楽園の果実2





酷い頭痛がする。




意識が戻ったとき、最初に感じたのは、こめかみを襲う鈍い痛みだった。
二日酔いした朝のような重さと気持ち悪さを、エリックは深い息を吐いて凌ぐ。

ぼんやりと目を開けると、視界は暗く、感覚で夜なのだとわかった。
昼間の別荘の一室にいるのだろう。波の音が心地よく響いている。
ゆっくりと身体を起こそうとして、そこで初めてエリックは現実を把握した。

エリックは裸だった。
いや、裸というのは少し違う。薄い絹のようなローブを一枚素肌に纏っている。
だが、梳ける素材に浮かび上がる身体はエロティックで、、裸でいるよりも卑猥な気がして、エリックは羞恥心を掻き立てられた。
なぜ自分はこんな格好をしているのだろう。
何より驚いたのは、両手長足が寝かされたベッドの四隅に固定されていたことだった。
傷を付けないためか、柔らかいタオルを撒いてあるが、その上には見るもおぞましい皮製のベルトがしっかりと巻きつけられ、エリックの自由を奪っていた。

「なんでこんな…」

エリックは訳がわからなかった。
自分はオーリとバカンスへ来たはずだ。
それなのに…

「そうだ、オーリは…?」

彼はどこにいるのだろうと首を巡らせると、それをを待っていたようなタイミングで、オーリがドアを開けて入ってきた。

「僕ならここだよ」

オーリはエリックの格好を見ても、顔色を変えるどころか眉ひとつ動かさなかった。
かわりに、動揺して眉をひそめるエリックに、優しく声をかける。

「よく眠れた? ちょっと窮屈な格好だけど、これでも気を使ってできるだけ痛くないようにしてたんだよ」
「じゃあ、これは君が…? どういうことだ? 悪ふざけが過ぎるぞ」

恋人をこんな風に拘束するとは、冗談にしても質が悪い。

「別にふざけてはいないさ」
「オーリ…?」
「君の身体にじっくり触れるのはこうするしかなかったんだ」

そう言って、オーリは薄絹のローブの合わせ目から手を差し込んで、エリックの胸を弄った。

「君のこの、逞しくて滑らかな胸にずっと触れてみたかった」

うっとりと囁く。
撫でるように滑った指が、気まぐれに胸の頂を掠めた瞬間、エリックの腰がビクンと跳ねた。

「敏感だね」
「……っ!」
「恥ずかしがらなくてもいいのに。そんな君をこれからたくさん見せてもらうんだから」
「何をするつもりだ」
「何って、セックスだよ」

オーリは事も無げに答えた。

「でも、君が思っていたのとは違うと思うけどね。君は、僕を抱くつもりだったんだろ?」

言われて、エリックはうっと押し黙った。まさにそのとおりだったからだ。
恋人にバカンスへ誘われて、それを期待しない男がどこにいると言うのだろう。
しかし、エリックは、まさか自分がその対象になるとは思っていなかった。

「まさか、オレを抱くつもりなのか…?」
「そうだと言ったら? ふふ…、ずいぶん驚いてるね。想像もしなかったって顔だ。君は逞しいし、ずっと女性ばかりを相手にしてきたから考えたこともなかっただろうね。あの時だって、本当は、僕の中に入れたくて仕方がなかったみたいだしね」

オーリが言っているのは、トロイの撮影期間中に起きた出来事のことだった。
オーリへの恋心をようやく自覚し始めたエリックが体験した、あの淫靡で濃厚な夢のような夜の…。

「あの時の君のイク時の顔はすごくセクシーだったよ。気持ちイイはずなのにどこか苦しげで。だから、もっと啼かせてみたいと思ったのかも。こんな風に……ね」

オーリの指が、今まで掠めるようにしか触れなかった乳首を、キュッと絞るように揉み込む。
とたんにまるで電流が流れるように、予期せぬ快感が背筋を駆け上がって、エリックの背中が仰け反った。

「う…っく…!」
「イイみたいだね。ほら、こっちも反応してる」

触られたのは乳首なのに、まるで導火線のように点いた火は下半身まで焼こうとしていた。
自分の身体の仕組みに、エリックは戸惑う。
しかし、オーリはそんなエリックにはお構い無しに、熱を持った下腹部に手を差し込んできた。
手のひらで大きさを確かめるように捏ねたかと思うと、雄全体をキュッと掴んで扱き上げる。
愛撫するというより弄るような手つきは、屈辱感しか生まないはずなのに、エリックの雄はどんどん質量を増していった。

「すごいよエリック。もうこんなに大きくなった。色も形も僕好みだ。食べてしまいたいくらいだよ」
「アッ! オーリ…っ、よせ……っ、アアゥッ!」

強制的に開かれた脚の間に陣取ったオーリが、エリックの雄を愛しそうに口に含む。
そこを他人に触られたことがないとは言わないが、強引に快感を引き出そうとする舌の動きにここまで煽られたのは初めてだった。
先端の窪みを吸い上げる合間に、指先が根元をきつく緩く締め付ける。かと思えば口腔いっぱいに飲み込んだ雄を歯で扱く。
そうして口と手でエリックの快楽の柱を愛撫しながら、オーリは言葉でも弄ってきた。

「やっぱりイイ顔するよね。その眉を顰めて耐える顔がすごくセクシーだよ。こっちまで感じてしまうくらいだ」
「う、ううっ…!」
「我慢しないで。君が恥ずかしそうな顔でイってしまうところを、全部僕に見せてよ」

理不尽な仕打ちに感じまいとしても、快楽の中枢をダイレクトに刺激されてはひとたまりもない。
せめて声は漏らすまいと唇を引き結ぶが、不意打ちのようタイミングでペニスを甘噛みされた拍子に解けて信じられないような声を上げてしまう。
すべてを視姦されたような羞恥と屈辱に塗れて、エリックはあっという間に絶頂に押し上げられた。

「あ、は…、は…ぁっ…」

我を失った瞬間の後、肩で息をするエリックに、オーリが満足そうな笑みを浮べる。
そして、堅く目を閉じて顔を背けるエリックの耳の下にキスをして囁いた。

「思ったとおりステキだったよ。これからもっと気持ちよくしてあげるからね」
「も…もうよせオーリ…。こんなのは嫌だ…っ」
「どうして? 気持ちよくしてあげるだけだよ」
「こんなことするなんて正気じゃない…! 君はオレの恋人じゃないのか!?」

激しく抗議するエリックとは反対に、オーリはどこか冷めた目をして冷静だった。

「正気? そんなもの、君を見たときからないさ。恋人になったからすべてが欲しいし見たいんだ。そして、君ともっと深いところで愛し合いたい…」
「オーリ…」
「それが苦しいと言うのなら、苦痛を和らげる方法だってある」

オーリは驚きで言葉もないエリックの頤を掴むと、自分の唇で彼の唇をこじ開けるようにして何かを飲ませた。
苦い味の液体だった。

「うう…、オーリ、何を…」
「心配ないよ。ただの媚薬だ。ほんの少し身体が正直になる魔法の薬だと思えばいい」
「な…っ!」

ヒクッとエリックの喉が鳴る。

「君を、あの夜のショーンみたいに愛してあげるよ」

その言葉は、心の奥に封印したはずの光景を、一瞬にして蘇らせた。








to be continued





調教開始です。段々、オーリが益々黒くなってます。
まだバナの躾期間なので、ショーンが出るのはもう少し先かな。
逞し系が啼かされるのって、怖いもの見たさ感覚でツボなんですよね。
オーリに乗り移って書いてるようで自分が怖いよぉ…(^^;


さくら瑞樹著



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