病院へ行こう!!! | ||
去年の暮れに痛めた膝が治らない。深刻だ。 治らないといっても日常生活にはまったく問題はない。痛みもない。痛いのは,山を下るときだけだ。それなら,登らなければいいという声も聞こえそうだが,そうはいかない。山に行かねば元気がでない,生きていくための活力源がなくなる。 インターネットや本でいろいろ調べてみた。でも,所詮,素人の判断。本当の病状を知りたい。このままでは,本当に登れなくなってしまう。 そんな時,決断する。病院に行こう。足をしっかり見てもらおう。 が,ここで,躊躇する。 「日常生活で問題ないなら,登らないことですな。自分の体でしょ。」 そんな心ない医者の言葉が頭に浮かぶ。 では,いい医者に行けばいい。じゃあ,どんな医者がいい医者か。 そう,登れない心の痛みをわかってくれる医者である。山が好きな医者である。登るな!なんて,わかりきったことを宣告しない医者である。 そんな都合のいい医者を見つける方法があるのか・・・・? 私の場合,偶然から,それは起こったのである。 膝を守るための道具はないか長崎市の山用品店に行った。そこの奥さんはとても山が好きで,気さくにいろいろなアドバイスと話をしてくれた。 「膝が痛んだときは,こんな病院にみんな行って,テーピングの仕方やアドバイスをしてもらっているみたいですよ。」 それだ。今度膝が痛んだら,そこで見てもらおう。そう思って2週間,その日がやってきた。前日登って膝が痛い。痛くないときに病院に行っても,何しに来たの?と言われそうだから,ベストタイミングだ。 その山用品店に前日電話し,住所や病院名を確認する。診療時間を聞くために,病院に電話する。市内にある小さな個人病院である。 「あのう,山に登って膝が痛いんですが,見てもらえますか?先生が山に登られると聞いたものですから・・・」 「ええと,ちょっと待ってくださいね。」 なんと,電話に先生が直々出てくださった。 「膝ですか?ええと,どこの山の会の方?」 どきっ!一人で気ままに登っている身勝手な身の上である。 「いやあ,会には入ってないんですけど・・・」 「あっ,そういうことね。」 ちょっとびびった。でも,勇気を出して行こう。怒られるかもしれないが,山のためだ。 翌日,病院を訪れる。待合い室には,九州の山の本があった。ついつい,待ち時間に読みふける。 中に通されると,ありゃ,先生,全然怖そうではない。(笑) もの静かな知的な紳士である。 膝の経過を説明する。 この説明がとてもしやすい。具体的な山名を出して,どの辺で痛くなったかを説明できる。先生も具体的にその方がイメージしやすいようだ。 「昨日はどこに登ったんですか?」 「ええと,経ヶ岳に・・・」 「ツゲ尾から?最後は雪が多かったでしょう?」 「ツゲ尾から山頂までが結構ありました。」 「アイゼンつけて?」 「はい。」 「大払もあって,膝には悪いですねえ。」 山や地名が分からないと呪文のような会話であるが,お互い,それでよくわかる。 「すごい,ふくらはぎの筋肉ですねえ。」 槍ヶ岳に登る先生に誉められると有頂天になる。 あいかわらず単純だ。 先生からは,人体図をもとに,どこの筋肉を痛めているかの説明があった。 「腸脛靱帯」と「大腿二頭筋」・・・ 素人考えの予想は外れてなかったが,「大腿二頭筋」はわからなかった。 そして,先生の診断は山を歩くにおいての適正診断へと進んだ。 「足を見てください。足の甲が高いでしょ。」 「えっ」 足とは上から見るもので,足の甲が高いかどうかなんて考えたこともない。 でも,言われて見てみると確かに高い。 「このような足は膝に負担が来やすいですよ。外反母趾になることもあります。」 「そうなんですか・・・」 「それと,足首がちょっと固いですねえ。」 「足首・・・?」 考えたこともなかった。 「体も固いでしょ。ほらね。」 その後,具体的なストレッチのやり方を教えてもらった。 そして,テーピング。今回痛めた箇所のテーピングをしてもらう。 「足首を守るテーピングはこうするといいですよ。」 まいった。先生のファンになりそうだ。 「しばらく控えた方がいいでしょうね。寒い時期は特に・・・」 出た。恐怖のことばだ。 「ひっ,控えるってどのくらいですか?」 「期間の限定は難しいですねえ。そう,まあ,今度の日曜は休んで,次は低い山にしたらどうです。」 なんと,以外な答え。これが山を知らない先生だったら,平気で1ヶ月とか言うに違いない。先生が神様に見える。 「で,とりあえず,経ヶ岳はやめといたがいいですね。あそこは岩場が多くて,足に負担がかかりますよ。しばらくは,郡岳とか,金泉寺往復とか,長崎なら八郎とか」 まいった。具体的な山名の指定である。 これが, 「膝に負担がかからないような道を,しばらく歩いてみてください。」 なんてアドバイスされたら,混乱してしまう。裏の山でも登れということかと考え込んでしまうだろう。 この先生でよかった。足への不安は一気にふっとんだ。安静にして,上手に登っていれば,治せそうだ。 電気治療を受ける間,先生が自分の山の会の計画書等を見せてくれた。 もう,治療の間,山の話で楽しくてたまらない。 こんな主治医との出会いに感謝である。 迷わず来週の予約をして,病院を後にした。もう嬉しくて,紹介してくれた山用品店まで,歩いていって,奥さんにお礼まで言ってきた。 山好きで足に悩みを抱えている人は多いと思う。 でも,その山好きにしかわからない不安をわかってくれる医者にめぐり会えることは少ないのではないだろうか。登るなと言われることは,耐えられることではない。 私と同じように足に悩みを抱えている人にいいたい。 病院に行こう!!山が好きなお医者さんのところに!! 山用品店が,今回の奇跡のきっかけであった。 そして,今日から,ストレッチに励み,肉体改造に努めことを心に誓った。 |
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