ずるいってばよ



「サスケずるい」

「は?」

 慌ただしく夕食の準備に追われていると、勝手口からふらりと入ってきたナルトが顔を見るなりいきなり言った。
 一緒に夕食をと誘って、なかなか時間になっても来ないと思ったら、何をわけのわからないことを…。

「なんだってんだよ。オレのどこがずるいって言うんだ」
「だって、サクラちゃんが、サスケは才能があるって言ってた。車輪眼もそうだけど、サスケは忍の才能があるって」
「それがどうした。事実だろ」
「サスケの顔がかっこいいのも才能だって言うんだ」
 おい…。顔は才能か?
「そんで、みんながサスケのこと自分のものにしたいって競争してんだ」
 おいおい…。いつオレが誰かのものになるって言ったよ。
 そりゃ、自分の顔の創りがいいのは分かってるよ。そんなことで生意気だとか言われても、事実だからな。けど、それで得をしたことなんて言っとくけど一度もないぞ。
 むしろウルサイ女どもに群がられて、よけい鬱陶しいだけだ。
「サスケの顔、悔しいけどキレイだもんな」
 そう言えば、こいつも最初は人の顔見てボーっとしてたっけ。
 もしあれでオレのこと気にしてたと思えば、この顔も満更悪いことばかりじゃないな。

「で? おまえはなんでそんな泣きそうな顔してんだ?」
「な、泣いてなんか…っ」
「うそつけ」
 慌てて俯く顔を覗き込むと、大きな瞳が潤んでいた。
「だって、サクラちゃんが、サスケとずっと一緒にいたいから結婚するって言うんだ。オレ…オレだって一緒にいたい。…でもやっぱサスケだって女の子の方がいいだろうし…、今はこうして一緒にいられるけど、そのうち誰かのものになっちゃって、オレなんかほったらかしにされるってばよぉ…」
 最後のあたりは嗚咽混じりになりながら訴える。
 バカだなぁ。そんなこと考えて泣くなんて。
 だからおまえはウスラトンカチだって言うんだ。

「あのな、ナルト」
 オレは、出来るだけ優しい声でナルトに囁いた。
「オレはこれから先、誰のものにもなるつもりはない。女どもが勝手に騒ぐのは放っとけばいい。いつものことだ」
「なんだよ、自慢かよ」
「バーカ、そんなことオレには関係ないから言うのさ。オレはオレのしたいようにやる。誰の指図も受けない。忍として生きるのも、兄貴に復讐することもオレが自分で選んだことだ」
 そして、
「おまえの傍にいるのも…な」
「サスケ…」
「だから、安心しろ。オレは一度決めたら遣り遂げる男だ。お前の傍から離れるつもりはない。それでも不安なら…おまえがオレを自分のものにすればいい」
 おまえのものなら、喜んでなるさ。
「サスケェ…」
 顔を上げたナルトは、ますます涙腺を緩ませて首にしがみ付いてきた。
「する…っ。サスケをオレのものにしたいってばよ。でもどうしたら…」
 大っぴらに宣言するだけではサクラ達を納得させられないと思っているらしい。
「仲間なら、サクラちゃんもそうだし。今さら友達っていうのもなんか変だってばよ」
 悩むナルトに、オレは秘密を打ち明けるように言った。
「じゃあ、恋人っていうのはどうだ?」
「へ?」
「それならいつも一緒にいたって変じゃないし、オレのこと独占できるぞ」
「独占…。いいな! それいい! オレ恋人がいい!!」
 パーッと瞳を輝かせて、疑うことを知らないナルトは宣言した。
「じゃあ、誓いのキスを」
 桜色の唇に羽根が触れるような軽いキスをされる。
「これでサスケはオレのもんだってばよ」
 そう、そしておまえはオレのもの。

「さ、安心したところで夕食にするか。今日もおまえのためにいっぱい作ったんだから、しっかり食えよ」
「うん!」
 いつかオレがおいしく頂くためにも、ナルトには早く大きくなってもらわなけりゃな。
 無邪気に笑うナルトに微笑みかえしながら、オレはまんまと獲物を手中に収めた満足に浸っていた。




                     fin





まるでヘンゼルを餌付けして育てる魔女のようなサスケです。
何にも知らないナルトくんは、そう遠くないうちにおいしく頂かれることでしょう。
食べ頃になる前に、サスケの理性が持ちそうにないです。

サクラ瑞樹著

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