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LB15:「前ロールの要約 」


 前ロールの要約

 // 前ロール原稿を要約するか… 
 パソコン要約筆記も手書き同様に事前の原稿や資料を情報保障時に「流す」ことがあります。
この前ロールについて、要約が必要かという問題があります。彩capsでは、基本的に「前ロール」
を要約することありません。

T 要約の必要性

 まず、「何故要約するか」という原点を考えてみましょう。
 1.全文入力が間に合わない
    話し言葉に対して、入力者が間に合わず、要約せざるを得ない。
 2.意味のない言葉を省く
    話し言葉では「えー」「あのー」という言葉や、繰り返し言葉があるため、ことばを省く。
 3.利用者の日本語読解力が乏しい
    日本語が不得意な聴覚障害者に対して、解りやすい要約や、言い換えをして短く表示する。
 4.高齢による読みとり(受容)のおくれをカバーする
    高齢者にとっては、大量の文章の受容は時間がかかるため、内容を要約する。

 ということが考えられます。
 
 また、
  ・筆記通訳が、全文表記出来ないために、「要約」という手段を取ったのか。
  ・聴覚障害者にも解りやすい言葉として、「翻訳」するために、「要約」を用いたのか。

 という、ことによって、とらえ方も異なってくると思います。

 パソコン要約筆記が普及する前の手書き要約筆記においては、後者の意味を持ちながらも、全文を
 書くことが、物理的に、困難であったため、「要約」がやむを得ないという部分もありました。 

 しかし、パソコン要約筆記では、熟練された入力者、音声認識等の手段により、物理的に全文表記
 が可能になってきているため、改めて、「要約」の意味するところが、議論されてきているところ
 です。そのような中、あえて、「パソコン要約筆記」という言葉を使わず、「パソコン通訳」や、
 「筆記通訳」、「文字通訳」など、「要約」という言葉を使わない団体や、個人もいます。


U 前ロールの性質

 前ロールの特質としては、「はなし言葉」ではなく、「原稿」に近いという事もあり、あまり無駄な
 言葉は含まれません。ですから、要約を行うこと事態が難しく、仮に行う場合は、入力者の判断
 だけではなく、筆者や主催者等、前ロールの提供者との話し合いが必要になるかと思います。


V 利用者の声  

 利用者として、全文表示を求める聴覚障害者がしばしばいらっしゃいます。その様な方は、「原稿を
 そのままを表示してほしい」となるでしょう。
 リアルタイムの情報保障ですから、話の癖まで知りたい、雰囲気や状況通訳も行って欲しいという方も
 いらっしゃいます。
 私たち、健聴者は、耳から入ってくる情報をすべて受容している訳ではなく、必要な情報だけを取り
 入れています。聴覚障害者にとっても、元来、同様に流れる文字の情報から、必要と思われる情報を
 見分けて受容するということで、同じ情報の提供を受けたことに成ります。
 「要約」の怖さは、その人にとって必要としていた部分を要約筆記者の判断で削除されてしまうという
 ところにもあると思います。
 この様な事から、「要約」を希望しない利用者がいます。

W 前ロールの要約

 「要約」をもとめる利用者がいる場合は、前ロールの要約も考えられますが、要約筆記の標準的な
 対象者としては、日本語を母語とし、文章が理解できる方としている為、前ロールの「要約」は不要で
 あると判断します。

 ただし、注意すべき部分は、「標準的な場合」というところです。
 近年では、手話を母語とするろう者にとっても、需要が増えています。手話だけでは、表現出来ない
 単語や読みにくい指文字。さらに、文章に慣れるという意味でも、要約筆記を必要としています。
 さらに、高齢の聴覚障害者の中には、全文表示されると、そこから自分の必要な情報を抽出するのが、
 大変だといって、「要約」を求める場合もあります。 
 この様な場合は、前ロールの要約も考える必要があります。


X 見え方のギャップ

 リアルタイム入力の表示は要約し、前ロールは全文表示となると、文字の流れ方に差が生じます。
 いままで、とぎれとぎれに出ていた文字が、突然スムーズに流れると、利用者は、とまどってしまい
 ます。この場合、出来るだけギャップの無いように、リアルタイムも要約率を下げるなどの工夫も
 必要ですが、そのギャップに対する不満の声はほとんど聞きません。

Y 境界線

 パソコン要約筆記では、現在、全国各地で、「パソコン要約筆記奉仕員養成事業」という形で、養成
 され、一部では、公的派遣も始まっています。
 ここで、問題になるのが、「奉仕員」という言葉です。
 これは、利用者の責任で行うというもので、現場に於ける情報保障の失敗については、奉仕員に責任
 はないということです。
 逆に、「通訳者」となると、実施主体が責任をとるという事になります。

 つまり、「通訳者」は自立支援を主に目的とし、「奉仕員」は介助の意味合いを多く持っています。
 このことから、

  全文表記・・・・自立支援
  要約表記・・・・介助

 ということになるのではないかとかと思います。
 
 全文表記は、情報をすべて出すので、利用者が自分で必要な情報を選択してください。というもので、
 要約表記は、聴こえないという障害のギャップを埋めるだけでなく、受容が困難な者に対して、内容
 をかみ砕いて伝えるという、「要約」作業も担うということになるかと思います。

Z 結言

 この様な事から、私たち「彩caps」では、前ロールの要約については、基本的には行わないという
 ことになります。
 しかし、現場の利用者に声によって、要約という手段を講じるべきかを判断する必要があるという
 ことも、考慮します。