2011.12.03 経ヶ岳〜舞岳
 一人で登る


八丁林道駐車場〜1時間40分〜経ヶ岳〜35分〜舞岳〜50分〜八丁林道駐車場
  
距離約6km 累積標高差750m 荷11kg 時間約4時間



舞岳を敷き詰める落ち葉の絨毯


所用で福岡に泊まることになった。
レンタカーを借りてどこかに登ろうと思っていたが、
あいにく天気がよくない。
雨でも登りたい山となると、やはり経ヶ岳だ。

朝3時に起床して、4時前に出発。
この時間なら下道を通っても、福岡市から大村市の経ヶ岳登山口まで2時間強で行ける。

鹿島を走っていると、空には明るくまたたく星達が見えだした。
オリオン座はこぼれ落ちそうな角度で傾きながら輝いている。
天気は回復したのかと、にわかに期待をしたが、
黒木に着くとあいにくの小雨模様。
明るくなるのを待って歩き始めることにする。

10ヶ月ぶりの多良山系である。
いつもの駐車場に停めようと車を走らせると、いつもの八丁林道駐車場が封鎖されていて驚いた。
どうやら登山者の駐車が木材運搬作業の邪魔になった模様だ。
 しばらく引き返して違う駐車場に停めなおす。
 
歩き始める、横の下の方にある沢からごうごうと流れ水の音が響いて聞こえてくる。
前日の大村周辺の雨の降り具合が分からないので、八丁林道駐車場下で
川の様子をおそるおそる見るが、さほどの雨量ではなかったようだ。
これなら、沢を横切る心配はいらない。

登山道の両脇にはマムシグサが秋を知らせる赤い実を
色鮮やかに実らせている。
登山道に落ちた落ち葉も、赤や黄色となかなか鮮やかで、
秋の登山道をにぎやかにしてくれている。

大払谷はいつものごとく風がなく、レインスーツのフードを被っていると、
体から熱を逃がすところがないため、じわじわ額と顔に汗がにじんでくる。
この暑さがたまらない。だからフードは嫌いである。
フードをすると、音も聞こえなくなり、
まわりの状況が十分把握しきれなくなる。
せっかく山を歩いているので、葉と葉がすれる音や、枝々が風に揺れる音も聞きながら歩きたい。
うだうだとそんなことを考えているとき、はっと気づいた。
「そうだ。レインハットがある。」

買って一年以上立つが、なかなか使うときがなく日の目を見ていなかった山道具だ。
使ってみるとこれがなかなかいいじゃないか。
音はよく聞こえるし、風が顔に当たるので涼しく、フードのような圧迫感もない。
横殴りの嵐のときは別だが、少々の雨ならばこれで十分だ。

久しぶりの大払谷の急登は、なまった体に喝を入れてくれる。
息を整え、一歩一歩もくもくと登る。
休まずもうちょっともうちょっとと、自分を叱咤激励しての歩きが続く。
この自分との戦いが大払谷を歩く醍醐味である。
これだけのきつい登りがあると、日頃の毒が吐かれて、
山の気と入れ替わっていくような錯覚を覚えて、心地よさが体を満たしてくる。


ふうふうと息を切らしてたどり着いた久々の経ヶ岳山頂。
ガスで何も見えないが、これで満足である。
だって、この山頂に一人座っているだけで、
以前この山頂で一緒に語らった
たくさんの人達の顔と声が聞こえてくる。
冷たい風の中でも、心はほっと温かくなる。
 
私の人生を豊かにしてくれた聖地。
 
この場所に佇むと、
忘れかけていたたくさんの人々とのつながりや
自分自身のささやかな挑戦の数々を思い出し、
知らず知らず力がわいてくる。
ああ、これが自分だったと目が覚めるような気持ちになる。
これがこの経ヶ岳の山頂である。

しばし休憩して、舞岳から降りることにする。
展望岩まで来ると、ガスが少しずつとれ、
笹岳や西岳が見えてきた。
ここからの眺めはいつみてもあきない。
長い年月をかけて削り取られた急峻な地形は、
深い谷を作り、たくさんの急な沢を懐に抱いている。
その山肌を緑が覆いつくし、鳥たちのさえずりは
一年間絶えることがなく、まことに豊かな森の営みがそこにある。
 
 
展望岩を後にして、滑りやすい道をひたすら下る。
とうとう、今日は誰一人とも会わなかった。
多良山系でこんな日もめずらしい。

足にはしっかりと歩き通した疲労感。
舞岳の下りを終えたからこそ味わえるこの感覚がまたいいのだ。

黒木を後にするころには、萱瀬ダムから経ヶ岳が見えていた。
何回登っても飽きることのない、
雨でもよしの経ヶ岳。
またこよう、自分を取り戻したくなった頃。









山登りTOP