少し前から。
きっとそれは思い過ごしとか、気のせいだとか、そんな要素も含まれているとは思うけれど。
ゲドには一つ、気になることがあった。
『peel』
その日も、別に何か特別なことがあったわけではない。
いつものメンバーで、いつものように旅を続け、いつものように宿へ着いた。
エースは酒と女を求めて酒場へ繰り出し、残りのメンバーは宿で食事をとる。
これも、何も変わらないいつもの光景。
元々エース以外はそう口数の多い方ではなく、明日の予定などを口にしながらの食事となった。
「…で、明日はこの街道を通って次の街に行くから…」
クイーンが広げられた地図を指差して道のりを辿る。
ジョーカーもゲドも、そこへ視線を移していた。
けれど。
「…」
ちくり、とゲドの首に僅かな痛みが走る。
勿論何か刺さったわけでもなく、誰かに触れられたわけでもない。
言うなれば『視線』
強く、見つめられた時に感じる、あの気配。
「…ジャック」
「…」
声を掛けるとジャックははっとなったように顔を上げた。
ジャックはいつも何を考えているか分からない、と言われるほど無表情である。
その代わり、その視線は誰よりも雄弁だとゲドは知っている。
けれどここ数日感じるジャックの視線は、ゲドにもその意図を汲むことが難しかった。
まるで獲物を狙う時のように。
じっと。
ただ、見つめていることがある。
「…明日は渓谷を渡る。弓矢を使う盗賊が多く居るだろうから、お前の援護が必要になるだろう」
「…」
話しかければ、ジャックはいつものように頷く。
そしてまた、何も無かったように食事を始めた。
それを確かめてゲドも再び食事に戻る。
けれど。
「…」
また、首の辺りがちりりと痛む。
見なくてもジャックがこちらへ視線を向けているのが分かった。
一体この視線が何の意味を持つのか。
ここ数日、特に何も無かった。
いつものように旅を続け、喧嘩をすることもなく、お互いの気分が昂ぶれば身体を重ねることもあった。
そんな時も、ジャックは何も逆らうことなく従順に身体をゆだねて来たというのに。
一体何があったのか。
怒られるようなことも、寂しがらせるようなこともした覚えがないゲドは少し眉を寄せた。
「ジャック」
「…?」
名前を呼ぶと、ジャックが僅かに視線を上げる。
やはりこちらを向いていたのか、食事をとる手は留守になっていた。
「…あとで話がある」
「…はい」
それだけで何かを察したのか、ジャックはまたこくりと頷いた。
そんな2人のやり取りを聞いていたクイーンは、低い声でゲドの隣で釘を刺す。
「そういうことは2人になってから言いなさいよ」
「…すまん」
「…」
ジョーカーはのん気に肉を頬張っていた。
2人の会話から気を利かせたクイーンによって、その日の2人部屋が用意された。
勿論『ゲド・ジャック』の部屋と『エース・ジョーカー』の部屋、それにクイーンの一人部屋である。
食事を終え、ゲドとジャックは部屋に入った。
ゲドはベッドへ腰掛けたが、ジャックは落ち着かないようで窓辺に立っている。
その行動も、いつものジャックとは違っていて、ゲドはほんの少しだけ苛立ったような声を出した。
いつもなら、何も言わずとも隣に座るのに。
「…何かあったのか」
「…?」
ジャックに背を向けたままで、ゲドはそう声を出した。
別に怒るつもりは無いのに、棘のある声が出てしまう。
ジャックの気持ちが分からないのは不安だった。
他の人間よりも長い時間を生きてきたゲドにとって、ここまで心を許せる人間は他にいない。
だからこそ手放すことなど出来ないことを、ジャックは知っているだろうか。
大切な誰かを目の前で失う辛さを。
「俺に何か言いたいことがあるんじゃないのか」
「…………………………………いえ」
「…それだけ考えるんなら、あるんだな」
「………」
ジャックの沈黙には2通りある。
1つは何と返答をしようかと考える間。
そしてもう1つは、隠し事をしようと考える間である。
今回は、明らかに後者だった。
ゲドは更に眉間に皺を寄せる。
「俺には言えないことか」
「………そういうことじゃないです」
「……」
ジャックに視線を向けると、あの鋭い目とかち合う。
けれどいつものようにその目から何かを読み取ることは出来なくて。
心の奥深く。
触れることの出来ない部分に、何か大切なものをしまい込まれたような気分に陥り、ゲドは目を逸らした。
そのまま、すっくと立ち上がる。
「……隊長?」
「……今日はジョーカーと部屋を代わってもらう」
「っ」
「…俺には言えないことなら、ジョーカーに相談してみろ。…何か、力になってくれるだろう」
「隊長」
ジャックの声に耳を貸すこともなく、ゲドはそのままドアへ向かって歩き始めた。
ジャックに何かあった。
何か言いたいことがある。
何か隠していることがある。
けれどそれが何なのか、どれほどジャックのことを思っていても読むことなど出来ない。
どれだけ年を重ねても、人の心を繋ぎ止めておける方法など無いことを知っているゲド。
だからこそ、これ以上2人で居るのは辛かった。
まだ若いジャックを無理に手元に置こうとするのは、それこそジャックのためにはならない。
「っ隊長…」
「っ」
部屋を出ようとドアノブに手を掛けたゲド。
しかしその手を、ジャックの手が止めた。
「…」
ゲドは自分よりも低い位置にあるジャックへ視線を落とした。
ジャックは迷うように揺れた目でゲドを見上げている。
何か、不安に思うことがあるのだろうか。
あるのだとしたら、それを取り除いてやることは出来るだろうか。
「…ジャック。…何か思うことがあるなら言葉にしろ。…俺はそれを拒絶したりしない」
「…隊長…」
大切な者のために、自らの出来る限りで応えてやりたいと思う。
これから先も、ずっと一緒に居るために。
ジャックはゲドの言葉に少し驚いたような表情を浮かべ、そしてすぐに目を伏せた。
恥じらうような、戸惑うようなその仕草。
ゲドはその頬へ手を伸ばし、俯いた顔を上げさせると柔らかくその唇を啄ばんだ。
「…ジャック」
「……………………隊長…」
「ん?」
「……………………怒りませんか」
「……ああ……多分、な」
ゲドのそのセリフが終わるか終わらないか。
ジャックが、ゲドの首筋へ腕を回した。
「…ジャック…?」
「…隊長」
「何…ん…」
獲物を狩る鷹の目が近づき、ゲドの唇を奪う。
いつもこんな行為をするのはゲドが先だった。
ゲドから口づけし、ゲドから手を伸ばす。
そしてそれに応えるのがジャックとの関係の常であったというのに。
突然のジャックからの行為に、ゲドは少し驚いたもののすぐに唇を開いて舌を伸ばした。
まずは嫌われたのではなかったと、そう安心し。
こういうことが嫌いでなかったのかと、そっち方面でも安堵した。
そしてもしかしたら、ジャックの『言いたくても言えないこと』とは、このことだったのかと。
元々さほど性欲の強い方ではないジャック。
ジャックからこういったことを求めるのは本当に珍しいことだった。
だからこそ言えなかったのではないか。
恥ずかしがって。
「…ジャック…」
「ん…」
そう思うと愛しさが止まらなくなり、ゲドは更に強くジャックを抱き締めた。
今日は自分自身も自制できそうにないと、身体を強く押し付けた時。
唐突に。
足を払われた。
「っな…っう…!?」
全く無防備になっていたゲドの足は綺麗に打ち払われ、バランスを失った身体は大きく傾く。
倒れこむ衝撃に身構えるゲドだったが、次の瞬間目の前にあったのはベッドであった。
衝撃にスプリングが大きく軋む。
「っ…ジャック…っ…?」
「…」
一体何のつもりだと振り返ったゲドを組み敷く形で、ジャックが見下ろしていた。
薄暗い部屋の中、両眼が光っているのが分かる。
いつものように、情欲に潤んでいるだけではなくて。
何か別の。
もっと違う性質の。
それは見たことのあるような色。
「…おい…?」
「…時々、急にこんな気持ちになるんです」
「…?」
「別に、今の関係が嫌とか…そんなことは思ってないのに…」
「…ジャ、ック…?」
するりとジャックの手がゲドの首筋を撫でる。
細い指先。
けれどそれは確かに男の無骨さを持った指で。
細いと思ってた身体は、無駄の無い筋肉に覆われていることが分かる。
「…隊長が、可愛いと思います」
「…」
ゲドの目が唖然とジャックを見上げる。
何が。
誰が。
何だと思うと。
今、ジャックは言ったのだろうか。
「…ジャ、ジャック…?」
「止められないんです。…見れば、そのことだけ考えてしまうから…」
「っ」
耳の後ろを指で撫でられる。
明らかに何かを呼び覚まそうとしている手つき。
ゲドは逃れようと身体を捩じらせたが、ジャックは馬乗りになっていてびくともしない。
つ、と。
嫌な汗がゲドの背中を伝う。
「…ジャック、落ち着け。…俺は…」
「俺は、隊長を抱きたいです」
「っ…ジャック……っぅ…」
ゲドの逃げ惑う腕を押さえつけ、ジャックは口づけを落とす。
いつものように背伸びをする口づけではなく。
いつものように翻弄されるままの愛撫ではなく。
今度は自らの熱で陥落させるような。
そんな口づけを。
「…ん…っぅ…」
「…隊長…」
「待て…っぁ…」
鎖骨を強く噛まれ、思わずゲドの声が上がる。
ぺろりとジャックが自らの唇を舐めるのが見えた。
そんな仕草も、いつもであれば官能的に見えたであろう。
しかし今のゲドにとって、それは獲物を前にした鷹が『いただきます』を言う行為に等しかった。
「ジャック…ッ」
「…隊長は…」
「っ」
「隊長は、俺に抱かれるのは、やっぱり…嫌、ですか…」
「…………」
悲しげに目が伏せられる。
可愛らしい。
こんなに可愛らしいのに。
やってることもやろうとしていることも趣味嗜好を疑ってしまう。
目の前に居るのは可愛らしい女性ではない。
華奢な美少年でもない。
ジャックよりも身体が大きく、力も強い、見た目は中年の男がいるというのに。
なぜよりにもよってそれを『抱きたい』なんて思うのか。
「…正気か、ジャック」
「…」
頷くジャック。
本気の正気だとその眼が雄弁に語っていた。
それはもう、ちょっと前からは考えられないほど分かりやすく。
あれほどジャックの気持ちが分からないと悩んでいた時が嘘のようにはっきりと。
『抱きたい』と。
「……隊長が、許してくれるなら」
「…」
少し興奮したように、ジャックはうっとりと囁いた。
普段、こんな風に強請りごとなどしてこないジャック。
そのジャックが、こうやって許しを請うている。
叶えてやりたいと思う。
自分が出来ることならばその全てで。
『拒絶はしない』と、そう言ったのは自分自身だから。
「……………………ジャック」
「…はい」
「……期待はするなよ」
「…?」
「…俺は見てのとおり愛らしいわけでも、綺麗なわけでもない。お前の期待には応えることが出来ないだろう。それでも…」
そう言いかけたゲドの唇へ、ジャックの指先が触れる。
『その先は不要』と、唇を柔らかく諌めた。
「隊長は可愛いです」
「…そんなわけないだろう」
「…かわいい」
「…っ」
指先が唇を割り、口腔へ入り込む。
きちんと切りそろえられた指先が歯列をなぞり、舌を柔らかく摘む。
何か別の行為を彷彿させるかのように出し入れされ、ゲドはその恥ずかしさに眉を寄せた。
自分が『する』側の時は全く感じなかったのに。
「…ぅ…は………ジャック…っ」
「…………優しくします」
「…そういうことは口にしなくていい」
「でも隊長は、俺に言ってました」
「…っぅ…」
何の悪意も無い顔でそう言われ、顔を顰めるゲドの服をジャックが脱がせ始める。
重なった厚い生地を肌蹴させ、留め具を全て外してしまう。
硬く鍛えられた胸元へジャックの手が滑り込み、するりと胸の尖りを掠めた。
「…ん……」
「…」
目を開ければ、ジャックが観察しているように見つめているのが分かって、ゲドはその目を閉じた。
ジャックは両手でゲドの胸をまさぐり、突起を指先で摘み上げる。
ひくりとゲドの喉が動き、声を噛んでいるのが分かった。
「…隊長」
「…っ…」
「…声を…」
「っ…何を…」
「隊長の声も、聞きたいです」
「………俺に、これ以上の恥を晒せというのか?」
「…恥?……俺にこうされるのは、恥ずかしいことですか?」
「…っぅぁ…」
きゅう、とジャックの指先がゲドの乳首をきつく摘む。
慣れない痛みに思わず声を上げたゲドの唇へ、ジャックの指先が触れた。
「…隊長」
「…っぅ…く……」
顔を背けてゲドはその指を嫌がった。
けれどジャックの指が強引にその唇を割り、舌を軽く引くと堪え切れなかった声が僅かに聞こえ始める。
「ん…っぅ…ぁ…っ」
声を噛めなくなったゲドに満足げな表情を浮かべ、ジャックは唇を胸元へ寄せた。
滑らかな肌へ頬を滑らせ、鼻先を押し当てて唇で辿る。
いつもより呼吸の速くなったことを知らせる腹筋を舌で舐め、ゆっくりと下肢へ降りていった。
硬いベルトを難なく外してしまうと、下着も一緒に衣服をずらす。
ゲドを見ると片手で顔を隠すようにし、シーツを握り締めているのが見えた。
恥ずかしいのか、その耳が赤く染まっているのも。
「…隊長」
「………っ……や、るんなら、さっさとしろ」
「………顔、隠さないでください」
「……っ」
ジャックの言葉を無視して、ゲドは顔を背けた。
本当はその手を縛り付けてでも見たいと思ったのだが、これ以上何か要求すれば怒られてしまうかもしれないと思い、ジャックは行為を先に進める。
中途半端に引っかかっていた衣服を足から抜き去ると、その中心に息づく熱を手にした。
僅かに反応し始めているそれが愛おしくて、思わず唇を寄せる。
ゲド自身に教えられたように。
ゆっくりと唇で触れ、舌で舐める。
「…っ…ん……ぁ…」
ゲドの息遣いと、溜息のように漏れる声。
口の中でそれはどんどん成長していき、ジャックは更に深くそれを含んだ。
「ぅあ…ぅ…ジャック…っ」
「…ん…………隊長…」
ゲドの手がジャックの頭へ伸びる。
そうでもしないと耐え切れないかのように。
じわりと先端から先走りが漏れ、ジャックは丹念にそれを舐め取ってゆく。
ゲドは耐え切れず声を上げた。
「っあ…ジャック…っ…待て…っ」
「……ん…」
制止するゲドの声も聞き入れず、ジャックは愛撫を続けた。
括れの部分を舌でなぞり、先端へ唇を滑らせる。
くすぐるように双球を揉むと、ゲドの身体が大きく震えた。
「っあ…っ…ぁ…っう…」
「…っん……」
びくりとそれが震え、先端から勢い良く快感の証が吐き出される。
口の中に溢れるそれをジャックは喉を鳴らして飲み下し、先端についた残滓をも舐め取った。
「っぁ…やめ…っ…」
「…」
ゲドの顔を見上げる。
心なしかその目が潤んでいるように見え、ジャックは僅かに笑みを浮かべた。
酷薄そうにも見えるその笑みに、ゲドは足を閉じようと身体を捩じらせたが、それよりも早くジャックの手が膝を割っていた。
鷹の爪はどんな獲物も逃さない。
ゲド自身の滑りを借りたジャックの指先が、先ほど愛撫を受けていた部分よりも更に奥へと伸ばされた。
「っジャック…っ」
「………痛いですか?」
「っあ…っ…」
立てられた膝がジャックの横で震える。
しなやかな指先は硬い入り口を潜り抜け、ゲドの体内へと入り込んだ。
くちくちと濡れた音が耳に入り、ゲドは更に強くシーツへ縋りついた。
いつもは組み敷いているジャックにこんなことをされている羞恥。
年下の相手に足を開かれている屈辱。
そしてもう忘れていた快感が、ゲドの身体を犯し始める。
「ジャック…っぁ…」
「…………………隊長」
「んぁ…ぅ………く…っ」
ジャックの指は内壁を辿り、弱い部分を刺激する。
迷いも無くその部分へ触れられ、ゲドは低く声を上げた。
「っ……随分、…慣れ、て…いる、な…っ…ぁ…っ」
「……隊長……」
「……っ…どこで…ぅあ…っ」
その先はジャックの指に鳴かされ、言葉にすることは出来なかった。
『一体どこで覚えた』と、そう言いたかったゲド。
ジャックの、この行為が酷く気持ちいいのが逆に嫌だった。
こういったことには疎いと思っていたのに。
その指先には迷いが無くて。
過去のことにまで口出しするつもりは無いが、不安になってしまう。
自分以外の誰かの存在が。
「…………全部、隊長から」
「…なに…っぁ…」
「……全部、隊長に教えられましたから」
「……っ…ジャック…」
僅かに笑みを浮かべるジャックへ、ゲドは手を伸ばした。
ジャックは甘えるようにその掌へ頬を擦り寄せる。
何もかも、この行為全てが自分のものであると。
そんな意味を含んだジャックの言葉が嬉しくて。
「……だから多分、最初は痛いかもしれないです」
「…」
つまりジャックも初めての時は痛かったのであろう。
ゲドは思わず突っ込みそうになったが、その合間に指を増やされて息を詰まらせた。
2本になった指はゲドの中をゆっくりと掻き回し、感じる部分を擦り上げる。
情けないと、駄目だと思いつつゲドは腰が浮くのを止められなかった。
「…っぁ…ジャ、ック…もう、いい…」
「…隊長…」
「…いい、から…さっさと、しろ」
「…」
ここまできてまだ強がるゲドの言葉に小さく微笑み、ジャックは自らの前を寛げた。
ジャックにとっては初めての行為。
人と触れ合うことが苦手だったジャックには、ゲドの存在が全てだった。
「…っう…っ」
「……隊長…」
大きくなったものをあてがい、ゆっくりと身体を進める。
指でほぐしたとはいえ、そこはかなり狭く締まっており中々うまく進むことが出来ない。
「…隊長…もう、少し…力を、抜いてください」
「…っんぁ…あ…っ」
くちゅ、とジャックの手がゲドの前を握りしめた。
痛みと衝撃で萎えてしまったそれを育てるように扱くと、びくびくとゲドの身体が反応を始める。
きつく締まっていた後孔は僅かに綻び、ジャックはその隙に腰を進めていった。
「んぁ…っう…ジャック…っあ…」
「…っ…たい、ちょう…っ」
ゲドの震えが中にいるジャックへ刺激を与える。
すぐに達してしまいそうになるのをどうにか堪え、ジャックは抽挿を始めた。
ぐちぐちと耳を塞ぎたくなるような音がゲドを襲う。
恥ずかしさと、ジャックに身体を開かれているという羞恥にゲドは枕を手繰り寄せて顔を埋めた。
しかしそれはすぐにジャックの手によって取り払われてしまう。
「っジャック…っは…ぅあ…っぁ…っ」
「…隠さない、で、ください…」
「ぃ、あ…っぁ…」
「…かわいい」
首を振るゲド。
髪が乱れ、シーツへ黒い弧を描いた。
ジャックはぺろりと唇を舐め、抱えたゲドの膝へ爪を立てる。
薄い皮膚を破り、爪先はゆっくりと硬い筋肉へ埋もれてゆく。
「…ぅあ…っ痛…っ」
「…」
痛がり、眉を寄せるゲドにまた少し興奮する。
ジャックは深く、浅く、自らの思うままにゲドの身体を貪った。
「……隊長はかわいいです」
そう、何度も呟きながら。
「…」
「…」
「…」
「………大丈夫ですか?」
「…」
控えめにかけられた声に目を開けると、そこには見慣れたジャックの顔がある。
相変わらず可愛いと思うその顔に、ゲドは小さく溜息を漏らした。
「……大丈夫だ」
まだ身体の奥にはジャックの熱が残っているかのような感覚が残っている。
若いジャックの勢いはその後も衰えることはなく、明け方まで付き合わされてしまった。
それでも何とか自分の力で立ち、風呂へ入ったのは隊長としての意地だったのかもしれない。
「………すみません」
小さな声で謝るジャックに思わず苦笑し、ゲドはその頭を撫でた。
痛みはあるが後悔などしていない。
ジャックを抱くことも抱かれることも、どちらでもこの思いを表現する術に違いは無かった。
ただ、出来れば抱く方がいいと思うだけで。
「…大丈夫だと、言っただろう。久しぶりだったから、少し疲れただけだ」
大きく息を吐き、枕へ頭を埋めるゲド。
そのゲドの言葉に。
ジャックが僅かに眉を顰める
「…」
「…」
「…」
「……?…ジャック?」
「…」
頭を撫でていたジャックの顔が真顔になる。
情事後の、甘い表情から一転。
獲物を狩る鷹の目に。
「……『久しぶり』…ですか」
「…………………………………………」
そう復唱され。
ゲドは自らの発言を悔いた。
まずい。
これは。
言わなくてもいいことを、言った。
多分、絶対。
「………隊長」
「……」
「…………………俺、……本当は嫉妬深いんです」
「…………」
「………………覚悟、してくださいね」
「…」
にっこりと、普段見たことも無いような笑みに。
ゲドは鷹を前にした兎のように背筋を震わせた。
部屋から出てきたゲドへクイーンから『やられすぎ』と言われたのは、言うまでもない。
おわり
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