『フォー・ユー』
「仙石さん、お誕生日、なんだって」
「・・・あ?」
「お誕生日。知ってた?」
「・・・・・・お前の・・・は、明日だろ?」
「俺のじゃなくて。・・・いつもお世話になってる人の」
「・・・お前にお世話になってる人なんていんのか・・・?」
「うん」
「・・・で?何か持ってくのか?その人んちに」
「何もあげれない」
「?」
「でも、欲しい物は何となく分かるから」
「???」
「・・・ね、仙石さん」
「・・・ちょっと、待て。お前。・・・何だ、その手は」
「欲しい物、あげるための準備」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・待て。・・・その、欲しい物ってなん・・・っ」
「仙石さん、と、俺」
「な、ちょ、ま、何着せる気だ・・・っ」
「セットが、いいんだって」
「セッ・・・!?って、何・・・!!」
「コスプレ」
「それ、お前がやりたいだけだろーーーーーっ!!!!」
「誕生日だから」
「・・・はい、最後にこれかけて、出来上がり」
「・・・」
怪訝そうな顔をする仙石に、行はメガネをかける。 それは新聞を読む時だけにかける、仙石の老眼鏡だった。
『コスプレ』だなんて言うから。 また、あの、妙な格好をさせられるのかと暴れてみたが、行が仙石のために持ってきた服は、想像に反して全く普通のものだった。
それは、スーツ。
男なら、就職活動や仕事に。
誰もが一度は着たことがあるであろう服。
仙石はメガネをつまみ、苦笑交じりの溜息を漏らした。
「・・・・お前、脅かすなよ・・・」
「何で」
「コスプレ、なんて言うからよー・・・俺ぁてっきり、またあの妙な服着せられるのかと思ったぜ」
「安心、した?」
「おお。だってこれ、スーツじゃねぇか。・・・・・妙な穴も空いてねぇしよ。普通の格好じゃねぇか?」
スーツの裾をつまむ。
しばらく、というか、もう何年も着ていないスーツ。 その着心地に、弱冠の違和感を感じるものの、別にこれくらいの格好。 人のためになるのだったら、いくらでもしてやると。
仙石はそう。
ごく、簡単に。
楽天的に。
物事を考えていた。
「・・・・オイ」
「ん?」
「・・・お前も、着替えんのかよ」
「うん」
「・・・何で」
「そういうの、好きみたいだから」
きらりと。 行の顔にもメガネが光る。 ノンフレームの、薄いレンズが。
行の顔を、尚引き立てるように。
既に行はその身をスーツに包んでいた。
初めて見る行のスーツ姿に。 仙石は思わず見惚れる。
長い手足。 バランスのとれた体つき。 端正な顔立ち。 薄い唇がほんの少し歪み。 笑みを浮かべている。
まるでドラマにでも出てきそうな、エリートサラリーマンがそこにいた。
「どうした?」
「え、あ?・・いや、何でもねぇっ」
まさか見惚れていたなどとは言えず、仙石は行から顔を隠すように後ろを向いた。
行は口元の笑みを一層深くし、仙石の腰周りへ腕を回した。
「っな、何・・・っ」
「役職、何がいい?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は!?」
「俺は平社員でいいから・・・仙石さん、課長にしようか」
「・・・・・・・・・・・・か!?課長!?」
「仙石課長」
「んっ何言ってやがんだ、お前はっ!!」
後ろから伸び上がった行が、仙石の耳を食むように囁く。 その甘い声に、思わずびくりと身体を揺らしてしまう仙石だったが、何とか気丈なふりをして肘で行を遠ざけようとした。
しかし行の手は、きっちりと閉じられたスーツの前を割り開き、ゆっくりとその胸を撫でる。
「っ、ちょ、ちょっと待てって!おい!」
「どうしてですか?」
「ぅおっ!わ、な、ちょ、待て!!待て!!」
耳を舐られて、仙石は焦った声を出す。
後ろから、まるで不意打ちのように這わされる舌が。
くすぐったいような、気持ち良いような。
微妙な官能を呼び覚ます。
「うあっ、あ、ちょ・・・うはははははっやめっくすぐって・・っ」
「くすぐったい、だけ、ですか?」
「んあっ!?」
耳の後ろをさ迷っていた舌が、不意に仙石のうなじをざらりと舐め上げた。 その刺激に、仙石はびくりと身体を震わせる。
「あ、この・・・っ」
「・・・乳首」
「っ」
「立ってますよ」
「っぅ・・っ」
振り向こうと首を捩らせた途端、熱い吐息と共にそんなセリフを吐かれて。 スーツの前を掻い潜って差し入れられた指先が、ワイシャツ越しに立ち上がった突起を摘む。 ぴん、と身体を緊張させる仙石を見て、行はにやりと笑った。
「気持ち良さそう」
「違っ・・・あっ」
ぐい、と上着を後ろに引かれ、そのまま両手首を戒めるような形で緩く結ばれる。 両手の自由を奪われてしまったことに気付いた仙石は身体を捩るが、時既に遅し。 行の魔の手はワイシャツのボタンを外し始めていた。
一つ一つ。
わざと、ゆっくりとした動作で。
「・・・どんな風にしましょうか、課長」
「お、ま・・・この手、外せ・・・!」
「外したら殴られそうだから、やです」
「よく分かってんじゃねぇかっこのやろ・・・っ」
するりと滑り込む、行の冷たい手の平。
指先が。
ランニングをたくしあげて素肌へ吸い付く。 色づいた突起をきゅう、っと引っ張り、脇腹を撫でると、仙石は堪らないと言うように吐息を漏らした。
「ふ、ん、んんっ・・・如月っ」
「キス、させてください」
行の手が自らのメガネを床に落とし、仙石のメガネを取り払った。 仙石の膝を床につかせ、顎に手をかけて唇を奪う。 乾いた唇を舐められ、仙石は観念したように口を開く。 その隙間から入れられた舌は容易く仙石の舌を絡め取り、痛いくらいに吸い上げる。 くちゅくちゅと舌の絡み合う水音が響き、仙石はきつく目を閉じた。
「ん、ん・・・っふ・・ぅぁ・・・き、さら・・・っ」
「もう、降参、ですか?」
「や、やめ・・っ」
かちゃかちゃと乾いた音が耳に飛び込み、それがベルトを外されている音だと認識すると、仙石は身体を床に倒してそれから逃れようとする。 しかし、両手を戒められたままではどうすることも出来ず、元々緩めに巻かれていたベルトは一気に引かれ、床に転がった。
「お腹、苦しかったですか?」
「ば、そ、そんなに太ってねぇよ・・・っ」
「そうですか?・・・ああ、お腹だけじゃなかったんですね、苦しいの」
「っ」
「もう、ここも。・・・随分苦しそう」
「あっ・・・撫でるなっ」
スラックスの股間を、仙石の意思に関わらず押し上げているものがあった。 それを、まるで弄ぶかのように、行の指先が何度も撫でる。 ほんのりと勃ち上がっていたものは、そんな緩やかな刺激にも関わらず、びくびくと震えながらみるまに大きく育っていった。
「キツイですか?」
「あ、や・・・っ」
「緩めて、欲しい?」
「っん・・・ん・・っ」
裏筋を擦られ。 感じやすいカリの部分を弄られる。 射精に導くための愛撫ではなく。
もどかしい快感だけを助長させるそれに。
仙石は知らず腰を揺らめかした。
「ここ、好きですね、弄られるの」
「ちが・・・っ」
「スラックスの色が変わる前に、オネダリしてください」
「っ」
既に下着は先走りで濡れている。 このままでは。 本当に。
指先一つで射精してしまうかもしれないと。
そんな恐怖が仙石の脳裏をかすめる。
そんな恥ずかしい目に遭ってたまるかと、仙石は唇を噛み締めた。
「っズボン、脱がせろっ」
「・・・命令じゃ、やです」
「お、まえっ上官の命令だぞ・・っ」
「・・・・・・上官じゃなくて、上司」
耳打ちするように行が諌める。
「っどっちでも一緒だろが・・・っ!」
「・・・・・・・・・どっちでもいいですけど、オネダリはしてくれないと」
「・・・脱がせろ」
「・・・」
「・・・・・・・脱がせてクダサイ」
「・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・脱がせ、て・・・」
「了解です」
あまりの屈辱に耳まで赤くする仙石ににっこりと微笑んで、行はスラックスに手をかけた。 ボタンを外し、挟まないようにファスナーを下ろして下着ごとスラックスを引き抜く。
「っあ!だ、誰がトランクスまで下ろせって・・・っ!あっ!?」
完全に無防備になった下半身をくるりと四つん這いの形に這わされ、肩で身体を支える体勢を取らされる。 高く上がってしまった尻に。
行の熱い舌が這う。
「いっひぁっ!?何、何して・・・っ!?」
「かわい」
「かわっ可愛くねぇよ!おっさんの尻舐めてんじゃ・・っねっぅあっあっ・・・っ」
尻たぶを舐め、甘噛みされて。 抗うように上へ身体をずらそうとするが、それは唐突に粘膜を舐められる感覚に阻止された。 閉じた窄まりを、行の舌が犯す。
「い、やだ・・っ如月っそれ、嫌だって・・・っ」
いつも、言っているのに。
そんなところを舐められるのはごめんだと。
にも関わらず、行はその行為を止めないのだ。
今も、また。
「やっぅああっあっきさら、ぎ・・・っ」
自らの吐息でフローリングの床が曇る。 だらしなく嬌声を上げ続ける口からは唾液が落ち、床に広がった。
嫌、なのに。
そんなところを舐められるのは。
嫌で。
気持ち良すぎて。
自分を見失いそうで。
「・・・・床、課長ので汚れちゃいましたね」
「あ・・?・・・っ」
ようやくそこから舌を抜いた行が、揶揄するような口調でそう責める。
もうすっかり勃ち上がった仙石から漏れた先走りが。 床に小さな水溜りを作っていた。
「指、挿れますよ」
「っぅあっあぁ・・・っ」
ぬるりと入り込む。 長く、しなやかな行の指。
いつも、その指は。
嫌味なくらい。
的確に弱い部分を攻めてくる。
「んっ・・ん、あっ如月・・・っ」
「腰、揺れてますよ」
「っ言う、な・・・っ」
「そんなアナタも、可愛い」
「いっあ、あぁっ・・・や、そこ・・・っ」
指が二本に増やされ、更に深く、広く、仙石の内部を抉る。 えも知れぬ快感が背筋を這い上がる感覚。 何もかも吐露してしまうそうな快感。 自由の無いこの身体が、更にそれを追い立てる。
「んっあ・・・如月・・・っきさ・・・っん」
「・・っ」
自然と込み上げる涙で目尻をほんのりと赤く染めた仙石が、助けを求めるように行を振り返る。 その、憐れみすら誘うような視線に。 行も限界を感じた。
前を寛げ、昂ぶった自身を取り出すと、性急な動作で仙石の後ろに押し当てる。
「っう・・・っああぁ・・・っ」
「・・・仙石さ・・・っ」
ありありと。
互いを一番近くに感じる瞬間。
熱く熟れた内壁が痛いくらいの締め付けで行を包み込む。
硬く、熱い切っ先が仙石の最奥を抉る。
そのどちらもが、たまらないほどの快感を紡ぎ出すのだ。
「っあっあ・・・っきさら・・っんん・・・っ」
「っ・・・仙石さん・・・」
隠す物など何も無い状況で、仙石はひたすら行の名を呼び、無意識の内に腰をすり寄せた。
行の手の平が仙石の腰を掴み、もう片方が前へ伸びる。 その身体を貪るように腰を振れば、それも同じように揺らめき、その度に透明な雫が床へ散った。
もう待てないとでも言うかのように。
仙石はその時を待ちわびて震えていた。
「・・・・・・いきそ?仙石さん」
「っぅあっあっ・・・如月・・ったの、む、から・・・っ」
「ぬるぬる、だ」
「あっひ・・・っん・・・ぅあ・・・」
熱い先端を指先がなぞる。 ぬるぬると。
その先走りを知らしめるかのように。
「漏らしすぎ、仙石さん」
「あっ頼む・・・っ頼むから・・・ぁあっ」
いたぶるような愛撫に耐えかね、ついに仙石は涙声で懇願する。
喉の奥まで快感は迫っているというのに。
最後の瞬間だけ与えられないこの苦痛。
これを解放できるのは、この憎たらしい男だけなのに。
「・・・仙石さん」
「ふ・・・っあっあ・・・っ如月ぃ・・・っ」
「気持ち、い?」
「い、い・・・っから、早く・・・っ」
「・・・俺も、凄く・・・気持ち、い・・・っ」
「あっひっあ、あぁっ・・・っ!」
深く、深く、その身を抉られて。
きつく前を扱かれる。
体全部で感じるのは行だけで。
そのあまりの快感に、仙石は吐精しながら気を失った。
「・・・お前、これ、ぜってー自分がやりたいだけだっただろ・・・っ」
「・・・さぁ?」
何はともあれ。
お誕生日、おめでとうございます。
おわり
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