上井草の大師湯が2002年春で暖簾を下ろした。

大師湯(上井草) 大師湯暖簾
大師湯があったのは駅前の小さな繁華街の路地裏だった。向かいが八百屋さんというように、街の賑わいとともに持ちつ持たれつで繁盛してきたような銭湯だった。今ではもう珍しくなった木造家屋の上井草駅と、同じ時代を生きてきたことを感じさせる外観だった。
そんな立地条件のためか、建物と脱衣場、そして洗い場もみんなこじんまりとしていて、「近所のお風呂屋さん」という気楽さがあった。お客さんが少ないのが気になっていたのだが、あちこちの銭湯に行って浮気しているうちにひっそりと暖簾を下ろしていた。家から歩いて行けた地元の銭湯だっただけにそのショックは隠しきれない。
大師湯、千鳥破風
大師湯、玄関
最後に室内の風情をカメラに収めておきたかったのだが、そのチャンスを逸してしまうほどの突然の店じまいだった。そんな後悔を胸に秘めつつ、せめても解体中の家屋の中に在りし日の面影を探りつつ、シャッターをきった。
既に木材部分は取り除かれ、タイルの残がいが山積みされていた。なぜか側面のカランの一つとと浴槽の一部が残っていて、風呂やであったことを物語っている。ポツンと取り残された煙突が寂しげだ。
何気なく眺めていたタイル絵の全体像を思い浮かべることすらできないが、改めて残がいのタイルの破片をまざまざと見ると、細かな職人芸の痕跡が見てとれる。
思い出にカラン2つ(お湯用と水用)とタイル絵の一部をいただいて帰ることにした。今までは気がつかなかったが、銭湯の右隣の建物は既にハイカラなマンションに変わっていて、古い町並みが時代の荒波に飲み込み込まれて行く現実を思い知らされる光景だった。



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