを、ルパンから嗅ぎ取っていた。

「酔ってなんかないって〜」

「酔っ払いは、みんなそう言うんだよ!!」

 なんとか、ルパンを引き剥がそうとするが、くっついて離れない。

 3人がけのソファに仰向けに倒されたその上に、しっかり乗っていて。



「………………どうしろってんだ」

「次元」

「……あ?」

「お前……いくつくらいまで、サンタ信じてた?」

「なんだ、いきなり……」



 意味が分からないままに、律儀に考える。

 けれど、具体的な年齢は思い出せない。



「覚えてねぇけど……ガキの頃は信じてたと思うぜ。それなりに」

 あいにくと、枕もとにプレゼントが置いてあったという思い出はないけれど。

「それが、どうかしたか?」



「俺は、さ……今でも信じてんだよね、サンタ……」

「は?」

 ぼんやりとした声で紡がれた言葉を、訊き返す。

「プレゼントを寝てる間に持って来てくれるって、都合のいい存在だって……思ってるわけじゃねぇけどさ……

 聖夜に幸せを運んできてくれる人って……いると思うんだよな……」

「………………」

「だってよぉ、クリスマスって、楽しいじゃん……

 街も、綺麗でさ。何か、華やかで……皆、楽しそうでさ」

「…………そうだな」

 リビングの隅に目を向け、頷く。

 そこにあるのは、大きな大きなクリスマスツリー。

 昨日、ルパンが楽しげに飾りつけしていたもの。



「なぁ、次元……お前、幸せか……?」

「………!?」

「もしお前が、幸せじゃないってんなら……」

「……………………………」

「サンタの俺が……お前に、何でも……世界でも幸福でも……持って、来て……やるからさ……

 なぁ、愛しの……相棒……」



「……………ルパン?」

 静かになったサンタ姿の男に、次元は呼びかける。

 けれど返ってきたのは、静かな寝息で。



「ったく……」

 嘆息する。

「人の上で寝るな……っての。

 しかも、一方的に言って寝やがって……」



 すぐ傍にある、目を閉じたルパンの顔を覗き込む。

「心配されなくたって、俺は充分幸せだぜ」

 スリルと相棒に恵まれた日常。

 それ以上、いったい何を望めと言うのだ……?



「まぁ今日はクリスマスイブだしな。特別に、このままでも許してやるよ……重ぇけど」

 けれど、ルパンの体が……生きている人の体温が、ほっとさせてくれるもの事実だから。

 生きているということを、こんなにも愛しいと思うから。

 

たまには……こういうもの悪くねぇか。



 もう一度嘆息し。

 静かに、次元も眠りに落ちた。

 12月24日、聖なる夜は静かに更ける……



 

余談だが。

次の日、クリスマス・パーティーにやって来た不二子と五右衛門に起こされた次元が、スーツにべったりついたルパンの涎の跡にぶち切れ、銃を乱射しまくったことだけを、ここに記しておく。








FIN




煌様のサイトNEW FIELDで、フリーSSとして書かれていたものを強奪してまいりました。
煌様のル次は、清々しくて、澄んでて、でも二人の距離がすごく素敵なのです!
二人きりのクリスマス…最高じゃありませんか。
(2004/12/30)


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