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LB4:「前ロールの排出文字数とタイミングの考え方」

前ロールの排出文字数とタイミングの考え方

 序論
  「前ロール」とは、手書きの要約筆記の情報保障時に、事前に用意された話者の原稿内容を
 OHP専用のロールシート等に書いておく物をいいます。これを、話者の話に合わせ表示してゆく
 ことを、「前ロールを流す」といいます。
  また、この前ロールは、全文を伝えたい、事前の原稿をそのまま読む、氏名を正しい漢字表記
 で表示したいなど、より正しい情報を伝えたい場合などに使用します。


◆基本的な「前ロール」加工

 パソコン要約筆記で使う「前ロール」は事前の原稿等をテキストデータ化し、句読点や、文節で
区切り、話し手の言葉のタイミングに合わせて、排出(表示)していくものです。

  例
   【本文】
    今日は、大変気温も高く、各地で桜が満開となり、見頃となっています。
   【前ロール】
    今日は
    大変気温も高く
    各地で、
    桜が満開となり、
    見頃となっています。

  
 この様に、長い文章を区切ったデータを準備し、話し手の言葉に合わせて排出し、文章を組み
立てて表示します。

◆加工の注意点
 しかし、この区切り方にも、工夫が必要に成ります。
 理由として次の様なことがあるからです。
  1.加工した区切り方と話者の区切り方が違う
   例
    【話者の音声】
    今日は 大変  気温も高く 各地で  桜が  満開となり 見頃となっています。
    【加工文字】
    今日は 大変気温も高く   各地で  桜が満開となり   見頃となっています。
    // まだ言っていない言葉を出してしまったり、言い終わるまで文字を出せない //

  2.原稿と違う事を追加や削除してしまう
   例
    【話者の音声】
    今日は、   気温も高く 全国各地で  桜が満開となり 見頃となっています。
    【加工文字】
    今日は 大変気温も高く    各地で  桜が満開となり 見頃となっています。
    // 追加した言葉を省いてしまったたり、言っていない言葉を出してしまう //

  3.文字がずっと流れていて、読みにくい
   文字を読んでいるのに、次々に文字が加わり
  読むのに疲れる。また、スクリーンに釘付けになり、
  話者や資料を見ることができない。
   目で文字を追うだけで、必要部分だけを読む、
  「流し読み」が行い難くなる。
利用者の目線

  4.大会場の式典などの挨拶文では、ゆっくり正確に話す。
   大会場では、エコーが発生し、聞き取り難くなるため、短い文節に区切って、ゆっくり
   話します。
   例
    本日は ここ 福祉会館に おいて お忙しい中 多数の ご臨席者を 賜り…


  5.代読、解説文は感情や抑揚を入れないため、早口になります。
   例
    平成○年○月○日 埼玉県議会議長 ○○○ 本日はおめでとうございます

    この様な場合の事例については、 次の表のデータから 予測できると思います。


◆標準的な加工
 以上の事から、加工については、次のような考え方を元に加工をしています。
  1.細かく、加工する場合
    ・大会場の式典などの挨拶文
    ・本番に違う言葉や、追加をする恐れがある場合
    ・ゆっくりとした話し方をする場合
    ・前文を長く残しておきたい場合

  2.長目に加工する場合
    ・参考資料等、棒読みの原稿
    ・代読文章など、100%忠実に読む原稿
    ・組織、団体名、スローガンなどの固有(固定)単語
    ・字幕など、一括標記し、前文が残らない場合。

◆特殊な加工
 次のような場合は、特殊な加工をします。
  1.表示行数が極端に少ない場合
    画像合成などで利用する場合は、2,3行と表示できる行数・文字数が少なくなって
    しまいます。このため、「泣き別れ」が生じてしまうと、読む時間もかかり、さらに残像
    の文字数(情報量)も少なく成ってしまいます。
           表示文章     前ロール
 通常加工 今日は、大変お忙しい中、お集まりいただき、
まことにありがとうございます。お礼申し上げま
す。
今日は、
大変お忙しい中、
お集まりいただき、
まこと
ありがとうございます。
お礼申し上げます。
 特殊加工  今日は、大変お忙しい中、お集まりいただき、
真にありがとうございます。お礼申上げます。

今日は、
大変お忙しい中、
お集まりいただき、

ありがとうございます。
お礼申上げます。

    事前に表示文字数を加味し、泣き別れがないように、漢字をひらがなに、ひらがなを
    漢字にするなどして、「泣き別れ」がないように加工します。
    

◆排出タイミング
 前ロールの排出タイミングについては、いろいろと議論されるところですが、大きく3つに
 分類されると思います。

  1.音声と同時に排出する
     皆さん、おはようございます。
     排出タイミング
    話者の第一声と同時に表示されますので、同時性があがり、聴覚障害者にとっては、一括
    して、情報を取り入れることができます。しかし、健聴者にとっては、話の内容が先に解って
    しまい、つまらないという意見が出てきます。また、話の内容が異なると、加筆、修正が
    出来無かったり、間違って、話す前に排出してしまうというミスが生じ易いです。
    映画字幕では、シーンに合わせる為、台詞の第一声と同時に表示します。出来るだけ表示
    している時間を長くする目的もあります。健聴者としては、台詞と同時でないと、気持ちが
    悪くなるという方も多いようです。
    

  2.話しの途中で排出する
    皆さん、おはようございます。
            排出タイミング
    ある程度話しが始まり、文章の後半も大丈夫であろうと言う場合は、話しの途中で排出
    します。話し言葉より、読む時間の方がはやい為、途中から始まっても、最後まで読む
    事が出来ますし、「早合点」して先に出してしまうミスが防げます。
    おおよその現場ではこの方法を用いています。


  3.話し終わってから排出する
    皆さん、おはようございます。
                      排出タイミング
    「事前原稿を読んでいる」と思われたくない話者や、リアルタイム入力との排出タイミング
   を合わせるため、に有効です。また、内容を確認して排出できるので、突然の内容変更
   にも対応出来ます。
   反面、文字の排出まで時間がかかるので、同時性が損なわれてしまうという欠点が
   あります。さらに、健聴者にとっては「音声は出ているのにまだ文字が出ない」といらだち
   を感じる方も出てきます。
  

 排出タイミングは、聴覚障害者と健聴者、つまり、話者の話を聞こえる方と聴こえない方で
 とらえ方が大きく違っています。
 聴覚障害者にとっては、淡々とした講演会では、タイミングはそれほど気になりません。
 しかし、落語、漫才など、観客との笑い等の同時性を求めると、そのタイミングは重要に
 成ってきます。様々な現場と対象者の様子をみて、判断しましょう。



        ・*HIRO*・