樂吉左衛門著
淡交社
(再版 2001.10月)
定価1800円


  • 樂焼創成〜樂ってなんだろう
辞書で樂焼を引くと、「低火度で焼かれるやわらかい焼物」とあって、それが土産物屋の片隅で絵付けを楽しむ「らくやき」の名称の言われだという。しかし、樂家の赤窯で焼かれる赤樂茶碗は確かにいわゆる低火度焼成の焼物だが、黒窯で焼かれる黒樂茶碗は短時間ながらも1200度に達する高温焼成の焼物だという。徹底した一品制作として屋内の小規模な窯で焼き上げられるのも樂家の焼物の特徴らしい。
「今から400年前の桃山時代、茶の湯をかたちづくった千利休が、自分のめざす理想の茶の湯茶碗を長次郎という男に造らせた。長次郎は利休の茶の湯の理想をくみ取り、茶碗にこめた。それが樂焼の興り・・・
以来400年あまり、樂焼の伝統は長次郎を家祖とする樂家に伝えられている。
本書は樂家十五代当主、樂吉左衛門自らが著した、樂焼の歴史に関する貴重な真実の証言である。驚いた事に何と初代、長次郎は中国からの渡来人で、瓦を制作する工人であったらしい。さらには樂焼のルーツは中国・明時代の素三彩陶にあるというのだ。しかし、2代目田中常慶(吉左衛門)の兄、庄左衛門の娘婿に入ったのが長次郎で、血脈上の樂家の祖先は田中常慶(吉左衛門)だという。
樂の名の興りは長次郎が秀吉より「樂」の字を賜ったことにより、「聚樂第の茶碗」という名残の意味があるらしい(聚樂とは「楽しみを集める」という意味とのこと)。現在でも樂家のある場所(上京区)は聚樂第のあった場所から400メートル東で、千家の位置にもほど近いところとのこと。
形:樂茶碗は伝統的に手捏ね(てつくね)と呼ばれる手び練りの制作技法で作られる。そもそもロクロによる制作が遠心力で外へ広がる特色があるのに対して、手捏ねでは内に抱え込む造形で、これが掌にすっぽりとおさまるような、侘茶(わびちゃ)の精神にかなう茶碗を生み出しているのだ。
色:本来の樂茶碗は、赤樂茶碗と黒樂茶碗(先行して制作されたのは赤樂茶碗)の2種類。樂の黒はすべての色を包み込む黒であり、樂の赤は色の世界を否定する、土の実質の色なのだという。
一品制作主義の閉ざされた精神世界なだけに、知られざる伝統の世界を垣間見たという感じにさせられる1冊だ。


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