『デンパ』
「これ」



「これ・・・って、携帯じゃねぇか」



 目の前に突き出された長方形の通信機。
 現代社会に生きる日本人のほとんどが所持していると思われる。
 携帯電話。


「あんた、持ってないから。買ってきた」


「買ってきたって・・・金は・・・」

「金はいい」

「よかねぇだろ。通話したら金もかかるだろうが」

「いい。どうせあんた、そんなにかけることもないだろう?」

「ん?まぁ、今まで持ってなかったくらいだから、そうかもしれねぇけどよ・・・」



「俺の番号と、アドレスは入れておいたから、操作は自分で慣れてくれ」



 にっこりと笑って、行は仙石の手の平に携帯を落とした。

 そう、にっこり笑って。





 この時、仙石は気づくべきだったのに。





「・・・・う〜ん・・・じゃあ、たくさん金払うようだったら言えよ?とりあえずこれはもらっとくからな」



 そう言って、携帯電話を受け取った。




 それが、1週間前のこと。














『デンパ』






















 その日、仙石は若狭に誘われて街に飲みに出た。
 ここのところ誘いを断ってばかりだったので(行の妨害のために)、若狭は上機嫌で仙石をあちらこちらへ連れ回した。
 
 始めに行きつけの焼き鳥屋。
 次に静かなバーへ。
 最後にいわゆる『おねえちゃん』のいる飲み屋へ入ったのだった。

 仙石は元々飲むのは嫌いじゃない。
 むしろ好きだ。

 そして、若くて可愛い女性も、決して嫌いではないのだ。


「久しぶりにこんな所もいいだろう!なぁ!」
「ああ、ほんと、こんな風に飲むのなんて何年ぶりだよ」


 若狭も仙石も、かなり飲んでいた。
 それに輪を掛けるように周りのきらびやかな女の子がはやし立てる。

「お客様、もっと飲んで飲んで〜!」
「すごい!いい飲みっぷり〜!」
「えー、元・自衛隊の人なんですかー?どうりでいい身体ですー!」

 右からおつまみを差し出され。
 前から酒を注がれる。
 左からは太腿や胸元を触られた。


「あっはははは!くすぐってぇよ!」
「あら、感じやすいんですねぇ。お客様?」


 うっとりとした仕草でしなを作る女達。
 随分と忘れていたこの楽しさに、しばし仙石は没頭した。





 携帯電話が鳴るまでは。











 『pipipipipipi・・・』


 僅かな振動と、音楽にかき消されそうな電子音が尻ポケットから仙石を現実の世界へと引き戻した。


「んだぁ?かみさんかよ?
「いや、今日は実家に戻ってるはずだがな・・・」


 若狭に冷やかされながらも携帯を取り出す。
 着信サインが背面ディスプレイに表示されていた。




『如月』、と。




「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」



 時刻は既に午前2時。
 若狭と飲みに行くことは、行には一言も言っていない。
 普段、こんな時間に行が電話を掛けてくるなんてあり得ない。
 ・・・何か急用だろうか?


 そんなことを思いつつ、出るのを躊躇っていると、隣に座っていたホステスが仙石の携帯を覗き込んできた。


「お客様の携帯、最新式ですかー?見たこと無い機種ですねぇ」
「え?あ、そう、なのか?」
「だってこれー、どこの機種か書いてないですよー??普通はー、ドコモとかauとか・・・って、電話出なくてもいいんですか?」
「あ、そ、そうだった」


 随分と待たせていた携帯を開き、通話ボタンを押す。
 しかし既に着信は切れていたらしく、『ツーツーツー』と電子音がするのみだった。


「切れちゃいましたね?大丈夫ですかー?」
「あー、・・・そうだな・・・・若狭、ちょっと電話してくる」
「おう、早く戻って来いよー」


 軽く手を振ってその場を離れた。
 エレベーターホールを抜け、ビルの外へ出ると携帯を取り出す。
 

「・・・・えー、・・・・かかってきた電話に掛けるのは・・・・・」


 たどたどしい仕草でリダイヤルボタンを押し、通話にする。



 しばらくの呼び出し音の後



『・・・はい』

「お、如月か?」

『ああ』

「今電話しただろ?何かあったのか?」

『ああ・・・別に。・・・・今、何してた?』

「今?あー・・・今、寝てた」

『そうか。どこで?』

「ど、どこって家に決まってんだろうがよ!」

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・へー・・・』

「・・・・・・・・・んで?何かあったのか?こんな時間に電話するってことは・・・」

『・・・・・今なら』

「ん?」


 一瞬、行の声が低くなる。




『今なら、まだ譲歩してもいいけど』




「・・・・・・・・じょう・・・・・・・譲歩・・・・・・?」

『そう』

「なん・・・何の・・・・」

『あんたが、俺に対してついてる嘘について』

「う、嘘って、俺ぁ何にも・・・」
「お客様ぁ〜!」
「っっっ!!」



 後ろから、美しく細い腕が伸ばされる。
 


「もー、いつまで電話なさってるんですかー?もう1人のお客様もお待ちですよー?」
「あ、ちょ、ちょっとまっ・・・・」


 確実に。
 確実に行の耳に声が入っているに違いない。



 仙石は嫌な汗が湧き出るのを実感した。



『・・・譲歩は無し、だな』

「お、ちょ、ちょっと待て!これは・・・!」

『ツーツーツー・・・』

 むなしく響く甲高い音が、更に不安を広げてゆく。



 ヤバイ。
 心底ヤバイ。
 まず電話に出なかったことで少々の不興を買っただろう。
 ついで、なぜか『寝ている』という嘘がばれてしまった。これはかなりまずい。
 そして極めつけは甘えるような若い女性の声。
 これに関しては考えずとも分かる。


 行が、静かに怒り狂っているであろうことが。




 しかしなぜ、今日に限って行は電話をしてきたのだろうか。
 普段ならば夜の9時を過ぎれば、家のことを気遣って電話を掛けてくることなど無い。
 メールですら、さほど送られてくるわけではない。

 それなのに、なぜ今日、こんな日に限って?
 如月行という男の本能の成せる業なのか?



「お客様ー?お客様?大丈夫ですか?」

「んあ!・・・あ、だ、大丈夫・・・だと思う」

「奥様ですか?」

「・・・いや、それだったら何倍も気が楽なんだがなぁ・・・」

 頭をがしがしと掻く。
 それでもこの場に行はいないのだからと、気持ちはいくらか楽ではあった。
 もしこの場を行に見られでもすれば、どんな目に合わせられるか。
 考えただけでもぞっとする。

「さ、行きましょう?」

「あ、そうだな。今日はパーっと飲んで・・・」





「仙石さん」





 ホステスに手を引かれながら店に入ろうとした。
 その背後から。
 今、世界で最も会いたくない人間bP。
 もしくは、今、最も会ってはいけない人間bP。



 如月行の声がした。



「あら?お客様、今呼ばれませんでしたか?」

「・・・・・・・」


 幻聴であって欲しいという思いは儚くもかき消された。


「仙石さん」


 ぎしりと、錆びついた音でも出しそうな首を振り向かせる。
 飾り気の無い清潔そうなシャツ。黒いズボン。
 そこに立っているだけで絵になりそうな容貌。
 
 ・・・しかも、なぜかかなりの笑顔で。

 如月行が立っていた。

「き、如月・・・・な、なんでここ・・・に・・・」

 舌がもつれて上手く言葉が出てこない。

「あんまり遅いんで心配になって迎えに来ました」

 にっこりと。笑う。
 しかし仙石は知っている。


 この笑顔は危険であると!
 この目は断じて笑っていないと!


「えっと・・・お客様の・・・お知り合い、ですか?」
「はい。仙石さんにお世話になっている者です」
「・・・・・・・・・」
「すっごい、かっこいいですねぇ」
「ありがとうございます(にっこり)」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「では、仙石さん、帰りましょうか」


 行の手がホステスの手をやんわりと放させ、仙石の手を引く。


「あっ、お連れのお客様がいらっしゃいますけど」
「ああ、では家の者が迎えに来たとお伝えください」
「おまっ勝手に・・・・・っ」


 勝手に何を言ってやがんだこの野郎、と。
 言ってやりたい。
 言ってやりたかったが、行の視線を真正面から受けて仙石は何も言えなくなってしまった。

 笑顔のそのまた奥に隠された感情に気づいてしまったから。




「じゃあ、お連れ様にはお伝えしておきますね。そちらのお兄さんも、またいらしてくださいねぇ」
「はい。失礼します」
「・・・・・・・・・・・・・・」


 愛らしい笑顔を振り撒きながら女性は店の中へと消えていった。
 その背中を追い、一人にしないでくれと叫びたい気持ちで一杯の仙石は、勇気を振り絞って行の顔をちらりと盗み見た。




 先程までの笑顔はどこへいったのか。
 能面のような無表情がそこに張り付いていた。





「き、如月・・・・」
「・・・行くぞ」
「な、ど、どこへっ!?」
「近くのホテルに」
「っ!?な、何でだよ!?俺ぁ行かねぇぞ!?そんなとこ!」

 強く引かれた腕を振り払う。
 すると、更に強い力で肩を抱かれた。



「もう、譲歩は無しだと、言っただろう」
「譲歩って・・・っ」
「これが最後だ」
「ぅあっ!?」


 繁華街のど真ん中で、睦言を呟くように耳打ちされる。
 




 

「道端で犯されるのと、ホテルへ行くのと、どっちがいい」

「っ・・・・」






 つまり、選択権も拒否権も無いということだった。





















 行の宣言どおり、近くにあったホテルへ連れ込まれた。
 それはまさに『連行』という言葉が相応しいもので、仙石はほとんど抱えられるような格好で部屋へ押し込まれた。


「いって・・・おいっ如月っ!」

 乱暴に突き飛ばされて、仙石は不満の声を露にした。


 思えば自分が一体何をしたというのか。
 ただ友人と酒を飲み、楽しんでいただけなのに。
 それのどこが、これほどの扱いを受ける理由になるのか。

 納得いかない。


「俺ぁこんな扱いされるようなことした覚えねぇぞ!」

「・・・・・・・・・・・・・」


 狭い部屋の、そのまた隅まで身体を引いて、仙石は虚勢を張った。
 射程距離にいては危ない、と。
 これまでの経験で嫌というほど学んだからだった。


「・・・自分が悪いことをした、という自覚も無い、か」

「悪いことって・・・ダチと飲みに行くのが悪いことなのかよ?」

「それは別に悪くない。悪いのはその後の行いだろ」

「その後の行いって・・・」



 仙石は親指を唇に当てる。
 考え事をする時の、癖だった。

 そうしている間に、行が近寄ってきたことにも気づかずに。



「・・・・・・・・・・・・あんたから・・・」
「って、うわ!お前っ気配消して近づくなよ!」



 仙石の耳元から首筋にかけて、触れるか触れないか、ぎりぎりのところを行の鼻先が伝う。



「・・・あんたから香水の匂いがする」

「っ・・・そ、そりゃ・・・その・・・・」

「そんなに近くにいたのか?」

「俺から近づかなくても、相手はそれが仕事なんだから・・・」

「・・・・・何だ、これ?」

 行の声に、更に剣呑さがプラスされる。

「へ?」


 その指が仙石の襟足を突いた。


「何・・・って?」

「・・・・・・・キスマーク」

「!っ!?」


 聞いた途端、行の視線から逃れるように手でその部分を覆う。

 ・・・そういえば、ふざけてキス、されたような、されなかったような・・・。


「あんた・・・」

 ゆらりと。

 目の前の獣がうめくように近づいてくる。

「っ!ま、待て!これはふざけて付けられただけで・・・っいっ」


 言い訳は途中で遮られた。
 キスマークの付けられた部分に、行が噛み付く。
 およそ『キス』という可愛らしいものではなく、まるで獲物に食らいつく肉食獣のように。


「いってぇっ!痛っ!・・・・痛ぇって!如月っ!」


 血が滲む。
 滲むどころではないのかもしれない。
 行の唇が赤く濡れていた。



「・・・こんな痕までつけられて」

「っ・・・・いっ・・・・」

「その上嘘までついて」

「わ、悪かった・・・って・・・っ」


 食い破られた痛みと、正体不明の恐怖に曝され、仙石はただただ謝ることしかできなかった。


 それでも。

 行は。



「・・・今日は許さない」

「〜〜〜〜っま、待てっ」



「覚悟してくれ」



 腕を引かれ、引きずられるようにベッドへ放られる。
 柔らかい悪趣味なクッションを押しのけ、仙石は逃げを打つが、足首を掴んだ行によって2秒で捕まえられた。


「如月っ・・・・んっ・・・・んぅ・・・・」


 暗い、怒りに燃えた闇色の両眼が仙石を捕える。
 貪るように口付けられ、乱暴にシャツを剥かれた。
 舌を絡めるというよりは、舌を喰らうような口付け。
 口腔を思う存分蹂躙され、仙石はただただ翻弄された。


「ま・・・てっ・・・・如月・・・っ」

「待たない。譲歩は、あの時が最後だって言っただろ」

「でも・・・ぁうっ・・・ぅっ」


 うるさいとでも言うように胸の突起を一気に引かれる。
 男でもそこが感じるのだと、この歳になって身体に教え込まれた場所。
 痛いようなむず痒いような感覚が、次第に仙石の思考を奪ってゆく。


「あんたのここ、触らなくても立つようになった」

「ぅあっ・・・やめ・・・っ・・・あっ」


 押し潰すようにこね回されて。
 痛いくらいに抓まれて。
 熱い舌で嬲られる。

 小さな乳首ははれ上がるように赤みを帯び、痛いのに、どうしようもなく気持ち良かった。

「んんー・・・っ・・・如月・・・ぅあっ」

 快感に負け、仙石の腰が自然と行に押し付けられる。
 自己主張し始めた前の猛りを感じ、行はそこに手を伸ばした。


「乳首触られただけでこんなになってるのか?」

「ぃあっ」


 下から掬い上げられるようにそこを掴まれて、潰されるのではないかという恐怖に思わず仙石は腰を引く。
 あからさまに怯えたその反応を見て、行はうっすらと笑みを浮かべた。


「・・・怖いのか?」

「っだ、誰が・・・」

「そうか。それなら安心した」

「何・・・わっ」


 一瞬行の身体が離れたと思った途端、下着ごとズボンをずり下ろされ、くしゃくしゃに丸められたまま床に放られる。
 ズボンのしわを心配する間もなく、仙石は行の手に握られたものに身体を強張らせた。


「お、お前・・・んなもん、どこで・・・」

「おもちゃだからな、どこにでも売ってるさ」



 行の手に握られた、鉛色に光る2対の手錠。
 まさか。
 それを。


「使う・・・わけじゃねぇ、よな?」

「使う」

「っ」

 
 冗談じゃない。
 この状況でそんなモンに拘束されたら、何をされるかわかったものではない。
 仙石は腹筋を酷使して起き上がり、ベッドから降りようとした。
 しかし、仙石の何倍も運動能力の良い行がそれを許すはずも無い。
 すぐに後ろから伸びてきた手に捕らわれて、右足首に手錠を掛けられる。
 
 手錠を足に、と思った次の瞬間、その片側を右手首に掛けられた。

「やめっやめろ!こんなの・・・・っぅあっ」

 更に左足首と左手首を手錠で繋がれる。
 全くといっていいほど身動きの取れなくなった仙石は、まるで芋虫のようにベッドに転がされた。


「てめぇっ!如月っ!お前、やっていいことと悪いことがあるぞ!?」

「あんたが嘘をつくのはやっていいことなのか?」

「っ・・・そ、それは・・・」

 冷ややかな反論。
 確かに事の発端は自分の嘘かもしれない。
 行が嘘やごまかしを嫌うことを知っていながら、自分は嘘をついた。
 だから多少の責めや文句は仕方の無いことだと思う。
 いっそのこと殴ってくれればいいと思う。

 けれど、その罰がこういった行為になると・・・。


「如月・・・俺が・・・悪かった、から・・・ひっ!?」

 横向きに転がされていた仙石をうつ伏せにさせ、尻たぶを左右に開く。
 普段隠された場所に外気を感じ、仙石は悲鳴を上げた。


「ここは誰にも見せてないのか?」

「み、見せるわけなっぅああっ」


 ぬるりとした濡れた感触がそこを這う。
 肩で身体を支えている仙石は隠すことも、身体を庇うこともできず、ただ声を上げた。


「や、やめ・・・っんんぅ・・・あっあっ」


 襞の周りをねっとりと舐められ、尖らせた舌先が穴の内部に差し込まれる。
 浅い部分を濡れた舌で嬲られて、思わず漏らしてしまいそうな感覚に陥らされた。


「あぁっ・・・あっ・・・ん・・・・ふぁ・・・あ?」


 後ろにいた行の気配が急に遠のき、尻の緊張が解ける。
 やっと終わったのかという安堵と、まさかこのまま放っておかれるのではないかという不安が入り混じり、仙石は不自由な身体を揺らした。


「きさ、ら、ぎ・・・っ?」


 がしゃん、と。
 何かが落とされるような音。

 そう、自動販売機で飲み物でも買った時のような。



「何?」

「な、に・・・して・・・・」

「ああ、コレ、買ってただけだ」

「・・・・・・っ!?」


 ベッドに戻って来た行が仙石の目の前に突き出したもの。
 最近では室内の自動販売機でも気軽に購入できるようになっているらしい。
 それ。


「これくらい小さいのだと、初めて使うのでも安心だろ?」

「・・・・っ・・・・・っ」


 さも親切そうな顔をして。
 行は仙石を地獄へ突き落とす。


 それ。
 ピンク色したローター。
 50前の仙石も、聞いたり見たことはあっても、実際に使うようなことは無かった。
 あくまでも女性相手の話の上で。

 それを、今まさに自分に使われようとしている事実。
 

 眩暈のするような羞恥と怒りで目の前が暗くなる。



「きさっ如月っ!」

「ん?」

「それ、それ、本気で使う・・・気じゃねぇ・・・・よな?」

「使う」

「っつか・・・使ったら許さねぇぞっ!?使ったら・・・ぅあっあっ!?」


 言葉だけは威勢良く文句を言う口を、後孔へ指を入れることによって塞ぐ。
 行の唾液で充分に濡らされたそこは柔らかく溶け、指先を沈めると滑るように受け入れられた。


「ひっ・・・っああ、あっん・・・っくぅ・・・や、め・・・っ」


 中指をゆっくりと埋める。
 根元まで埋めてしまうとくるくると回すようにかき乱し、狭い腸壁を刺激した。
 どこか焦らすようなその仕草から逃れようと仙石は身を捩るが、それは返って行に尻を突き出す結果となる。


「い、やだっ・・・・きさらぎ・・・ぃ・・・っ」


 許しを請うように、必死で顔を振り向かせる。
 涙を溜めた両眼が憐れみを誘うように行を見つめた。


「・・・俺に、悪いと思ってる?」

「っおも・・・ってる・・・」

「本当に?」

「・・・っ・・・っ」


 こくこくと、何度も頷く。
 これで許してもらえるのならと、仙石は恥も外聞も捨てて頷いた。
 
 それなのに。



「じゃあ、入れるぞ」

「っ!?やめっあっ!あー・・・・っ」


 引き抜かれた指の代わりに冷たい無機質なものが押し込まれる。


「嫌っやだっやめ・・・っああぁっ」


 長さにしてほんの7cmほどのローターは、すぐにその姿を仙石の内部へと消した。


「っひ・・・ぅっく・・・・っ」

「・・・泣くな」

「・・・ってない・・・っ」


 痛みはほとんどない。
 痛くて泣いているのではない。
 ただ情けなくて。
 手錠で屈辱的な格好に拘束された挙句、女に使う道具をあらぬところに押し込まれている。
 自分よりも、ずっと年下の男に。


「痛むのか?」

「っ・・・っ・・・」


 頭を振り、行から頑なに顔を隠す。



「・・・・・・・嫌いになったか?」


 
 さらりと頭を撫でながら、打って変わって優しい声色で行が尋ねる。


「こんな風に嫉妬する俺が、嫌いになった?」


 いつもの傲慢さは微塵も無い。
 不安そうな声に、仙石は顔を上げた。

 苦しそうな。
 縋りつくような目で。
 仙石を捕えて離さない。


 『そんな目で見るのは、反則だろうが・・・』



「・・・あんたに嘘を付かれたのが嫌だ」

「・・・・・・悪かった・・・って・・・言ってんだろう、が」

「ああ・・・」

「っ・・・これ、外せって・・・っ」

 がちゃりと、手錠が不粋な音を立てる。

「もう逃げない、か?」

「始めから、逃げるつもりなんかねぇ・・・よ」


 行が小さな鍵を取り出して、手錠を外す。
 自由になった手足には、拘束具の痕が赤く残っていた。


「・・・悪かった」


 仙石の身体を引き起こす。
 その痕に優しく何度も口付け、謝罪の言葉を口にする。
 仙石はまだ痺れの残っている手で、行の頭を撫でた。


「俺も・・・その、悪かった。お前に、嘘をついちまった。・・・・これからは正直に言うようにする」

「・・・正直に言う前に、あんなところに行かないでくれ」

「う・・・ぜ、善処する。・・・んっ」


 降りてきた行の唇が優しく仙石のそれを塞いだ。
 なだめるように唇を舐められ、舌を絡められる。
 無慈悲な行為に忘れかけていた官能を呼び起こされ、仙石は思わず腰を捩らせた。


「きさ、らぎ・・・これ、取ってくれ・・・っ」


 もどかしそうに揺れる尻の狭間から、まるで尻尾のように垂れ下がっているコードが見える。
 体内に埋め込まれたローターが、仙石の身体を苛んでいた。


「どうして。尻尾みたいで可愛いけど」
「か、可愛くなくていいっ・・・早く・・・っ取って・・・っあぅっ」


 くいっとコードをほんの少し引いてみる。
 たったそれだけの刺激で、仙石は膝を震わせた。


「・・・少し、電源入れてもいい?」
「だっ駄目だっ・・・外してくれって・・・っ」
「少しだけ、だから。・・・仙石さん」


 いじめられているのはむしろ自分の方なのに。
 憐れみを誘うような眼差しを向けられると、強く出れなくなる。
 嫌、なのに。
 そう拒絶できなくて。
 自らの愚かさを仙石は呪った。


「・・・可愛い」


 何も言わない仙石の反応をOKと見なしたのか、行がスイッチに手を掛けた。
 一つだけメモリを進める。


「うぁっ・・・ひぁっあっ・・・んんぅ・・・」


 僅かなモーター音が体内から漏れ、仙石は目を見開いて行に縋りついた。


「だ、駄目だっ・・・あっあっ・・・もう、如月・・・ぃ・・・外し・・・て・・・あっああぁっ」


 行の手に握られたスイッチのメモリが更に押し上げられる。
 先程より明らかに大きくなった振動。
 まるで体内に別の生き物が侵入したような異様な感触に、仙石は涙を流した。
 

「嫌っだ・・・ああぁっあっ・・・んんっ・・・如月・・っ如月・・・ぃ」
「痛くは、無いだろう?・・・前はこんなになってる」
「あぅっあっさ、触るなっ」


 滴るほどの先走りを塗り広げられるように指先で弄ばれ、思わず腰を引く。
 後ろに入れられた玩具と前からの刺激に、仙石はただ目の前の男に縋りつくことしか出来なかった。


「・・・これで、最大」
「ぅああぁっあーっ嫌だっはず、外して・・・っああぁっ」


 最奥を細かな振動で揺らされ、内側からペニスを弄られるような感覚。
 あまりにも激しすぎる快感。
 仙石は悶えながら許しを請うように行に口付けた。


「っ・・・・・ふっ・・・・んん・・・・」


 拙い舌遣いで一生懸命に絡ませ、時折唇を甘く噛む。
 全て行の教えたキスの仕方だった。


「・・・っ・・・・また、そうやって俺を煽る・・・」
「っあっ・・・ぅあっ」


 仙石の身体を引き倒し、仰向けにして足を大きく開かせた。
 充分すぎるほど熱くなった自身を取り出し、後孔へ押し付ける。


「ま、待て・・・まだっあっ・・・はい・・・入った・・・ままっあっ」
「このまま入れたい」


 ぐりぐりと入口を熱い塊でなぞられる。
 身体の奥ではローターがその勢いのまま残っている。
 このまま行のものを入れられれば、自分はどうなってしまうのか、想像を絶する。


「嫌っ嫌だ・・・抜いてから・・・っあっあっひっ」


 ぐぷ、と。
 コードの狭間をかき分けて熱いものが入れられる。
 敏感になっている入口を亀頭で広げられ、とろとろに溶けた腸壁を擦りながらそれはどんどん入り込んだ。


「いっやめっ、だめだっ・・・っああぁぁっ・・・あーっ」
「っ・・・すごい、あんたの中、熱くなってる」


 最奥のローターを更に突き上げられ、信じられない奥まで侵される。
 内臓全てがせり上がってくるような恐怖と、凄まじい快感仙石を支配した。


「あっあぅぅっ・・・如月・・・あっあっ・・・」
「恒史さん・・・気持ちいい?・・・中が、凄い。痙攣してる・・・」
「いっ・・・気持ち・・・いいっ・・・・あぁっあっんんっ」


 自分が何を言っているのか、自分の身体がどうなっているのか。
 もう考えている余裕は無かった。
 今はただこの熱を解放してしまいたい。
 早くこの責められるような快感から逃れたい。


「きさらぎ・・・っい、いく・・・っあぁっ」
「・・・っ・・・俺も・・・っ」


 腰骨を痛いくらいに押し付けられて、無理に広げられた最奥に行の飛沫を感じた途端、仙石は触れられることなく射精していた。


「ふっあぁ・・・っぁ・・・っ・・・・ん・・・」
「っく・・・」


 白濁とした精液を伴いながら行が引き抜かれる。
 続いて、いやらしく濡れたローターも。


「っうあぁ・・・・っ」


 肌が粟立つような感覚に思わず声が漏れる。
 せめて電源を切ってから抜いてくれと、怒る気力はもう既に無く、仙石は落ちるように眠りについた。


















 翌朝。


「でも何で、俺があそこで飲んでるって分かったんだ?」

「・・・・勘で」

「って、んなわけねぇだろ!いくらお前が普通じゃないとはいえだな・・・」

「そんなことより、ほら、反対の靴」


 思うように身体を動かせない仙石を、行は甲斐甲斐しく世話をしていた。
 シャツを着せ、ズボンを穿かせ、靴まで履かせてやる。
 首筋につけた噛み傷にはガーゼが当てられていた。


「偶然?・・・んなわけねぇよなぁ・・・何であんなとこにお前が・・・・」


 まだ納得いかない様子で仙石は頭をひねっている。



 仙石は知らない。
 
 知らない方がいいことが、世の中にはある。


 行から与えられた携帯電話。

 行によって特殊加工されたそれには最新のGPS機能が付属されており、仙石がどこにいるのかcm単位で割り出せることを。

 更には携帯電話に盗聴機能も付いていることを。







 仙石はまだ知らない。


 知らない方がいいことが、世の中には、ある。











TUTUの井筒様から、1234hitのキリリクとしていただきました。
「行仙ハードエロ読みたいです」と、人間としてどうかというリクをしてしまったのに、快諾してくださった行仙の神様です。
そうしてできあがった作品がこれですよ!!嫉妬行かわいい!仙石さん愛されすぎてるー…罪な男です。
こここんな素敵すぎるSSをここに飾らせて頂くなんて勿体なくて仕方ないのですが、一人でも多くの方に井筒様の行仙を読んで頂けたらと、
図々しくも飾らせて頂きます!井筒様、本っっ当〜に有難うございました!!
(05/5/14)

―戻るときはウインドウを閉じてください―